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第7話「桜井桃果は恋がしたい」③

 せっかく来てくれたミドちゃんと翔平(しょうへい)くんには悪いけど、帰ってもらいました。なんだか一人になりたい気分だったのです。


 二人が帰ったあと、わたしは体温計で体温を測りました。本当に熱があるみたいです。パジャマに着替え、ベッドに潜り込みます。あ、しまった。スポーツドリンクの一本でも買っておくんだった。けどもう、起き上がる元気はありません。


 二人はこの後、公園に行くそうです。何でも、ミドちゃんの新しく描く漫画のために、資料集めをするんだとか。それに翔平くんも付き合うそうです。


 二人で公園……。まさにデートじゃないですか。楽しそうで何よりです。ミドちゃんは言わずもがな、翔平くんもまんざらでもなさそうだったし、いいコンビじゃないですか。お二人はまだ付き合ってないみたいですけど、きっとそのうち付き合うのでしょう。

 わたしがミドちゃんに勝てるわけないですし、これでいいんです。どうせ、恋なんて一種の病みたいなもので、それこそ昨日考えたみたいに時間が解決してくれますよ。


 あれ? 布団が濡れてる? わたし、そんなに汗かいてるのかな? まだ布団に入ってそんなに時間が経ってないのに……。


「あ……」


 わたしは泣いていました。この涙は分かります。悔し泣きですね。実らなかった初恋の悔しさが詰まった涙です。

 わたしは、失恋したんですね……。今まで読んできた漫画のヒロイン達の気持ちが、痛いほどよく分かりました。


 *


 ピンポーン


 インターフォンの音が鳴ります。この音は、オートロックじゃなくて、ドア前に設置されたインターフォン?


 わたしはどうやら寝ていたようです。ですがそんなに時間は経っていないみたい。一時間くらいでしょうか。閉じたカーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいます。


 一体誰でしょう? あ、ミドちゃんかな? ドア前のインターフォンだもんね。

 気だるげな体をベッドから持ち上げ、わたしは入口へ向かいます。鍵を解錠し、ドアを開けると、


「あ、モモ、大丈夫?」

「!?」

 そこに立っていたのは、翔平くんでした。


「翔平くん? 何で?」

「モモが体調悪そうだったから、何か作ってあげようと思ってさ。とりあえずミド姉の家にあったもので軽く即席のおかゆでも作るよ」

「ミドちゃんは?」

「ミド姉は今、食材の買い出しに行ってくれてるよ。帰ってきたら、体にいいもの作ってくれるってさ」

「そう、なんだ」


 わざわざ看病に来てくれるなんて、優しいです。ミドちゃんもありがとう。


 翔平くんはうちのキッチンを借りると言っておかゆを作り始めました。あぁ、夢みたいです。好きな人に看病されるなんて、少女漫画の世界ですかここは! また熱が上がっちゃいますよ。

 即席のおかゆのため、すぐに作り終わった翔平くんは、皿に入れて持ってきてくれます。うん、美味しいです。少しの塩気があって食べやすいです。


「そういえば、昨日のフィギュアをプレゼントしたのって、ミド姉だったんだね」

「う、うん。そう」

「ミド姉がすごい喜んでたよ。今日ここに来るときに嬉しそうに話してたんだ」

「うん。昨日渡したとき、すごい喜んでくれた。翔平くんの言う通りだったよ。ありがとうね」


「諦めなくて良かったね! おかげで、イイモノが手に入ったじゃん」

「!」


 わたしはその言葉を聞いて、口の前まで運んでいた蓮華を止めました。何でしょう? 今、自分の心の中で何かが動きました。


「モモが諦めなかったから、ミド姉があんなに喜んでくれたんだよ。良かったじゃん」


 何でしょう。ただのフォローのはずなのに、その言葉が妙に今のわたしには響きます。

 ミドちゃんと勝手に比較して逃げているだけのわたしには、「諦めない」という言葉がよく響きます。


 わたしは、クレーンゲームを思い出します。わたしが何度もトライしていたのは悪い店員さんに騙されていたから。諦めないで頑張っていたというわけではありません。

 しかし、最後の一回は、ただただミドちゃんの笑顔が見たいがために諦めませんでした。あそこで逃げていたら、景品を採ることはできなかったでしょう。


 諦めなければ、必ず手に入るというわけではありません。世の中は残念ながらそんなに都合よくできていません。不条理で、理不尽で、実力主義の世の中です……。


 だけど、今回は! この初めての初恋は……、ただ逃げるだけで終わらせたくない! 何もしないで終わらせたくない! 

 わたしが、初めて好きになった人だから! 

 わたしは、この恋から逃げない! ミドちゃんにも負けない! わたしが手に入れたいものは、自分で掴み取る! 


 わたしは、これをきっかけに、変わってみせる! 


 気がつくとわたしの気分は、寝る前と比べると格段に良くなっていました。


 *


 次の日の夕方、すっかり元気になったわたしは、昨日ミドちゃんがわたしのために中止にしてくれた資料集めに付き合うことになりました。大学の正門で待ち合わせ、近くの公園二箇所に行く予定です。


「お待たせ(もも)ちゃん、ってわ、ばっさり切ったんだね!」

「うん、心機一転してみたの。どうかな?」

「うん、すごく可愛いよ! 私はこっちの方が好みだよ! 何だか、大人っぽくなったね!」

「そうかな? 良かった!」


 体調も戻ったわたしは、昼に美容室へ行ってきました。それまでのボサボサで跳ね放題だった髪をバッサリと切り、肩より上のショートヘアにしてもらいました。おかげでボサボサ感もなくなり、ふんわりとした可愛い髪型になりました。毎日セットするのがちょっと大変そうです。


 これは、今日からは今までのわたしとは違うというわたしなりの決意表明。何もしないで逃げるだけじゃない。譲れないものを諦めないために頑張ると、自分が鏡の前で再確認できるように、大きくイメチェンしました。髪を切るだけで、気分もかなり違います。


「そうそう、ミドちゃん。ミドちゃんの弟くん、本当に可愛かったね」

「そうでしょ!? 翔ちゃん、可愛いでしょ!? 顔だけじゃなくて、行動も性格も大好きなんだから!」

「ふーん、そっかー」


 わたしは、下を向いて口を緩めます。そして、いたずらな笑顔でミドちゃんに向かって挑戦的な一言を放ちます。


「どうせ大人っぽくなったんなら、ミドちゃんの弟くん、わたしの弟にしちゃおうかな?」

「えー、それはダメー! 絶対ダメー!」

「ふふん、どうかな? わたしも一応翔平くんより年上だし、姉になれちゃうかもよ。わたし、頑張っちゃおうかな? ね、ミドちゃん」

「翔ちゃんのお姉ちゃんは私一人で十分だから!」


 ミドちゃんは困った顔をして手をぶんぶんしている。まったく、相変わらず可愛いんだから。

 そんなミドちゃんにわたしは、人差し指を突きつけ、一言言い放った。


「ミドちゃん、わたし、負けないからね!」

「へ? 桃……ちゃん?」


 不思議そうにするミドちゃん。わたしは、右手を下ろし、後ろに手をやってニコッと笑った。


「な~んて! じゃあ行こうか! ミドちゃん」


 そう一言言って、公園に向かって歩きだしました。


「え? ちょっと桃ちゃん、それどう言う意味? ねぇってばー」


 ミドちゃんは気になって仕方がないようです。わたしは「だから冗談だよ~」と言って流します。そんなやりとりをしながら、陽の延びた夏前の空の下を歩いていきます。


 わたしはこれを機会に変わる。結果的に上手くいってもいかなくても、とりあえず頑張ってみようと思います。だって、せっかくの初恋なんだもの。


 ミドちゃんには負けません。翔平くんは、わたしが振り向かせてみせます!


 第7話を読んでいただきありがとうございます!

 今回は、恋する乙女、桃果の話でした。

 今までラブコメの「コメ」しかなかったこの作品ですが、ついに「ラブ」要素を出すことができました!よかったです。

 まぁ、作品を作るにあたって一応主要キャラのことは考えていたので出そうと思えば出せたんですけどね。朱里、大樹、そして桃果と、新キャラをバンバン出しすぎても混乱するかな~と思って、結局7話という結構あとに出す形になっちゃいましたね。


 今回の話で出てくる悪いゲーセン店員は、たまたまニュースで見た事件をモデルにしてます。最初は不良に絡まれているところにしようかと思ったんですけど、「この街って不良いるのかな?」とかいうどうでもいい疑問が浮かんだのでやめました(笑)

 ちなみにゲーセンの店員さんですけど、こういう悪い店員さんは特殊ケースということを断っておきましょう!それこそ、事件になるくらい特殊です。私もクレーンゲーム好きでよく遊ぶんですけど、超下手くそなんですよ。それで、店員さんにコツとか聞くと、店員さんは筐体の中の景品を採れやすいようにずらしてくれるんですよね!しかも、どの位置を掴めばいいかも教えてくれます。結果、私は500円以下で景品を採ることに成功しました!

 こういう経験が何回かあるので、基本ゲーセン店員さんは優しいです!ただ、見本としてプレイして見せることは禁止されているみたいですね。ゲーセンによって違いがあるのかは分かりませんけどね。


 今回はこの辺で終わりましょう!相変わらず長いあとがきになっちゃいました。

 いつも読んでくれている読者の方々、ありがとうございます!それでは第8話でまた会いましょう!


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