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第14話「岡村翔平はアルバイトがしたい」③

 町田大樹(まちだだいき)


 土曜日のちょうど午後三時ごろ、駅前を歩いていると、見知った美人がそこにはいた。

「あれ? ミドリさん?」


 その女性は、我が友人の『姉』という設定を持つ花森翠(はなもりみどり)さんだった。今日は、いつもとは違ってスーツ姿だ。正装に身を包んだ彼女の姿は、道行く人が振り返るほど、抜群に似合っている。


「大樹くん! 偶然だね」

「そちらこそ、珍しい格好していますね。就活ですか?」

「うん……。けど、あんまりうまくいってなくてね」

「そ、そっすか……。面接か何かですか?」

「うん、集団面接だったんだけど、相変わらず面接官の質問に苦戦してる……。大樹くんは今からどこかに行くの?」

「あぁ、オレっすか? オレは、翔平(しょうへい)のバイト先に行くんすよ。働いてる姿を冷やかしに行こうかと思って」


 そう、今日から翔平はアルバイトをしているそうなのだ。場所は、翔平がよく通う喫茶店。話には聞いていたが、オレが行くのは初めてだ。


「バ、バイト!?」


 オレが歩いていた目的を伝えるとミドリさんは目を開いてびっくりしている。


「翔ちゃんがバイト!? 聞いてないんだけど!」

「あれ? そうだったんすか? てっきり聞いてるもんだと思ってましたけど」

「どこ!? どこでバイト始めたの!?」

「えっと、『ブラウン』っていう喫茶店て聞きましたけど……」

「うちの近くの喫茶店だ!」


 ミドリさんもその喫茶店を知っていたらしい。にしても翔平のやつ、ミドリさんに伝えてなかったんだな。まぁ、就活中で最近会ってないらしいし、言う機会がなかったのかもしれないな。


「翔ちゃんの制服姿か……。これは、見に行くしかないわね! 大樹くん、私も行くわ! 一緒に制服の翔ちゃんを愛でに行きましょう!」

「え、愛でに……? オレは冷やかしに……」

「いいから、早く行きましょう!」


 先程まで沈んだ顔をしていたミドリさんだったが、弟の働いている姿を想像して、元気が出たらしい。本当にこの人は心の底から翔平の姉だな。


 *


 そこは駅から二十分以上はかかる場所に位置していた。道路沿いではなく、住宅街に少し入ったところにある。立地はそこまでいいとは言えない。

 歩いてきた道は、普段はあまり通らない道だ。なにせ、大学をはさんで駅とは反対方向にあり、主要な施設は何もない。あるのは住宅地くらいなものだ。だが、オレは最近もこの道を通ったことがある。


「(短期間にこうも連続でこの道を通るとはなぁ)」


 実際、大学のダチが住んでいる方向も、駅方面なもんだからこっちの道を通ることすらない。この二週間で二回も通ることに違和感を感じていた。


 喫茶店『ブラウン』は、木でできたおしゃれな雰囲気の喫茶店だった。屋根から垂れ下がる植物、店の前にあるウッドデッキ、店外から見えるケーキの並んだショーウィンドウ。静かにくつろぐにはうってつけと言わんばかりの要素が店の見た目からして分かる。山の中にひっそりと佇む雑貨屋のようだ。


 オレとミドリさんが入口の鐘を鳴らしながら店の中に入る。するとそこには、見知った顔が立っていた。


「いらっしゃいませ、てあれ? ミド姉に大樹!」

「あーーーーー、翔ちゃん! 制服似合ってるぅーーーー!!」

 入って早々騒がしい人だ。知り合いじゃなかったら絶対に店員にうざがられていますよ? 


「あ、ありがとうございます。自分ではあまり似合ってないと思ってるんですけどね、はは……」

「そんなことないよ翔ちゃん! 良い! 制服翔ちゃん良い!! いつもの愛らしさとは少し違う可愛さがある! 普段は子供っぽい翔ちゃんが大学生のお兄さんに見えなくもないわ!」

「それって褒めてます!?」


 褒めてるのか褒めてないのか分からなくなる文言だ。そんなやりとりにオレは笑いを堪える。


「よう、翔平! 似合ってるじゃねぇか。お兄さん!」

「冷やかしに来たなら帰れ」

「冗談だよ冗談! いやー、マジで似合ってるって! なんつーか、背伸びしてる感じがする」

「それ、似合ってるの後に言う言葉じゃなくない!?」


 オレは早速翔平いじりを楽しみ、翔平に連れられ席に移動する。

 今は人の多い時間帯ではないようで、店内のお客さんはオレたちを含め三組だけだ。他のテーブルでは、もうひとつの見知った顔が接客をしている。


「あ、(もも)ちゃんも働いていたんだね!」

「そうっすね。けど、お前らって二人共新人じゃねぇの? そんなんで店まわしていいのかよ?」

「あぁ、ベテランのもうひとりは休憩中。さっきまで忙しかったんだけど、一応俺もモモもバイト経験があったから、普通に店で働けるところを見て、休憩に入ったんだ。今はお客さんも落ち着いているし、マスターもいるから大丈夫だろうって」

「ふーん、なるほどね。うまくいってるようで何よりだ」

「それより翔ちゃん! 私、翔ちゃんがバイト始めたなんて聞いてないんだけど!」


 席に座っていたミドリさんが翔平の方に身を乗り出す。


「すみません、結構急だったもので。それに、ミド姉は就活していたから話す機会がなかったんですよ」

「もう、お姉ちゃんなんだからメッセージの一つくらい欲しかったわ」


 頬を膨らませて可愛らしく怒るスーツ姿の女性。とても年上とは思えないくらい子供っぽい怒り方だ。


「まぁけど、翔ちゃんの制服姿で勘弁してあげましょう! イイモノ見せてもらったお礼ということで」

「ははっ、ありがとうございます」


 苦笑いでそう応じ、オレたちの注文を聞く。注文を聞いている最中、もう一人の見知った顔がテーブルにやってくる。


「ミドちゃんに、町田くん! いらっしゃい!」

「桃ちゃん! その制服すっごく似合ってるよ! 可愛いね!」

「そうかな? えへへ、ありがとう!」


 桜井桃果(さくらいとうか)。以前、同人誌即売会で知り合った女の子だ。その後の飲み会で話をし、打ち解けることができた。

 飲み会……。オレは、制服に身を包む彼女の中心部分につい目がいってしまう。そして、飲み会での出来事を思い出す。


 酔っていた桜井は、無防備にオレの隣で横たわり、小さいとは言えない女性の象徴を主張してきた。更にそのあと、神様のいたずらか、コップに入っていた水をこぼして胸部を濡らし、下着が透けて見えてしまった。

 そんな出来事のあと、初の対面が今日だ。オレは、脳に刻まれたそれらを思い出し、つい顔を逸らして顔を紅潮させてしまった。


「町田くん、飲み会以来だね。あの時は何だか迷惑かけたみたいでごめんね? わたし、あまり覚えてないんだけどね」

「あぁ、おう。いや、全然大丈夫だ。うん。何もなかった。オレは何も見ていないし、何もしていない」

「?」

 不思議そうな顔をする桜井。あれを覚えていたらオレは変な目で見られていたこと間違いなしだ。この際、闇に葬ろう。


 といいつつも、制服から膨れ上がる胸をついチラ見してしまい、記憶から抹消できないオレ。くっ、ウブな野郎かオレは! そんなガラでもないだろうに! 


「大樹、なんか顔赤くない?」

「は? いや別に、そんなことねぇよ! さっきまで照りつける太陽の下を歩いてきたからだろうな!」

「そう? 今日は曇ってるみたいだけど……」

「太陽が出ていなくても暑いのが夏だからな! ハハッ、ハハハハハ!」

「?」

 あっぶねー。翔平のやつ、意外と鋭いじゃねぇか! 気をつけねぇと……。


 その後、注文を採った翔平は、厨房の方へ向かい、桜井は、裏の人に呼ばれたらしく、従業員専用ルームに向かった。


「翔ちゃん……。あぁ、翔ちゃん……。今日の翔ちゃんは、一段と可愛い!」

 顔をにへらと緩ませながら、まわりに花を咲かせるミドリさん。傍から見ると、さながら恋する乙女。

 でも、違うんだよなぁ……。設定上の弟を愛でる設定上の姉なんだよなぁ……。ややこし。


「私の家の近くに、弟喫茶ができてしまうなんて、思わなかったわ!」

「翔平が働いていない日は弟いないじゃないすか……」

「そうだった……。残念」


「ミドリさんって、弟だけなんすか? 妹とかは萌えないんすか?」

「ん? 私が萌えるのは、翔ちゃんだけよ? 妹みたいに可愛い友人の妹はいるけれど、萌えではないわね」


 わーお。翔平への深い愛を感じる。もうマジで付き合っちゃえよあんたら! 


「やだなぁ、翔ちゃんはそういうんじゃないって! 翔ちゃんは私の可愛い可愛い弟なんだから!」

 心の中で思っていたことが、どうやら口に出てしまったようだ。オレとしたことが……。


 ゴトッ


 オレたちがそんなやりとりをしていると、厨房の前で何かが落ちる音がした。そちらを見ると、どうやらトレーが落ちたらしい。新人二人のどっちかがミスをしたのかと思って、視線を上に上げていくと……、


「あ、あ……」


 立っていたのは翔平でも桜井でもなく、どっかで見た金髪の女の子だった。


 第14話を読んでいただきありがとうございました!

 今回は、王子様の正体が明らかになるお話でした~。ついでに(?)翔平と桃果がバイトを始める話でした~。


 この話で、メインキャラ全てが互いに知り合いとなりました。今までは翔平と翠のつながりって感じでしたけど、それ以外のメインキャラも顔見知りにすることができました。ここまで来るのに14話かかるとか……。理想は5話以内でみんな知り合いになるのとかがいいんでしょうね。けど、じっくりと関係性を作って行きたかったので、こんな遅くなっちゃいましたね。


 悩んだのは、桃果と朱里の関係性構築ですね。大樹と朱里は、もうこうしようって決めていたのでさほど困りませんでした。どうやって出会うかは悩みましたけどね。ただ、桃果と朱里ってもー、どうやって出会わせればいいのか分からないんですよ! 作者のみぞ知ることなんですけど、接点無かったんですよ! そこに来て、「あ、バイトさせればいいんじゃね? そうすりゃ行動範囲広がるんじゃね?」という結果になり、バイトさせることにしましたw 個人的に、急遽作ったマスターがいい味出してて好きです!笑


 それでは今回はこの辺で! 第15話に続きます! 



 

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