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第27話「桜井桃果はつなげたい」②

 桜井桃果(さくらいとうか)


 朱里(しゅり)さんも町田(まちだ)くんもモールの奥に走って行ってしまいました。その場に残されたのは、翔平(しょうへい)くんとわたし、それに、ミクちゃんという小学生の女の子です。


「『やりまくりのお兄ちゃん』、どっか行っちゃった」

「ミクちゃん! あいつにはこれ以上近づいちゃダメだ! ミクちゃんは騙されている!」

「えぇ~? 『やりまくりのお兄ちゃん』はやさしいよ?」

「ミクちゃん! その言葉、どこで覚えたの!?」


 町田くんのことをやりまくりやりまくりと連呼するミクちゃんに対して、わたしは疑問を呈します。


「ミクの年のはなれたお姉ちゃんが言ってたの。『モテる男の人はたいていやりまくりだ』って。あのお兄ちゃんは女の子にモテるって言ってたから、『やりまくり』なんでしょ?」

「……」

「……」


 小学生に何教えてるんですか、ミクちゃんのお姉さん! 人格歪んだらどうするんですか!? わたしはもうこの子の将来が今から心配になってきましたよ!


 ……それにしても、そういうことだったんですか。つまり町田くんは……、


「てことは、大樹(だいき)は本当に君に変なことはしてなくて……」

「だからそう言ってるじゃん! 『やりまくりのお兄ちゃん』はミクをたすけてくれたの! お肉とポップコーンもかってくれたし、あたまもなでてくれたの!」

「その、『やりまくりのお兄ちゃん』って言い方、とりあえずやめようか……」


 やはり、どうやらわたしたちの認識ミスだったようです。あとで謝らないといけませんね。


「ところで、ミクちゃんはこれからどうするの? 大樹はいなくなっちゃったし、お母さんとお父さんのところに戻らないといけないんじゃない?」

「う~~ん」


 翔平くんが身をかがめた状態のまま、ミクちゃんにそう尋ねると、ミクちゃんは何かを考えるようにうなると、


「ミク、お兄ちゃんとお姉ちゃんとあそびたい!」

「えぇ!?」


 まさかの、わたしたちと遊びたい気持ちを見せた。


「それは流石に、親御さんが反対するんじゃ……」

「聞いてくるーーー!!」

「あ、ちょっとミクちゃん!」


 ミクちゃんは「キーーーン」と言いながら手を飛行機のように広げて店に戻っていきます。この年代の子でも、ア○レちゃんを知っているんですね、なんてどうでもいいことを考えているうちに、「キーーーン」と言って帰ってきたミクちゃんは、


「お外にでなければいいよって!」

「いいの!?」


 ミクちゃんが戻ってきてすぐ、ミクちゃんの両親がわたしたちの元にやってきて、申し訳なさそうに挨拶します。「申し訳ありませんが、しばらく娘をお願いします」「いい子にしなきゃダメよ!」とわたしたちとミクちゃんに言い、一時間だけミクちゃんを預かることになりました。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん! それじゃあ行こ! ミク、ゲームであそびたい!」

「わ、ミクちゃん!」


 そう言って勢いよくわたしと翔平くんの手を小さな両手で引くミクちゃん。こうしてわたしたちは、本日二度目のアミューズメントコーナーに行くことになったのでした。


 *


「お兄ちゃん、これやろ!」


 ミクちゃんが指差したのは、リズムよく太鼓を叩いて得点を競う音楽ゲームでした。


「『太鼓の玄人』か! 懐かしいな! 高校の頃よくやってたよ!」

「お兄ちゃんこれじょうずなの? やろー! やろー!」

「う~ん。上手かと言われると微妙だけど……」


 ミクちゃんはお母さんから預かった100円玉を筐体に入れ、ゲームを開始します。翔平くんも同時にいれ、二人協力で曲を選択します。


「ミクちゃん、難易度はどれにする?」

「このいちばんむずかしいの!!」

「え!?」


 ミクちゃんがやりたいと言ったのは、超上級者レベル、『神』と呼ばれる難易度でした。それにはわたしも翔平くんも苦笑いで返します。


「ミクちゃん、これは本当に難しいやつだから、最初は『普通』でやらない?」

「えぇ~。お兄ちゃん、こんじょうなしなの」

「うっ……」

「けどミクはやさしいから、『こんじょうなしのお兄ちゃん』にあわせてあげるの!」

「あはは。ありがとう……」


 気遣って言ったのにこの言われよう。幼女の無謀さと素直さは恐ろしいですね。

 翔平くんはなんだか納得のいかない様子でお礼を言います。ちょっと面白いですね。


『それじゃあ始めるドドン!』


 太鼓の形をしたキャラクターの掛け声と共に画面外から太鼓のマークが流れて来る。翔平くんとミクちゃんは、リズムに合わせてドンドンと叩いていきます。

 見ていると、翔平くんだけでなく、ミクちゃんも『普通』レベルのリズムを楽々とこなしていきます。何度かやったことがあるんでしょうか? 今のところ二人ともパーフェクトです。


 やがて、ゲームが終了し、二人のスコアは堂々とノルマを達成しました。


「ミクちゃん、上手だね! 何度かやったことあるの?」

「うん! ミクのお父さんといっしょになんかいかあそんだことあるの!」

「すごいよミクちゃん! 翔平くんとほとんど同じスコアだもん!」


 見ると、ミクちゃんのスコアも翔平くんのスコアも大した差はありません。ほぼ誤差と言っていいくらいですね。


「それじゃあお兄ちゃん、次はこれやろ! これやろ!」

「えぇ~? やっぱりこれやりたいの?」

「やりたいの! やりたいの!」

「分かった。じゃあやろっか!」


 ミクちゃんは、やっぱり『神』のレベルをやりたいようです。ゴネに負けた翔平くんは、レベル『神』にカーソルを持っていき、選択します。


 かくして始まるレベル『神』のリズム。先ほどの『普通』とは比べ物にならないくらい太鼓のマークが流れて来て、翔平くんは頑張っていますが、ほとんどが失敗。ミクちゃんも、全く違うタイミングで叩いてしまい、空振りばかりです。やっぱり、好奇心でやりたがっていただけのようです。


「ミクちゃん、やっぱこれは難しいよ!」

「むぅ~~。全然当たらない!」


 そうやって唸ると、ミクちゃんは後ろを振り返って、


「お姉ちゃん! かわりにやって!」

「え!? わたし!?」


 急にわたしにバチを手渡しました!

 流されるように、わたしも太鼓を叩き始めます。流れて来る太鼓のマークに合わせて、わたしは叩く。


「え!? モモ!?」

「お姉ちゃん、すごーーーい!」


 正確に叩く! 何を隠そう、リズムゲームはわたし、大得意なんですよ!


「すげーー、モモ! ほとんどが成功してる」

「翔平くんも頑張って! ノルマクリア目指そう!」

「オッケー!」


 わたしと翔平くんは、お互い無我夢中で太鼓を叩きます。二人で協力して、叩きます。不思議な一体感があり、わたしはとても心地よく音を響かせます。翔平くんと、同じリズム……。なんだか幸せでした。


 その後わたしたちは、ノルマを達成することに成功しました。ミクちゃんも大喜びの様子。

 わたしと翔平くんは、手を大きく上に上げ、ハイタッチを決めました。パチンときれいな音が決まります。わたしは、高レベルのリズムゲームをクリアしたことも相まって、胸の高ぶりを抑えられませんでした。


 *


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