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第37話「花森翠は紡ぎたい」③

 エレベーターで一階まで降り、出版社を跡にする。十二月が目前まで迫ってはいるが、外は暖かな日差しに包まれており、そこまで寒くない。

 気分も晴れやかに、私たちは帰り道を歩く。


「それにしても、(しょう)ちゃんは閃きの天才だね! 私も染谷(そめや)さんも、全然気がつかなかったよ!」

「なんか急にパッと思いついたんですよね! 僕も思いついたときは、ちょっと興奮してしまいました!」

「まるで伊○院さんだよ! ○さまとか出たら、ファインプレーの連続だね!」

「ちょっと持ち上げすぎじゃないですか?」


 と言いつつ、まんざらでもない様子の翔ちゃん。そんな照れを見せる様子は可愛くて愛らしい。


「けどミド姉。僕自身良いアイデアだとは思っていますけど、本当にこれで良かったんですか? その、なんていうか、僕が思いついたアイデアで」

「良いに決まってるじゃない! これ以上ないってくらい良いアイデアだと思うけど?」


 どうやら翔ちゃんは、自分の思いつきが正しかったのか、自信がないようだ。その気持ちは分からなくはない。他者の……、ましてや夢がかかっている重大な決断を、自分が決めてしまっていいのかという不安があるのだろう。


 だけど私は、


「それに、思いついたのが翔ちゃんとは言え、私もそれが最高の案だと思って採用した。染谷さんも。だから、翔ちゃんは何も間違っていないし、仮に上手くいかなかったとしても、悪く思う必要なんてない。というか、いい案を出してくれて本当にありがとうって、私は心の底から感謝してるよ!」


 翔ちゃんの提案は、本当に良いものだと思っているから。だから、そう言って感謝を示した。


「すみません、ミド姉。僕、また自分に自信がないところを見せてしまいましたね。大丈夫ですよミド姉! ミド姉なら、すごく面白い漫画を描き上げることができます! それに関しては、自信を持って言えます!」


 翔ちゃんは、力強くそう言ってくれる。いつでも、翔ちゃんは私の可能性を信じてくれている。期待してくれる。応援してくれる。


「けど、そのためにはまずタイトルと具体的な中身ですよね」

「そうだね。これから卒業論文も書かなきゃいけないし、あまり時間もないから集中しないと!」

「そっか。四年生は卒業論文を書かなきゃいけないですもんね」

「うぅ。めんどくさ~い……」

「まぁ、卒業に必要なものですし、これは仕方ないですね……」


 卒業論文を書くより、漫画を描きたい。そう思わずにはいられない……。理系の卒業生よりは楽だろうけど、文系は文系でめんどくさいところがあったりするのよね……。


「けど、いつも言っていますけど、無茶はしないでくださいよ。体が何より大事なんですから」

「ありがとう、翔ちゃん。倒れないように頑張るね!♪」

「はい。もしも本当に疲れたら、連絡してくれたら、その……」


 翔ちゃんは、言いにくそうに口ごもり、顔を逸らす。ハテナを浮かべて私が翔ちゃんの方をじっと見ていると、翔ちゃんはもう一度こちらを向いて、


「僕でよければ、じゅ、充電させてあげますので……」


 と恥ずかしそうに言った。


「えぇーーーー!! なに、なに!? 翔ちゃん、今なんて言ったの!? 私に充電させてくれるって言ったの!? キャーーー!♡ デレた翔ちゃん、可愛すぎるよーーー!」


 通行人の目を気にせず舞い上がる私。翔ちゃんが自発的に「抱きついてもいいよ?」って言うなんて、初めてじゃない!?


「あんまりはしゃがないでくださいよ! 恥ずかしい!」

「だってだってーーー! 翔ちゃんがそんなこと言うから仕方ないよーーー!」

「う、うるさいですね! 僕はミド姉の恋人で設定上の弟ですし、できることは協力したいんですよ……!」


 とぶっきらぼうにそう言った。そんな横顔を見て、私はクスりと笑ってしまう。


「どうせ、『背伸びしちゃって可愛い』とか思ってるんでしょ?」

「ううん。そんなこと思ってないよ。私のカレシは、本当に優しいなって思っただけ」

「~~」


 翔ちゃんは、調子が狂ったような顔をして口を尖らせる。そんな仕草にも萌えてしまうけど、私は本当にそう思ってるんだよ、翔ちゃん。


「ありがとう。体調は絶対に気をつけるよ。翔ちゃんに心配はかけさせられないからね」

「はい、頑張ってください! 十二月いっぱいと一月の最初は会う時間が減ってしまいそうですね」

「そうだね……。けど、絶対に会いたい日はあるの」

「会いたい日、ですか?」

「うん。クリスマスには、絶対に予定を空けられるようにしておくね!」


 クリスマス。恋人がいる人にとっては、特別な日の意味合いが強い。

 初めてできた恋人と、私も例に漏れず、一緒に過ごしたい。今までは、特別そんな感情なんて抱かなかったんだけどな~。乙女の心っていうのは不思議なものね。


「もちろんです。僕も、絶対に空けておきますよ」

(もも)ちゃんや(あお)ちゃんと遊びに行ったりなんかしちゃ、ダメなんだからね~?」

「しないですよ、そんなこと~」


 少々慌てた様子で手を左右に振る翔ちゃん。翔ちゃん自体に疑いはないけど、特に碧ちゃんなんかはすごく積極的に誘ってきそうだから心配だ。


「僕だって、ミド姉と過ごせるのを楽しみにしているんですから」

「ふふっ、冗談だよ。クリスマス、私も楽しみ♪ 空けられるように頑張るからね!」


 笑い合いながら、都心の道を歩いていく。気合と、夢と、楽しみを胸に抱きながら。


 大切な人との物語を紡ぐために。


 季節は冬。初雪はまだだけど、降る日もそう遠くはないだろう。クリスマスもすぐにやってくる。


 そして私の……、学生最後の足掻きが終わる日も遠くない。


 第37話を読んでいただき、ありがとうございました。今回は、翠の漫画賞落選と、新たな応募へ向けて決意する一話でした。


 久しぶりに登場した染谷さんですが、性格を忘れて書くのに戸惑いました(笑)「いつぶりだよ!」って感じ。本当に。個人的にはギャルっぽい大人をイメージしてるので、「チョーうけるね!」って言うところが気にいってます。


 翠の学生最後の漫画投稿がついに始まるわけです。夢に向かって突き進んできた彼女の最後ともいえるチャンス。どうなることやら……。


 では、今回はこの辺で。

 次回……、翔平が浮気!? 

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