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第44話「岡村翔平は会いに行きたい」③

「ミド姉、久しぶ……」

(しょう)ちゃーーーーーーーーーーん!!」

「……り――わっぷ!」


 改札を出て、待ち人を発見した俺が声をかけようと手を上げると、同時に気づいた待ち人は大声で俺の名前を呼びながらこちらにダッシュしてきて、両手で俺を力強く抱きしめた。


「久しぶりの翔ちゃんだーー!! ハァァァ、翔ちゃん、翔ちゃん!」

「ミ、ミド姉……。苦しいです……」


 ギューッと抱きしめるミド姉の手はいつもよりも強かった。密着度合いも普段より高く、ミド姉の胸が俺の胸に当たっていて恥ずかしい。大きな駅の改札前ということもあり、俺の顔は赤くなる。


 けど、それ以上にこうしてミド姉に触れ合えることが嬉しい。三ヶ月以上も触れ合えていなかったミド姉と久しぶりに触れ合い、目の間に自分の恋人がいるということを実感する。あぁ、幸せだ。


「会えなくてすっっっっごい寂しかったんだから!」

「僕もです。だからこうして、はるばる会いに来ちゃいました!」

「嬉しい! 本当にありがとう! そうだ、第一志望の公務員試験、一次試験を受かったんだよね! おめでとう!」


 間近で見るミド姉の太陽のような笑顔も久しぶりだ。今までは画面上で見ていただけだったから、太陽を遮光板越しに見ているかのようだったけど、やっぱりミド姉の笑顔は直接見るのが一番可愛い。いや、まぁ太陽は直接見てはいけないんだけどね。


 ミド姉は少しの間、俺に抱きつき続けていた。


「ハァ、翔ちゃんの匂い、生の翔ちゃんの声、翔ちゃんの感触……。全てが愛おしい……」


 といやに恥ずかしいことをストレートに言ってきて、改札前で他の人による視線が痛かったが、構いはしなかった。あまり会えないんだし、これくらいは我慢だ。


「それではミド姉、今日はせっかくなので四国を楽しみましょうよ!」

「う、うん! そうだね。せっかくだもんね! 私が案内しちゃうよ!」


 と、ミド姉は俺から離れて、再び笑顔になる。一瞬、言葉が詰まった気がしたけど、久しぶりの再会で接し方が混乱しているのかな?


「じゃ、行こ!」


 俺は気にせず、ミド姉に続いて歩き出した。


 *


「僕、四国って来たことがないから新鮮ですよ~。特にうどん。美味しかったですね~」

「そうだね、美味しいよね」

「けど、意外とこの辺って栄えていますよね? 立派な街ですし」

「私の住んでいるところは、もっと何もないよ? スーパーも遠いしコンビニもちょっと歩かないとないしね」

「そうなんですね」


 観光名所である大きな城を横目に見て会話をしながら歩く。立派な天守閣だ。


 やっぱり知らない土地に旅行しに来るのは楽しいな。それに、ご飯も美味しかったし。東京では全国の美味しいグルメが食べられるけど、旅先で食べるのは一味違う。あんなにコシがあるうどん、食べたことないもん!


 それにミド姉とこうして話しながら歩くの、やっぱり楽しい! 同じ顔を見ながら話すのでも、画面越しと直接じゃ全然違う。二時間話しても、疲れないや。


「さて、次はどこに行きます?」

「えっと、そうだね。次は……」


 ただ、少し気になることがある。何だかミド姉、元気ない?


 いや、もちろん傍目から見てると元気であるのに違いはないんだけど、なんていうかこう、本調子じゃないって感じがする。体調が悪そうには見えないし、笑顔なんだけど、違和感みたいなものを感じる。もちろん、俺の気のせいなのかもしれないけど。


 ……はっ! もしかして、今日巡ってるところがあまり面白くないとか? よく考えたら、この辺は四国の中でもかなり栄えた場所。もちろん、観光名所としても名高い。最近ミド姉は遊びに来たばかりで、退屈しているとか? けど、俺が行きたいって言うから気を遣って言い出せないとか?


 ミド姉をよく見たら、言い出したいことがあるのにこの場では言い出せない様子にも見える。俺の行きたいところばかりではなくて、彼女の意向も聞くべきだったかもしれない。


「あ、あの……、ミド姉。ミド姉の行きたいところがあれば、遠慮なく言ってくださいね?」

「そ、そう……? けど、その……」


 ためらいが見られるが、俺はミド姉が言い出すのを待った。するとミド姉は、俺の右手を両手で掴んだ。


「もう、我慢できない! あのね、翔ちゃん! 私、すぐにでも翔ちゃんと二人きりになりたいの……!」


 瞳を揺らしながらミド姉はそう言った。


「……? 今でも、二人きりだと思うんですけど?」

「違うの! そうじゃなくて、そうじゃなくて!」


 最初はイマイチ理解できなかったが、ミド姉が頬を染めて熱っぽく言うその様子を見て、俺はどういうことなのか察した。


「そりゃね、翔ちゃんと一緒に観光名所を巡ったり美味しいもの食べに行ったりするの、すごい楽しいんだけど。けど、久しぶりに翔ちゃんに会えたんだし、せっかくなら私、もっと翔ちゃんとイチャイチャしたいの! だけどまだこんなお昼だし、翔ちゃんは四国に来るの初めてだし、色んなところ見たいかなって思うと、言い出しづらくて」


 ミド姉は不安そうに言った。


 ……なるほど。ミド姉はもしかしたら、不安を感じていたのかもしれない。俺たちは遠距離恋愛で、気軽に会うことはできない。今日だって対面するのは四ヶ月ぶりだ。


 それに、俺の周りには、ミド姉の恋のライバルだったモモや、元カノである碧がいる。ミド姉が俺を信用してくれていないとは思わないけど、自分のいないところで何か起こってしまったらと考えると、不安になる気持ちも出るだろう。


「……ダ、ダメかな?」


 上目遣いでそう尋ねるミド姉に対して、俺も胸中を正直に述べた。


「実を言うと僕も、ずっと我慢してたんです。ミド姉に触りたくても、離れていると触れないですし」

「本当に?」

「もちろんですよ! けど、こんなこと僕から言うと、下心ばかりで嫌われるんじゃないかって思うと、中々言い出しづらくて……」

「あはは、そう思うよね。そっか、翔ちゃんも私と同じ気持ちだったんだね」

「えぇ」


 画面越しの通話で何度も同じことを思った。その場でミド姉に触りたくなっても……、エッチなことをしたくなっても、叶わない。こういうことを思ってしまうのは、男の邪な欲求が原因だと思っていたけど、俺だけじゃなくて、ミド姉も同じことを思っていたのか。


「けどもう、我慢できませんよ?」

「うん。私、今すぐにでも翔ちゃんに愛して欲しい」

「流石にここでは無理ですよ……。なんで……、行きましょうか」

「うん。市街地だから、……あるよね?」


 俺たちは互いの胸中を打ち明け合い、目的地に向かった。久しぶりだから、何だか緊張する。ミド姉も同じだろうか? 少し、緊張している様子が見受けられる。


「……久しぶりだから、いつもみたいに激しいのより、ゆっくり丁寧にお願いね?」

「……僕、いつもそんなに激しくしてましたっけ?」

「そりゃあもう! まるで野獣だよ! 可愛い顔しておっかないんだから!」

「まぁ、ミド姉が可愛いからしょうがないんですけどね」

「もぉ~。エッチな弟くんだね、翔ちゃんは」


 沈黙の緊張を解そうというミド姉の計らいなのか、無理やり会話を作ろうとする。余計緊張が高まった気がするが、それでも目的地までの沈黙状態を回避することには成功した。



 離れていた期間にできた溝を埋めるように俺たちは、お互いを愛し合った。


 *


 ミド姉と過ごす三日間は、驚く程早く過ぎた。


 四国の観光名所を周り、レンタカーでドライブしたり、カノジョとイチャイチャしたり。


 どうせならということで、レンタカーを利用してミド姉の住む家にも行った。今回は、部屋が汚いということで見るだけに留まった。そういえばミド姉、掃除苦手だったな……。入居した時にちゃんと注意していれば良かった……。


 あまり古くなさそうで見た目も悪くはないのだが、何分立地が悪い。ミド姉の言うとおり、駅まで歩くのも近くはないし、周りには飲食店や小売店が数店舗あるくらいだった。


 なんでこんなところ借り上げたの? 



 俺たちは、新幹線が発着する駅に来た。四国には新幹線が通っていないため、一度本州での乗り換えが必要だ。飛行機なら、直接四国に着陸できるんだけど、飛行機代は新幹線代より高い。今度は、もっとバイトしてお金を増やしておくか。


「翔ちゃん、来てくれて嬉しかったよ!」

「はい。また来ます!」


 新幹線のホームでミド姉とお別れの挨拶をする。もっと一緒にいたいが、俺は明日、週に一度のゼミがあるし、ミド姉は仕事だ。有給をとって三連休にしてくれたんだし、これ以上休ませるわけにもいかない。


「できるだけ近いうちに、また来ますね」

「うん。けど、無理はしないでね。翔ちゃんは四年生でこれから忙しいだろうし」

「無理なんかじゃないですよ。僕がそうしたいんです! それに、四年生と言っても学生ですし、上手いことやれば時間くらい作れますよ」

「本当に!? 嬉しい! それじゃ、またすぐに会えるのを楽しみにしてるね!」


 二人ともお互いを望んでいる。遠距離恋愛になっても、気持ちが変わっていないことを確信できたことで、改めて、会いに来て良かったと思った。


「翔ちゃん」


 ミド姉は、俺に近寄ってキスをした。突然のことで一瞬戸惑ったが、俺も彼女の背中に手を回し、抱きしめながらキスをする。


 幸い、ホームの端っこまで歩いてきたので、人は少なかった。少ない人も、俺たちの方を向いている人はいなかったので、誰の反感も買っていないだろう。


 少しして、新幹線が駅に到着した。俺たちは名残惜しみながらも、最後まで笑顔でやりとりし、俺は新幹線に乗り込む準備をする。


「しばらくまた遠距離だけど、元気でね!」

「はい。お互いに、頑張りましょう!」


 カノジョに見送られながら、俺を乗せた列車は発車した。窓からミド姉を見ると、両手で大きく手を振っている。俺も小さく手を振り返し、やがて彼女は見えなくなった。



 遠距離恋愛は辛いこともあるけれど、こうして長い期間を空けていただけ、絆も愛情も強くなった気がする。やっぱり会いに来て良かったな。何度でもそう思う。


 寂しいけれど、俺もバイト頑張ろう。もっとバイトでお金を稼いで、今度は移動時間を短くする。その分、ミド姉と一緒にいられる時間が増えるんだから。


 愛するカノジョの顔を思い浮かべる。新たな決意を胸にし、外の景色を眺めた。俺を乗せた新幹線は、景色を一瞬で置き去りにしながら、東京方面へ走っていくのだった。


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