表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/144

第42話「岡村翔平は結果が知りたい」③

「はい、(しょう)ちゃん! これ、バレンタインのチョコレートだよ!」

「ありがとうございます、ミド姉! 嬉しいです!」


 満面の笑みで可愛らしくコーディネートされた包箱を俺に手渡すミド姉。


 今日は二月十四日、バレンタインデー当日だ。今は試験を終えた夕方、ミド姉の家におじゃましている。


「けどまさか、手作りチョコを当日にもらえるなんて思わなかったですよ。卒論、大変じゃなかったですか?」

「うん……。ものすごく大変だった……。漫画書いてる時より大変だった……」


 俺が質問すると、ミド姉はげんなりした様子で語った。ほぼ徹夜の状態が数日続いたこともあったらしい。

 けど、一月の下旬から本格的に卒論調査を始めて二月中旬に論文まで書き終えるって、すごい速度だよね。その上、チョコを手作りするなんて、ミド姉のハイスペックぶりを再確認できる。


「けどね、翔ちゃんのこと考えてチョコ作りしている時は、楽しかったよ♪」

「そうなんですか。それならいいんですけど」


 箱を開けると、トリュフが四つ入っていた。一つをつまんで口に放り込むと、濃厚なチョコレートの味が口に広がる。


「作ってる途中に何回か失敗しちゃって、結局四つしか作れなくてごめんね」

「いや、これすごい美味しいですよ! ちょっとビターな味が僕好みです!」

「ほんと!? 喜んでもらえて嬉しいな♪」


 甘すぎるお菓子って俺、あんまり好きじゃないんだけど、これは違う。トリュフの中に入ったビターチョコレートが適度な苦味を出している。きっとミド姉が俺の好みに合わせて作ってくれたんだ。心遣いが嬉しい。今年もらったチョコレートの中で、……いや、今までもらったチョコレートの中で一番美味しい!


 余談だが、今年はなんと四つもチョコレートをもらった。ミド姉を入れると五つだ。去年も一昨年もゼロだったので、年別の折れ線グラフにしたら傾きがすごいことになりそう!


 一つ目、二つ目はモモと朱里(しゅり)。モモが朱里にチョコ作りを教えた時に作ったものだ。モモもその時に自分の分を作ったらしくて、それを俺にくれた。


「本命チョコとして受け取ってください」と言われたらどうしようかと思ったけど、モモは義理と断ってから手渡してくれた。内心どう思っているのかは分からないけど、俺が受け取りやすくなったのは事実なので、感謝だ。


 朱里も一応、俺がアドバイスを送ったことに対してのお礼と言って、チョコをくれた。相変わらず「ありがとう」とは言われなかったけど、感謝する気持ちは伝わったからいいや。


 今日、大樹(だいき)のサークル活動が終わったら約束を取り付けてあるらしいけど、どういう結果になるんだろう。大樹は、朱里の告白にどう対応するんだろう。それが気になったが、悪い結果にはならないはずだ。


 すごく気になるが、今気にしても仕方がない。また後日、話を聞いてみるかな。


 三つ目は、緋陽里(ひより)さん。「いつもお世話になっておりますので」と言われたけど、お世話になっているのは明らかに俺の方だよな~。以前、お礼の品を贈ったことがあったけど、それよりも感謝を込めて、ホワイトデーにはお返ししないとな。


 四つ目は、(あお)。正確にはまだもらっていない。


 先日、「義理チョコでいいので、受け取ってもらえますか?」とメッセージアプリに連絡がきた。最初は拒否しようと思ったのだが、わざわざ碧が手作りしたと言うので、何だか申し訳なく思った。


 しかも、俺に義理チョコをあげたいというのをわざわざミド姉にメッセージを送って許可を取ったらしい。そこまでされてはもらわないわけにはいかないので、後日、もらうことにした。ミド姉にも渡すつもりらしいから、きっと謝罪やら感謝やら、色々と込めているんだろう。


 ミド姉のくれたトリュフを三つだけ食べ、あとは後日食べようと取っておくと言うと、ミド姉は何故か「あ~ん、可愛い~」と言ってローテーブルの前に座っている俺に抱きついてきた。


 可愛いのか!? いいじゃん! 楽しみを一日で終わらせなくても!


 きっと相当なストレスが溜まっていたんだろう。これまで、漫画も書かない。俺にも会わないで卒論ばかりやっていたんだからね。



「それでミド姉、一応聞きますけど、発表は無事に終わったんですか?」


 スキンシップの軽減を図ろうと、別の話題に移す。ミド姉は夢中で頬ずりしていたが、我に帰ってスキンシップを緩めた。

 なにせ作業期間がすごく短かったからね。大丈夫だとは思うけど一応、問題なく終えられたのかどうかの結果が気になる。


「うん、問題なし! これであとは何もしなくても大学を卒業できるよ!」

「それは良かったです! お疲れ様」


 子供のようにブイサインで結果を伝える。良かった。これで、大学の卒業を待つばかりか。


 去年の暮れぐらいから本当に大変だっただろうな。漫画と卒業論文の両立。それをミド姉は見事にこなした。漫画も、俺や染谷(そめや)さんが見る限りはいい出来だったし、ミド姉は本当にすごい!


 けど、そうか……。大学の卒業か。少し寂しい気がするな。出会って一年も経っていないけど、一年以上一緒にいた気がしてしまう。


「何を考えているの?」


 笑顔のミド姉が尋ねてくる。ミド姉の卒業を考えていたら、少しぼーっとしてしまったみたいだ。

 いけないいけない。今日はミド姉の卒論発表が無事に終わった日。俺もそれを祝福して楽しくしないと。


「いや、何でもないですよ。こうしてミド姉とイチャイチャできるのは楽しいな~って思ってただけです」

「~~。最近の翔ちゃんは、平気でそういうこと言うんだから~。嬉しいけど」

「そ、そうですか? まぁここは人前ではないですし」


 俺が愛情表現をすると、ミド姉は照れた。自分からはグイグイくるけど、不意打ちでこうやって素直になられるとミド姉は弱い。哀愁を何とかごまかせたようだ。


「今日は何もかもから開放されたから、翔ちゃんとずーーっとイチャイチャしたいな~」


 ミド姉はチラッと上目遣いでこちらを見る。照れながら言うミド姉があまりにも可愛くて、今度は俺が赤面してしまう。


 俺のカノジョ、可愛すぎない? 世界一可愛すぎない? この人、俺より歳上なんだよ? なのにこんなに甘え上手で、たまに歳上らしくて甘やかし上手なんだよ?


 やべーわー。歳上カノジョ、最強すぎる!


 俺はしばらく答えに窮して、その後「ふぁい!」と見事なテンパりを見せる。まるで友人、モモのように盛大に噛んでしまった。恥ずかしい。


「ぼ、僕もミド姉と一緒に……いたいです……」

「やった♪ 翔ちゃんと一緒~」


 と、嬉しそうにするミド姉を見て、俺も自然に頬が緩んでしまう。さっきまで感じていた寂しさもどこかに吹き飛んでしまった。


「それじゃあ、ご飯作ろうか。一緒に作らない?」

「はい、作りましょう! 今日は何にします?」

「そうだな~。冷蔵庫の中身確認してみようか!」


 お互いに立ち上がり、キッチンに向かおうとすると


 ブーブーブー


 ローテーブルの上に置かれていた、ミド姉のスマホが震えた。どうやら電話のようだ。


 ミド姉が画面を見ると、着信の相手は漫画編集者の染谷さんだった。


「そ、染谷さん?」

「まさか……」


 ついに来た。ミド姉が応募した漫画賞の結果。学生最後の、漫画家になるためのチャンスの結果発表だ!


 漫画賞の結果は、今後の俺たちに大きく関わる。


 ミド姉の就職先は、旅行会社の四国支部。もしも落選した場合、東京都に住む俺とは離れ離れになり、遠距離恋愛になる。


 しかし、大賞と準大賞を取れば、連載が確約する。その場合ミド姉は、東京に残るそうだ。就職先には大変失礼ではあるが、ミド姉はそれも承知で、漫画家として働くそうだ。


 仮に連載が確約しなくても、受賞していれば、連載への道は切り開きやすくなる。その場合、結果次第で、なるべく早く東京へ戻ってこられる。一時的に遠距離恋愛になるが、受賞するとしないではその後のモチベーションや、編集社からの注目という意味でも大きく違う。


 俺たちの間に緊張が走る。ミド姉は、恐る恐るで画面をスライドし、通話に入る。


「もしもし」

『染谷だけど。賞の結果が出たから、伝えるよ』


 ミド姉の未来が決まるかもしれない結果発表が、染谷さんから告げられた!







『ダメだったみたい……』


 第42話は、実は大樹が朱里のこと気にしていることが明らかになる話でした! はい、実はそうでした(笑)あからさまな雰囲気こそ出してはいませんでしたが、「あれ? そうなのかな?」と思わせるような描写は出したつもりです。分かりにくいですけど。


 大樹は女性から言い寄られるのに慣れているので、これといって動じたりしません。なんで、突拍子もない暴露になったかもしれませんね。

 ちなみにバレンタイン当日になって告白の描写を出しませんでしたが、朱里と大樹、二人がどんな会話をしたかはご想像にお任せします笑


 そして突然ではありますが、今回、第42話であとがきを書くのを終了したいと思います。理由は物語が終盤に近づいていて、もうあとがきで語ることもないかなと思ったからです。何も語らずに皆様に物語の終結を見届けてもらえたらなと思います。次にあとがきを書くのは、最終話の後、「今作品におけるあとがき」かなと思います!

 あとがき書くの、楽しかったんですけどね~。まぁもう蛇足なんで。。けど、宣伝のために書いているツイッター上での紹介文は最後まで書いていこうと思っています! これも結構、考えるの楽しかったりするんですよね!(^O^)


 さて、染谷さんに告げられた賞の結果を受け、翔平と翠、二人は何を思い、これからどうするのか? このまま離れ離れになってしまうのか? 次回に続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ