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第8話「シャイな弟は控えて欲しい」③

「それじゃあ、インターンシップの訪問先はとりあえず決めたんだな」

「うん。まぁまだ職種を決めただけで、どこに行こうかは決めていないんだけどね」

「ん? どういうことだ?」

「公務員といっても、種類が多いから。市役所、消防署、郵便局、県庁、国家、色々あるうちのどこにするかはまだ決めてないってこと」

「あーなるほどな」


 図書館に併設された飲食スペースで飯を食いながら、俺と大樹(だいき)は昨日のようにインターンシップのことを話す。大樹にも色々話を聞いてもらったから、報告したかったのだ。

 今日は大樹に三限があるので、それまでの時間だ。俺は三限がないので、その時間を利用して文献で職種について調べようと思い、図書館を選んだ。


 図書館の飲食スペースは、今年度からできた新しい空間だ。張り紙にはリフレッシュスペースと書かれている。基本的に食事が禁止、飲み物は蓋のついているペットボトルだけとされている図書館内だが、このリフレッシュスペースだけは、飲食が許されている。食事用自動販売機とコーヒーサーバーも充実しており、食堂までとは言わずともここに来るだけでご飯が食べられる。とは言っても、自動販売機なだけあって量は少ないし、高い。俺たちは今日初めてここに来たが、次からは食事は持参したほうが良さそうだ。


 自販機で買った焼きおにぎりを食べながら俺は大樹に話す。


「最近、ミド姉のブラコンが悪化している気がするんだよな~。所構わずくっついてくるし」

「それは自慢しているのか困っているのかどっちなんだ?」

「困ってるんだよ。自慢してるように話してないだろ」

「どうだかなぁ。別にくっつかれるくらいいいじゃねぇか、ミドリさん程の美人にされて嬉しくない男がどこにいるんだ? ミドリさんはお前のことが好きで好きでしょうがないんだよ。許してやれって」

「別に、くっつかれるのが嫌って言ってるわけじゃないんだ。ただ、人が多いところで正面から堂々と抱きついたり頬ずりしてくるのが恥ずかしくてしょうがないんだよ」

「頬ずり……。それは、中々きついな。人の多いところでミドリさんほどの美人に頬ずりされちゃあ、周りの注目は全部お前に注がれるもんな」

「ほんとだよ。変なヘイトも買いそうだし、やめてほしいって言ってるんだけど、ミド姉は気にしないとか言ってやめてくれないんだよ」


「あのカップル、堂々とこんなところでイチャつくなよ」とか、「彼女スゲェ美人だけど、男は子供っぽい顔してんな。全然釣り合わねぇよ」とか言われそうだ。


「んー、そういうタイプの人って、一度ガツンと言わないと分からないんだよなぁ。まぁでも、今のところ人の多い場所でそういうことはされてないんだろ? ミドリさんって、お前の本当に嫌がることはしなそうだし、大丈夫なんじゃね?」


 焼きそばパンを頬張りながら大樹は軽くそんなことを言う。


 う~ん。どうかな~。今までされてはいないけど、俺が絡むとミド姉は結構ポンコツになっちゃうからなぁ。


「はぁ、だといいけど」

「心配ないって。っと、じゃあオレは三限行くから」

「じゃあまたね」


 そう言って大樹はリフレッシュスペースを跡にした。さて、俺は調べ物でもしようかな。


 *


 図書館を歩いていると、どこかで見たことある顔と出くわした。あれ? けど……。


「モモ?」


 俺がその女性に声を掛けると、女性はこちらを振り向いて応じた。


翔平(しょうへい)くん!」

「あ、やっぱりモモか! 随分髪をばっさり切ったね! 自信なかったよ」


 その女性はやっぱり先日会ったミド姉の隣人、桜井桃果(さくらいとうか)だった。この前会ったときは、結構長い髪の毛だったのに、それとは対照的に今はさっぱりしている。肩に届かないくらいのショートヘアで、以前のようなボサボサ髪ではない。ふんわりとした女性らしい髪型となっている。


「う、うん。ちょっとイメチェンで。似合ってるかな?」

「うん。すごい似合ってるよ。雰囲気もなんだか前より女の子らしくなって可愛いと思う」

「ファウ……」

「ん?」


 突然、変な声を出すモモ。前も急に奇声を上げていたし、無意識に声が出ちゃう人なのか? 顔も心なしか赤い。そういえば、夏前なのに、冷房がついていないんだもんな、この図書館。確かに暑い。


「あ、ありがとう翔平くん。嬉しいよ」

「いや、お世辞じゃないって! ホントホント」

「ファウ……」


 ファウ? って何だろう。モモの口癖なのかな……? 


「それより、翔平くんはどうしてここに?」

「俺は、ちょっと職業について調べに来たんだよ」

「へぇ、まだ前期なのに就活を意識してて偉いね! 私なんてまだ全然だよ」

「あー、けど俺もまだ全然知らないよ。夏にインターンシップがあるから、その訪問先を調べる参考に」

「翔平くん、インターンシップ行くんだ。それじゃあ夏休みは大変だね」

「そうだね。二、三週間は潰れちゃうよ」

「けど、絶対ためになると思うよ。頑張って!」

「ありがとう。ところで、モモはここで何してるの?」

「わたしは、課題と小テストの勉強だよ。家じゃなくて、図書館で勉強すると集中できるの」

「へぇ。そういえばモモって学科はどこなの?」

「わたしは数学科だよ。数字ばかり見て嫌になるけどね」

「数学科か~。俺も数学系の講義採ってるんだけど、内容が難しくてついていけてないんだよね~。大学の数学は難しいよ」

「そ、それなら今度、一緒に勉強しない!? わたしも分からないとこあったら教えて欲しいし!」


 ここは図書館なので、基本静かな声で喋っていた俺たちだが、この時のモモの声は、少しだけ大きかった。二階の勉強スペースに座っていた人達が一瞬こちらを振り向く。


「あ、す、すみません、ちょっと声が大きくなってしまって」

「いや、大丈夫だけど……」

「そ、それでどう? 勉強……」

「俺が教えられることは多分ないから、多分俺だけが得すると思うんだけど、それでいいなら」

「そんなことないです! むしろわたしのほうが得しまくりですから!」


 またまた声が興奮気味のモモ。さっきよりは小さいけど……。てか、どういう意味? 

 あ、教えると自分の復習にもなるってことかな。


「それじゃあ今度日程決めてやろう。空いてる時を連絡するから……、ってそうだ、連絡先交換してないよね? しとこうよ」

「ファ、ファウイ!!」


 これは、「はい」なのかな? それっぽい言い方だったけど……。

 俺たちはメッセージアプリの画面から連絡先を交換した。


「それじゃあ俺は調べ物があるから」

「う、うん! メッセージ待ってるね!」

 そう言って俺はモモと別れた。モモも勉強机に戻っていき、勉強を始めたみたいだ。


 にしてもモモ、本当にイメチェンだったな。すごく可愛くなっててびっくりした。化粧一つで女性は変わるって言うけれど、髪型一つでここまで印象が変わってしまうのだから、女性のおしゃれは大変だ。


 *


 図書館での調べ物を終え、帰路に着く。結果、図書館での調べ物は有意義なものとなった。仕事の違いも分かったし、あとは家に帰ってゆっくり考えようと思う。


 講義終わりで人がごった返すアーケード下を歩く。道幅が広いため、ギューギュー詰めになったりすることはないが、人の数は多い。こんなところでミド姉に過多なスキンシップでも取られたら、絶対注目集めるだろうな。アーケードの中だから、微妙に声が響くし……、嫌だなぁ。


 けど俺って、なんだかんだでミド姉と偶然会うことってあまりないよな~。まぁ、彼女は週一回しか大学に来ていないわけだし、当然だけど。


 俺が、アーケードを抜ける一歩手前まで来た時だった。突然後ろから抱きつかれた。まさか……、


「翔ちゃーーーん!! 大学で会うなんて、珍しいーー!!」


 嘘だろ。ミド姉、こんな人が多いところで抱きついてくるなんて。前注意したのに……。ここまでブラコンがひどくなっていたなんて。

 アーケードを歩く人たちもひとり残らずこっちに注目してるし。やばい、顔が赤くなる。


「待ち合わせしてないのに会うなんて、ラッキー。充電しちゃお。ムニムニ」

「ちょっと! ミド姉、こんなところでやめてください!」

「翔ちゃんのほっぺ、やわらかーい。癒される~」


 俺はちょっと強めに注意したが、ミド姉は力を緩めない。いつもより聞き分けが悪い。

 恥ずかしさでどんどん顔が赤くなる。いつものようにもう一度注意しようとしたその時、ふと思い出した。大樹が言っていた言葉を。


『そういうタイプの人って、一度ガツンと言わないと分からないんだよなぁ』


 俺は、ミド姉の腕を掴んで人の少なめな近くの広場に連れて行く。ミド姉はちょっと不思議そうな顔をしながら、俺に引っ張られる形でついてくる。


 文系棟の横にある広場。ここは、昼になると昼食を食べる人たちが多くなるが、基本的に人はいない。それに結構な広さがあるから、人の近くで話をするということもない。

 俺は、広場の中央に来た辺りで立ち止まり、いつもよりも表情を怖くして話し始める。


「ミド姉、こんな人の多い場所で過度なスキンシップは取らないでくださいって言いましたよね! なんで分かってくれないんですか!」


 俺は、いつもの照れた態度は見せずに、怒りをあらわにする。そんな俺の表情に悪いと思ったのか、ミド姉も表情が暗くなる。


「しょ、翔ちゃん……。だ、だって、翔ちゃんを見てつい嬉しくなっちゃって……」

「つい先日言ったばかりじゃあないですか! 僕はこういう人の多い場所で抱きつかれたり頬ずりされたりすると恥ずかしいって、言ったじゃあないですか! 嫌がっているのが分からないんですか?」

「ご、ごめんね翔ちゃん……。私、つい、ブレーキ効かなくなっちゃって……。ただ、私は姉弟として……」


 ミド姉の声が小さくなっていく。どうやら大樹の言っていたことは正解だったようだ。ミド姉の表情、あれは本気で反省している。


 これなら、もう次からは気をつけてくれるだろう。いつものようにミド姉を許してこの件について話を終わらそう。


「はぁ。ま、分かったならいいですよ。次からは気をつけてくださいね」


 しかし、ミド姉は俺の言葉を聞いていなかったのか、下を向いたまま動かない。これは、相当堪えてしまっているようだ。ちょっと言いすぎたかな? 


「ミド姉? ミド姉、聞いていますか?」

「私……」


 ん? 声が小さすぎて聞こえなかった。何だろう? そう思って、ミド姉の近くに寄って聞こうとすると、


「私、お姉ちゃん失格だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!」


 突然大きな声を出すとともに、走り出してしまった。

 大学内に大きな声を響かせて、ミド姉は去って行く。とんでもなく早いスピードで。


「ちょーーー、ミドねえーーーーーーーーー!」


 俺は、途中まで追いかけていたのだが、その早さゆえにミド姉を見失ってしまったのだった。


第8話をご覧いただきありがとうございます。

今回は、この作品初めての続きものの前半です!

今までは基本的に主要キャラの登場話、紹介をメインとした一話完結型のストーリー構成を意識してきましたが、それも一段落したので普通にお話を作ってみました。


翠のブラコンが加速し、人の多いところで抱きつかれた翔平はたまったもんじゃないと思うんですよ。そういうわけで一回、そういう感じの話作るか~って思って作りました。まぁそれに限らず、今回の話は翔平と緋陽里の初対面だったり、翔平の就活第一歩であるインターン決めだったり、翠の就活してない疑惑だったりとサブタイトルと関係ない内容も多かったですけどね。てか、緋陽里とか第3話の前半ぶりですよね。読者の皆さんは果たして覚えていたのでしょうかレベルです(笑)


何はともあれ、泣いてその場を離れてしまった翠やいかに!? 翔平と翠はどうなってしまうのか!? 第9話をお楽しみに! すでに第9話を書き終わっていますので、すぐにお届けできると思います! とりあえず、明日か明後日には更新します!


読者さんのおかげで、順調にPV数も増えてきています。ブックマークも増えてきていますし、ポイントを付けてくれる人も多くなってきました! 本当にありがとうございます! コメントやレビューもしてくれて、作者は嬉しいです! コメントやレビューには必ず返すようにしています。読者とのやりとりも私の楽しみの一つですので、遠慮せずにどしどし送ってくれると幸いです!


それでは今回はこの辺で! また第9話でお会いしましょう! 

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