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第28話「岡村翔平は熟考したい」②

 町田大樹(まちだだいき)


(おいおいおいおい。これはとんでもねぇものを見ちまったんじゃねぇのか?)

(そうですね……。まさか、こんなタイミングの時に出くわすなんて……)


 木陰に隠れながら目の前で起きている事の次第を見つめるオレと金髪少女、陽ノ下朱里。結末までばっちり見ていたオレたちは、二人でそのとんでも展開について小声で話す。


 桜井桃果(さくらいとうか)が、岡村翔平(おかむらしょうへい)に告白したのだ!


 ショッピングモールでオレと幼女の関係を誤解した陽ノ下は、その場から走り出した。オレはそれを追いかけた。モールの中をお客さんがいるのお構いなしに走り回り、最終的にはモールを出て、この近くの森林公園で追いついた。

 結局、誤解自体は解けてしばらく一緒に過ごしていたのだが、桜井にメッセージを送った陽ノ下に返信が届き、この公園内で待ち合わせようということになったのだ。


 オレたちは、森林公園の入口なら合流しやすいと思い、入口に向かって歩いていた。すると、前から翔平と桜井が歩いてくるのが見えたんだ。声をかけようとしたが、急に桜井が歩を止め、翔平に想いを告げた。


(にしても桜井の奴、いきなり告白するなんて。この前は告白する気なんてしばらくなさそうだったのによ)

(確かに急展開ですよね。……あれ? てことは、町田先輩は桜井さんが翔平のことを好きだってこと、知っていたんですか? あたしは元から知っていましたけど……)

(そりゃ気づくだろう。あそこまで分かりやすいんだからよ。この前、お前の姉さんのお礼の品を買いに行った時とか、分かりやすかったじゃねぇか)


 あんなに分かりやすく目で追う奴、気づいて当然だと思う。即売会勝負でも桜井の翔平に対する視線は、熱を帯びていたように見えたしな。


(そんなことよりも翔平の奴、桜井の告白を断りやがった)

(そうですね。翔平にはもったいないほどの女性なのに。二人の会話にも出ていたけど、二人は結構波長が合うから、お付き合いしても上手くやっていけると思うのに。翔平の奴、何が気に入らないのよ!)


 確か、『友人としてしか見てなかった』とか言ってたな。あと、自分に自信がなさそうに『俺よりも魅力的な男はたくさんいる』とも……。


 もしかして、翔平の奴……、


「(やっぱりあの時のこと、まだ引きずってんのか?)」


 オレは前々からなんとなく気づいていた。翔平は、やっぱり自分に自信がない。特に恋愛方面では顕著で、その自信のなさから、閉塞的になっている。本人はおそらく無自覚だが、それがあいつの鈍感さを引き起こしていた。自分が関わる好意について、限りなく鈍感になることで、知らず知らずのうちに恋愛沙汰を避けていたように思える。


 それが桜井にとっては悪い方向に働いた。これじゃあ、翔平も桜井もどっちも報われねぇよ……。


 この考えが正解かは分からないが、とにかく今の翔平じゃ、普段はどうか知らないが、いざという時に気持ちにストップがかかって、恋愛まで発展しない。そのうち時間が解決するだろうが、それは、一体いつになるんだよ……。あれからもう何年も経ってるんだぞ?


 オレは、自分の中にある翔平の胸中を考察する。自分の中でやりきれない感情が浮かんできてしまい、拳を握り締める。


 と、陽ノ下が翔平のいる方向と反対の方向に向かって、隠れるように移動する。


(どこ行くんだ、陽ノ下?)

(すみません、先輩。あたし、行きます)

(行く? どこにだ?)

(桜井さんを追いかけます。桜井さんが心配だから……。心を軽くするために、話し相手になろうと思います。誰かに話せば、楽になると思うから……)

(陽ノ下……。お前……)


 女同士の美しき友情にオレは感動を覚える。最近行動を共にすることが多くなった五人メンバーの中では一番歳下だけれど、案外、一番しっかりしているのは陽ノ下なのかもしれねぇな。


(おう、桜井をよろしく頼む)

(はい、それではまた)


 そう言うと、陽ノ下は翔平の反対側から大きく回り込んで、見つからないように桜井を追いかけていった。


「(良い奴じゃねぇか……)」


 普段翔平に対して憎まれ口ばかり叩いている奴だが、友人思いの良い女性だ。少し、陽ノ下に対して印象が変わったかもな……。


 さて、それよりもオレは翔平の方だ。あいつもおそらく、この一週間悩むことになるだろう。だが、今ここで出て行くのは違う。あいつには一人で考える時間が必要だ。


 翔平はこちらに向かって歩き出すが、密集した木の影に隠れているオレには気づかず、素通りしていった。オレは、翔平が適度に離れたときを見計らい、駅に向かったのだった。


 *


 岡村翔平(おかむらしょうへい)


 例の告白から二日後。今は、大学の講義の時間だ。


 真面目にノートを取る学生、不真面目に居眠りをする学生。どちらの学生も存在する教室で、俺は考え事をする。居眠りこそしていないが、講義を聞き流しているという点においては、不真面目に居眠りをする学生と何も変わらない。


「(『ずっと好きでした』か……)」


 徐々に色づき始めた秋の木々を眺め、俺はモモに言われたことを思い出す。


「(ホント、ありがたい話だよな……。俺を好きになってくれるなんてさ)」


 モモの気持ちは、すごく嬉しい。仲良くしていた女の子から、好意を持ってくれるなんて。モモは可愛いし、きっと他の男にも人気があるだろう。そんな中で、俺を好きになってくれたモモからの告白が、嬉しくないわけがない。


「(はぁ。また断るのか……。心が痛むな……)」


 けど、俺はやっぱり付き合う気にならない。というか、付き合えない。うまく付き合っていける姿が、想像できない。


 一週間、告白したモモのことを意識して考えてと言われた。けど、俺の中でのモモのイメージは、友人という認識から変化しない。


 そりゃ、モモのことは可愛いと思っているよ? 出るところは出て、控えめで清楚な感じは実に女の子らしいとも思う。以前、胸が肩に押し付けられたときや、誤って俺が胸を触ったときなんかは緊張したし、モモのことは女性として見ている。


 けど、どうしてだろう? どうしても付き合いに発展する考えに至らない。モモのことを初めから友人として見てきた俺には、気持ちを切り替えるのに、一日じゃ足りなかったみたいだ。


 ブーブー


 窓の外を眺めていると、一通のメッセージが届き、ポケットの中のスマホが振動する。それを取り出して、メッセージアプリを起動すると、差出人は大樹だった。


『このあと、飯でも食わねぇか?』


 いつも通りの昼飯の誘いだった。俺はテンプレ通りに『じゃあ、食堂で』と打ち込むと、スマホを再びしまった。

 大樹なら、こういう時に何も悩まなくて済むんだろうな。やっぱ俺とそういうところが違う。大樹なら、解決策を見いだせるのかな?


 *


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