表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/144

第25話「恋する乙女は順調に進めたい」③

「お待たせ、翔平(しょうへい)くん」

「それじゃあ、ご飯食べようか!」


 ローテーブルを二つ並べ、食卓にする。カラッと揚がった唐揚げとほかほかの白飯、豆とレタスのサラダと、実に家庭的。唐揚げは揚げたてなだけあって、実に香ばしい。何を隠そう、俺は唐揚げが大好物だ。

 それだけではなく、通常の唐揚げと異なり、表面にパン粉をまぶしてあることで、一風違った見た目をしている。一見、派手さがあるようには見えないけれど、ミド姉の工夫を凝らした一品に仕上がっている。


「「「いただきます!」」」


 俺は早速、パン粉で覆われた唐揚げに手を出す。見た目よりもずっと、『カリッ』としていそうだ。箸で持つときにパラパラとパン粉が落ちる。このパン粉単体でも美味しそう。

 口の中に唐揚げを入れる。『ザクッ』という音を立て、パン粉と一緒に唐揚げを頬張る。


「~~! 美味しい!」


 噛んだ瞬間に鶏肉の旨みが、肉汁という形になって口の中を巡る。出来立ての唐揚げの肉汁は熱く、ついハフハフとしてしまう。


 更に、まぶされたパン粉は、味覚だけでなく聴覚でも俺に唐揚げの旨さを訴えかけている。唐揚げのカリッとしていて美味しいのが好きな俺にとって、このパン粉はベストな工夫と言える。鬼に金棒ならぬ、唐揚げにパン粉と言ったところか。


 味付け自体も胡椒と塩だけといったシンプルさ。だが、それがいい! 唐揚げの旨みと調味料の塩っ気が堪らない! レモンをかけても唐揚げは美味しくなるが、そうなるとこのザクザク感は楽しめまい。


「この唐揚げ、本当に衣がすごく美味しい! こんな唐揚げ、わたし食べたことないよ!」

「気に入ってもらえて良かったわ!」

「これは、なんて名前の料理にするんですか?」

「う~ん。決めていなかったけど、そうね……。それじゃあ、『お姉ちゃん風シロ唐揚げ』にしようかな! ほら、パン粉が白いでしょ?」


 確かに。焦げ目がついていて正確にはきつね色だけど、パッと見は白だもんね。


「やっぱり、ミドちゃんの料理は美味しいな……。わたしもこれくらいできないと……勝てない……」

(もも)ちゃんも練習すれば上手になると思うよ。まぁ、今は私が翔ちゃんの胃袋を掴んでいるけどね!」

「くっ。悔しいけど、料理じゃ勝てない……。けど、それ以外で負けないもん!」

「私だってそれ以外の部分でも負けないよ!」

「料理以外の家事スキルだったら、わたしの方がまだ上だもんね! 洗濯、掃除だったら絶対に負けない!」

「そ、掃除はまだ本気出してないだけだし……」


 かつて、ゴミ屋敷一歩手前の部屋をお持ちになっていた姉は、まだ本気を出していないとのたまう。ミド姉の部屋は、以前掃除をしてから、極端に汚くはなってないが、それでも少しずつ元の場所に置かれないモノが増えてきている。やはり掃除は苦手らしい。そろそろ、もう一度促しておくべきか?


「それに、お菓子作りならわたしだって負けないんだから!」

「お菓子よりも、料理を作る機会の方が多いんだから、料理が出来た方が断然いいに決まってるわ!」

「だからこそ、たまに作るお菓子で真価を発揮する女の子は魅力的なんじゃないかな~? イベント毎のちょっと特別なときに作る特別なお菓子はよく記憶に残るもんね」

「料理は、毎日を支える重要な要素よ。栄養価や味の好みを考えて愛情を込めて作る料理こそ、喜ばれると思うわ!」

「いやいや」

「いやいやいや」


 あぁ、また俺の前であからさまに始まってしまった。『弟を巡る姉の修羅場』が……。こうなるともう、俺は居心地が悪いんだよな~。


「あの、二人とも……」


 俺が二人に呼びかけると、いがみ合っていた二人の注意が俺に向く。


「こんな修羅場、やめません? せっかくの美味しい料理が台無しになっちゃいますよ?」

「「あ」」


 二人は俺が指摘すると、お互い何かに気づいたように顔を見やる。


「弟冥利には尽きますけど、仲良くしましょうよ。でないと即売会勝負の時みたいにこっちが気まずいですし……」

「確かにそうね……。ごめんね、翔ちゃん、桃ちゃん。私、また周りが見えなくなっていたかも……」

「ううん。こっちこそちょっとムキになってたかも」


 どうやら、分かってくれたみたいだ。いつも仲の良い二人がこんな変なことでいがみ合うのは見たくないからね。良かった良かった。


 てか、モモがまだ俺の姉志望だなんて、思ってもいなかったぞ? あの時のお礼でもうその願望は叶ったんじゃないの?

 モモの気持ちを知りたかったが、ここで聞いて「姉になりたい」とか答えられてもまためんどくさいし、聞かないでおこう。


 *


 結局、その後のミド姉とモモのいざこざはなく、いつも通りの様子だった。笑い話をしながら晩ご飯を食べ終え、今はこの家に来た本来の目的である、ミド姉の漫画読みを終えたところだ。


「どうかな?」


 ミド姉が緊張した面持ちで俺たちを見る。自分の作品を目の前で読まれ、評価されるんだ。そりゃ不安だよね。けど、


「ミド姉! これ、すごく面白かったですよ!」

「本当に!? 嘘偽りなく!?」

「はい! 自分がモデルになっているので照れがないと言えば嘘になりますけど、それでも面白かったです!」


 この前に見せてもらった同人誌みたいな、姉と弟がイチャイチャするだけのものとは違う。この姉弟、ちゃんとラブコメしてる!

 内容は、実の姉が実の弟のことを好きで、何度も弟にアタックするというドタバタなラブコメディだ。主人公の姉が弟に振りまく好き好きオーラにミド姉のブラコンを想起させるものがある。だが意外だったのは、姉はきちんと弟のことを恋愛対象として見ており、漫画上の姉の姿はきちんと恋する乙女であった。


「ミドちゃん、これ本当によく描けてるね。すごいよ!」

「うん、桃ちゃんのおかげだよ。ありがとうね」


 二人で笑い合うミド姉とモモ。そこには俺にはない絆がある気がした。モモも、ミド姉の手伝いをたくさんしていたみたいだね。女性目線からしか分からないことを相談するのに、仲の良いモモはうってつけだもんね。


「にしてもミド姉、思ったよりちゃんとラブコメしていて驚きましたよ! 同人誌みたいにイチャイチャだけのものとなるかと思いきや、ちゃんと恋心が描かれているんですから!」

「うん! 一度はイチャイチャだけにしようかと思ったんだけど、やっぱりテイストを変えてみたの」

「けど、描くの苦労したんじゃないですか? ほら、ここは弟モデルの範囲外ですし、想像で描くしかないですもんね」

「う、うん……。そうなんだ! いやー大変だったなぁ!」


 ミド姉が若干声を詰まらせて言う。想像で描くのが苦手で弟のモデルを俺に依頼したんだもんね。けどやっぱり、ミド姉はちゃんと主人公の恋心を表現できている。ちゃんと心のこもった登場人物に仕上がっている。それってすごいことだと俺は思う。


「それじゃあ、これを仕上げたら次は……」

「うん! ついに持ち込みだよ!」


 ついに、この時が来たんだ。と言っても、ミド姉は過去三年間、持ち込みをしているからそこまで新鮮味はないだろうが、俺にとってはモデルを受けた漫画の初めての持ち込み。実際に持っていくのは俺ではないとは言え、自分のことのように緊張してしまう。


「今回のこの原稿なら、大丈夫だよ! 自信を持って、ミドちゃん!」

「うん! ありがとう桃ちゃん!」

「仕上げでできることは少ないと思いますけど、また何かできることがあったら言ってください。協力しますので」

「協力!? それじゃあね~……」


 ミド姉が目を輝かせながらこちらを見てくる。あ~、これはまたいつものパターンか。


「じゃあ、頬ずりさせて?」


 ほ~らそう来たよ。つい言っちゃうんだけど、『何でもする』とか『協力する』とか言うとすぐにこういう要求してくるんだよな~、この姉は。


「ミドちゃん! それは流石に露骨すぎるんじゃないかな~」

「え~。だってほら、私っていつもそんなじゃない? お姉ちゃんとして弟を愛でるのは、当然のことですからね!」

「ぐっ……。立場に物を言わせるなんて……」


 モモが何だかすごく悔しそうにしているけど、まさかモモもそこまで!? 流石にそれは困るぞ……。ていうか、さっき食事の時に注意したのにまた始まるのかよ! けど……、


「いや、させませんよ?」

「何でよ!? いつもはさせてくれるじゃない!」

「いや、モモの目の前なんで、させるわけないじゃないですか」


 いつでもどこでも頬ずりさせてもらえると思っているのだろうか? そんなことないのに……。


「仕方ない。『お姉ちゃん』って言ってもらうだけでいいわ」

「そっちの方が危険度高いですから!」


 何で『妥協した』みたいな言い方してるの!? こっちは命に関わるってのに!


「翔ちゃん、それに関してはもう心配ないと思うわよ」

「何言ってるんですか? また変な前フリして」

「私は新たな境地に達したの。言うなれば、花森翠(はなもりみどり)ACT3! もはや、翔ちゃんの『お姉ちゃん』で私が吐血することなんてないわ」

「なんか前にも似たようなこと聞いた気がするんですけど、フラグ立てしないでくださいよ。もう今回のオチが見えたじゃないですか」


 どうせ、俺に『お姉ちゃん』と言わせるための口からでまかせに決まってるんだから、いつも通りここはスルーして……。


「待って。本当にそうかも」

「え? どういうこと?」


 モモが、急にミド姉の肩を持つようなことを言ってくる。


「確かに、今のミドちゃんなら、今までと違って吐血しなくて済むかもしれない」

「まさか! それはどうして?」

「詳しくは言えないけれど……」

「?」


 まさかモモまでそう言うなんて。確信めいた何かがあるのか?

 え? 何だ? 本当に吐血しない? それならそれでこちらとしても嬉しい。うっかり吐血した時に血の処理をしなくて済むし、何より、『地雷ワード』があるのって結構疲れるんだよな。


「えっと、じゃあやってみます?」

「是非!!!!」


 半信半疑だが、俺はミド姉の成長を確かめてみることにした。


「……お姉ちゃん」


 言ってしまった! 流されて言っちゃったよ! これで今回も掃除してオチるのか……。と思っていると、


「…………」


 え!? 吐血……してない!? 表情も体勢も変えずにその場にい続けるミド姉。いたって正常なその様子だ。


「ついに……、ついに克服したんですね! ミド姉!」

「ミドちゃんおめでとう! これで血液不足で鉄分豊富な食生活を心がける必要もないね!」


 ミド姉、そんなことしてたんだ。地道に努力してたんだな。


「やった……。私、ついに翔ちゃんの『お姉ちゃん』を克服したのね……」


 歓喜に震えるミド姉。なんだかんだ言っても、自身も苦労させられて来ているもんね。克服できたというなら、これ以上嬉しいことはない。

 喜びを表し、手を挙げて万歳のポーズを取るミド姉。


「ばんざーい! やったー!」


 デロッ


 ……が、突然ミド姉の口と鼻から血が垂れてきた!


「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」


 その光景を見て、咄嗟に叫ぶ俺とモモ。一度出だすと、簡単には止まらないようで、次から次へと垂れてくる。


「ちょっとミド姉、全然克服できてませんよーー!!」

「わーーい! わーーーい!」

「『わーい』じゃなくてーーー!!!」


 血に気づいているのか気づいていないのか、ひたすら万歳を続けるミド姉。この状況分かってます!? また命の危機が迫っているんですよ!?


「ミド姉! 早く鼻と口抑えて!」


 ミド姉の肩を掴んで前後に揺さぶろうとする俺。すると、俺がミド姉に触った途端、


 ダーーーン!!


 今度はまるで聖者のように手を前に組みながら後ろに勢いよく倒れ込んだ。何で!?


「やっぱ弟は、……神ぃ……」


 ついに神格化された弟。俺とモモはひたすらその様子をドン引きしながら眺めるしかない。


「もはや思い残すことは……何も……」

「あるよね!? まだ仕上げが終わってませんよね!?」

「やっぱり私のブラコンは……残ったままだった……ガク」


 そう言い残して、息絶えるミド姉。やはり、ブラコンの姉はどこまでいってもブラコン。そう簡単に克服できるわけないってことだろうか……。ミド姉の新たな境地ってのも、意味分からんし。


 後ろでは、ミド姉のブラコンが克服されたと確信を持っていたモモが、「おかしいな……」と言っているのが聞こえた。


 第25話を読んでいただき、ありがとうございます。今回は「翠と桃果の軽い修羅場」と「やっぱり翠のブラコンはそう簡単には治らない」話でした。恋愛感情を自覚しても「お姉ちゃん」と呼ばれたら吐血する症状は何ら変わっていません。不便な体質になってしまったものですね笑


 今回は小休止というか、次回へのつなぎみたいなところもあって、家でのんびりの話にしました。第三回目となる翔平のグルメリポートも入れてみました。書いてる途中で唐揚げが食べたくなって、近くのローソンで買ってくることになりました(笑)10年ぶりくらいだなぁ、からあげくん食べたの。


 思えば、翠の漫画について書くのはとても久しぶりですね。第18話ぶりなので、7話以上空いてしまいました。色々あったので仕方ないといえば仕方ないですけどね。それでも、この作品の主軸というか本筋と言いますか、避けては通れない事柄ですので大事にその様子を書いていきたいですね。知識が100%あるわけでもないので、書けるところまでになりますが、ご了承ください。もしかしたら、「ん?」ってなるところも出てきてしまうかも……。


 では、次回はいよいよ翠の持ち込みのお話です! それではまた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ