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第39話「設定姉弟は贈りたい」②

 桜井桃果(さくらいとうか)


「そうですか~。トウカ先輩も、(しょう)くんのことが好きだったんですね~」

「うん。さっきも言ったように、フラれちゃったけどね」


 わたしと水無(みずなし)さんは、翔平(しょうへい)くん、そして先に帰った緋陽里(ひより)さんと別れ、駅前のカフェで休憩していました。水無さんは他人と仲良くなるのがとても上手い子で、初対面の人と仲良くなるのが苦手なわたしでも、こうして一緒にカフェで一服できるくらいのコミュニケーション能力を持っていました。


 今は、水無さんに促され、お互いに翔平くんとどのような関係を築いてきたのか恋バナをしているところです。


「けどトウカ先輩~、もったいないことしましたよね~。強敵であるみどりさんに、わざわざ恋心を自覚させるなんて、自殺行為もいいところじゃないですか~」

「う」


 朱里(しゅり)さん同様、水無さんもかなりはっきりとモノを言う子ですね。何だか話し方もギャルギャルしいと言うか子供っぽいというか。見た目と違って意外と中身が大学生な朱里さんとは違って、この子は可愛くて美人だけど、中身が高校生みたいに思えてしまいます。まぁ、そういうところが親しみやすさやこの子の魅力につながっているのかもしれないですけど。


「元カノのワタシが言うのもなんですけど、言わなければ、今頃翔くんと付き合えていたんじゃないですか~?」


 水無さんの言葉を聞いて、わたしは考えます。

 もしも、あの時わたしがミドちゃんに何も言わなかったら。そして、その状態でわたしが翔平くんに告白して、きっと一度フラれて、その後……。


「ううん。きっと、結果は変わらなかったよ。翔平くんは、ミドちゃんのことを好きになったと思う」


 そうですね。きっと変わりません。わたしでは、翔平くんを立ち直らせることはできませんでした。それをできたのは、ミドちゃんでした。それに、その出来事がなくたって、きっと……。


「わたしは、ミドちゃんに翔平くんのことが好きなんじゃないかって教えたこと、後悔なんてしていないよ。結果だって、残念なものになったけど、納得してる」


 わたしは本心を伝えます。改めて自分に問いかけても、わたしは本当に後悔などしていませんでした。悔しがり、悲しがり、泣いたりしたけど、わたしは心の底から結果に納得していました。


「ふ~ん。そうですか~。トウカ先輩は、もう翔くんに告白したり、迫ったり、しないんですか?」


 これ以上の追求をしても意味はないと悟ったのでしょう。水無さんは話題を少しだけ転がして、そんな風に聞いてきます。


「そうだね……。チャンスがあれば、わたしも考えてはいるよ。翔平くんのことが好きな気持ちは、まだ残っているからね。けど、一応わたしの初恋は終わったわけだからさ、本当にそういう状況が訪れて、それでもまだ翔平くんのことが好きだったら……くらいの気持ちかな?」


 本当は、フラれた人への恋心なんて忘れてしまうのがいいんでしょうけどね。気持ちというのはそう簡単に変えられないみたいです。ですけど、良い人が現れてくれるといいなと、前向きな気持ちを持つことはできています。なので、特に心配とかはありません。


「そういう水無さんは、やっぱり翔平くんのことをまだ狙っているの?」

「ワタシですか? 当然じゃないですか! ワタシはまだ、翔くんのことを諦めてなんていないですよ!」


 力を込めてそのように言う水無さん。先日、翔平くんにフラれたと聞いたのですが、諦める様子など、一切ないようですね。


「ミドちゃんと翔平くんの仲を引き裂くようなことは、しちゃダメだよ?」

「そんなことは考えていませんってば。けど、翔くんとみどりさんの交際が、これからずっと続くとも決まっていないじゃないですか。みどりさんは就職して、翔くんは在学するわけですし。会う機会が減って、自然消滅だって考えられますよね? チャンスはいくらでもあるんですよ。だから、絶対に諦めません」


 机の上に置かれたケーキをひょいっとフォークですくって、口に入れる水無さん。何とまぁ、真っ直ぐな考え方をする子なんでしょうか。好きな人に恋人がいても、全力で突っ走る。まるで、猪。猪突猛進ですね。


「ふ~ん。そうなんだ」


 わたしは、水無さんの考えを聞いて、軽い相槌を打ちます。そのまま強い意志を語る水無さんを、ホットコーヒーを飲みながら眺めます。


「今、いくらみどりさんと上手くいっていたとしても、どこかで歪みが生まれることは十分にありますからね。ワタシがそうでした。だから、それを狙っていきますよ」

「そう簡単には上手くいかないとは思うよ? 翔平くんとミドちゃんは、本当にお似合いだからさ?」

「それは、ワタシだってそうでしたよ」

「そっか、ごめんごめん」

「みどりさんの邪魔はしませんけど、そうやって油断した時には、遠慮なく奪ってやるんですから!」


 そう語る水無さんは、本当にまだ全然諦めていない様子。同じ人を好きになって同じようにフラれてしまったわたしと水無さんではあるけれど、そこが違うみたいですね。


「程ほどにね」


 水無さんにそうやって意見を送る。水無さんの前向きさには、関心しますが、あの二人の間に入るのは、難しいのではないでしょうか? 一度、ミドちゃんとライバルになったわたしには、分かります。


 未だにチャンスがあればあるいは……、と思っているわたしではありますが、わたしはそれと同時に、ミドちゃんと翔平くんには上手く続いて欲しいとも思っているのです。あの二人がお互いに与え合う正の影響力は、とても尊いモノですからね。


 そんな風に彼らの絆を評すと、わたしは話題を変え、目の前で気合を入れる女の子と雑談を再開するのでした。


 *


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