第一話 ランドルフとボスのお話
俺の名はランドルフ。
長いしっぽに、鋭く光る蒼い瞳。
俺が近づくことを耳で知ることはできず、すばやい動きは見る者の目を奪う。
俺を知るやつは、俺の毛並の色から、純白の疾風……疾風のランドルフと呼ぶ。
趣味は風とともに走ること。
誰も俺を捕まえることはできない。それは空を吹き荒れる風を掴むようなもの。
俺は誰ともつるまないし、誰の下にもつかない。
もし、風を掴むことができる奴がいるのなら、その時はそいつを俺のボスにしてやってもいいけどな。
「まあ、そんな奴は……」
「あー」
「……?」
可愛らしいその声にランドルフさんの白い耳がぴくぴくと動きました。ふと振り向くと、最近やっと座れるようになったばかりの人間の赤ちゃんが無邪気に風のしっぽを掴んでいたのです。
「……」
「あー」
掴まれた疾風はしっぽをくねらせ、赤ちゃんの小さな手から逃れようとしましたが、もう両手でしっかりつかまれていたので、ただクネクネ、モゾモゾさせただけでした。
「えっと、お嬢……」
「あー?」
クネクネ、モゾモゾ。
ランドルフさん、あなたを捕まえた方があなたのボスなのですよね?
「……!」
モゾモゾ、クネクネ。
ランドルフさん、あなた、今捕まっていますよね?
「……」
ランドルフさん?
「ええい! わかった、わかったよ! 疾風のランドルフに二言はない! 今日この時から、お嬢、あんたが俺のボスだ!」
「あー?」
赤ちゃんはしっぽをニギニギしながら首を傾げました。
こうして、ランドルフは風を掴んだ赤ちゃんの子分になりました。
長いしっぽに、鋭く光る蒼い瞳。
俺が近づくことを耳で知ることはできず、すばやい動きは見る者の目を奪う。
仲間内では俺の毛並の色から、純白の疾風……疾風のランドルフと呼ばれていたが、今はボスのボディーガードとして毎日を過ごし……
「ポン太ぁ、ご飯よ!」
「おっと、もうそんな時間か」
ボスのママが呼んでいる。
……俺の名は疾風のランドルフ。またの名を白猫のポン太。小さなボスのボディーガード。
趣味はお昼寝をするボスを守りながら一緒にお昼寝をすること。
誰もボスに危害を加えることはできない。今は風がボスを包み守っているのだから。
俺はいつもボスとともにあり、ボスを見守る純白の風となったのだ。