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第21話「陽ノ下朱里は接近したい」①

 岡村翔平(おかむらしょうへい)


「ここ最近、町田(まちだ)先輩と会う機会が全然ないんですけど!!」



 九月に入ったばかりの平日。残暑が残り未だに夏仕様の制服に身を包みながら、お客さんのいない店内でそう言ったのは、金色に輝く髪を携えた小さな女だった。


「はぁ? そんなの俺に言われても困るんだけど……」


 本心でそう返す俺。全く意味がわからない。それを俺に言ってどうしようと言うのか。


「何でこの店に来ないのよ! もう一ヶ月も来てないじゃないの!」

「そんなにしょっちゅう来ないでしょ。大樹(だいき)の家からここまで結構距離あるのに……」

「呼びなさいよ! あなた、仮にも町田先輩の友人でしょ? 喫茶店に遊びに来させなさいよ!」

「何でわざわざ呼ぶんだよ……。ミド姉みたいに漫画を書くわけでもないのに。大樹がここに来る理由なんて、俺の冷やかしくらいしかないじゃん」

「だったらそう言って呼びなさい! 『俺を冷やかしに喫茶店に来ない?』ってね!」

「無茶苦茶言ってんな!」


 そんな誘い方、死んでもお断りだ。どんなマゾだ。


「ていうか、それだったら大樹に直接連絡取ればいいんじゃないの? 大樹が店に来たって、俺たちは働いていてそこまでゆっくり話せるわけでもないんだし」

「……」


 最初に大樹が店に来たとき、朱里(しゅり)は大樹に連絡先を聞けなかった。二度目に来たときも、三度目に来た時も……だ。

 そこで俺に泣きついて(はないけど)きた朱里に、俺は大樹の連絡先を教えた。それがもう一ヶ月くらい前の話だし、流石に連絡の一つは取っているんだろうが……。


「お~い、朱里さ~ん」

「何よ」

「まさかと思うけど、まだ一度もメッセージを送っていないわけじゃないよね?」

「まさか。送ったわよ。挨拶だけどね」

「それで? 自分からアピールしていくとか豪語していたんだから、何かしらのアクションは起こしたの?」

「……」


 この様子だと、まだ起こしていないのか。朱里はムスっとした表情で違う方を向く。


「お前、意外とヘタレだな~」

「ちょっと! あなたに言われたくないわ! (みどり)さんちに入り浸っているくせに手を出さない草食系男子が!」

「お前、自分では手を出すななんだと言っときながらそれを言う!?」

「言っておくけど、手を出したら殺すわよ」


 暴挙過ぎぃぃ。高飛車系理不尽論意味不明。


「まぁ、俺のことはともかく、大樹を誘ってどこか遊びにでも行けばいいじゃん。連絡は取れるんだから」

「何て送ればいいか分からないから、困っているんじゃないの」

「そんなの、『どこか遊びに行きませんか?』でいいんじゃない?」

「いきなりたいして親しくもない女にそう言われても、町田先輩が困るでしょ!」

「やっぱヘタレなだけじゃん! アピールも何もないな!」

「勘違いしないでくれる!? あたしはただ、一歩ずつ地道に仲を深めて行きたいだけよ! ただきっかけがないってだけなんだから!」

「そのきっかけ作りを放棄してんじゃん!?」


 朱里のヘタレっぷりを再確認してそうツッこむ俺。朱里は朱里で譲らない姿勢を見せているが、表情から自分のヘタレっぷりを認識していることが伺える。


「だから翔平! あなたがきっかけを作りなさい! 町田先輩に連絡して、あたしと町田先輩の仲介役になりなさい!」

「はぁ!? 何で俺がそんなことしなきゃいけないの!? 連絡先を知ってるんだから朱里が直接誘えば良くない!?」

「分からない童顔ね! メッセージを送るのが恥ずかしいから協力しなさいと言っているのよ!」


 正直な気持ちを吐きながらも態度は上からって……。これは新手のツンデレ使いなのか?

 てか、やっぱ理由はそれじゃん! 屁理屈並べてたけどやっぱ恥ずかしいからじゃん!


「お前、よくそんな上からな態度で協力しろとか言えるね。連絡先を知らないならともかく、知ってるんだから自分で何とかしなよ」

「何でよ! 協力しなさいよ! 翠さんと喧嘩した時に話を聞いてあげたでしょ!」

「まぁ、そりゃそうだけどさ~」


 それ言ったら、俺だって朱里の人物画デッサンに付き合ったことがあるんだが……。とは言わない。言ったらまたややこしくなりそうだし……。


 はぁ。まぁ、別にいいか。この素直じゃない後輩は、前だったら協力しろなんて言わなかっただろうし。ちょっとは俺に気を許しているんだろう。バイトも一応紹介してもらったことだし。


「分かったよ。じゃあ、大樹を遊びに誘えばいいんでしょ? つっても、どこに誘うの?」

「そうね……。あたしとあなたが一緒にどこかに行く理由が思いつかないわね……。絵のモデル……は、町田先輩にお願いしているようで何か気が引けるし。かと言って買い物付き合ってもらうのも誘う理由がないし……」


 朱里は一応理由付けを考えるが、最終的に「あなたに任せるわ。頼んだわよ」と俺に丸投げした。こっちもそう簡単に思いつかないっての……。


 アルバイトを上がるときに店の前で、かろうじて聞き取れるギリギリの声量で「ありがとう。感謝するわ」と言ってきた。やれやれ、素直じゃない後輩を持つと大変だ。


 *


 その夜、俺は大樹を買い物に誘った。理由は、俺がミド姉の実家を訪ねた時のことを利用させてもらった。

 あの時、俺は朱里の姉である緋陽里(ひより)さんから、ミド姉の実家の場所を聞いたからこそ、ミド姉の実家へ着くことができた。また、注文したコーヒーにあまり口をつけず、代金も立て替えてもらったのだ。立て替えてもらったお金は返したが、緋陽里さんに返す恩は多い。


 そのため、今回はそのお返しの品を買いに行くということで、朱里に付き添いを頼んだというわけだ。大樹は、「この日、二駅先にあるショッピングモールに買い物に行くんだけど、付き合ってくれ」みたいな理由で誘った。そんな適当な感じでいいのだ。普段から特に理由なく遊んでるし。むしろ、「緋陽里さんへのお返しだからついでに妹の朱里も誘ったよ」みたいなスタンスだ。完璧。完璧すぎる理由付けだ。


 まぁ、朱里からのお願いだとはいえ、俺も緋陽里さんにお返しする機会が与えられたことには感謝しないとね。とりあえず、これで朱里から文句が出ることもないだろう。


 *


 陽ノ下朱里(ひのもとしゅり)


 翔平から連絡を受けた次の日、あたしは最寄りの二駅先の駅前に来た。


 今日は、王子様こと町田先輩とお買い物の日だ! どんな服装にすればいいか分からなくて、結局夏用のシャツにスカートという無難な組み合わせになってしまったわ。けど、あまり背伸びしすぎても逆におかしくなっちゃうし、これでいいのよ! 可愛く着こなせていると思うし!


 町田先輩とプライベートで会うのはこれで二度目だけど、最初はメガネが壊れていて見えていなかったから、これが初めてと言える。変なところを見せないようにしないと! 


 待ち合わせの二十分前に来て、化粧室で化粧も髪も整えたし、準備は万端。早く来ないかしら、王子様。今日は町田先輩と仲良くなって、連絡も気軽に取り合えるような関係になるんだから!


「相変わらず早いね、朱里は……」


 先に来たのは町田先輩ではなく翔平だった。町田先輩の方が早く来れば、翔平が来るまでの間二人でお話できたのに……。


「あたし、十分前行動を心がけてるから」

「そりゃご立派なことで」

「あなたは女性をエスコートしたことがないから知らないでしょうけど、待ち合わせ場所には女性より男性の方が先にいなきゃいけないのよ? よく覚えておくのね」

「エスコートしたことぐらいあるし、今だって五分以上前だろ。これより前ってなると、電車の関係で二十分前の到着になっちゃうからこれがちょうどいいんだよ」


 相変わらずの屁理屈男だ。こういうのは大人レベルなんだから。ちょっとは顔に回しなさいよ。


「ま、今日は頑張れよ! 別に応援はしないけど、邪魔もしないから好きなだけ大樹と仲良くするといいよ」

「そうね。あなたの力を借りるまでもないわ。今日でお近づきになって女として意識させて見せるわ」

「……」

「……? 何よ? 何か言いたそうな顔してるわね」

「いや別に……。大樹がロリコンかどうか分からないけど、せいぜい頑張れ」

「ちょっと待ちなさい。なぜそこでロリコンという単語が出てくるか分からないわね? バカなの? 死ぬの?」

「おっと失礼。目の前にいる女の子があまりにも小さいものだからてっきり中学生かと思っていたけど、実際には僕の一つ下の大学生だった」

「……あなた、ぶち殺すわよ?」


 くぅ~~。ムカつく! 今日のこの買い物があたしの頼みごとでなかったら、今すぐにでも腹にグーパンを食らわせているところなのに……。

 まぁいいわ。今日ぐらいは大目に見ましょう。町田先輩がいつ駅に到着するか分からないしね。翔平が来たってことは、町田先輩も同じ電車に乗っているでしょうし……。


「おう、すまん! 待たせたか?」


 そう思ってたら町田先輩が来たわ! 白い歯をキラリと光らせながら手を挙げてこちらに来る。ハァ! なんて素敵なの! すらっと長い足に抜群の服のセンス! 首から下げたネックレスは主張しすぎておらず実にシンプル! 着こなし上手で洗練されたコーディネートね!

 絵になるわ~。町田先輩が街を歩いているだけで絵になるわ~。女の人と歩く姿も様になっている。町田先輩レベルになると、自然とこなせるというか何というか……

 ……ん? 女の人と歩いている?


「ってあれ? モモじゃん!」

「んなっ! 桜井(さくらい)さん!」

「こんにちは。翔平くん、朱里さん」


 なななな何で!? 何で桜井さんが町田先輩と一緒に歩いているの!?

 あたしは突然の出来事に顔の表情が崩れるのを抑えられなかった。


「何でモモと大樹が一緒に?」

「いやな。電車の中でバッタし会ったんだよ。そんで行き先を聞いてみると、桜井もこの駅の大型ショッピングモールに行くって言うから、じゃあ一緒にってことで誘ったんだよ。どうせ三人で見て回る予定だったんだし、四人の方が楽しいだろ?」

「うん。お邪魔じゃなかったら、わたしも一緒に回っていいかな? なんだったら、翔平くんの買い物にも付き合うよ」


 桜井さんは、少しだけ頬を赤くして下向きに答える。え!? ちょっと待って!? 何その反応!? もしかしてだけど桜井さんってやっぱり……、


 町田先輩のことが好きだったりするの!? 嘘でしょ!?


「そりゃもちろんいいけど……、モモの買い物はいいの?」

「うん。買いたいものはあるけど、今日絶対ってわけじゃないし、今日はウィンドウショッピングをしに来たようなものだから!」

「そ、そっか!」


 あたしが脳内で色々考えていると、桜井さんと翔平の会話が進んでいく。何だか桜井さんも一緒に回る流れだ。町田先輩のことが好きかもしれない、恋のライバルかもしれない女と一緒に買い物ですって!? 冗談じゃないわよ!


「そ、そうね。もちろんいいわよ! 四人の方が楽しいしね!」


 うわぁーーーー! あたしの八方美人な部分が発動したーー! ピクピク頬を引きつらせながら流れるようにそう答えたあたしには、もはや前言撤回の余地はなかった。


「ありがとうございます。朱里さん」

「うっし、それじゃあ行くか」


 そう言って歩き始める町田先輩と他二人。

 そんな~! 何でこうなるのよーー!


 *


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