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第24話「花森翠は自覚したい」③

大樹(だいき)、どこ行ってたの?」

「ホンットに悪い! 迷子の子を助けていたんだが、スマホをロッカーに置き忘れて連絡できなかったんだ! すぐに片付くかと思っていたら意外と時間かかっちまって!」

「本当に心配したんですからね!」


 あの後、私たちは観覧車を降り、(しょう)ちゃんと朱里(しゅり)ちゃんに合流するためにレストランへ向かった。

 レストランでスマホを確認すると、グループチャットに大樹くんからメッセージが書き込まれているのに気がついた。私たちが観覧車に乗ってすぐの時間のようだった。


 そして今、大樹くんと合流したというわけだ。すでに陽は沈んで辺りは暗く、今は遊園地の締めである花火の会場に向かおうとしているところだ。


 私はチラリと翔ちゃんの方を向く。

 (もも)ちゃんに言われたこと、さっきおぼろげながらも自覚したことを意識してしまい、変な気分だった。


「(何だろう。何でかすごく恥ずかしい……)」


 顔を直視できない。確かにこの感情をブラコンの延長というには、無理があるのかしら? これが、恋……なの?


「先輩! もうあとちょっとで花火始まっちゃいますよ!」

「そうだな。会場に急ごう!」


 だけどやっぱり、確証が得られない……。はっきりとした違いが見えない。

 私の感情に変化が訪れたあの日以降、幾度となく感じた翔ちゃんへの意識の差。それを今まで私はブラコンの延長として捉えていた。そうやって自己分析していた。男らしい仕草を見せる翔ちゃんに対して動機が速くなる、あの感覚。それは、ブラコンの延長なのだと。お姉ちゃんとして、弟のことが大好きなのだと。


「行こう! 翔平(しょうへい)くん、ミドちゃん!」

「うん!」


 だけど、恋心を自覚しかけた今となっては、その回答は間違いかもしれない。そう再認識したことで、翔ちゃんへの想いが分からなくなっている。私は翔ちゃんのことが、どう好きなの? 


 考え事をする私は、その場で物思いにふける。みんなが早足になって歩き出したことに気づかず、先程まで乗っていた大観覧車をただただ見上げる。


「ミド姉!」


 唐突に呼ばれる私の名前。いつも呼んでくれている、『ミド姉』という愛称。こう呼ぶ人は、世界中でただ一人しかいない。


「ほら! 花火始まっちゃうんですから、行きますよ! みんな先に行っちゃいますよ」

「え、ちょっと翔ちゃん!」


 そう言って私の手を強引に引いて走り出す翔ちゃん。プールでの時のように、翔ちゃんは私の手を掴んで前へ引く。私より大きくて堅い手で私の手を引く。



 そうされた瞬間、私は感じ取った。不明確だった自分の気持ちが、確固たるものに変わった気がした。霧が晴れ、正面の景色が見えたかのように今は自分の気持ちが見えている。



 私は、翔ちゃんのことが好きだ。一人の男の子として、好きだ。



 笑っている時の顔が好き。

 照れている時の可愛さが好き。

 器の広いところが好き。

 たまにいじわるなところが好き。

 本当の弟のように可愛いところが好き。

 時折見せる頼もしさが好き。

 いつだって優しい、翔ちゃんが好き!


 私は翔ちゃんに恋していたんだ!


 動悸が速くなる。また顔が赤くなるのを感じる。そして、手を握られていることへの幸福を感じる。今までとは明らかに違う感覚。これが、恋心……。


 私たちは花火の会場に向かう。少し前にいた大樹くんと朱里ちゃんが、人ごみの中から手を振っている。私たちが追いついた桃ちゃんは、こちらを見て笑っている。その笑顔は、どことなく寂しさも含んでいるようには見えたが、そう見えたのはほんの一瞬だった。


 ドーーーーン!


 私と翔ちゃんが会場に着いてすぐ、花火が打ち上がる。赤、緑、青、黄。色とりどりの花が夜空に咲き、音を立てて消える。幻想的な光景だった。


 私たちは横一列に並び、真上を見上げる。繋がれていた手はいつの間にか放されている。しかし、私の心は充足感でいっぱいだった。こうして隣に立てて花火を見ていることに幸せを感じていたから。


「ねぇ、桃ちゃん」


 隣に立つ桃ちゃんに花火を見上げたまま話しかける。桃ちゃんは、花火から目を離し、左隣に立つ私を見る。


「私、分かったよ」

「……そっか」


 それだけ言って、桃ちゃんは再び花火を見直した。


 咲いては消える夜の花。私たち五人は、音が消えるまでその光景に見入ったのだった。


 *


 帰り道、最寄り駅で大樹くんと別れ、更に途中で翔ちゃんと別れる。喫茶店の近くの交差点で朱里ちゃんと別れ、今は桃ちゃんと二人きり。


「桃ちゃんは、どうして私が翔ちゃんのことを意識しているってことを話してくれたの? 桃ちゃんにとっては、ライバルが増えちゃったんだよ?」


 観覧車の中からずっと抱いていた疑問をぶつける。それに対して桃ちゃんは、微笑を浮かべたあと、真剣な顔つきで答えた。


「そうだね。けどこれは、自分のためなの」

「自分のため?」

「そう。だって、わたしと翔平くんが付き合ったあとにミドちゃんが自分の気持ちに気づいたらわたしたち、気まずいと思わない? それに、修羅場に巻き込まれる翔平くんに申し訳ないよ。そうなったらわたし、多分、今回ミドちゃんに伝えなかったことを後悔すると思う」

「桃ちゃん……」


 私は、その言葉に深く感動を覚えた。桃ちゃんは、私との関係性を大事に思ってくれているのみならず、想い人である翔ちゃんのことも考えて、自分にリスクのある選択をしてくれたんだ。


「だけど勘違いしないでね、ミドちゃん! わたしはミドちゃんに負けるつもりは微塵もないよ。ここまでしたんだから、もう遠慮なんてしないからね」


 桃ちゃんはこちらを見て笑い、挑発するようにそう言った。

 それに対して、わたしもライバルと向き合う。


「もちろんよ。私だって、桃ちゃんには負けない。これからは、一人の女の子として、翔ちゃんを掴まえて見せるわ! だから、」


 私は、桃ちゃんの意思も加味して、


「この恋愛勝負、どっちが翔ちゃんと付き合うことになったとしても恨みっこなしよ」

「……うん! 負けないからね、ミドちゃん!」


 私たちはこの時を持って、ライバルとなった。今まではお互いに誤解のあった関係だったけど、今では共通の認識を持っている。


 それでも、いつものように明かりで照らされた住宅街を、いつもと変わらず、同じマンションまで帰っていった。隣同士で笑いあいながら……。


 第24話を読んでいただき、ありがとうございます。トコナツランド編、完結です。今回で、翠の恋心が自覚的なものとなりました。ラブコメとして、展開を加速していこうと考えていますので、引き続き楽しんでいただけたらと思います。


 最近、思うのです。投稿していてもしていなくても、毎日たくさんの方がアクセスしてくれる。PV数が多いに越したことはないんですけど、話を追いかけて読んでくれている読者がいる。それって、何だかとても嬉しいことだなぁって思います。この話を書き終えた時点で、30万文字以上あるわけですよ。「30万文字なんて、敷居高いな~」と考える人が多いと思うんですけど、それでも、ページをめくってくれて、私は嬉しいです。これからも書き続けていこうと思いました!


 何だか今回のあとがきは話とは関係ないことを書いてしまいましたね。けど、あとがき書いていてふと思ったんで書いちゃいました(笑)。


 では、今回はこの辺で。第25話の前に、一回おまけ話を挟もうと思います。大樹と翔平の過去話です。お楽しみに!

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