第9.5話おまけ「陽ノ下緋陽里と状況整理」
わたくしの名前は陽ノ下緋陽里。二十一歳の大学四年生ですわ。
家は一般的な家に比べるとかなり裕福と言っていいでしょう。だからと言って、城のような家をいくつも持っているとかそういうのではありません。お父様もお母様もお仕事をしていて、どちらも役職が高いがゆえの高収入というわけですわ。
ちなみにこの話し方、いかにもお嬢様という感じですが、これに関してはお祖母様の教育の賜物ですわ。お祖母様は外国人で品の良さにかなりうるさかったです。特に長女であるわたくしは厳しくしつけられたものです。
コンコン
おや? 部屋の扉を誰か叩いていますね。
「開いてますわ」
わたくしが入室許可を出すと、愛しの妹が部屋に入ってきました。
「お姉さま、ちょっといいかしら?」
「いいですわよ」
この子の名前は陽ノ下朱里。わたくしの可愛い妹ですわ。
ちなみに朱里は、わたくしのようなお嬢様言葉ではありません。昔、お祖母様のしつけが厳しくて朱里が泣いてしまったことから、途中でしつけを中断したという背景がありますわ。わたくしは覚えた作法が身についていたので、このような話し方になったというわけです。朱里にも、一応名残があるみたいですけどね。
「これ、今日マスターからいただいたの。普段お世話になっている陽ノ下姉妹にお礼ですって」
朱里は、小さな可愛らしい袋をわたくしに手渡した。そこには、クッキーが入っている。
「あら、お店のクッキーですか。マスターったら、気を遣わなくてもいいのに」
「まぁ、最近働き始めたあたしと違って、お姉さまはもう何年もあの店で働いているから、マスターにとってはいなくてはならない存在よね」
「あら、朱里だってもう立派な従業員ですわ。あの店にいなくてはならない存在よ」
「そう? ありがとう」
朱里は笑って受け答える。わたくしは、すかさずスマホでその笑顔を写真に収めます。
わたくしは可愛いものに目がないのです。動物とか、年下の女の子とか、二次元のキャラもいけますわ。最近はゆるキャラとかも好きですね。
けど、やっぱり一番可愛いのは妹かしらね? 家族だから写真も撮り放題ですし、スキンシップも取り易い。身長が伸びないのを悩んでいた時期もある朱里ですが、可愛らしいのでそのままでわたくしは大いに結構です。
「もう、お姉さまったら、また写真を勝手に撮って……」
「いいじゃないですか。ほら、可愛く撮れていますよ」
「はぁ、全く。別に写真撮るくらいいいけど、あまり度を過ぎないようにしてよね。出ないと、どこかの設定姉弟と同じになっちゃうんだから」
そう言われてわたくしは思わず苦笑いする。
「そ、そうですわね。気をつけますわ……」
「それじゃあ、用件はそれだけだから。おやすみなさい、お姉さま」
そう言って、部屋を跡にする朱里。
わたくしは、座っていたベッドに仰向けに倒れこみ、撮った写真を眺めます。
「設定姉弟と同じに……ですか……」
設定姉弟は、わたくしの友人である花森翠と岡村翔平くんという男の子のことを指します。
なぜ設定姉弟と言うのかというと、まずは事実確認から行わなければなりませんね。
この二人、実はお付き合いをなさっているのです!
それがどうして姉弟ということになるのかと言うと、どうやら、年下に目覚めた翠が、彼氏である岡村くんと姉弟プレイのようなマニアックなプレイに興じているようなのです。岡村くんもそれにノリノリというから、更に驚きです。
翠が年下と付き合っているということに最初は驚きました。なぜなら、岡村くんは超が付くほどのベビーフェイスだからです。
しかし、朱里によると、どうやら彼は大学三年生だそうです。わたくしが間違った情報を伝えたせいで、朱里には妙な勘違いをさせてしまったみたいです。
この情報は、翠に付き合っていると明言された次の日に、翠から訂正のメールが届いたことで知りました。その時のわたくしは、高校生じゃなかったことにびっくりすると同時に、不思議と納得したものです。何せ、平日の昼間に制服も着ずに喫茶店にいるとか、完全に不良ですからね。
後日、案の定わたくしは朱里から、間違っていたと指摘を受けてしまいました。わたくしは事前に翠からメールでその間違いを聞いていたものですから、朱里にもその旨を伝えました。
わたくしは、その時の状況を軽く思い出してみます。
『ちょっと、お姉さま! お姉さまの教えてくれたこと、勘違いだったじゃないの!』
『あ、そのことですけど、わたくしも翠から訂正のメールをいただきまして……。ごめんなさいね、朱里。間違ったこと教えてしまって』
『本当よ! 完全に高校生だと思っていたわ……。そのせいで少し恥をかいたわ』
『まぁあの容姿ですから、間違えるのはしょうがないと思って、水に流してくださいよ』
『はぁ。まぁいいわよ。それに、翠さんが弟に夢中というのは……本当のことだったしね……』
『……えぇ』
こんな感じだったかしら? あの時は、本当に朱里を振り回して申し訳なかったですわ。
まぁ、そんなこんなで翠は一つ歳下の童顔男子大学生と付き合っているそうで。わたくしは、翠の幸せを願って、応援していますわ。岡村くんは、実際に話してみたところ、礼儀も正しいし良い人そうです。翠とも仲良くやっているようですし、上手く関係が続くといいですね。
そういえば、翠の家の隣人である女子大生に宣戦布告を受けたと言っていましたわね。確か名前は……、桃ちゃん? と言ったかしら。
略奪愛とは、中々手強そうな相手ですが、岡村くんと翠の仲はそんじょそこらのカップルよりもいいですからね。桃ちゃんにとっても厳しい状況なのではないでしょうか?
あ。ですけど、確か夕ご飯の時に朱里から、二人が喧嘩したという話を聞いたんでしたね。大丈夫なんでしょうか? 翠はどうも岡村くんのことが好き過ぎて周りが見えていないようでしたからね。恋は盲目とはよくいったものです。
そう考えると心配ですわね。岡村くんに愛想尽かされたら、その桃ちゃんの方に岡村くんが目移りしてしまうのでは……。
ブーブー
メッセージですわね。翠から?
『私、また翔ちゃんのお姉ちゃんに戻れた(*≧∀≦*)』
どうやら、わたくしの杞憂だったようですね。この分なら安心できそうですわね。
しかし、「お姉ちゃん」ですか……。う~ん。彼女じゃなくて、お姉ちゃん……ですか……。
徹底した設定ですこと……。
わたくしは、今日も翠のマニアックな彼氏彼女関係に、苦笑いしかできないのでした。
今回は第9.5話をお届けしました。まぁ、要するにおまけですね。本編にするほどじゃない話を書いてます。今回のおまけ話は、緋陽里の話でした!
普段あまり本編で出番のない緋陽里なんですが、今回の話はタイトル通り、緋陽里の中での状況を読者にお伝えするために書いた話です。この作品で唯一、設定姉弟の設定を理解していないキャラなんで貴重ですね(笑)一体いつ勘違いは解けるんでしょうか?
サブキャラではありますが、緋陽里もちょいちょい出てきますので、是非とも覚えておいてもらえると嬉しいです(次はいつ出そうかな……)!
ではこの辺で! 次は第10話でお会いしましょう!