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第39話「設定姉弟は贈りたい」③

 花森翠(はなもりみどり)


「わあぁぁぁ!! 見て、(しょう)ちゃん! クリスマスツリーがたくさんだよ!」


 目の前にいくつも並ぶ、ライトアップされたクリスマスツリー。東京都心の商業施設の入口前広場で、キラキラと光るイルミネーション。何色ものLEDライトの光が私たちの目に届き、感動を与える。


「すごいですね。普段はオフィス街なのに、今はまるで、夢の中にいるかのように感じてしまいます」

「うん。幻想的だね!」


 クリスマス。いつもとは違う姿を見せる都心のオフィス街や公園。近くの公園では、すでに夜なのに未だにクリスマスマーケットが開催されているのが見える。多くの店の中に売られたクリスマスグッズや食べ物、本場ドイツのビールなどが、今日が特別な日であることを主張する。


 そんな中、ライトアップされたクリスマスツリーの間を私たちは歩く。周りには、私たちと同じように恋人同士でイルミネーションを楽しんだりする者もいれば、通常通りにビジネススーツに身を包み、帰宅しようとする者もいる。


 多くの人に溢れた場所で、私は翔ちゃんの腕に自分の腕を絡ませて歩く。だが翔ちゃんは、いつもの照れを見せることなく、平然とした様子で歩いている。


「翔ちゃん、今日は人がたくさんいるのに、こんなにくっつかれて平気なの?」

「はい、全然です。慣れもあるのかもしれませんけど、やはり、環境とか周りの雰囲気なんでしょうね。今はむしろ、ミド姉がこんな風に甘えてきてくれて嬉しいです」

「お~! 言ったな~。それなら、もっとこうやってくっついちゃうんだから! ムニムニしちゃうんだから!」

「ムニムニは流石に勘弁してくださいよ~」


 ついついからかいたくなっちゃった。こうして堂々と甘えさせてくれる翔ちゃんもカッコよくて素敵だけど、私のちょっかいに照れる翔ちゃんも、可愛いのよね♪


 やりとりが典型的なバカップルのそれだけど、今日は私たちもその一員。クリスマスの魔力は、やはり凄まじいものだ。恋人と一緒に幻想的な空間を歩くだけで、特別感が段違いだもの! 


「翔ちゃんと一緒に過ごす時間は、本当に幸せ……」

「僕もですよ、ミド姉。世界が、輝いて見えます」


 イルミネーションで彩られた空間を眺め、翔ちゃんは呟く。いくつもの星が散りばめられたかのように、キラキラとした方向を私も眺め、思いを噛み締める。


「このツリーの輝きの一つ一つが、僕たちの仲を応援しているみたいですよね」


 とそこで突然、翔ちゃんの言ったセリフに私は吹き出してしまった。


「翔ちゃん、結構キザなこと言うね」

「なぁ!?」

「少女漫画で出てきたら、女の子が喜びそうなセリフだなって」

「冷静にツッコまないでくださいよ! そこは、雰囲気に飲まれて同意しておいてください!」

「そうだ! 今のセリフ、今度作る漫画のラストシーンに使おう! きっと良い雰囲気で終われると思うの!」

「えぇぇぇぇ!?」


 軽い冗談でそんな妙案を思いつく私。まぁ私の作品、読み切りでそこまで発展させるつもりはないんだけど。


「なんだっけ? 『ツリーの輝き一つ一つが、祝福している』だっけ?」

「やめて!! 思い返すと恥ずかしい!」

「見て、翔ちゃん」

「……なんですか?」

「このツリーの輝きの一つ一つが、私たちを……」

「繰り返さなくていいですよ!」


 手で頭を抑え、悶える翔ちゃん。いけないいけない。つい、からかってしまった。


 私はクスりと表情を緩めると、翔ちゃんに言う。


「けど翔ちゃん。私も、本当にそう思うよ……。冗談でも何でもなく、そう思うよ。恋人たちの幸せに呼応して、星がキラめいているように見える。『これからもずっと、幸せでありますように』って、言っているように見える」

「ミド姉……」


 私たちだけじゃない。周りにいる他のカップルたちも、みんな幸せそうに地上の星を見て感動している。だから、きっとこれは私や翔ちゃんだけが感じていることじゃない。


「だから翔ちゃん。私は、そんなことを言ってくれるあなたのことが、大好きよ」


 嬉しい。こうして、私と一緒にいて、そんな風に翔ちゃんが思ってくれていることが嬉しい。そして、心に留めず、素直に好意を示してくれて嬉しい。だから私もいつも通り、ストレートに好きだと伝える。


「ミド姉……。あの!」


 着ていたコートのポケットに手を入れる。取り出した手の中に一つの箱。


「ミド姉、クリスマスプレゼントです。受け取ってください」


 取り出したのは、綺麗に包装された、直方体の箱だった。水色のリボンで丁寧に包装された白い箱に私は目を奪われる。


「翔ちゃんからのクリスマスプレゼント……。嬉しい……! ありがとう、翔ちゃん!」


 翔ちゃんからの初めてのプレゼント。記念すべき、最初の贈り物だ。出会って、弟になって、恋人になって、初めての贈り物を私は受け取る。


「ねぇ、開けて見ていい?」

「はい、もちろんです!」


 水色のリボンを丁寧に解き、箱を開ける。


 中に入っていたのは、ネックレスだった。チェーンの先端にはリーフのモチーフが付けられ、三枚の葉の根元には一つの宝石がキラキラと光り、存在感を放つ。


「うわぁー! 綺麗!」

「ミド姉に似合うと思ったんです。『(みどり)』という名前にふさわしい、リーフモチーフのネックレスです。最初は、アクセサリーのことなんて全然分からなかったんですけどね」

「ううん! これ、すっごく可愛いよ!」


 先端に付いているのは、エメラルドよね? 確かに私の名前に非常によく合うプレゼントだ。きっと、翔ちゃんが一生懸命考えてくれたんだろうな。


 ……っとっと。私も今のタイミングで。


「私からも、翔ちゃんにプレゼントだよ! はい!」


 持っていたカバンから、赤青チェックの包装紙に包まれた小包を取り出し、翔ちゃんに贈る。縦横十センチくらいの立方体をした箱だ。


 お礼を言って翔ちゃんが受け取ると、私も彼に開封を促す。中身は、銀色で金属ベルトの腕時計だ。


「翔ちゃん、腕時計を持っていないみたいだったから、腕時計のプレゼントよ!」

「わぁぁ! ちょうど、ミド姉のプレゼント探しをしているときに腕時計が欲しいなって思っていたんですよ! カッコイイですね!」

「そうなんだ! それは良かった」


 喜んでもらえているみたいだ。実はすごく悩んだんだけど、これにして良かったみたい♪


「今、これを付けてみてもいいですか!?」

「もちろんいいよ」


 そう言って、翔ちゃんは左手首に腕時計を付ける。だが、ベルト位置の調節がされていない金属性ベルトの太さは、翔ちゃんの手首よりも大きな輪っかを作り出す。


「はは。調節しないと、付けられないみたいですね」

「あ、ホントだ……。帰ってからゆっくりつけてみて」


 今、この場でぴったり装着したところも見たいけど、付属の特殊工具を使わないといけないしね。また今度、見せてもらおうかな。


「ねぇ、翔ちゃん。私もこのネックレス、付けてみてもいいかな?」

「もちろんいいですよ」

「それじゃあさ、……翔ちゃんが付けてくれないかな?」


 そう言って、私はネックレスを手渡し、後ろを向く。翔ちゃんは、ネックレスを女の人に付けてあげたことがないようで、エラく緊張した様子だったが、不慣れな手つきながらも私の首の前から後ろへ、チェーンを回す。私は目を閉じて待った。


「はい。できました」


 目を開けて首元を見る。視界の端に僅かに見える、緑色に光る綺麗な宝石。存在を確かめるようにリーフのモチーフと宝石を触ると、そこには確かに、翔ちゃんの温もりが詰まった宝物があった。


 翔ちゃんの方を向き、「どうかな?」と尋ねると、


「とっても……綺麗です……」


 と翔ちゃんは答えた。翔ちゃんからの褒め言葉に再び嬉しくなり、エヘヘと笑った。


 あぁ、幸せだ……。翔ちゃんと一緒にいるのは、本当に幸せ。彼を『弟』として見ていたあの時より、何倍も心が満たされている。


 何度好きだと言っても足りないくらい、私はこの歳下の男の子のことを愛している。


 だから私は、翔ちゃんと……。


「ミド姉」


 私が翔ちゃんに声をかけようとした瞬間、一足先に翔ちゃんが私の名前を呼んだ。少しだけ高い目線から、緊張を孕んだ瞳で翔ちゃんは私の目を見ている。私はただただその顔をポーッと熱っぽく眺めて、悟る。


 ……そっか。翔ちゃんも同じ気持ちでいてくれているんだね? 今度は翔ちゃんから……、してくれるのね?


 私は目をつぶる。目の前は何も見えないが、自分から発せられる心臓の鼓動の音は妙に大きく聞こえた。肩に置かれた両の手からは安心感を覚えるが、同時に翔ちゃんからの緊張感も伝わってきて、それが私にも作用する。それでも不安を感じることはない。


「好きです、ミド姉」



 私たちは唇を重ねた。



 柔らかく温かな感覚を唇から受け取る。弟へのお礼じゃない……。頬ではない……。文字通り、唇と唇のキス。


「……ん」


 思わず漏れる吐息。永遠にこの時間が続いて欲しいと思える程に、幸福感だけが私の頭を満たした。以前、翔ちゃんの口横へ一方的にした口づけとは、全然違う。


 やがて離れる唇。ほんの数秒間の出来事だけど、脳内麻薬が分泌された私の頭は、すでにトロけていた。私は今、ものすごくだらしない表情をしているに違いない。


「そ、その……。どうでした?」


 何と言っていいのか分からないのか、そんなことを尋ねる翔ちゃん。キスの感想を聞くとか、慣れていない感じがバレバレだ。


「……しゅき」


 ……かく言う私も、キスなんて初めてなので、上手いこと呂律が回らなかった。


「『しゅき』ですか。僕もしゅきですよ、ミド姉」

「あ! ち、違うの! これはちょっと噛んじゃっただけで!」

「あはは。ミド姉、可愛いですね」

「むぅ~……。翔ちゃんのいじわる……」

「さっきのお返しです」


 翔ちゃんは子供のように無邪気な笑顔になり、それを見て私もあははと笑った。感じていた緊張も解れ、良くも悪くも、いつも通りの私たちの雰囲気に戻る。


「翔ちゃん、大好き♪」


 改めて、私は翔ちゃんに好きの気持ちを伝える。もう、今日何回目になるか分からない。けど、何度でも言いたい。


「僕もです、ミド姉。好きです」


 翔ちゃんもそれに対して素直に返す。そして、


「これからもよろしくお願いします。ミド姉」

「うん。これからもよろしくね!」


 私たちは指を絡めた。これから先も一緒にいる未来を願って……。


 光の中で、私たちはお互いの顔を見合わせて笑った。


 *


 三日後。


 翠のスマホに一通の連絡が入る。家にいた翠は机の上に置かれたスマホを手に取ると、画面を指でスライドして、通話をオンにする。


花森翠(はなもりみどり)さんの携帯電話でしょうか? わたくし、株式会社××の者です。本日は内定者にご連絡事項があり、お電話差し上げました』


『花森さんの勤務地が決定しましたので、ご報告いたしますね』


『花森さんの勤務地は、四国支部になりました。つきましては後日、改めて書類をお送りさせていただきますので、よろしくお願いします』


 第39話を読んでいただき、ありがとうございました。今回は、翔平の買い物続編、桃果と碧の二人での会話、そして、クリスマス話でした。


 書いてて思ったんですけど、緋陽里さんってやっぱり一番お姉さんキャラに向いているっていうか、歳上感が一番強いキャラですよね。流石、実際にお姉さまなだけあります!


 そしてクリスマスについて。いやーもうホント何ていうか……。ラブラブですね、この二人。超羨ましいんですけど!(笑)この回を読んで殺意湧いた人は少なからずいるんじゃないかと思いました。。いや、だからって藁人形とか釘とか持ってきたり、スマホをベッドの上に投げたりしないでくださいね? 温かく見守ってあげましょうよ! えぇ! 私は私で彼らに対する罰を何かしら用意しておきますね!←


 それは冗談として、さて……。幸せなまま終わらせてあげられれば良かったのですが、最後のシーンでちょっと不穏な空気を出してしまいました。彼らにどうしようもない現実がのしかかります。次回、詳しく説明するわけではありませんが、大事なところです。覚えておいてください。


 次回は時系列的には新年になります。新年らしいことは特にないです!(ド☆ン!) ではまた!

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