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第22話「岡村翔平は息をしたい」①

 岡村翔平(おかむらしょうへい)


「着いたー! トコナツランド!」


 両手をバンザイして門の前でテンションの高さをアピールするミド姉。残暑の暑さなどお構いなしに、照りつける太陽の下で嬉しそうな表情を見せる。見ているこっちもはしゃぎたくなる。


「ミド姉、テンション高いですね!」

「そりゃそうだよ! 遊園地なんて、何年ぶりだろう?」

「確かにそうですよね! こういう遊園地って、滅多に来ない分プレミアムな感じがしますよね! 僕も久しく来てないですよ!」

「でしょでしょ? それに久しぶりに翔ちゃんと一緒に遊べるんだもんね♪」

「ちょっ、門の前ですよ! ミド姉!」


 久しぶり過ぎるレジャーに舞い上がっているのか、ミド姉は俺の腕に抱きつく。ま、大目に見るかな。お互い忙しくて、遊ぶのだって久しぶりだし。


「ちょっと、あたしたちがいるの忘れないでよね?」


 ミド姉に抱きつかれた俺を気に入らないのか、朱里(しゅり)が機嫌良いとは言えない表情でこちらを見る。前に比べると丸くなったが、やはりミド姉のスキンシップを快く受け入れるわけではないようだ。


「相変わらず仲の良い姉弟だ」

「ミドちゃん! ここは人の多い場所なんだからそんなにくっついちゃダメだよ!」


 続いてバスから降りてきた大樹(だいき)は太陽の眩しさに顔を覆いながらそう言い、続くモモはミド姉のスキンシップに指摘した。俺たちの指摘でミド姉も「ごめんごめん。ついテンション高くなっちゃって」と言って腕を放す。実際、浮かれたくなる気持ちは分かるけどね。


 何で俺たちがここにいるかというと、実家に帰ったミド姉が親から、このプール付き遊園地のチケットをもらってきたからだ。

 ミド姉は就活が終わってすぐ、再び実家に帰省した。就活終了の報告と漫画描きに必要なパソコンを送ってもらうお願いをしに行ったのだ。同時に、今回は何にも縛られることなく、ゆっくりと実家で休んできたらしい。下宿先に帰ってきたミド姉の話しぶりから、今回の帰省はとても楽しいものだったということが分かった。


 そして、そんなミド姉がパソコンと一緒に持って帰ってきたのが、この遊園地のペアチケット二組だ。どうせなら四人以上で行こうとなり、ミド姉と俺の両者に関係の深い四名を誘った結果、このメンバーで来ることになったというわけだ。一枚はミド姉以外の四人でお金を出し合って購入した。

 ちなみに緋陽里(ひより)さんは大学のゼミがあるとのことで欠席だ。都合が合う日を探しても良かったのだが、ペアチケットの期限が今週いっぱいだったため、今回は諦めて五人となった。


「私、特にプールなんて来るの久しぶりなんだ! 多分中学生以来かも!」

「そうなんですか? でも確かにプールって高校生になったらわざわざ行かないですもんね。僕も学校の授業以来かもしれません」

「わたしもプールで泳ぐのは高校生以来かも。大学生だったら友達と遊びにプール行く人多そうだけど、みんな久しぶりなんだね」

「そういう意味だと、大樹は大学で来たことあるだろうからあまり久しぶりじゃないのかな?」

「そうだな。オレは去年もサークルの連中でまさにこの遊園地のプールに来たな」

「「「流石リア充大学生……」」」

「三人もよく声重なるな……」


 俺、ミド姉、モモのサークルに入っていない三人の声が重なる。サークルの人達とプールとか、聞くだけでもうリア充だ! 僻んでるわけではないけど、華やかさがあり羨ましい!


陽ノ下(ひのもと)も部活の奴らと来たりするのか?」

「いえ、部活の子とは来ないですね。お姉さまと遊園地に来ることならありますけど、プールはあまりないですね」

「そういえばお前の姉さん、可愛いもの好きらしいもんな。会ったことねぇけど」

「そ、そうなんです! では今度また喫茶店にいらしてください! お姉さまはよくシフトに入っていますので会えると思います!」

「そだな~。あの喫茶店も最近行ってないし、今度寄ってみるかな」

「是非!」


 朱里は大樹と上手いこと話せているようだ。この前の買い物で気軽に連絡を取り合える仲になることはできなかったけど、こうしてまた遊びに来られているんだからラッキーだったな。見ると、まだ緊張しながらの会話のようだけど。

 大樹も見事なもので、相変わらずのトーク力だ。何ていうか、まだそこまで親しくもない相手とあんなにナチュラルに会話できるのはすごい技能だと思う。


 入場料を払い、入園。その後、プールエリアの入口でチケットを見せ、プールエリアに入る。更衣室までの道からは、すでにプールエリアの広大さが伺える。みんなでその規模の大きさにはしゃぎながら、わいわい言って歩いた。


 更衣室で着替えを済ませ、俺と大樹は一足先にプールサイドに立つ。もう九月だと言うのに、まだまだ人の数は衰えない。


「流石、日本最大級の複合型レジャー施設。九月になってもプールに人がいっぱいいるな~……」

「今年の夏は特に暑いからな。にしても翔平、お前……」


 大樹は俺の体を見ると、馬鹿にするような笑い顔を見せる。


「貧相な体してんな」

「うっ……。確かに全然運動とかしてないしね」

「別にガリガリってわけじゃないんだがこう、筋肉の質が足りないっていうかな。肩幅とか胸筋とか腹筋とか、全体的に下の上くらいって感じだな。ちょっと鍛えたらどうだ? 一応オレは毎朝走ったり、筋トレしてるぞ?」

「やっぱ鍛えたほうがいいかな~……。なんかそういうの苦手なんだよね……。ラノベ読むのだったら毎日でもできるんだけど……」

「……ラノベ読んでも筋肉はつかねぇぞ? せっかく美女たちに囲まれてるんだから、やっといた方がいいって」

「確かに……。今日みたいな時に恥をかきたくないしね……」


 今日とか、一緒に来た男が、適度にいい体つきしている大樹だと、どうしても見劣りするもんね……。明日から腕立てと腹筋くらいしようかな……十回くらい。


「お待たせ~、二人とも♪」


 そうやって大樹と話していると、更衣室の出口の方から快活な声が聞こえてくる。振り返ると、そこには天使がいた。


「ごめんね! どの水着にしようか悩んでいたら遅くなっちゃった!」


 清楚な白のビキニに身を包んだミド姉。モデルのような体型が見せるスラッとした体つきにより、露出度の比較的高いビキニを完璧に着こなしていた。本人の弾ける笑顔との相乗効果も凄まじい。その魅力的姿は、まるで下界に降りた天使のようだ。


「ミドちゃん、早いよ~」


 俺たちがミド姉の水着姿に見とれていると、続いてモモが現れた。

 モモはモモで、ミド姉とはまた違った魅力を醸し出していた。ミド姉と同じタイプのビキニにフリルがつけられている。水着の桃色と相まって、女の子らしさに溢れており、こちらも目を奪われずにはいられない。


(もも)ちゃん! ピンクの水着すっごい可愛いね!」

「そ、そんな。ミドちゃんの方が似合ってるよ」


 お互いにお互いの水着姿を褒め合う二人。モモは少し照れくさそうだ。


「二人ともめっちゃ似合ってますね! 超レベル高いっすよ」

「そうかな? ありがとう大樹くん!」

「あ、ありがとう」


 大樹はこれまた当然のようにサラッと二人の水着姿を褒める。何て出来たやつだ! 俺なんてなぜだか緊張しちゃって全然しゃべれてないのに!


「翔ちゃん、どうかな? 似合ってる?」

「はい! 似合いすぎて目を奪われてしまいましたよ」

「ホントに!? やったー! この水着にして良かったよ!」


 結局俺が何かを言う前にミド姉から聞かせるはめになってしまった。俺のリア充スキルもまだまだだな……。


「あ、あの……。翔平くん。わたしはどうかな?」


 モジモジした仕草で水着の感想を求めるモモ。また出遅れてしまったが、反省は後回し。俺は気を取り直してモモにも感想を送る。


「もちろん、モモもすごい似合ってるよ! 女の子らしさが出てて素敵だと思う!」

「ファウ……」


 赤面してうつむくモモ。モモも俺と同じくらい照れ屋だもんな。こんなに率直に感想言ったら照れるのも当然か。でもしょうがない。似合ってるんだもん。


 ていうか、薄々気づいてはいたけど、モモってやっぱ胸大きいな……。以前大樹が胸を気にしてしまったと言っていたけど、確かにこれは気になる。水着になられると余計に……。


「何スケベな想像してるのよ」

「うわぁ!」


 横から現れたのは、赤茶色の水着を着用した朱里だった。金髪の明るさと落ち着いた赤茶色が見事にマッチしていて実に大人っぽい。身長は変わらないが、普段子供っぽいと馬鹿にしている姿はそこにはなかった。悔しいが似合っている。


桜井(さくらい)さん、気をつけなさい。この男、視線がスケベ丸出しだから」

「ばっ! 違うってば! 変なこと言うなよ!」

「ふん。どうだか」

「ファ、ファウ……」


 モモはそう言われると、更に照れが生じたのか持っていたパーカーで胸元を隠す。

 この女、余計なことを……。変に意識されちまっただろうが!


「朱里ちゃんも可愛いね! 大人っぽくて素敵よ!」

「だな! 抜群に似合ってるぜ、陽ノ下!」

「は、はい。ありがとうございます!」


 俺に向けた態度とは全く異なり、照れを見せながらお礼を言う朱里。全く変わり身早い奴め。


「それじゃあ、行きましょ!」


 ミド姉が先陣を切って波の出るプールに向かっていく。モモと朱里もそれについて水に入っていった。ミド姉だけでなく、モモと朱里もすごく楽しそうにはしゃぐ。

 他のお客さんはと言えば、そんな三人の美女たちに釘付けだった。男だけでなく、女の人も振り向くほどだ。みんな可愛いもんね。こうしてプールの他の女性を見てみても、三人より可愛い人なんてそうそういないだろう。

 俺のツレ、全員美男美女だな。俺以外……。


「翔平、どうよ?」

「どうって何が?」


 残された俺に大樹が尋ねる。


「女性三人のことだよ。みんなトップクラスの美人ばかりじゃねぇか。お前的には誰が一番良かった?」

「何だよいきなり! そんなの決めてないし、決まってても言わないから!」

「抜群の容姿にモデル顔負けな体を持つミドリさんか、目を引く金髪に歳下ならではの魅力を持つ陽ノ下か? それともやっぱり、男にはたまらないおっぱいを持つ桜井か? やっぱ見ちまうよな? お前も見てただろ?」

「うっさいわ! ほら、ミド姉が呼んでるから早く行くよ!」

「ちぇ、釣れないやつだ」


 大樹のそんな冷やかしを無視し、ミド姉の呼ぶ水辺に向かって俺は歩き始める。ったく、大樹のやつ、からかいやがって。


 ミド姉はもちろんのことながら、モモも朱里も顔は普通に可愛いもんな。にしても、ミド姉も意外と胸あるんだな。ビキニ姿で見るとそこそこあるっていうか。着痩せするタイプなのかな? 普段はそんなに気にならないんだけど。

 朱里も幼児体型にしてはあるよな。体型補正を考慮すると、ミド姉よりもあるんじゃないか? これでもうちょい身長あればなぁ。

 モモはもう考える必要ないな。うん、大きい。普段気にしてなかったけど、確かに大きい! こりゃ大樹が意識するのも頷ける。


 って! 俺、何かすごく邪なこと考えてない!? いくらこれが男子大学生の正常な思考回路と言っても、これじゃ朱里の言うようにスケベ丸出しじゃないか! これは良くない!


 俺は頭の煩悩をできる限り振り払って、波の出るプールに向かった。


 *


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