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第9話「ブラコンな姉はお姉ちゃんでいたい」③

「ふーん、なるほどね~」

 俺は、昨日起きたこと、さっきまでミド姉のところに行っていたこと、拒絶されたことを話した。

 バイト中であるにも関わらず、朱里(しゅり)は俺の話を聞いてくれた。人がいなくてラッキーだ。この店の人気がなかったことに感謝! 


「ただごめん。あたし、一個だけ理解できなかった部分があるの……」

「ん? ごめん、説明不足だったところがあった?」

「あなた、『ミド姉の隣人の家に事情を説明しに行ったら、ミド姉が画面の中の俺と会話をしていて、その後、会うことを拒絶された』って言っていたわよね?」

「そうだけど?」


「『画面の中の俺と会話』ってどういうこと!?」


 朱里はバイト中にも関わらず、盛大なツッコミを入れる。店に誰もいないのが幸いした。


「あぁ、それか。それは、隣人の家にあった乙女ゲーのキャラに俺の名前をつけて逃避行していたって意味だよ」

「分かるか! そんな急展開をさらっと理解できるわけないでしょ!」

「やっぱりミド姉にはブラコンの才能があったみたいだ」

「ブラコンの才能って何!?」

 人がいないとはいえ、こんなにうるさいツッコミしてるのにマスターは何も言わないんだ。寛容だなあ。


「ていうか、また(みどり)さんの性格をおかしくして、あなた本当に翠さんをおかしくする天才ね! 危険人物にも程があるわ!」

「ぐっ、確かに今回におけるミド姉の二次元ブラコン化は俺のせいだけど……」

 今回ばかりは一切反論できない俺。

「それで、会いたくないって言われて帰ってきたってわけね」

「まぁね」

「ふん、情けないわね! 顔だけじゃなくて精神力も子供なのかしら」

「っ!」


 俺は心の弱さを指摘されて、腹が立つ。朱里はそれでも話を続ける。

「だってそうでしょう? あなたはまだ翠さんと話もしていないじゃない? その隣人を仲介に話しただけでしょう?」

「そうだけど、今のミド姉は精神的に不安定だったんだ! だから、落ち着いてから話すのがベストだと思ったんだよ!」

「結局、問題解決を先延ばしにしているようにしか、あたしは聞こえなかったけどね」

「っ!」

 図星をつかれたからか、俺は何も言い返せない。大樹(だいき)も早めになんとかしろと言っていたし、やはりこれは、俺が逃げているだけなのか? 


「確かに、時間が経つにつれて落ち着くってのはあるかもしれないけど、今の話を聞いていると、翠さん、これからどんどんゲームにはまって、現実逃避を続けるかもしれないわよ。だから、早いうちに決着をつけたほうがいいわ。でないと、以前のあたしみたいに、翠さんはどんどん自分のことを嫌いになっていってしまうわ」


 俺は、朱里が以前話してくれたことを思い出した。高校から入った美術部のレベルの高さについていけず、悩んでいた朱里。その時の朱里は、自分の絵も自分自身も嫌いになっていったと言う。

 今のミド姉も自己嫌悪に陥っている。ミド姉が走り去るときに言っていた言葉、「お姉ちゃん失格」という言葉は、やはり、ミド姉が自身の行動の過ちを悔いていることから来ている。


「あなたは、翠さんの弟なんでしょ? だったら、今すぐにでも姉の自己嫌悪にまみれたオーラを浄化して来なさい! 姉を癒すのが、弟の役目なんでしょ?」


 朱里は、腰に手を当てて、ちょっと照れを見せながらそんなことを言う。


 俺は、残っていたコーヒーを一気に飲み干す。熱い! 舌やけどした! 

 だが、朱里の言葉とコーヒーの熱さで気合が出てきた。


「悪い朱里、俺、今からミド姉の家に行ってくるよ! ありがとう」

「はいはい、お金はちゃんと落としていってよね」

 俺は、財布から300円を取り出してテーブルに置くと、挨拶も早々に店を出た。

 ミド姉の家までそう距離はない。俺は、数十分前に歩いた道を走って戻った。


 *


翔平(しょうへい)くん!? まだ何か用事あるの?」

「モモ、やっぱり明日じゃだめだ。ミド姉と話をする。出してくれ」

「ミドちゃんはさっき、自分の部屋に戻ったよ。けど、翔平くん、ミドちゃんはきっと今、翔平くんと会いたくないんじゃないかな」

「それでも俺は、今日ミド姉に話したいことがあるんだ。ミド姉をこのまま放って置くと、ミド姉がミド姉じゃなくってしまう気がするんだ。俺が尊敬するミド姉は、いつまでも自己嫌悪で落ち込んでいてはダメだ。ミド姉には、笑っていて欲しい!」

「翔平くん……。分かった。頑張ってね! ミドちゃんは今、翔平くんを傷つけた自分が嫌で嫌でしょうがないみたい。翔平くんが強いところを見せれば、ミドちゃんも元気出ると思う!」

「あぁ、ありがとう」


 俺は、モモにお礼を言って、ミド姉の部屋の前に立つ。ドア前に設置されたインターフォンでミド姉を呼び出すと、インターフォンからミド姉の声が返ってきた。

「はい」

「ミド姉、僕です。岡村翔平(おかむらしょうへい)です。話したいことがあるので、中に入れてもらえませんか?」

「翔ちゃん!」

 ミド姉は、一瞬嬉しそうな声を出したが、すぐに黙ってしまった。


「ごめん、翔ちゃん、今は私に会う資格なんてないの……」

「そう言われても僕は帰りませんよ。ミド姉が入れてくれるまで、僕はここから離れませんから」

「……」

 すると、インターフォンが切れた。これは、会う気なしか……。それならそれで、ここで待って……、


 ガチャリ


「翔ちゃん……」


 扉が開き、ミド姉が顔を出した。その顔は、とても不安そうだ。


 中に入れてもらい、ミド姉は壁を背にしてベッドの上に座り、俺はミド姉の方を向きながら立つ。


 しばしの沈黙が部屋を包む。俺は、この沈黙が居心地悪かったため、先にミド姉に話しかけようとしたが、先に口を開いたのはミド姉の方だった。


「ごめんね、翔ちゃん」

 ミド姉は謝罪の言葉を口にした。

「昨日の私、翔ちゃんの気持ちを全然考えていなかったわ。こんなんでお姉ちゃんなんて、笑っちゃうよね……」

 ミド姉はうつむいて暗い顔のまま、自分の情けなさを悔いる。


「でも私、翔ちゃんが弟じゃなくなるのなんて、嫌だよ。これからは気をつけるから、だから、弟をやめるだなんて、言わないで!」

「? はい、僕は弟をやめる気はさらさらありませんよ」

「え?」

「え?」

 俺たちは互いに「え?」と繰り返す。バカっぽい。


「ていうか、やっぱりあの後、僕が言っていたことをミド姉は聞いていなかったんですね」

「あの後って?」

「だから、僕がミド姉を怒ったあとですよ。あの後僕、『それじゃあこれからは気をつけてくださいね』って言ったのに、ミド姉が逃げちゃうんですもの」

「そ、それじゃあ……。これからも私は、お姉ちゃんでいてもいいの? 翔ちゃんは私の弟でいてくれるの?」

「はい。だからそう言っているじゃあないですか」


「良かったぁぁぁぁぁぁぁ」


 すると、ミド姉はベッドに寝込んでしまった。安心して力が抜けてしまったんだろうか。

 まさか、ミド姉がそんなことを悩んでいたなんて思わなかったが、こんなことに悩んでいたら、そりゃあ会いたくなくなるよな。


「私、もう翔ちゃんに嫌われちゃったのかと思って気が気でなかったよ」

「嫌いになるわけないじゃないですか。ミド姉は僕の尊敬する人なんですから。それでも、僕も少し強く言いすぎました。すみません!」

「翔ちゃん……」

 ミド姉に頭を下げ、謝罪する。ミド姉はすぐに許してくれた。


 俺は、ベッドにもたれかかるようにして座る。

「謝っておいてなんですけど、やっぱりちゃんと言いたいことを言えたのは、良かったと思います」

「どういうこと?」

「ほら、ミド姉は弟の気持ちを分かっていなかった自分に自己嫌悪していたわけでしょう? ですけど、今はもう弟の気持ちを理解しているじゃないですか」

「あ!」

 俺は、ミド姉にニッコリと微笑む。


「姉弟なんで姉弟喧嘩くらいしますよね。これが、初めての喧嘩だったってだけです」

 そう言うと、ミド姉はようやく笑ってくれた。


「そうだね。うん。姉弟喧嘩か。アハハ、姉弟喧嘩ってこういうのか~」


 ミド姉の目元には涙が見える。嬉し泣きなのか、先程までの不安の涙の残りかは分からないけど、その笑顔を見ると、嬉し泣きに見える。俺は、「普通の姉弟の喧嘩とは違いますけどね」と付け加え、苦笑いする。


「ねぇ、翔ちゃん」

 ミド姉は、また不安そうに声を出す。

「私、今回のこと、すっごい反省した。周りが見えなくなっていた自分に反省した。今後は、人の多いところで激しいスキンシップは取らないようにするけれど……、それでも私、ブラコンだから。翔ちゃん見ると、嬉しくなって、抱きついちゃいたくなるの。絶対ないようにしたいけど、もしかしたら……、また……、しちゃうかもしれないなって思っている自分もいるの……。自信がなくて……」

 そういうミド姉の顔はとても不安そうだ。きっと、また同じことを繰り返してしまいそうで怖いんだと思う。


 俺は、ニカっと笑って、


「もしそうなったら、また僕がきつく怒ってあげますよ! それで、その後また、仲直りしましょう! 姉の暴走を止めるのも、弟の役目ですから!」

 そう言うとミド姉は、安心した顔を見せ、

「うん!」

 力一杯頷いてくれた。


「ねぇ、翔ちゃん」

 ミド姉がまた聞いてくる。さっきのような不安そうな声とは違い、今度は何だか、照れが含まれている。

「どうしたんですか?」

「抱きついてもいい?」

「え?」

 いつもだったら問答無用に抱きついてくるのに、いざ改めて聞かれると、非常に恥ずかしい。しかも、ミド姉が我慢できなそうに頬を紅潮させてモジモジしているもんだから、可愛くてしょうがない。


 何か、妙に色っぽい。息も荒いし、今にも抱きつきたくてしょうがないって顔してるし。ミド姉の服装ってこれ、寝巻きだよね? 何気に初めて見た気がする。

 こんな状態で抱きつかれたら、ミド姉じゃなくて俺が鼻血出そう。けど、断ったらミド姉がまた落ち込んじゃうし……。慣れろ、慣れるんだ俺。

「い、いいですよ?」

 俺は、若干声を上ずらせながらそう答える。すると、ミド姉がパァーっといつもの顔になり、

「翔ちゃーーーーーん!」

 激しく抱きついてきた。ここは家の中なので、まぁいい。


「あぁ、翔ちゃん、翔ちゃん! 辛かったよー! もうこんな風に触れ合えないんじゃないかって不安だったよー! ムニムニ」

「相変わらず、激しいですね」

「ここは家の中だから、いいよね?」

「もう通常運転ですね、ミド姉」

 つい、安心してしまう。こんなブラコンの自称「姉」を見て安心するなんて、俺も大分おかしいな。


「ハァハァ、翔ちゃんの匂い。軟らかいホッペ。小さいお顔。ハァハァ」

「ミド姉、よだれ! よだれを服に付けないで下さいよ! もう!」

「姉ゲージが回復していく。やっぱ弟は最高だわ! ブラコンで良かった!」

「自分で言わないでください! 異常ですよその発言!」

「翔ちゃんもシスコンになれば分かるわよ! いつでも私のこと、『お姉ちゃん』って呼んでいいからね! 私は準備できているから!」

「呼ぶわけないじゃないですか。また吐血するくせに」

「あれから何週間経ったと思っているの? もう平気よ!」

「絶対平気じゃないです! そのうち貧血起こしますよ?」

「ほうれん草とかレバーをきちんと食べているから大丈夫よ!」

「一応考えていた!」

 考える方向性がおかしいぞ。


「それに、乙女ゲームでお姉ちゃんって呼ばれても、吐血しなかったんだから! ついに克服したと言っていいんじゃないかしら?」

「ゲームのキャラに『お姉ちゃん』って呼ばれて吐血していたら、もう末期過ぎますよ」

「……」

「……?」

「今、」

「今? ……、あ、しまった!」


「ゲフッ」


「(おねーーーーちゃーーーーーーーん!)」

「ゲフーーーーーー!!!!!」

「心の声まで察知するの!? 何者だよ!」

「やっぱり、ダメだったみたい……」

「ちょーーー! また僕が血の処理するんですか!? ミド姉!?」


 いつものように、俺たち『姉弟』の騒がしい声が、部屋を響き渡る。


 本物の姉弟には程遠い俺たちは、今回初めて姉弟喧嘩をした。それによって、よりお互いの絆を深めたのかもしれない。そもそも、俺たち姉弟のたどっている道が本物の姉弟に向かっている保証はない。

 けれど、俺たちの関係性はこういうものだから。何も、本物の姉弟じゃなくてもいい。俺たちだけの姉弟関係が築けていければ、それは正解なんじゃないだろうか? 


 俺と彼女の関係は設定上の姉弟なはずなのに重度なブラコンである姉は、ちょっと心配だけどね。傍から見たら、俺たちの関係はやっぱりおかしい。


 だけど、これが俺の……、俺たちの姉弟関係だ!



 第9話を読んでいただき、ありがとうございました!

 今回、あとがき長めです……。ご容赦ください。


 今回は「設定姉弟、仲直り編」でした。第8話の続きもこれにて完結です。

 赤の他人であった設定上の姉弟は、お互いにまだ知らないことだらけ。姉や弟を知らずに傷つけます。ですが、何も間違っていることではありません。誰しも通る道なのですから。そうやって、本物よりも本物らしい姉弟になるのかもしれませんね。


 今回の第8話、第9話を執筆するに至ったきっかけは前回のあとがきで書いたと思うんですけど、もう一つ書きたいものがあったんですよ。それが……、ブラコン姉の闇落ちです。闇落ちと言っても、ヤンデレとかそういうんじゃあなくて、ギャルゲーの弟にのめりこむポンコツお姉ちゃんを書きたかったんです!(笑)ページの都合であまりたくさんは書けなかったんですけど、ストーリー的にはうまい具合にまとまったんじゃないかと思います。翔平もさぞ引いたことでしょう……。


 第8話、第9話はですね~。実は一度書き直したりしているんですよね。最初に完成させた展開がどうもしっくりこなくて、執筆初の書き直しを行っているんです……。大変でした。最初に良かれと思って書いても、書いてるうちに「何か違う!」ってなることもあるんだな~と、これまた初めての経験をしまして、まだまだ奥が深いものだと実感しました。投稿したこの話は、私的にはしっくり来たので、書き直して良かったと思っています!


 そして今回の第9話で、「俺と彼女の関係は設定上の姉弟なはず・・・」も一区切りだと思っています。文字数的には約140,000文字ということで、ラノベ一冊分くらいになったんじゃないでしょうか!? 実際、ラノベ一冊分を意識して書きましたので。一区切りさせるのに色々と展開や長さを調節したりするのは大変でしたが、自分では何とかうまいこと区切らせることができたと思います。キャラクターもそのキャラらしさを表現するのが大変でしたが、どうだったでしょうか? 読者から見て、そのキャラがイメージできていてくれたら嬉しいのですが……。


 投稿を始めて約一ヶ月ちょっとでここまでできたことを誇らしく思っています。もちろん、他の上手い作者さんとか見ていると、まだまだ未熟だなと痛感することばかりですけど……。それでも、これから先も自分らしさを出して作品を作っていきたいと思います! 私的な「ラノベ二巻目」でも、設定姉弟の周りを巻き込んでストーリーが進行していきます。朱里は変わらず翔平と喧嘩し続けるのか!? 桃果の恋の行方やいかに!? 大樹は相変わらずツッコミ役なのか!? 翔平と翠以外のメインキャラも活躍予定です。


 ここまで応援してくれた方々、本当に感謝の気持ちでいっぱいです! コメントやレビュー、ブックマーク数増えるたびに嬉しくなります! 最新話まで読んでくれている方を見ると、投稿して良かったと心底思います! 読者に楽しんでもらえるよう、次話以降も尽力していきます! 応援のほど、よろしくお願い致します。


 それでは長くなってしまいましたが、今回はこの辺で。最後まで読んでくれてありがとうございます!

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