第25話「恋する乙女は順調に進めたい」②
桜井桃果
今日は、翔平くんとのデートの日!
わたしは、かねてより切望していた翔平くんとのデートまでこぎ着けることに成功したのです。
先日……、
「翔平くん! わたしとデートしない!?」
……というストレートなお誘いはできるはずもなく、結局、先日のプールの一件で迷惑をかけたお詫びということで、買い物に付き合ってもらうことになりました。強力なライバルを増やしてしまい、焦る気持ちはあるのですが、人間、そう簡単に大幅な積極性アップは見込めないのですよ。
はぁ。やっぱり、ミドちゃんに想いを自覚させるなんて、墓穴を掘ってしまったのでしょうか? わざわざ自分から首を絞めるなんて……。わたしは大馬鹿者ですよ……。
しかし、これはわたしが考えて、わたしが出した結論。若干の後悔はあるけれど、それでもこれが間違った選択だったなんて思わない。だったら、この状況で頑張るしかないです!
こうしてわたしたちは、最寄りから二駅離れたショッピングモールにやってきました! 以前も来たことがあるのですが、今回は二人きりです!
翔平くんに服を選んでもらったり、ペットショップの犬たちと触れ合ったり、映画を見たり、どうせならということで近くの公園を散歩してみたり……。実にデートらしいです!
「これからどうする?」
夕方になり、再度ショッピングモールへ買い物に来たわたしたちは、現在、モール内の広場を歩いています。
「モモの欲しかったものは、とりあえず全部買えたみたいだし、そろそろ帰ろうか」
「うん。今日はありがとうね、翔平くん! おかげでいい服が買えたよ」
「俺なんて、大したこと言ってないけどね。ただモモの着替えた服を見て、感想を言ったくらいだし……」
「ううん。それでも、だよ。翔平くんにも気に入ってもらえた服を買えて、わたしは満足だよ!」
「そう? 確かにあの服は可愛かったもんね。よく似合っていたと思うよ」
「ファウ……」
素直に褒められて、照れてしまいますね! 嬉しいです。
「ごめん、ちょっとお手洗い行くね」
「オッケー。それじゃあそこのベンチにいるね」
照れてみっともなく緩んだ頬を隠す意味もあり、お手洗いに向かいます。
何だか、結構デートデートしてるんじゃないですか!? 超順調じゃないですか!? 図書館での勉強会みたいな変なハプニングも今のところありませんでしたし、今回は『弟になって!』なんてバカな提案する機会もないですし!
買い物に突き合わせる形でしたが、翔平くんも普通に楽しんでくれているみたいでしたし、このデートはかなり成功なんじゃないですか!? ミドちゃんより、一歩リードできているんじゃないですか!? もう抜けがけなんて言わせませんからね! 負けませんよ!
そう考えると、ここであっさりとデートを終えるのは何だか味気ないですね。もう少し、翔平くんと一緒にいたいです。
そうだ! ここはショッピングモールの中ですし、晩ご飯を一緒に食べると言うのはどうでしょうか? もう少しだけデート延長です! ふふ。
そして、ご飯を食べたら、もう夜になっていますよね? 家まで送ってもらいましょうかね? 暗いのに乗じて、ちょっとだけ腕に抱きついてみたりなんかしちゃって……。流石にそれはやりすぎですかね!? いやでも! 積極的に行かないと!
*
「モモ、急なんだけど、これからミド姉の家に行こうよ」
「……」
お手洗いから戻ったわたしに放たれた言葉は、わたしの理想とかけ離れたものでした。
「ナ、ナンデ?」
「なんか、ミド姉のネームと下書きが描きあがったから、見て欲しいんだって」
「ソウナンダ~。ヘェ~」
なんてタイミングで完成させているの! なにもわたしたちがデートしている時に報告しなくてもいいじゃない!
このままミドちゃんちに行くってなったら、わたしがさっき計画した延長デートが!
「けど翔平くん。それならご飯を食べてから行かない? ほら、ショッピングモールの中には色々飲食店も入っているし、それにわたし、お腹が空いちゃったよ!」
「あぁ、それならミド姉が、モモの分もとびっきりの夕飯用意してくれているみたいだよ」
「……わーそうなんだーそれはうれしいなー」
読まれていた! わたしが夕飯を提案することが読まれていた! ミドちゃんめ、わたしと翔平くんがデートしてるって知って、これ以上長引かせないようにするつもりね!
「お腹空いているんなら、早めに行こうか! ミド姉もできれば早く来て欲しいって言ってたし。あ、荷物は俺が持つよ」
「わ、わーありがとー翔平くん。それじゃあ、ミドちゃんちにむかおうかー」
「どうしたの、モモ? 何か棒読みだね?」
「ソンナコトナイヨー。はは」
せっかくの買い物デートの延長戦が……。そう思いながらもわたしたちはマンションに向かうのでした。
*
岡村翔平
モモとの買い物を終え、ミド姉のマンションに到着した。ミド姉からの要望で、描き上げた下書きを俺たち二人に見て欲しいらしい。
「こんばんは、ミド姉。二週間ぶりですね!」
「翔ちゃん、いらっしゃい!」
扉を開け、いつも通り元気な声で挨拶するミド姉。なんだか頬の部分が少し赤い気もするが、料理をしていたのなら火を使っているだろうし、ちょっとくらい赤くもなるかな?
「こんばんは、ミドちゃん」
「いらっしゃい、桃ちゃん」
途端、二人の笑顔が崩れかけた気がした。空気も、ちょっとピリッとしているような?
「今日は来てくれてありがとうね。まさか、二人で買い物しているなんて思わなくてさ」
「そうだね、誘うなら明日とかにして欲しかったな。せっかくこれからショッピングモールのレストランでディナーをしようと思っていたのに」
「二人に早く漫画を見てもらいたくてさー。お詫びに私が美味しいご飯を用意するから、レストランじゃなくてうちでいっぱい食べてね」
「わー、それはありがとう。それじゃあ、三人で仲良く食べようね。あはは」
「そうね。三人で食べましょ。うふふ」
あれ、変だな……? 何でこんなに居心地悪いんだろ? 今から、美味しいご飯を三人仲良く食べるんじゃなかったっけ? 何だか奇妙なデジャヴも感じるし、どういうことだ?
居心地の悪さを感じた俺は、玄関先でやりとりをしている二人をよそにとりあえず部屋に入った。晩ご飯はまだ出来上がっていないので、俺は部屋で待たせてもらうことにする。モモは、一旦隣の自分の部屋に今日買った荷物を置いてくるという。
「ごめんね、翔ちゃん。もうちょっとだけ待っててね」
「いえ、なんかご馳走になってばかりですみません」
「いいのよ。むしろ、漫画を見てもらうためにわざわざ来てくれたんだからこれくらいはさせて頂戴!」
「それよりミド姉、モモと何かあったんですか?」
途端、ピタッと動きが止まる。あ、これ図星だ。
「ナ、ナニモナイワヨ?」
「いやいや、無理あるでしょう!」
嘘つくの下手くそ過ぎだろうこの人! それで誤魔化せるとでも思っていたんですか!?
「それよりも翔ちゃん! 久しぶりに一緒にご飯作りましょうよ! 簡単な作業だけでも一緒にやりたいな!」
無理やり話を変えようとするミド姉。あまりこの話題に触れて欲しくないのだろうか? こちらもご馳走になる身、手伝いくらいはして然るべきだろう。
「いいですよ。何すればいいですか?」
「それじゃあ、レタスをちぎって適当に盛り付けてくれる?」
そう言われてミド姉の隣に立ち、冷蔵庫からレタスを取り出す。
「ただいま~」
レタスを洗っているところに、ちょうどモモが隣の部屋から戻ってきた。
「おかえり、桃ちゃん。ごめんね、ご飯はもう少し待ってね」
「う、うん。分かっ……た!?」
モモはキッチンにいる俺たち二人を見たと思ったら、唐突に驚いたような声を上げ、履いていた靴をすぐに脱いで、勢いよく料理の手伝いを申し出る。
「ミドちゃん、わたしもご飯作り手伝うよ!」
「え? いや、大丈夫だよ桃ちゃん。スペース的にも二人で十分だよ」
「それなら翔平くんは休んでて? わたしがミドちゃんの手伝いをするからさ」
「え? けど、別にこれくらいいいよ」
「今日、翔平くんにはわたしの買い物に付き合ってもらったし、疲れているだろうから休んでてよ! ね?」
「……? あぁ、うん。それならまぁ、休ませてもらうけど……」
別にそんなに疲れているわけでもないけど、なんだか妙にモモが必死だし、ここは素直に従っておいたほうがいいかも。そう思って、俺は持っていたレタスを手渡した。
「え!? 翔ちゃん、一緒に作ってくれないの!?」
「大丈夫だよミドちゃん! わたしが代わりにレタスをちぎってあげるからさ!」
「そ、そうね。それなら桃ちゃんにお願いしようかな~」
お互いにあははと笑い合っているが、どうにも不自然で違和感しかない。これってもしかして……、
「(また、即売会の時みたいな変な修羅場が発生してない!?)」
そうだ。さっき感じたデジャヴはそれだ! 即売会勝負のときみたいな、『弟を巡る姉の修羅場』。モモの奴、まだ姉願望あったのかよ!
俺は、その修羅場をとりあえず見なかったことにして、大人しく部屋で待機することにした。
*




