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第15話「岡村翔平は恋の事情を聞いてみたい」②

 次の日、俺は大樹(だいき)と食堂で昼ご飯を食べながら、昨日の話題を思い出し、聞くタイミングを伺う。けど、さりげなく聞くって、思った以上に難しい。そういう話題にならないから、全然聞けない。別に誰のためでもないんだけど、意識するとするで気になって仕方がない。


「どうした、翔平(しょうへい)?」

 どうやら、顔に出ていたらしい。それにしても、気遣い力が半端ない男だなこいつは。だから金色の毛並みをしたじゃじゃ馬に一目惚れされるんだな! 


 しかし、別に悩みというほどのことでもないので、否定する。

「ん? 何でもないけど」

「そうか。いや、なんか妙にソワソワしていたもんだから、気になっていることでもあるのかと思っただけだ。またミドリさん関係で何かあるのかと思っただけだから、気にするな!」

「あ、あぁーミド姉ね! いや、最近は本当に良好だよ! 向こうも前のことに懲りたのか、人の多いところでスキンシップするのは控えてるみたいだし。それに、最近は就活が忙しいみたいであんまり会ってないしね」

「今までが異常なまでに会いすぎてたってんだよ! だってお前ら、週に三、四日は一緒にいたもんな。オレらみたいに付き合い長いダチってなら分かるけど、出会ってまだ三ヶ月の先輩女性とそれはすごい頻度だぞ?」

「確かにそうかもしれないね。まぁけどほら、ミド姉も俺に会いたがってくれているのが嬉しいし、俺ももう慣れたしね。何より一緒にいるのも楽しいから」

「お前らもう本当に付き合っちまえよ! いいじゃねぇか! 好意むき出しな年下好きの美人先輩と付き合えるんだぜ?」

「前も言ったけど、ミド姉の好意は弟に向けてのそれだから、そういうんじゃ……」


 このとき、俺は思った! 『さりげなく聞く』という行為は、話題が聞きたい内容に近づいた時が一番聞きやすい! そうなると、付き合ううんぬんや、ミド姉とのことで気になることがあるんじゃないかと大樹が尋ねた今のタイミングが一番聞きやすいのでは? 

 俺は、ここぞとばかりに話題をシフトし、大樹に尋ねる。


「気になることといえばさ、大樹も何かあるんじゃない? 気になること」

「は? 何だ急に?」


 ちょっと話題転換に無理があったか。大樹は本当に心当たりがなさそうな顔をする。しかし、俺は少しキーワードを入れて続ける。


「いや、例えばだけど、モモのこととか」

「っっ!!」


 モモのワードを出した途端、大樹が驚きの表情に変わる。これはまさか! 本当にビンゴ!?


「な、何だよ急に? 別に、桜井(さくらい)のことで気になることなんて、ないぜ?」


 大樹が動揺している。俺は鈍感ではないので、こんな動揺のされ方をされたら、分かってしまう。まぁ、けど一応確かめるように他の要素も入れて喋ってみる。


「いや、実は昨日喫茶店で、モモと会話していた時の大樹の挙動が気になっててさ、そうじゃないかな……と」

「……」


 大樹は黙ってしまった。あんまり核心をつきすぎても良くないか。別に大樹が言いたくないなら俺も無理に追求しない方がいいな。


「いや、いいんだ! 俺の勘違いっていう確率の方が高いしね! 大樹が違うって言うなら、俺はもちろん全面的にそれを信じるし、言いたくないって言うなら聞かないけど、友人としてちょっと気になっただけっていうか」

 そうやってフォローを入れた俺だったが、大樹は間もなくして首を横に振り、俺の質問を肯定した。


「いや、その通りだ。翔平にはバレていたのか……」


 やっぱり!! 俺は、自分自身で質問しといて、真実が明らかになると改めて驚きを隠せない。


「お前や桜井は覚えてないかもしれんが、飲み会の時に色々あってな。そのときのせいで対面するとちょっと意識しちまうみたいだ。ったくこれだから男ってのは単純だ。情けないぜ」


 大樹が少し照れたように言う。


「別に情けなくなんかないよ。そんなの普通だ」

「翔平、お前……」

「大樹だって普通の男なんだから、そういう感情を抱くのは普通だってことだ! まぁ、俺は下手に干渉しないから気にしないでくれ。友人への興味本位で聞いただけだからさ!」

「あぁ、そうだな。サンキュー」


 俺たちは互いに笑い合い、途中だった昼飯を食べ続ける。もちろん、この話も終わりで別の話題にシフトする。


 それにしても、大樹がモモのことをね~。意外っていうかなんていうか……。今まで大樹は女の子から告白されることも少なくはなかったけど、今回は大樹の方から好きになる女性が現れるなんてね。人の縁っていうのは、分からないものだ。

 今年度になって出会った人たちの間で色々と縁ができていることを俺は再度確認する。


 ミド姉と出会って、彼女は設定上の姉、俺は設定上の弟になるし、それを見て不快に思った朱里(しゅり)と知り合いになってバイト仲間になるし、ミド姉の家の隣人であるモモと友人になるし。そして、大樹は即売会勝負を通じた飲み会で知り合ったモモを意識して、大樹に偶然助けてもらった朱里が、俺をバイトに誘ったことで大樹に再会するし……。俺、行動を共にする友人って大樹くらいだったけど、今年度になってすごくたくさんの人に巡り合っているよな。


 ミド姉との出会いが全てつながっていると思うと、本当に一期一会っていう言葉は侮れない。ミド姉だけってわけじゃあないけど、やっぱりきっかけはミド姉だ。そう考えると、本当に彼女には感謝しなくちゃな。


 俺は、人と人との奇妙な縁に不思議な力を感じつつも、昼ごはんを食べ進めた。


 *


 町田大樹(まちだだいき)


 飯を食い終わって翔平と別れた後、オレは講義に向かうため文系棟を歩いていた。


「まさか、翔平が気づいていたなんてな。ちょっと恥ずいな」


 あいつはやっぱ変に鋭いところがあるな。小さい声で喋っても聞き取ってくる地獄耳だし、難聴系鈍感ラノベ主人公には向かない奴だ。



 オレが、桜井の女性らしい体つきを見て赤面したことに気づくなんて、うまくごまかせていると思ったんだけどな~。



 これ、桜井やミドリさんには気づかれてないよな? そうだとちょっと気まずいな~。まぁ、別に男なんだから女性の胸を見て興奮するのは当たり前なんだけど、そんな男を見て、女が引くのも当たり前なわけで。

 ま、飲み会の件に関しちゃオレに非があるわけじゃないし、やましいことは何もないけどな。あえて言う必要もないし、そう何回も何回も桜井を見てやらしい想像するオレでもない。


 こう言っちゃなんだが、女性には慣れている。前回が制服っつー不意打ちな格好だったってだけだ。

 翔平は他人に言いふらすような奴じゃあないから信用できるし、別にもう気にする必要もないな。むしろ、変に隠すより話したことでちょっと楽になったまである。


 オレは、そう思いながら講義が行われる教室の扉を開け、空いている席に着席したのだった。


 *


 花森翠(はなもりみどり)


「ハァーーーー昨日の翔ちゃん、可愛かったな~」


 スケッチブックに想像で制服姿の翔ちゃんを描きながら私は家でそう呟いた。

 昨日は面接帰りだったから、スケッチブックを持っていなかったのが失敗だった。家が近いんだし、取ってすぐに戻ってくれば良かったかもしれない。


「まぁいっか! 翔ちゃんはこれからもあそこで働くんだし、そのうち描く機会あるよね!」

 そう。翔ちゃんは、私の行きつけの店でこれからもバイトをするのだ! つまり、弟の制服姿は見放題だし、弟にご奉仕してもらえる! 弟に接客されるのも、悪くないわ♪


 ウキウキさせながら休憩を終え、私は持ち込み用の漫画を描く。話を考え終えて、今は絵の構想を練っている。このシーンではどんな絵を描こうか、どんな背景にしようかといった具合だ。軽く構想を練ってからネームを描くのが私流だ。


 しかし、私は今、漫画を描く作業自体の時間を大幅に削っている。エントリーシートの作成やその他資料集めといった、就活関連に時間が費やされるからだ。就活と漫画を両立させるのは、中々難しい。

 正直、就活の方は上手くいっていない。昨日面接を受けたところも落ちているだろうし、そうなったらまた一から探さなきゃいけない。でも、今週は大学の就活サポートサービスを受けて、面接の練習をする予定だし、次に受けるところは上手く行くといいけど。


 はぁ、早く就活終わらないかな。これじゃあ翔ちゃんにも示しがつかないよ。


 ピリリリリ


 突然、ローテーブルの上に置いていた私の携帯電話に着信が入る。誰だろう? メッセージじゃなくて、これは電話の音だよね? 

 もしかして、翔ちゃんかな!? そうだったら嬉しいな! 最近弟成分が足りないから、電話だけでも嬉しいな♪


 期待を込めて携帯電話の画面を見ると、そこに表示されていた名前は翔ちゃんではなく、


「……お母さん?」


 私の母親からだった。最近連絡取り合ってなかったから本当に久しぶりだ。私は恐る恐る画面をスライドし、着信にする。


「……もしもし?」

『翠、久しぶりね』


 威圧感のある声。久しぶりに聞いた母の声は、変わらずご機嫌なものには聞こえない。淡々としゃべる母の声を聞いていると、こちらからは見えないけれど、無表情な様子を容易に想像できる。


『最近どうかしら? 元気でやっているの?』

「うん、こっちは元気でやっているよ」


 それでも、こちらの心配は必ずしてくる辺り、親ということに違いはない。もう少し声が明るくて表情が豊かであれば、こちらも接しやすいというのに……。


「それで、どうしたの? お母さん。何か用事があったんでしょ?」

『そうね。それじゃあ、単刀直入に言うわよ』


 お母さんは、そう言うと一拍置いて、私にこう告げた。


『翠。あんた、いい加減こっちに帰ってきなさい』


 第15話を読んでいただきありがとうございました!

 今回は、朱里と大樹の再会話でした。タジタジになる朱里を書くのは初めてなので、ちょっと苦労しましたけど、新鮮でもあったので楽しかったです!


 今回の話は、第14話と一緒にしようかと思ったんですけど、長くなってしまったんで別の話数を設けました。とはいえ、単体ではどうも短いなと思ったんで、普段は三部分けしているところを今回は二部分けです。一部の文字量が多くなってしまったことをお許しください。


 そして、第15話は前回の続きと同時に、次回が始まるための前置きみたいな感じにもしてみました。最後のシーンだけですけどね。不穏な感じで終わった今回ですが、第16話ではどうなるのか。ぜひぜひ、見て欲しいと思っています! 新シリーズの続きものです。


 では、また第16話で! 次回もよろしくお願いします。

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