第22話「岡村翔平は息をしたい」③
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! ごごごごめん!」
急いで手を放す俺。モモも後ろを向いてしまった。
俺は、水面上にいるというのに息ができない感覚だった。周りの視線が痛い。実際には注目して見ていたのは三、四組程度だったが、周りから軽蔑の目を向けられているかのような、そんな居心地の悪い感覚だった。
「ごめんモモ! 本当にごめん!」
「ううん……。大丈夫。わざとじゃないだろうし。ちょっと恥ずかしかっただけだから」
「確かにわざとじゃないけど、それでもごめん! あとでご飯でも何でもおごるから! 何なら、何でもお詫びするから!」
「本当に大丈夫! それより、早く水面から出ようよ!」
水面上で必死に謝罪をする俺に対して、モモは寛大なことに許してくれた。それに、モモの言う通りここにずっといても周りの注目を集めるだけ。モモのためにも、すぐにプールサイドに上がるとしよう。
モモはまだちょっと恥ずかしそうにしている。参ったな。気まずい。わざとでないとは言え、胸を触ってしまったんだもんね。そりゃあこうなるよな。
「あの、モモ……」
俺がもう一度謝罪の言葉を口にしようとすると、モモはそれを制止した。
「もう、翔平くんったら。そう何度も謝られたらこっちが困っちゃうよ。ずっとそう言われ続けてもこっちも気まずいから、もう謝るのはなしね!」
「え? う、うん。けど……」
モモはそう言ってくれるが、それでは俺の気がすまなかった。それを察したのか、モモはこう提案した。
「それじゃあ、今度またお詫びしてよ。そう大したことじゃないからさ。ね?」
「分かった! じゃあとりあえずこの話題は終わりで!」
「うん。それに、わたしも恥ずかしかったけど正直……、はっ危ない!」
「え? 危ないって何が?」
「何でもない何でもない! ちょっと地獄耳がいるかもしれないから警戒しただけだよ!」
「??」
モモが言っている意味はよく分からなかったが、これ以上この話題はなしって言ったばかりなので、追及しない方がいいだろう。
やがて、ミド姉、朱里、大樹の三人組も滑り降りてきた。
あっぶね~。この三人、特に朱里に見られたら、確実に殴られてた。下手したら半殺しレベルまで攻撃されるところだ! 俺たちの方が早く下に降りてきて、本当に良かった!
*
「次どこ行くよ? 流れるプールと温水プール。流れるプールで浮き輪にのって流されるの気持ちいいぜ!」
「それなら、あたしも流れるプールに行ってみたいです!」
「お、ノリ気だな! それじゃあ浮き輪をレンタルしないとな。ミドリさんが帰ってきたらレンタルハウスに行くか!」
何だかんだでウォータースライダーに七回乗って、その後俺たちは流れるプールに行くことになった。ミド姉は現在、トイレに行っている。
っと、あれだけ水の中にいたからなのか、俺もトイレに行きたくなってきた。
「ごめん! 俺もちょっとトイレ行ってくる」
確かトイレは温水プールの横にあったな。俺は温水プールのエリアに向けて歩いていく。
すると、途中でミド姉の姿を見つけた。しかし、その状況は普通じゃなかった。
「お姉さん、俺たちと一緒に遊ばない? 男だけでつまらないんだよ」
「君、すっごい美人だね~? どう? オレっち浮き輪持ってるんだけど、一緒にプールで流されない?」
「その水着すごい似合ってるね! かんわいぃーー!」
「一人よりもみんなの方が楽しいよ~?」
ミド姉は、四人組の男にナンパをされていた。強引に触られていたりするわけではないため、他のお客さんも遠巻きに見たり視線を逸らして見ないふりをしていた。
「い、いえ。結構です。連れがいますので」
ミド姉もそれに対して営業スマイルで断っている。しかし、男たちは簡単に引く様子を見せない。
「いいじゃん。ちょっとくらいさ。あ、そうだ! どうせならその連れの女の子も誘って、ご飯一緒に食べようよ? ごちそうしちゃうよ?」
「いえ、本当に結構ですので!」
「遠慮しないで! ね?」
「ですから……」
とそこで俺はミド姉の右手を掴んで、男たちの間に入り込む。
「すみません。彼女は僕の連れなので、ご遠慮下さい」
「翔ちゃん……」
驚いたような表情で俺を見るミド姉。俺がここにいるとは思わなかったのだろう。
「ちっ。連れは男かよ」
すると男たちは、それ以上強引に絡むわけでもなく、背を向けて去っていった。去ってくれて良かった~。内心ではちょっとビクビクしてたけど、事なきを得て良かった。
「翔ちゃん、ありがとう! お手洗いの帰りに変な人たちに絡まれちゃって」
「いえ、無事で良かったです。ちょうど僕もトイレに行く途中でした。偶然とは言え、来て良かったです」
「そうなんだ。時間とらせてごめんね? それじゃあ私は先に戻っているから……」
「何言ってるんですか? 僕も一緒に戻りますよ?」
「え?」
「あんなことがあったんですから、とりあえず今はみんなと合流するまで付いていきますよ。その方が安心ですし。いいですね?」
「う、うん」
俺は、ミド姉の右手を引きながら来た道を戻る。別にトイレくらい、もう少し我慢できる。
にしても、ミド姉はやっぱ目を惹くよな。ナンパくらい遭って当然の容姿だもんね。
と、来た道を帰っていると、元いた場所よりもこちら側に歩いて来た三人と遭遇した。
「あれ? 何でみんなこっちに来てるの?」
「いや、どうせなら一旦みんなでトイレ行こうってことになってよ。行く機会もそうなかったから、ここらで休憩がてらってことになったんだが……」
「翠さん、大丈夫でしたか?」
「あ……、もしかして見られてた?」
「すんません。一応近くまで来て気づいたんすけど、翔平が何とかしてくれそうだったんで」
「うん! 翔ちゃんが助けてくれたよ! 本当に頼りになるいい弟だね!」
「やるじゃんか翔平! もやしのくせに」
「貧相なもやしのくせに、ちょっとは見直したわ!」
「もやしは余計だっての……」
「うん。翔平くん。ホントかっこよかったよ!」
「ホント! カッコよかったよ! 翔ちゃん!」
「ほら、こんな風に素直に褒められないのかね。大樹と朱里は……」
一部の人は気になるが、一応褒められている? とりあえず、無事に助けることが出来て良かった。今回のは、前回ほど大げさなものじゃあないけど、それでも何とか、弟として役目を全うできている気がするぞ!
そう自信をつける俺だった。
*
桜井桃果
翔平くんは、やっぱり勇敢で格好いいな……。わたしを助けてくれたときみたいだよ。わたしは、翔平くんのこういうところを好きになったんだな。改めて、再確認したよ。
そして、もう一つ。再確認しなきゃいけないことができたよ。ねぇ、ミドちゃん?
ミドちゃんってやっぱり翔平くんのことは、弟としてしか見ていないのかな? 「本当に頼りになるいい弟だね」って言うのは、本当にそのままの意味なのかな?
ううん。きっと違うよね? だったら、手を引かれている時にあんな顔しないものね。手をつながれて、恥ずかしくも嬉しそうな顔、しないものね。わたしには分かるんだ。同じように恋している女の子だもの。
わたしは自分の中での推測が確信に変わるような気がした。
ミドちゃんはやっぱり、翔平くんのことを……男の子として好きだという確信に……。
第22話を読んでいただき、ありがとうございました。今回より、トコナツランド編です! 前編は、プール回でした。何気にヒロイン達の水着を考えるのが難しかったです……。水着だったり胸触ったり、お約束のような回でしたね(笑)
自分で考えたヒロイン達の水着姿とか、見てみたいのですが、あいにく私は絵が描けないので見れないです。悔しい! けど、こうやって物語を妄想し、自分の頭の中だけにイメージがあるのも中々楽しかったりします。小説の醍醐味ですね。他の作者さんたちもそうですよね?
さて、最後に何か思うことのある桃果のようです。翠の様子を見た桃果は、今後どうするのでしょうか。
それでは、また第23話で!




