表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正当な狂気  作者: 紗華
4/5

朝からの電話…

…電話が鳴る…

…その音で目が覚める…

…コタツで寝てる僕…


そうだった…昨夜は夜中に帰ってきて、何か考え事をしてる間に寝てしまったんだ。


…まだ頭がボ−ッとしている…


昨日の出来事を思い出さない様に時間が止まればいいのに……。



僕しか居ない部屋に、ずっと電話が鳴り続けている…。


面倒だが電話に出てみた。

僕が受話器を上げると同時に興奮した声で…

「もしもし、どういう事? テレビで言ってるのは娘じゃないわよね?」


妻の母親からだった。

その言葉で辛い現実に引き戻される。

「娘じゃないわよね?」

本当にそうだったら良かったのに…

興奮する妻の母親に事件の説明をする。



「テレビで娘は裸で発見されたと言ってたけど、本当なの?」

また思い出したくない事実を認識させられる。


「はい、そうみたいです。子供の方は刺殺みたいなんですが、妻の方はまだ死因が解ってないそうです」

他人口調で妻の母親に答える。


「な…なんでこんな事になるの…」

電話の向こうで泣いてるのが解った。


「もしもし…」

電話の向こうの声が、少し低く太い声に変わった。妻の父親の声だ。


「もしもし、テレビで言ってるのは本当みたいだな。事件に巻き込まれたのは君のせいじゃない。だから君を責めるつもりはない。だが、なんで事件が解った時点で一報もないんだ?…普通、こっちに連絡するのが常識じゃないか?君も大人だろ。それぐらいわかるだろ?…」

最初は穏やかな口調だった妻の父親が、途中から怒り気味の口調に変え僕に訴えきた


僕だってそれぐらいの常識は持っている。しかし夜中に電話する事も、非常識な事だと思っている。


「すいませんでした。また何か解ったらお知らせします。」


妻の父親に少しムカつき、そう言って電話を切った。


電話のお陰で完全に目が覚めた。

時計を見てみると、まだ6時半…ようやく外が明るくなり始めていた。


目が覚めても、なにをすればいいのか分からない…

ふと、さっきの妻の母親の言葉を思いだす…

…テレビで言っていた…


もう昨夜の事件はニュースになってるのか?

すぐにテレビの電源を入れる…。


朝のニュースがやっている。

しかし、昨日の事件はどのチャンネルでも言わない。


くだらない地域の話題、今日の占い、そして天気予報…どのチャンネルも似たような内容で6時台のニュースは終わった。



7時になった…どのチャンネルも番組の雰囲気が変わる。

そしてキャスターがニュースを読み始める……


「昨夜、午後6時半頃○○県○市の桜山公園の駐車場で……………。」

昨夜の事件だ…

「……なお女性は裸で見つかり……」


わざわざ妻が裸で見つかった事を、強調して言ってる様な気がした。

少しの間、昨夜の事件のニュースをチャンネルを変えながら見ていた。どの局のニュースも似たような事を言っていた。

ニュースが中盤のくだらない話題になってきた頃、また電話がなった。

今度は昨日の商談相手からだ。


「…もしもし、おはようございます。」

僕は電話に出た。



「もしもし、昨日はありがとうございました。昨日の取引の件ですが………」


相手は昨夜の事件を何も知らないらしい…仕事の話をずっとしている。


「…それで少しでも早い方がいいと思いまして、本日貴社に伺いたいのですが、どうでしょう?」

えっ!?会社?…そうだ仕事を完璧に忘れてた。

本来ならもう家を出てる時間だ…。


「すいません、今日からしばらく休むつもりなので…。会社の者からそちらに連絡させますので…」

そう言って電話を切り、すぐに会社の上司に電話をした。


「もしもし、おはようございます。あの〜すいませんが妻と子供が死んだので今日から少し休みます。」

そう上司に言った。


すると

「休むのか?いいぞ。ただ嘘をつくならもっと考えてつけ。嫁さんと子供、一度に殺したら次は誰を殺すんだ?」

と笑いながら上司から返ってきた。

上司は冗談だと思ってるらしい…普段の僕を見てればしょうがない。


僕は少し深刻そうな声で

「いえ、本当なんです。それで当分休みますので…」


上司に休むのと、取引先の件を伝えて電話を切った。そしてまたテレビを見始めた…


7時台の番組が終わり、8時台……ワイドショーが始まった。

「全裸母子殺人…公園駐車場で発見!」


そうテロップで大きく出た。


事件の起きた公園の駐車場をバックに、レポーターが歩きながら事件を説明している。


そして

「なぜ、このような事件が起こってしまったのでしょうか?」


の言葉を最後に場面はスタジオに移った…。


スタジオではコメンテーターが

「最近は物騒になってきましたね。裸で見つかった被害者に何が起こったのか?とにかく早く犯人が捕まることを願ってます」


他のチャンネルに変えてみる。同じようなワイドショーが3局でやっている……事件について、どの局のキャスター、コメンテーターも深刻そうな顔で同じようなコメントしか言わない。

テロップには視聴者が興味を示しそうな言葉…



僕には深刻そうな顔をして、楽しそうに事件を報道してる感じがした…。


また電話が鳴る。

今度は警察からだ。

「一応、検死が終わりました。遺体の引き取りと少し伺いたいことがありますので、署に来てもらえますか」


僕は出掛ける準備をする為、洗面所に向かった。

昨夜は気がつかなかったが、台所に花束が飾ってあった…僕が送ったバラだ。

洗面所の前に立ち、鏡を見る……僕の顔は無表情だった。

昨夜から顔も洗わずに居た。もっとひどい顔をしてると思っていたが…無表情だった。

頬に涙の跡もなく…無表情の顔だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ