第27話「桜井桃果はつなげたい」③
「あー、惜しい!」
次にわたしたちがやってきたのは、クレーンゲームのコーナーです。ミクちゃんは欲しいぬいぐるみを採るために何度か挑戦しましたが、結局採れず、今はわたしが代わりに奮闘しているところです。
「『かみのお姉ちゃん』なら採れると思ったのに~」
「ごめんね。わたし、クレーンゲームは苦手なんだよ……」
いつの間にか、わたしはミクちゃんに『神のお姉ちゃん』と呼ばれるようになっていました。とても痛々しい二つ名です。
それにしてもクレーンゲームですか。久しぶりですね。やるのは、春以来ですかね?
翔平くんと初めて会った、あの日以来です。
「けど、翔平くんならできるかもよ?」
「俺?」
「『こんじょうなしのお兄ちゃん』じゃ、たぶんとれないよ~」
「それ、俺のあだ名になっちゃったの……?」
町田くん同様、不名誉な肩書きを付けられています。ミクちゃん、結構えげつない幼女ですね……。
「分かった! じゃあ俺が『根性なしのお兄ちゃん』じゃないところ、見せてあげるよ!」
そう言って、翔平くんはやる気を出してクレーンゲームに向かい、硬貨を入れます。レバーを操作し、クレーンを動かします。
しかし、そう簡単に景品が採れるはずもなく、一回、二回と失敗を繰り返しては悔しそうにする翔平くん。わたしは、その様子を見てクスリと笑います。
そしてふと、あの時のことを思い出します。
『すみません、彼女は僕の知り合いなので』
翔平くんはそう言って、店員にカモにされていたわたしを守ってくれたんですよね。
『あと少しで採れるのは本当だと思うので、続けてやった方がいいと思いますよ!』
景品を採るのを諦めかけていましたけど、あの言葉のおかげで、採ることに成功したんですよね。
「よし、採れた!」
「わーーー! 『こんじょうなしのお兄ちゃん』、すごいの!」
「六回費やしたけど、上々でしょ! これでもう『こんじょうなしのお兄ちゃん』はなしね!」
「すごい! すごいの! 『こんじょうなしのお兄ちゃん』、すごいのーー!!」
「聞いてないし……」
ぬいぐるみが採れたことに大喜びで翔平くんの言葉が耳に入らないミクちゃん。その顔は、とっても嬉しそう。ぬいぐるみを投げてはキャッチしてを繰り返し、胴上げみたいになってます。
『確かにお金はたくさん使っちゃいましたけど、使ったお金の分だけ、思いの詰まったプレゼントになると思いますよ? そのためにあんなに頑張っていたんですから、喜んでくれないわけないですよ!』
そう言ってくれましたよね……、翔平くん。その時の笑顔は、今でも覚えています。
その通りでしたよ。あの時渡したプレゼントを、ミドちゃんはとても喜んでくれました。
わたしは、翔平くんに賛辞を送ります。
「流石翔平くんだね! やっぱ、クレーンゲーム得意なんだね!」
「そんなことないよ。偶然だって」
「そんなことないよ! だって、あの時だって的確なアドバイスだったじゃない! すごいな、翔平くん」
「いやー、そこまで言われちゃうと、何だか照れるなぁ!」
翔平くんは照れを交えて片手を頭の後ろにやります。顔に見合って、子供らしい仕草がなんだか可愛らしく思えます。こういう時折見せる可愛い仕草も、好きですね……。
するとミクちゃんは、わたしたちを不思議そうに眺めたあと、
「『かみのお姉ちゃん』と『こんじょうなしのお兄ちゃん』はカップルなの?」
「え!?」
「ファイ!?」
突然の砲撃を放ってきました。例によって、わたしは驚きの声を噛みながら発します。
「ななななな何で!?」
突然で脈絡のない質問に、顔を赤くして動揺するわたし。本当にどうしていきなりこんなこと聞いてくるの!?
「ミクの年のはなれたお姉ちゃんが、『だんじょでなかがよかったらぜったいその人たちはカップル』って言ってた。お兄ちゃんとお姉ちゃんはなかがいいから、カップルかと思った」
そんなに仲良さそうに見えたんですか! ミクちゃんにそう言われて、わたしは無性に嬉しくなりました。だってそれって、小学生の目からもわたしたちがお似合いに見えたってことじゃないですか!
翔平くんも、なんだか顔が赤くなっていて照れているように見えます。それを見て、更にわたしは嬉しくなります。ニヤつく顔を抑えるのに必死ですが、どうしても頬が緩んでしまいます! 翔平くんとカップルだなんて!
「あと、『そういう人たちはぜったいもうやってる』とも言ってた。けど、何をやってるかはおしえてくれなかったの」
「「それは違うから!」」
途端、これまた爆弾にも等しい強烈な一言をミクちゃんはあっけらかんと続けます。ホント、何教えてるんですかお姉さん! 小学生の教育に悪すぎですよお姉さん!
「ミクちゃん、もうお姉さんの言うこと簡単に信じちゃだめだって! ミクちゃんの年齢の子が覚えるようなことじゃないから!」
「ミク、なんかちがった?」
「違うから! 仲良かったら必ず付き合ってるってわけじゃないから……」
翔平くんがミクちゃんに間違いを指摘します。付き合ってないと訂正されるのは少し残念ですけど、話が変な方向に行きそうですし、わたしもホッとします。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがカップルでも、ミクはおかしくないと思うのにな~」
そのミクちゃんの言葉に、わたしたちはお互いに顔を見合わせ、そして逸らします。嬉しいのは嬉しいんですけど、気恥ずかしさが半端じゃないです。まともに顔を合わせられませんよ~。
「それよりも、次は行きたいおみせがあるの! 行こ!」
「わっ、ミクちゃん! 危ないってば!」
ミクちゃんは、手に入れたぬいぐるみを背中から服に入れ、頭の後ろに持ってくると、再びわたしたち二人の手を引っ張って前に走り出します。
右手に翔平くん、左手にわたしの手を取って、三人は一緒に走ります。三人、つながった状態です。直接は触れていませんが、間接的につながる二人の手。小さな子供を真ん中にして、一緒に走る二人の大人。なんだか夫婦みたいだと、どうしようもない妄想をしてしまいます。
もちろん、直接触れられたらどれだけ幸せか。ですが、直接は触れていない手ではありますけど、そんな小さなことが、今のわたしにはとても嬉しく思いました。
*
「バイバーイ! 『こんじょうなしのお兄ちゃん』と『かみのお姉ちゃーん』!」
約束の時間が来て、ミクちゃんに別れを告げる。最後まで言われて恥ずかしい二つ名でした。
「元気な子だったね……」
「そうだね……」
二人で天真爛漫な小学生のことを話します。将来、どんな子になるんでしょうか……。お父さん、お母さん、きちんと見てあげてくださいね……。
「ところで、ミクちゃんの面倒ですっかり忘れてたけど、朱里と大樹はどうしようか……?」
「それなんだけど、さっきわたし宛に朱里さんからメッセージが届いてたよ。勢い余って近くの公園まで行っちゃったみたいだけど、とりあえず事態は収束したみたい」
「誤解が解けたなら何よりだ……」
好きな人が問題大アリレベルのロリコンでは、ショックを受けても仕方ないってもんです。それにしても朱里さん、最近よく走りますよね……。前もお化け屋敷で全力ダッシュ決めていたじゃないですか……。
「それじゃあ、俺たちもその公園に行って合流しようか」
「うん。そうだね」
そうしてわたしたちは公園に向かうため、モールを出ます。
公園に着いた辺りで、ふとわたしは今の状況に気づきます。
なんだかんだで、わたしと朱里さん、お互いの好きな人と二人きりになれていたんですね。その時間も、もう終わりってことですよね? ミクちゃんがいたからあまり意識しませんでしたが、この貴重な時間も、もう終わってしまうってことですよね? それは少し、寂しいです。
「ねぇ、翔平くん……。二人に連絡する前に少し公園内を二人で歩かない?」
「え?」
暗にもう少し二人でいたいという、わたしにしては大胆な提案。しかし、その言葉は驚く程自然に口からこぼれました。
「ダメ?」
「いや、別にいいけど……」
~~!! なんか恥ずかしいです。変に思われたかな!? 思われてるよね!
火が吹き出るくらい顔を赤くして、二人で公園の中を歩きます。ここは大きい公園で、それこそエリアが何個も分かれているくらい広いので、朱里さんや町田くんともばったり出くわすことはないと思います。
……いいですよね? 朱里さんも町田くんと二人きりになれるわけですし、それに、前回はミドちゃんに呼ばれて延長デートができなかったわけなんですし、これくらいしても、バチは当たらないはずです!
季節は秋。木漏れ日が気持ち良く、適度な気温。散歩日和の穏やかな日です。せっかくなので、わたしたちは、主要な道である舗装路ではなく、その周囲を通っている、周りを木で覆われた自然の道を歩きます。しかし、
「……」
「……」
さっきのミクちゃんのこともあったせいで、お互い気まずい沈黙が流れます。いつもより少し離れて、お互いの顔を合わせようとせず、視線を斜めに二人は歩きます。
歩きながら横目で見ると、翔平くんの揺れる左手が目に入ります。ミクちゃんを介してつながっていた二人の手。
「(手、つなぎたいなぁ……)」
人間の欲望とは恐ろしいもので、さっきまで満足していても次はワンランク上の満足度を求めてしまうようです。
今、それを提案するのは、かなり無謀ですよね。ですけど、あまり悠長にしている時間がないのも事実。ライバルが増えてしまったんですから。
それに、今のこの雰囲気、ちょっといい感じですし……。ちょっとくらいなら……。
「(勇気を出して……!)」
心臓をバクバクさせながらわたしは、勇気を持って翔平くんにお願いしてみます。
「そ、その……。翔平くん! あ、あの……さ」
「ど、どうしたの?」
「よ、良かったら……さ。手をつながない?」
「え!?」
言いました! 噛まずに言いました! 心臓の鼓動が一層速くなります。
けど、流石に不自然で翔平くんが首をかしげています。ちょっとやりすぎてしまいました!?
「いやいやいや! ごめん翔平くん! 冗談冗談! さっきミクちゃんと手をつないだから、その延長で、なんて思っただけだよ! あはは!」
「……モモ?」
不思議そうな表情を見せながらも、わたしたちはお互いに前を見て歩く。
けど、わたしはそうやって言い直して、とんでもない後悔に襲われました。どうして、こうやって逃げてしまうんでしょう。せっかく勇気を出したのに……。
思えば、即売会勝負に発展した『弟宣言』。あれも、すぐに言い直せば良かったのにそうしなかったのは、どこかで逃げの気持ちがあったのかもしれません。あそこでやり直していたら、何かが変わっていたのかもしれないのに……。
髪を切ったとき、決意したじゃないですか。わたしは変わるって。これじゃ、前と同じですよ。進めていないですよ。ここで変わらないで、どうするんですか!
わたしは、考えを改めると、歩を止め、
「ねぇ、翔平くん」
呼びかける。翔平くんも、立ち止まって後ろを振り返る。
「聞いて欲しい話があるの」
「モモ……? やっぱり、何か聞きたいことがあるの? なんか、様子が変だよ?」
その言葉に反応せず、沈黙を貫く。その間に、わたしは言いたいことを頭で反復します。
一度深呼吸をして、酸素をたっぷり取り込むと、心臓の鼓動を押さえ込み、ようやくその言葉を口にします。
「ずっと好きでした。わたしと……付き合ってください……」
今回、あとがき長めです! ご注意ください!
第27話を読んでいただき、ありがとうございました! 今回は、桜井桃果の告白回でした。
ついに翔平に想いを告げた桃果。長かったですね。実に20話(作中時間では約5ヶ月)もの時間をかけ、ついに勇気を振り絞りました。普段、鈍感力を発揮している翔平も真っ向から対峙することになります。
果たして、どうなるのでしょうか?
そして私自身、再登場するとは思っていなかった謎の幼女、ミクちゃん。良い仕事をしてくれました(笑)彼女の言う、歳の離れたお姉ちゃんとは誰なのでしょう。。気になる......。(登場予定はありません。設定とかもありません)
さてさて、あとがき長めと書かれたことから、お気づきの方はお気づきでしょうけど、今回で私の中での「ラノベ三巻目」は終了です。続きが知りたくなるような、とても重要なシーンでぶった切らせていただきました(笑)
思い返してみると、この「ラノベ三巻目」に当たる第19話~第27話は、桃果がたくさん出ていたような気がします。ざっと思い返してみましたが、おそらく全話に登場しています。主人公よりも出演率高いです。それだけ、桃果の心情を表現したかったんだと思います。
初期から主人公に恋をしている桃果ですが、ここまで能動的なことはなかったですね。物語を進めるとともに、登場人物の心にも大なり小なり変化が生まれていくんだなと、改めて感じます。
妄想乙ではあるんですが、この三巻目に表紙があるとしたら、間違いなく桃果になるでしょう! 一巻目は翠でしょうし、だとすると二巻目は朱里ですかね。ま、書籍化すればの話ですけどね(´∀`)私、絵を描けないですし!
そして、三巻目は目いっぱいラブコメさせました。今まではコメディ回多めの日常話って感じでしたけど、やっぱりラブコメって難しいですね……。コメディと違って、キャラの心をより深くまで考えなきゃいけないところが苦労しました。やはり翠と桃果ですね。翠は今までの認識を改める必要があり、頭がごちゃごちゃしていましたし、桃果は恋と友情と良心で悩んでいましたから。キャラが悩む時は、作者も必ず悩むものというのを知りました。
さて、いつもレビューや感想、コメント、応援をくれる読者さん。本当にありがとうございます! ほんの一言でも、いつも励みになっております! これからもコメントや感想をしてくれると嬉しいです!
レビューで「完成度の高い」、「ラブコメのお手本」、「本格的なラノベ」と書かれた時なんか、恐れ多いと思うと同時にものすっごく嬉しく感じました! 考えて書いている甲斐があります♪
一番力を入れて書いた第16話~第18話のことを大層気に入ってくれた方もいました。力を入れただけに、グッときましたよ。
次回、第28話からは私の中で「ラノベ四巻目」が始まるわけですが、シリアスが多めになりそうです。物語はどんどん進行します。投稿前から書きたかった内容が詰まったものとなっておりますので、楽しみにしてくれると嬉しいです。
長いあとがきを最後まで読んでくれてありがとうございました! それでは、第28話に続きます。これからもどうぞよろしくお願い致します!




