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第27話「桜井桃果はつなげたい」①

 町田大樹(まちだだいき)


 なぜ、こんな状況に?


 オレから距離を取るように接する友人たち。大学生の割には幼い顔をしたオレの親友は、まるでゴミを見るかのようにオレを蔑み、いつもは比較的消極的なショートカットの友人は、白けた態度を取りながらキビキビとスマホを操作してどこかにかけようとしている。いずれにせよ、おおよそ友に向けるような態度ではないことは明らかだ。


 普段はきらめく金色の髪を持つ少女はどこか白く燃え尽き、その様子は髪にまで及んでいた。口をあんぐり開けてその場で静止し、心なしか魂はそこにない気がする。


 ショッピングモール内の通路を歩く人たちの中には、ヒソヒソ話をしている者もいる。オレは、無実だっていうのに!


 えっと、状況を整理しよう。オレは今日、最近仲の良くなった女子、陽ノ下朱里(ひのもとしゅり)からの誘いで友人である岡村翔平(おかむらしょうへい)桜井桃果(さくらいとうか)、そして陽ノ下の三人と一緒に電車に乗って、普段は行かないカフェに来た。女子二名が、ここのカフェの有名なジャンボパフェを食べたいと言い出したからだ。そこで男手が欲しいため、オレと翔平に声をかけ、やってきたというわけだ。


 いざやってくると、本当にその八人前はあるだろうパフェはとんでもなく大きいものだった。制限時間付きの大食いチャレンジに四人で挑戦するが、甘みの連続パンチに負けたオレたちは、惜しくも敗退。余りを出す結果となってしまった。


 泣く泣くカフェを跡にし、今度はショッピングモールにやってきた。いつも行くショッピングモールとは違うが、ここのショッピングモールもそこそこ大きい。小さいながらもアミューズメントコーナーがあるため、腹ごなしにちょうどいい。オレたちは、そこのアミューズメントコーナーでちょっとした運動やゲームをして、さて、次は何をしようかと、とりあえずモールの通路を歩いていたんだ。


 ここまでは良い。だが、ちょうど買い物でもしようかと話していたとき……。


 *


「お兄ちゃん!」


 そこでオレは、聞き覚えのある声に振り向いた。そこには、


「ミクじゃねぇか!」


 遊園地で迷子になっていた少女、ミクがいた。まさか、あの時の少女とこんなところで再会するなんて、夢にも思っていなかった。一体、どれほどの偶然だろうか?


「ミク、なんでこんなところに一人でいるんだ? また迷子か?」


 見ると、また親御さんの姿が見当たらない。だが、今回のミクは以前のように不安でキョロキョロなどしておらず、ニパーっと太陽のように明るい笑顔をこちらに向けている。


「ママとパパは、そこのおようふく屋さんでおようふくを見てるの! 『たいくつだ~』って思ってたら、お兄ちゃんが歩いてるのが見えたから、ママとパパに言って来ちゃった」


 ミクの指差す方向を見ると、男性用、女性用の両方の商品が販売されているファッション店があり、ガラス張りの店内からは、確かに親御さんがこちらに挨拶するのが見えた。オレも、慌てて会釈をする。


「大樹、この子と知り合い?」

「あぁ。以前、遊園地で迷子になっていた子だよ」

「あぁ! 大樹が迷子センターに連れて行ったっていう?」

「そうそう。その時に、えらくなつかれちまったみたいでな」


 ミクは、ギューッとオレの足にくっついて来る。小学一、二年生ってのはこんなに小さいんだな。身長が高いオレと比較すると雲泥の差だ。


「町田先輩、小さな女の子にも人気があるなんて! 流石です!」

「おいおい、よせって!」

「けど、迷子を見かけてそこで見て見ぬふりをしない辺り、本当に偉いと思うよ」

「そんなに褒められると、照れ臭ぇだろ!」


 陽ノ下と桜井に褒められて、少し得意げな気持ちになってしまう。鼻の下も伸びてしまいそうだ!


「うん! お兄ちゃん、この前はありがとう! それに……、おいしかったよ!」


 ミクもオレのジーパンに抱きつきながら、改めて先日のお礼を言ってくれる。そういえば、フランクフルトも買ってあげたっけな。



「お兄ちゃんの肉の棒をミクにしゃぶしゃぶさせてくれてありがとう!」



 ………………場が凍った。


 なぜ、よりにもよって友人が三人もいるところでそんな言い方をしてしまったんだ。別に間違ってはいないけれど……。


 いや、このおおよそ七歳だか八歳だかの少女は、純粋にオレにお礼を言っているだけだ。卑猥な意味に捉えてしまうのは、オレの耳が腐っている証拠だ。


 ほら、見てみろよ! 女性二人に親友は、オレみたいな腐った耳はしていない……。


「……(ゴミを見る目)」

「……(引くような目)」

「あっ……、が……が」


 そんなことなかった。大人の耳って汚いんだな……。じゃなくて!!


「大樹、お前、幼女相手に何やったんだよ!」

「違うから! フランクフルトのことだっつーの!」

「オレのフランクフルトなんて、町田くん、卑猥です! やめてくださいよ!」

「なんっでだよ!! 『オレの』なんて言ってねぇだろ! そういう変な捉え方してんじゃねぇよ!! 食い物のフランクフルトだよ! 屋台でおごってあげたの!!」


 なんだこいつら! オレよりも耳腐ってんじゃねぇのか!? アァ!?


「「本当に……?」」

「本当に決まってんだろうが! 幼女相手にんなことするか!」


 何故かまだ若干疑いの目線を向ける翔平と桜井。なんで!? お前らのオレに対するチャラキャラ扱いは今回に至っては度が過ぎてるっつーんだよ!


「ま、そうだよね。大樹がそんな悪いことをするはずないってのは、俺も分かってるし」

「翔平、お前……」


 やはり、持つべきものは長いこと付き合っているダチだな。信頼関係が構築されていて、本当に良かった。


「そ、そうだよね……。確かに早とちりだったかも……」

「そ、そうですよね! 町田先輩がそんな不純なことを平気でするはずないもの!」


 翔平がそうやって口にすると、桜井と陽ノ下も考えを改めてオレを疑うことをやめた。みんな、そこまで頭の固い勘違い野郎ではなかったということだな! ふぅ、危なかったぜ。


「うん、悪いことなんてしてないよ! 悪いことじゃなくて、良いことしてくれたの!」


 しかし、この小学生の言語能力はオレの予想を遥かに上回るもので……、


「ミクを気持ちよくしてくれたの!」


 ふぉぉぉぉーーー!


「さすがは『やりまくり』のお兄ちゃんだよね! ミクもこんなのはじめてで、すっごい気持ちよかったの!」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 どうしてこいつは、ここまでピンポイントで大人の腐った耳を刺激できるんだ! ほら、せっかく疑いが晴れたっていうのに、再び翔平も桜井もオレから距離を取って、蔑んだ目で見てきやがる! 陽ノ下に至っては、なんか口から魂みたいなの出てて機能してないよ! 死んでないよな!?


「おいミク! お前、言い方! もっと違う説明の仕方あるだろうが!」

「ちがう言い方? ミク、なんかちがった?」

「そうだよ! もっと具体的に言ってくれよ! 誤解されるからさぁ!」


 さぁ、言ってやってくれ、ミク! このエロ大学生たちにちゃんと理解させてやってくれ!


「えっと、お兄ちゃんの指使いがすごくて、ミクはなにも考えられなくなるくらい、カイカンだったの!」

「そういう具体的じゃなくてぇぇぇぇ!!」


 やったことを具体的に言えよ! 状況悪化しちゃっただろ!?


「大樹、これはロリコンの域超えてるだろ……」

「違ぇから! 頭を撫でてあげただけだから! 女子にやる頭ポンポンみたいなものをやっただけだから!!」

「あ、もしもし。警察の方ですか? はい、ここに末期のロリコン患者が……」

「通報!? ちょっと桜井さん!?」


 度が過ぎてるって! オレ、何も悪いことしてないから! 善行しかしてないから!


 よく見たら、オレの大声のツッコミとギュッとしがみついたミクを見て、モールにいたお客さんが何人かこっちを見ている。中には、ヒソヒソ話をしているグループもあったりして、オレは泣きそうだ。


「ておい、陽ノ下! お前も呆けてないで弁解に力を貸してくれよ!」


 オレのズボンの裾にしがみついたミクを一旦離し、さっきからずっと放心状態の陽ノ下を揺さぶって起こすと、ようやく陽ノ下は目を覚ましたようで、目が合う。


「起きたか陽ノ下! オレの代わりにこいつらに弁解してやってくれよ!」


 すると陽ノ下の顔はみるみる泣き顔に変わり……、


「ここまでのロリコンはいやあぁぁぁぁぁぁ!!」

「ゲブハッ!!」


 その小さな体格からは考えられない拳の力が、オレの腹に決まる。陽ノ下は、そう言うとモールの通路を奥の方に走って行ってしまった。


 周りのやじうまのヒソヒソ話は一層花を咲かせるが、んなこと気にしてる場合じゃねぇ!


「おい、陽ノ下! 違うんだ! 違うんだぁぁぁ!!」


 オレも叫びながら、走っていった陽ノ下を追いかけ始めた。


 *


 大樹がいなくなったあとのその場所で、ミクは翔平と桃果にこう言ったそうだ。


「ミク、こういうの知ってる! 『シュラバ』って言うんだよね!」


 その笑顔は、太陽のように明るかったという……。


 *


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