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第23話「陽ノ下朱里は絶叫したくない」①

 陽ノ下朱里(ひのもとしゅり)


 カタカタカタカタ


 車輪の回る音が不気味に響く。ゆっくり、ゆっくりと機体は坂を上る。下を見ると、自分たちのいる場所がいかに高所であるのかが分かる。パークを歩く人たちは、まるで米粒のように小さく、水平線の遥か遠くにはうっすらと建物が見える。


 カタカタカタ……ッコ


 やがて、車輪の音が変わる。どうやら最上部に登頂したようだ。自然状態だと上を向いていた自分の目線も、次第に水平になっていく。

 あぁ、ついに……。けど、大丈夫よね? 午前中に、スリル満点のウォータースライダーで遊んだ時は、全然平気だったものね。これも、それと似たような感じでしょ?


 そして、目線はいよいよ下向きに変わり、それと同時に超スピードで機体が動き出した!


 ゴオォォォォォォ

『キャアアアアアアアアアア!!』


 機体が風を切る音とゴンドラに乗っている乗客の悲鳴しか、あたしには聞こえない。その悲鳴の中には、あたしの声も含まれている。

 てか、速すぎ! 速すぎぃーーー! 無理無理ムリむりーーーー! とんでもない(じゅうりょく)かかってるから! 体バラバラになっちゃうからぁーーー!

 ってウソ!? また上るの!? いいから! もう登らなくていいから! 登ったら下らなきゃいけないから!


「っっっああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」


 そうして数十秒間、あたしは声を張り上げ続けることになるのだった。


 *


「楽しかったね! グラビティマウンテン♪」

「名前に恥じない、すさまじい速度っすね」

「確かに楽しかったけど、ジェットコースターとか久しぶりすぎてちょっとびびっちゃいましたよ」

「わたしも……。二回連続で乗るのはしんどそうかも……」


 迫力満点の絶叫マシンに大満足の四人。特に(みどり)さんと町田(まちだ)先輩は笑顔でケロッとしている。翔平(しょうへい)桜井(さくらい)さんは、楽しそうではあるが、多少なりとも疲れが見えるというのに……。

 そしてあたし、陽ノ下朱里はと言うと、


「朱里ちゃん、大丈夫? 顔色悪いけど?」


 絶叫マシンの名のごとく、盛大に絶叫させられてグロッキー状態だった。


「何だ、陽ノ下。絶叫マシン苦手だったのか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど……。ちょっとこのジェットコースターはレベルが高すぎです……」


 頭がグワングワンする。何がウォータースライダーと同じようなもんなのよ! 全然違うじゃない! あれもかなり速かったけど、こっちは比にならないから!


「まぁ、気持ちは分かるけどね……。けど朱里って、緋陽里(ひより)さんと遊園地によく来るんだったらこういうのも乗り慣れてるんじゃないの?」

「お姉さまと行く遊園地のジェットコースターは絶叫マシンとは言えないわ。ただスピードが速いだけの車と同じよ。高低差も大したものじゃないし、名前は大層な絶叫マシンという感じだけどね。何がビッグサン……」

「おいおいそこまでにしとけ、陽ノ下! 向こうはそういうのよりほら、もっと別のところに力入れてるわけだから……」


 町田先輩は慌てた様子であたしのアトラクション比較を遮る。あぁ、あたしにはこのレベルの絶叫マシンは合わないわね。向こうの遊園地レベルでいいのよ。


「ごめんね、朱里ちゃん。私がこのジェットコースターに乗りたいって言ったばっかりに」


 翠さんは申し訳なさそうに頭を垂れる。うっ、何だか罪悪感が……。せっかくの遊園地だし、翠さんが乗りたがるのは当然のことで……。


「違うんですよ翠さん! ほら、午前中にあれだけプールで遊んでいたからちょっと疲れが出てたんですよ! 初っ端からパーク最高規模のジェットコースターですからね! ですから、もうちょっとレベルの低いモノに乗りましょう? あたし、別に絶叫系は嫌いではありませんから!」

「そっか。それじゃあ、あれなんてどう?」


 翠さんが指差す方向には、ゴンドラに乗って物語を楽しんでいくタイプのアドベンチャー型アトラクションがあった。確かにあれなら、全然揺れはなさそうだし、平気かも。それに、登場するキャラとか可愛いかも。


 あたしはそれに同意して、グラグラの頭を持ち上げてアトラクションに向かった。


 *


「次、何乗ります?」

「朱里さん、もう平気なの?」

「えぇ、もう余裕よ」


 ゴンドラアトラクションを挟んだことで、体力が回復した。

 森の動物たちと主人公の触れ合いをテーマとした物語は癒された。動物たちによる演奏も最高だったし。トコナツランドなのに、魔法の国の要素があるなんて思わなかったわ! 満足満足。


「良かった。回復して! このアトラクションに乗ったのは正解だったね!」

「けど、やっぱ人気アトラクションなだけあって、かなり時間かかりましたね。六十分も並ぶとは思いませんでしたよ」

「そうだね。う~ん。まだ乗りたいアトラクションはいっぱいあるのに、今のペースだと乗れてあと二つってところだね。花火もあるし……」


 確かに。今はもう夕方手前の時間帯だし、こう何度もアトラクションに乗っていたらあっという間に締めの時間になってしまうわね。

 と、そんな悩みを吹き飛ばすように町田先輩が提案する。


「それじゃあ、優先券の発券でもしましょうか!」

「優先券? 何それ?」


 翔平と桜井さんの頭にハテナが浮かぶが、あたしは何となく言わんとしていることが分かっていた。


「もしかしてそれってファースト・パスチケットみたいなやつ?」

「正解っす、ミドリさん。優先券っつーのは、あらかじめチケットを発券しておいて、指定の時間帯に行けば通常の列よりも格段に早くアトラクションに乗せてもらえるっつー魔法みたいな券のことだ。デイニーランドとかにあるのに知らないのか?」

「「全然」」

「マジカ……」


 この二人はそういうテーマパークに行くことがないからなのか、全然知らないみたい……。


「ミド姉、よく知っていましたね」

「前に一度、緋陽里から話を聞いたことがあってね」

「まぁ、全然行かないなら知らなくてもしょうがないかもな」

「ですけど先輩。ファーストパスならともかく、そういうチケットは有料なんじゃないですか?」


 実際、UPJとか富士スーパーランドとかでも優先券はあるけど、結構な額がしたはず。せっかく来たというので買うのは、あたしは別に構わないけど他の大学生がどうかしら?


「それがよ、この遊園地は最近五十周年を迎えたばかりでな? 期間限定で、一日一人一回に限り、優先券を無料で購入できるサービスをやってるんだわ」

「無料ですか!? 普通だったら千円以上するとこが多いのに!」


 一回だけという縛りはあるけど、それでも破格のサービスね! やるじゃない! トコナツランド!


「それじゃあ、どのアトラクションの優先券を発券するか決めないとですね」

「私、あとバイキングに行ってみたいな~」

「オレは、有名なお化け屋敷に行ってみてぇな!」


 ん? お化け屋敷?


「そういえば、ここのお化け屋敷はかなり有名だよね。超怖いってCMで言ってるの見た」

「だな! 前からちょっと興味あったんだよ!」


 あれ? なんかお化け屋敷に行く流れ?

 あたし、ジェットコースターとかの絶叫系はまだ耐えられるけど、お化け屋敷とかマジで無理なんですけど。ましてや、超怖いと定評のあるお化け屋敷とか!


「私も興味あったから入ってみたい!」

「えぇ~ミドちゃん平気なの!? 超怖いって言われると怖いかも」


 よし! ナイスよ桜井さん! そのまま怖いアピールを続けなさい!


「そんなお化け屋敷に暗くなってから入るのはな~……」

「それなら、バイキングの優先券を取って、お化け屋敷は今から並ぶってのはどうだ? それなら、明るいうちにお化け屋敷に入れるだろ」


 桜井さんの不安をかき消すように、町田先輩は新たな提案を出す。町田先輩、そんなアイデア出さないでください! スマートですけど今は機転を利かせないで欲しかったです!


「それに、いざとなったら翔平が守ってくれるって! な、翔平?」

「俺かよ!? 大樹(だいき)じゃないの!?」


 町田先輩はニヤつきながらそう翔平に話を振る。


「おいおい、さっきまでの頼りになる翔平くんはどこ行ったんだよ? なぁ、ミドリさん?」

「翔ちゃんが守ってくれる!? 私も怖いけどそれなら大丈夫かも?」

「ミド姉、さっきまで怖がってなかったんじゃ……」

「翔平くんが……守って……。うん。それなら行こうかな……」

「俺だって怖いんだよ!?」


 えぇーーー! お化け屋敷行くんですか!? 翔平に守ってもらうとか心底どうでもいいんですけど!?


「あれ? どうしたの朱里ちゃん? もしかして、お化け屋敷苦手だった?」


 あたしが会話に参加せずにいるのを見て、翠さんはそう尋ねる。


「え? いや、あの。別に苦手ってことはないですよ? ただ、すごく怖いお化け屋敷ってことだからかしら! ちょっとだけ怖いな~と思っているあたしもいるんですよね! 女性には怖いだろうし、別のアトラクションにした方がいいんじゃないかしら? 別にあたしはお化けが怖いわけではないんですけど!」


 何となく、お化け屋敷が怖いとか、大学生にもなってカッコ悪いと思ってしまったあたしは、気持ちを隠し、そう答えた。逆に不自然なくらい怖くないと主張しすぎてしまっている。


「はは~ん。お子様にお化け屋敷は刺激が強すぎるか」

「誰がお子様ですって? この童顔中学生」


 ここぞとばかりにいつものからかいをしてくる翔平。あんたも同じようなもんでしょうが! 腹立つ男ね!


「心配しなくても、いざとなったら大樹が守ってくれるって! な、大樹?」

「え? お、おぉ。任せな、陽ノ下。ばっちり守ってやるからよ!」


 キュゥゥゥゥン!


 カッコイィィィ!! どうしてあなたはそこまで素敵なの? 隣に立つ翔平の顔が『へのへのもへじ』に見えてくるわ!


 そうしてあたしの意見は百八十度変化し、

「はい……!」

 と答えてしまった。こんな顔で守ってやるよと言われたら、断れるわけがないじゃない!


 これをきっかけに町田先輩にくっついてみたりして。かなり接近できちゃうんじゃないの!? 考えようによれば、お化け屋敷もかなりアリな気がしてきたわ!


 それにしても翔平の奴、先ほどの町田先輩の話の流れから実にスムーズにそう繋げたわね! 何も違和感のないうまいアシストだったわ!

 チラッと翔平の方を見ると、目が合う。あたしはいつもの敵対関係を忘れて柄にもなくサムズアップで敬意を評した。すると翔平も図っていたのか、サムズアップでそれに応じる。

 昨日の敵は今日の友とはこのことね! 喧嘩ばかりしているけど、あたしたちはそれなりに息が合っているじゃない! 不本意だけどね!


「それじゃあ、みんなで優先券を発券して、お化け屋敷の列に並ぼうか!」


 翠さんがそう提案すると、町田先輩が別の提案をする。


「それなんすけど、みんなは先に並んでていいっすよ? 入園チケットさえくれれば、オレが発券してくるんで。その方が効率的でしょ?」

「確かにそうかもね。それじゃあ大樹くん、お願いしていい?」


 そうして町田先輩は発券所へ、あたしたち四人はお化け屋敷へと歩き出した。流石、町田先輩ね。スマートに発券役を名乗り出るなんて。そんな町田先輩に、お化け屋敷で守ってもらうのね……。ちょっと楽しみになってきたかも!


 あたしは、お化け屋敷の怖さを忘れて待機列に向かったのだった。


 *


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