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第36.5話おまけ「陽ノ下姉妹とハッピータイム」

 陽ノ下朱里(ひのもとしゅり)


「お待たせ、陽ノ下。ほれ、タピオカ」

「ありがとうございます。先輩」


 町田(まちだ)先輩から渡されるドリンクの容器をお礼を言って受け取る。何でもないことだが、受け取る際に指が触れてしまいそうになり、少しだけ胸を緊張させる。


「(何? このご褒美みたいな時間は……!)」


 美術部での演劇を終えたあたし、陽ノ下朱里(ひのもとしゅり)は憧れの先輩、町田大樹(まちだだいき)先輩と一緒にあたしの女子大で行われている文化祭を回っていた。


 三十分くらい前までは、(みどり)さんや桜井(さくらい)さん、それに翔平(しょうへい)もいたのだが、この三人は朝から来ていたので、文化祭を十分に満喫したようで、先に帰ることになった。町田先輩は、この三人よりは遅れてきたことで、まだ文化祭を十分に回りきれておらず、残ることになった。


 あたしは、これを願ってもいないチャンスと捉え、町田先輩と一緒に文化祭を回らないかと提案し、今に至るわけだ。


七城(しちじょう)の大学祭は女子大ってだけあって甘いものに力を入れている店が多いんだな。もちろん、それ以外の食い物も種類豊富だけど」

「そうですね。一番人気なのは、料理部のハンバーグとテニスサークルのクレープですね」

「ハンバーグもあるんだもんな~。クレープってあれだろ? 『七城クレープ』ってやつ。あんなにクリーム乗せるなんてインパクトでかすぎだろ! 女子の甘いもの好きには尊敬すら覚えちまう」

「そうですよね! あたしも流石にあの量の生クリームは完食できないですよー」

「この前食ったパフェを思い出すな」


 タピオカを飲みながら談笑するあたしと町田先輩。文化祭という盛り上がるイベントに来ているだけあって、話題は次々に生まれて会話に困らない。

 未だにいざ町田先輩と二人きりになると何を話していいか分からなくなるあたしでも、自然と口が開く。とっても楽しい!


「(これ、デートよね!? 正真正銘、デートよね!? 町田先輩と二人きりのデートなんて、初めてじゃない!?)」


 今まで、複数人でのお出かけやらダブルデートはしたことあったけど、二人きりはなかった。だからこそ、今の状況に舞い上がってしまっているあたしがいる。


 演劇で主役を頑張ったあたしに対して、恋の神様からの贈り物かしら? 神もたまには粋なことするじゃない。感謝してあげるわ!


「(あぁ、王子さま……)」


 ストローでタピオカを吸いながら、ちらっと町田先輩の横顔を見て、その横顔のカッコよさに思わず見とれてしまう。まさに、本物の王子さまのごときお方。そんな方とあたしが、今、二人でデートをしているなんて……。大勝利にも程があるわ!!


「おーい、陽ノ下?」

「は、はい!?」


 ぼーっとしていたあたしを起こすように、町田先輩があたしを呼ぶ。


「何ぼーっとしてんの?」

「なななな、何でもないですよ! えぇ! ちょっと世の中の情勢について考えていただけですから!」

「何でそんなこと考えてんの!? 真面目か!」

「ほ、ほら! 最近、問題が多いじゃないですか! セクハラ発言やら悪質なルール違反とか! こういうのって、どうしたら問題が解決するのかな~って思いませんか?」

「うーん。その通りではあるけど、文化祭に来てまで考えることではないだろ……」

「で、ですよね~」


 やば。またごまかすために適当なことを言ってしまった……。いい雰囲気が台無しだ。おバカーーー!!


「それよりよ、次はこの茶道部に行ってみねぇ? 何でも、見事な和洋折衷で人気らしいじゃねぇか」


 話を仕切り直すように、町田先輩が提案する。あたしもほっとして、その提案を聞く。


「そういえばなんですけど、町田先輩はあたしのお姉さまにお会いしたことがないんですよね?」

「そういえばそうだな」

「この茶道部、お姉さまの所属しているサークルなんですよ」

「そうなのか。そりゃ、俄然楽しみになってきたぜ。話にしか聞いたことないからな。それじゃ、行こうぜ!」


 あたしたちは、タピオカの容器を持ちながら立ち上がり、茶道部に向かった。


 *


 陽ノ下緋陽里(ひのもとひより)


「いらっしゃいませ。……おや? 朱里ではないですか」


 ピークが過ぎてお客さんの落ち着いたわたくしのサークルに、妹である朱里がやってきた。翠や桃果(とうか)さん、それに美術部のお友達はいませんが、代わりに背の高い男性と一緒にいるようで。


「朱里、こちらの男性は?」

「はじめまして。オレ、陽ノ下の友人をやらせてもらってます、町田大樹(まちだだいき)って言います。岡村翔平(おかむらしょうへい)花森翠(はなもりみどり)さんとも知り合いで、陽ノ下とは彼らを通じて知り合ったんです。よろしくっす」

「あら、そうなんですの。わたくしは陽ノ下緋陽里(ひのもとひより)。朱里の姉ですわ。どうぞよろしくお願い致します」


 言葉遣いは軽めで見た目もかなり垢抜けている感じですが、そんなに悪い人には見えなさそう。わたくしは、そこまで気にすることなく席に案内し、オーダーをとる。


「(随分と顔立ちの良い方ですわね。町田さん。どんな人なんでしょうか?)」


 誰かと複数人というわけではなく、妹と二人で行動しているイケメン男性が少々気になって、彼らが座ったテーブルの方を見る。

 向かい合って楽しそうに話す町田さんと、わたくしの妹、朱里の姿がありました。同時にわたくしは朱里の雰囲気がいつもと違うことに気づきます。あそこまで男性に対して心を開いて、目をきらめかせながら話す朱里はもしかして……。


「(おやおやおや? まさかとは思いますがこれは!)」


 わたくしは顔のニヤつきを抑えられません。まさか朱里が。あの朱里が……、



 あのイケメンくんに惚れているのでは?



「(可愛いですわね~、朱里。照れちゃっているんでしょうか? あーー、いじらしいですわ~!)」


 中学、高校で誰かと付き合っていたのかは分かりませんが、少なくともわたくしはあのような朱里の表情は初めて見ますわ。可愛いモノ好きなわたくしの琴線に触れ、目を輝かせて恋する妹を見る。


「(これは、わたくしが応援しないとですわよね? うふふ)」


 *


「コーヒーとクッキー、お待たせしましたわ」


 注文を受けた品を朱里たちの元に運び、わたくしはテーブルの上に置いていきます。


「このハートのクッキーは、今年の文化祭でとても人気があるんですのよ? 喫茶店ブラウンで売っているクッキーに、女子大学のお祭り感を出した一品ですわ」

「可愛いわね。お姉さまが作ったの? 流石ね」

「えぇ。一応、来ていただいたお客様を楽しませるために、こういう謳い文句をつけていますわ」

「謳い文句? 何かしら?」


 コーヒーカップを手に取り、口元に当てる朱里。わたくしは、にっこり笑顔のまま朱里たちに内容を伝えた。


「このクッキーをお互いに食べさせあったカップルには縁結びの効果があるというものですわ。朱里と町田さんもやってみては?」

「ッッ!? あつっ!!」


 動揺してカップの傾きを調節できず、熱いコーヒーが思った以上に舌に触れた朱里が、悲鳴を出します。


「陽ノ下、大丈夫か!?」

「なななな、何を言っているのかしら、お姉さま!?」


 目をあちらこちらに動かして、落ち着き無くわたくしにそう言う朱里。動揺している様子が丸見えです。


「(期待以上の反応ですわーー!)」


 わたくしの中の小悪魔が目の前の状況を楽しんでいる。照れる朱里が可愛すぎる! わたくしは、追い打ちとばかりに手に持っていたもうひとつの品をテーブルに置く。


「それと、これはサービスのクリームソーダですわ」

「……これ、ストローが一本しか入ってないんすけど……?」

「えぇ、カップル二人で来店されたお客様への限定サービスですわ」


 まさにその通り。町田さんの指摘した通り、クリームソーダには一本の二股ストローしか入っていない。カップルなんかが使う、あれですわ。もちろん、限定サービスなんてやっていないので嘘ですが。


「ご自由にどうぞ?」

「いやいや、『ご自由にどうぞ』じゃないっすよ! これじゃまるで本当にカップルじゃないすか!」

「えぇまぁ。それ用に作ってあるので」

「オレたちはそういうんじゃないんっすよ?」


 知っている。自己紹介で『友人』と言っていたものね。けどあえて、わたくしは、


「あら! そうなんですの! あまりにもお似合いだから勘違いしてしまいましたわ~。あまりにもお似合いだから! これは失礼しました」


 と白々しくそう言った。


「か、かっぷる……!」


 と朱里は声には出さないが口で形を作っています。わたくしはそれを見逃しません。


「(尊い……! 何て尊いんですの……!)」


 悶え死にそうなわたくしはしかし、それを表には出しません。あくまでニッコリと対応します。これが店員という立場でなければ、朱里の表情を写真に収めているところなんですが。



「ところで町田さんはわたくしの妹をどう思いますか? もちろん、変な意味ではなく、友人として、で結構ですわよ?」


 と、町田さんに朱里のことを質問するわたくし。単純に妹の好いている殿方が妹に対してどのような印象を持っているか気になったというのもあります。


「そうっすね。陽ノ下は、基本的に礼儀正しいし、ちょっと勝気で特定の奴には暴力的なところがあるけれど、……」


 と、朱里の特徴をその通りに述べていく町田さん。そこまで言ってから、改めてイケメン度の高いスマイルを作って、


「思いやりがあって素晴らしい女性だと思います。結構しっかりしてるし、地毛の綺麗な金髪もすっげぇ似合っているし、今日の演劇だって最高に輝いていたしな!」

「ゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ」


 何とも爽やかな笑顔。大層おモテになるんでしょうね。朱里も例外ではありませんし。

 顔から蒸気を噴き出して、朱里は動きを止めた。ゆでダコみたいですわね。


「(あらら。ちょっと意地悪しすぎてしまいましたか?)」


 帰ったら、何か言われてしまいそうですわね。覚悟しておきましょうか。


 まぁけど可愛い妹の恋です。本当に応援していますわよ、朱里。


 満足したわたくしは厨房に戻り、お客さんの混んでいた頃に蓄積した疲れも忘れて、上機嫌で次のコーヒーを入れ始めました。



 今回はおまけということで、第36.5話をお送りしました。最近シリアス成分多めだったので、明るく愉快な話を書けましたし、久しぶりにドSな緋陽里を書けて満足です(笑)


 なんでこの話を書こうかと思ったかというと……、「最近、朱里と緋陽里の出番が少なくね?」と思ったからです。まぁ、緋陽里は元々そこまで多くないとして(←おい……)一応メインキャラという立ち位置になっている朱里も、全然出番なかったですからね。

 それと、見返してみると意外と陽ノ下姉妹のツーショットが少ないんですよね。どうせなら作るか~と思い立ち、おまけにツーショットスポットを設けた次第です。結果、こんな風にいじられ対象になってしまいました。


 では、次からは本編再開です。第37話は、翠の漫画の話です!

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