第23話「陽ノ下朱里は絶叫したくない」②
「大樹、帰ってきませんね~」
「そうだね。もう少しでお化け屋敷の順番待ちが来ちゃうよ」
「何かあったのかな?」
お化け屋敷の待機列に並び始めてから四十分。町田先輩はいつまで経っても戻ってこなかった。
「発券するところはトコナツランド全体の入口だから、行って帰ってくるのに二十分くらいかかるとしてもちょっと遅いですね。トイレに行ってたとしてもここまで遅いとなるとちょっと心配ですね」
「ここまで連絡が一つもないものね。もしかして、スマホをかばんに置き忘れてるのかな? かばんはプールのロッカーに入れっぱなしだもんね」
「確かにそれなら納得ですけど、実際どうなんでしょうか? 事故に巻き込まれていたら園の放送で分かるはずだし」
「本当に、心配ね」
町田先輩、どうしたのかしら? 町田先輩ともあろう方が園内で迷子はありえないだろうし……。
「けど、実際どうするのよ? このままだと、町田先輩が来る前に順番来ちゃうわよ?」
「そうは言っても……。て、もう順番来ちゃったよ」
前の二人組カップルが建物内に入っていく。インターバルは大体一、二分だったから、もう本当にすぐ呼ばれる。
「大樹くんは心配だけど、せっかくここまで並んだんだし、お化け屋敷から出たら、みんなで探しに行こうか」
「そうだね。せっかく並んだんだし、町田くんならしっかりしてるから大丈夫そうだよね」
翠さんと桜井さんはそう提案した。けど、それって要するに町田先輩抜きでお化け屋敷に入るってことよね?
はぁ。せっかくお近づきになるチャンスかもしれなかったのに。
……ん? ってことはちょっと待って。町田先輩がいないということは、あたし、誰に守ってもらえばいいわけ!? あれ? ていうか舞い上がっていて忘れそうになっていたけど、ここって怖いことで有名なお化け屋敷なのよね?
「では次の四名様、どうぞ~」
係員から許可が出て、扉が開かれる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
中を見ると、心もとない明かりが数点あるのみ。暗闇の中に灯るライトの明かりは不気味さを演出しており……、
「(超怖いんですけどーーー!?)」
それでも後ろをつかえさせるわけにはいかない。あたしたちは暗闇の中に入っていった。
*
「あの、みなさん……?」
「何よ? 早く歩きなさいよ」
「やっぱり不気味……。ここって、夜中の病院?」
「翔ちゃん、いざとなったらお姉ちゃんが助けてあげるからね!」
「ミド姉、言ってることとやってることが対極なんですけど……」
あたしたち女性三人は、翔平を支えにして暗闇の中を歩く。本当なら町田先輩に頼りたかったけど、この際しょうがない。
「てか、ミド姉はお化け屋敷平気じゃないんですか?」
「そう思ってたけど、実際入ってみると怖くて……」
「本当でしょうね?」
苦笑いでそう答える翠さんに対して、ジト目で応じる翔平。まぁけど、いかにお化け屋敷が大丈夫と言っても、これは流石に怖いわよね。
「それに、合法的に翔ちゃんに抱きつけるチャンスでもあるしね!」
「そっちが本音じゃないんですか!? 僕も怖いんですよ!?」
「まぁまぁ、どうしても怖くなったらお姉ちゃんが前に出てあげるから!」
そう言って更に翔平の腕にしがみつく翠さん。全く。こんなハーレム状態、普段なら指摘するところなんだけど、今日は勘弁してあげるわ!
「女の子三人にくっつかれているからって、闇に乗じていやらしいことするんじゃないわよ!?」
「しないから……。っていうか痛いよ! 強く服を引っ張りすぎ!」
「おばけが翔ちゃんの心臓を抜き取りそうになっても代わりに私の心臓で……」
「怖いよ! ていうか身代わりになること考えないでくださいよ!」
「けどこの病院、まるでサイ○ント○ルのあの病院みたいじゃない? 絶対狂気じみた敵が出てくるよ~」
「敵!? お化けじゃなくて!? てかモモってそっち系のゲームもやるの!? 意外なんだけど!」
「黒幕はアン○レラかしら……」
「ミド姉、それは違うゲームですよ!」
翔平のツッコミでどうにか沈黙を避けられてはいるが、正直怖すぎる! 何でこんなにリアルに作りこんでるの!? こんなので喜ぶ女がどこにいるっていうのよ!
薄暗い明かりの中、病棟の廊下をゆっくり歩いていく。病室の扉は開いていたり閉まっていたり。見ないようにしたいけど、目をつぶっているのも逆に怖いので開けざるを得ない。ベッドの上にはおびただしいほどの血の跡がついていたり、何だか手術道具みたいなのが散乱してるし、もう嫌!
「ねぇ、お兄ちゃん達……」
唐突に一室から声がした。あたしたち全員、ビクゥっとしつつも中を見てみると、小さな男の子がベッドの上で横になっている。
「お兄ちゃん達、もう退院なんだ……。いいな~」
「僕も早く退院したいけど、お医者さんがダメって言うんだ……」
「早くこの脚を治して、自由に歩きたいな……」
そこまで言うと男の子は足から下にかけてあった布団をめくる。そこには、
「治療の途中だけど、いつ治るのかな?」
足から下が骨だけとなっている姿が……、
「「「キャアァァァァァァァァァ!!!!!」」」
あたしたちは三人同時に悲鳴を上げる! さらに、そうしていると急に反対側の病室の明かりがついた!
「シュシュシュシュシュジュツノじかんダーーー! ハハハハハージめるよーーー!」
メスやらはさみやら、危ない物を両手の指に挟めるだけ挟んだ医者がこちらに迫ってくる! その顔は皮が剥がれていて、ところどころ骨がむき出しになっていた。
「「「「ギャアアアアアアアアア!!」」」」
翔平を筆頭に、あたしたちは引かれるように走る! 迫ってきた医者は男の子の病室に入り、姿を消した。扉が閉まり、またまた薄暗い空間へと廊下は戻っていった。
「はぁ……はぁ……」
「何よココ! 怖いなんてもんじゃないわよ!」
「もう早く出たいよぉ……」
「翔ちゃんムニムニさせてーーー!!」
「何でこのタイミングで!?」
いつも通りの態度で翔平に頬ずりする翠さん。どうしてこんなところでこんなことできるの!?
「怖いんだよーー! 思った以上に怖いから充電して姉ゲージを回復してるんだよーー!」
「前から思ってましたけど、姉ゲージってなんなんですか!? 怖さと関係あるの!?」
全然何言ってるか分からないけど、精神安定剤みたいなものなのかしら? ブラコンが過ぎる姉は分からないわね……。




