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正当な狂気  作者: 紗華
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失った日…

あの日…決して忘れる事のできない昔の出来事…


あの頃の僕には7歳上の妻と子供が一人居た。

若くして結婚した僕は裕福とは言えなかったが、とにかく仕事に没頭し、次の年に中古の一軒家を購入するのが決まり、少しずつ自分の人生に幸せを感じていた。


あの日…17年前の11月4日は妻の34歳の誕生日だった。

あの日、僕は朝から出張で地方を駆け回っていた。とにかく今日中に仕事を終わらせ、家に帰るつもりで……。

当初、出張は妻の誕生日の翌日までの予定だった。

その事で出張に行く前日、妻と言い争いをし、喧嘩したまま僕は出張に出掛けることになった。


僕達の夫婦喧嘩は日頃からよくあった。

しかし、それは意識してお互い些細な事で言い争いをするようにし、よりお互いが解りあえるようにする為。

ちょっとムカついたら……お互い溜め込まずに、言いたい放題。

気分が落ち着いたら…どちらからでもなくお互いが謝る

喧嘩する…すぐに仲直り。

それが僕達の夫婦円満の秘訣だった。

そんな感じで日頃から夫婦喧嘩慣れしてる僕だったので、出張初日の昼には妻に謝罪のメールを送っていた。

それからすぐに妻からの謝罪のメールが届き、初日の仕事が終わる頃には、前日の喧嘩の怒りも完全に消えていた。


そして出張先で妻のことを想う……。

ある気持ちが強くなる。

「誕生日を一緒に祝うことは出来ないか?」

僕は出張の予定を見直し、時間は遅くなるが妻の誕生日に帰れるように予定を作り直した。

少し妻を驚かしてやろうと、誕生日に帰るのは前日まで黙っていることにし、出張先の花屋に無理を言い、バラ34本の花束と

「一日早いけどHAPPY BIRTHDAY!」

「明日、遅くなるけど帰るよ」

と書いたメッセージカードを、11月3日に家に届くようにお願いした。


11月3日になり、取引先との商談中に電話が鳴る。

妻からだった。

商談中だったので着信をすぐに停止させ、携帯をマナーモードにした。

その後も何度かバイブで着信しているのは解ったが、商談中なので無視していた。


商談が終わり、携帯の着信履歴を見てみると計7件あった。全部、妻からだった。

ずっと無視していたので怒っているのを覚悟して、妻に電話した。


電話に出た妻は怒ってるどころか、花束に凄く喜んでいた。そして

「明日、帰って来れるの?」

と、嬉しそうに聞いてきた。

「うん、遅くなるけど帰れるようになった」

「ただ、明日までずっと商談があってプレゼントが用意できない、ゴメン」

と僕。

そうしたら妻が

「プレゼントなんてどうでもいいよ。花束だって貰ってるしね」

と言った。

そして電話を切った後、妻がプレゼントを気にしないと言ってくれたので、とにかく仕事に集中することにした。

妻の誕生日…11月4日になった。

僕は朝から駆け回り、仕事を予定より早く終わらせ、新幹線に飛び乗り帰路についた。

新幹線の中で妻に電話して

「少し早く帰れそうだよ、せっかくだから今日の夜は外食に行って、前に欲しいと言ってたバッグを一緒に買いに行こう」

と僕は言った。

嬉しそうに

「了解!」

と、妻は一言。


そうして電話を切ろうとした時、重大な事に気付いた。

金がない…僕の財布の中にはあと7千円しかなく、とてもバッグなんか買えない。


僕は妻に、ATMで金を下ろしてくるように頼んだ。そして電話切った。


新幹線の中で僕はウトウトしていた。今回の出張は、結構ハードな予定を更にハードな予定に変えたから、疲れが出たのだろう。ウトウトしてる内にいつの間にか寝てた……。



なにやらアナウンスが聞こえる。

「次の駅は……です。」エッ!と気付くと降りる駅を2駅も過ぎている。

「しまった、寝過ごした」

僕はすぐに跳び起き、次の駅で反対行きの新幹線に乗り換えた。

「あ〜、なんて馬鹿なんだろう」

僕自身を責めてみるが、意味がない。結局、帰る時間は遅くなってしまった。


妻にメールで寝過ごした事を送った。しかし、なかなか返事が来ない。僕があまりに馬鹿過ぎて呆れてるのかな?


電話をしてみた。


あれ?……出ない。



ひょっとして怒ってるのかな?

確かに今から帰ってバッグを買いに行くにも、店は閉まっている。


やっと本来降りるべき駅に着いた。

もう外は日が暮れて真っ暗。しかも激しく雨が降っている。

新幹線の中で妻に何度か電話をしているが、やっぱり出ない。

ちょっと気になる


雨も降ってるので、僕は駅から普段は使う事のないタクシーで急いで家に向かった。


駅から家まで約20分。普段はそんなに遠くないと思っていたが、今日は遠い。


家の前に着いた。

部屋に明かりがついてない。

駐車場に妻の車がない。

家に入る前に、家に誰も居ない事が確認できた。


「ただいま」

小声で言いながら僕は家に入った。

やっぱり誰も居ない。

妻に電話してみる……。

「電源が入っていないか、電波が届きません」


何処に行ってるんだ??


僕は誰も居ない部屋で妻の帰りを待った。


誰も居ない部屋……外の激しくなってきた雨音が 響く…




……急に電話のベルが鳴る……

「はい」

僕は電話に出た


声の低い男がゆっくり喋りだす


「警察ですが、桜山公園の駐車場に停まっていた車の中から、奥様とお子様とみられる遺体が見つかりました。確認してもらいたいので、署まで来て下さい」



……僕はこの時にすべてを失った……

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