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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
1.リボンでポニーテールを作る方法
5/58

5限目 冷たいアイスクリームのような

「第三型式において最も重要な工程と言えば相手の魔法を魔力に戻すところである。これこそ第三型式の真髄であるからして是非とも使いこなしたい要素である。相手の魔法を自分が使うと言うのは魔力の節約にもなり、使いこなせれば1ヶ月半後の魔戦で有利になるのは間違いない。さて――」


「なんでしょうか」


 危機(教科書)が降る直前に毎回起きるのではいつか避けれず当たるのではないかと思ってたりする。現にあの教科書(危機)の落下スピードは軽い怪我では済まされないだろう。


「君だったら1ヶ月後の魔戦で相手が第三型式をマスターしていた場合どうやって勝とうとするかね?」


 この問に対する模範解答は大出力の魔法で攻撃すればいい、である。魔力の大きなものには第三型式では対応出来ないからだ。尤も当たらなければ意味がないので隙を伺う技能が必要だが。しかしオレはとある事情(永久回避魔法)のせいで魔力を多く使うことは出来ない。だから技術には力技ではなく技術で対向する。


「同じく第三型式で戦います」


「それはどうしてだね?」


「自分は魔力が少ないためおそらく相手に自分の魔法を使われてしまいます。なので使われてしまうのなら使わないでいこうと思うからです」


「第三型式は相手の魔法が必要だから魔法を使わなければ使われないと?」


「そう言うことです。しかしそうなれば相手は第一型式の魔法を使ってくるでしょうから第三型式で対応します」


「ラリーでもする気かね」


「はい、それで勝ちます」


「自分の方が第三型式で勝てると思ってるのかね?」


「はい」


「大した自信だな。いいだろう」


 自信も何もラリーで、ある程度魔力量が多くなったら魔力に還元しにくい魔法をこちらが構築出来ればいいだけだ。

 この学年でオレより解呪が得意な奴なんていない。つまり解呪しにくい魔法はオレが1番出来ると思っていい。ちょうど数学の展開と因数分解と同じだからだ。もしかしたらSクラスにはいるかもしれないがあいつらの魔戦は異次元だからな。


 ネグルさんが保護されてから1週間と少しは経った。新型のリボンがほとんどの人に行き渡っているため偽装リボンは今のところ話に上がらない。上がってたら困るのだが。


「今日はここまでだ」


 そう言って第三型式の講師であるゲッヒ先生は教室から出て行った。これが今日最後の授業なので放課後である。


「シロンくん」


 カナミが早速声をかけてくる。


「なんだ、ケーキか?」


「うん」


 カナミは満面の笑みで肯定する。


「違うだろ」


 今日は作戦の日である。


 新しいリボンを守衛に付けられて校門を出る。向かう先はやはり平民階である。


「じゃあ後でな」


「おっけーだよ」


 そう言ってカナミとは一旦別れる。次に会うのは夜中だろう。


「ここだな……」


 事前に調べた場所で待機する。貴族階から少し遠い平民階のとある建物の屋上、後何時間ここで待つかは知らない。今が夕方の6時だから少なくとも6時間は待つだろう。

 外泊許可は取ったので門限の問題はない。


「寒いな」


 季節は秋の終わり少し前だ。屋上だから風は吹くからコートを着ても夜は寒くなるだろう。貴族らしからぬボロコートだが着て来て正解だった。

 普通はこんなに長時間待機する必要もないのだがカナミへの連絡手段は限られているため、その準備も兼ねて早く気たのだ。


 現在リボンを付けているため念話(テレパス)は出来ない。

 原始的に信号弾を上げれば周りにもバレてしまう。旗揚げは暗い中では無効だ。

 そうなると残されるは小さな明かりでの合図を見つけてもらうしかない。そこで望遠鏡を引っ張り出してランプをいつでも点けられるようにする。

 屋上でランプを点けても、それも微弱に付けているから地上からはおろか上空からもある程度遠ければ見つけられることはないだろう。もちろんそうなるとお互いの連絡が出来なくなるから望遠鏡で予めランプの位置にセットしておく。かなり原始的だがバレてはいけないのだ。


「セット完了。後は待つだけだな」






 待つこと7時間、夜中の1時半にやっと異変が起きた。


(こんな時間に物音…来たのか)


 屋上から見下ろせば大きな荷台が通っていた。


 オレはすかさずランプを最小限に灯して動向を探りつつ。カナミの方のランプにも気を配る。合図に気付いたら向こうもランプを点ける手筈だ。


(向かう先は……やはりスラム階?)


 カナミのランプが灯ったので気付いたのだろう。急いで合流しよう。

 下に降りてる時も気付かれぬよう細心の注意で降りる。如何にもな荷車を5人で押している。中には解除キーと偽装リボンが入ってるのだろうな。


 ネグルさんにリングの研究所について訊いたところ、平民階に点在しているらしく、1ヶ所を見張るだけでは無理であった。

 そこで彼らが偽装リボンを運ぶ際に通りそうなところをいくつかチェックし、いずれも見張ることの出来る建物の屋上に見を構えた。2ヶ所で済んだのは僥倖だった。

 通りそうなところを推測したのはネグルさんだった。平民の彼は平民の事情にある程度は知っている。

 情報を元に偽装リボンとは縁遠い場所を除いたら平民階で偽装リボンを受け渡すとは考えにくい結果となった。貴族階はまずないから残すはスラム階となった訳である。


「お待たせぇ。冷たいアイスクリームのようなところで7時間半もいさせられるなんて酷ってもんだよ」


 カナミの不満を聞き流して合流したので引き続き後を追う。


 何も知らなければスラム階に物を売り捨てる売人達にしか見えないだろうがオレ達はそうだと思わない。


 歩くこと30分、平民階とスラム階の境を抜けてオレ達は生まれて初めてのスラム階へと足を踏み入れる。

 貴族はよっぽど好き好まないとこんなところに来ることはない。暗闇の中ボロコートを着ているオレ達を貴族だと思われることはきっとないがやはり自分達が異質な存在だと感じざるを得ない。


「臭いぃ……」


「うるさい」


 カナミの文句にオレは文句を言う。噂通りスラム階は臭い。死体が放置されててもおかしくないのだ。それだけこの階層は無法地帯なのだ。


 謎の荷台は建物の中に入って行った。


「ここのようだね」


 カナミが言う。コンテナ状の建物だ。中は倉庫のように1部屋の建物だろう。


「カナミ」


「うん」


 オレが呼びかけるとカナミはカメラを取り出す。


「どこから入れるかな……?」


「上からはどう?」


 問題は上から入る手段だ。登れない訳じゃない。ただその手段は最終手段だ。まだ使ってはいけない。


「素直に正面からだな」


 それしかない。


「大丈夫なの?」


「任せろ」


 ここでオレの回避魔法の出番と言えよう。反応しないと言うことは危険がないことだ。大きな正面口の端っこからオレ達は潜入する。


 幸いにも荷物がいくらか隅に寄せられていたため隠れることが出来た。


「まさに闇の取引現場だな」


 お話の世界みたいだ。


「出来たぞ」


「やっとか。オレ達に抜け出した設計図探させておいて自分から戻って来たなんて笑える話じゃねぇか」


 聞こえてくるのはリングと裏組織の会話だ。1対1で会話をしているが取り巻きを含めれば30人はいる。


「司令部が安全だと思ったんだろうな。内輪の事件は内輪で済ませるから事が容易く進められて楽だったさ」


「そんな事はいい、ブツは揃ってんだろうな」


「もちろんだ。そちらこそ用意は出来てるのか?」


「ほらよっ」


 投げたのはずっしり何かが入った袋だ。おそらく金貨……。


「「確認しろ」」


 そう言ってお互いの部下にそれぞれ確認させている。


「相変わらずどこからそんな金が湧くんだい?」


 ほっそりとしたメガネをかけた男が尋ねる。


「これの買い手がいるんだよ」


 汚らしい赤毛の大男が答える。


「ハハハ、部下に買わせてるのかい」


「奴らはみんな革命と言っとけば金も命も差し出す奴らだ」


「君も大概に悪人だねぇ。革命なんてもとよりするつもりがないのに」


「世の中金さえあればいいんだよ。金さえあればスラム育ちのこのオレでも貴族様様を従えるんだからな」


「あんなろくでなしの魔法使いを取り込んだって意味ないだろうに」


「いいんだよ。貴族を従えていれば平民様程度なら怖気付くからな」


「まさにスラム階の王だね」


 そう言う真相だったのか。裏組織全員がこの汚らしい赤毛の男に騙されていたのか。


「確認終わりました」


 部下が報告する。


「よし、貰うものは貰ったし帰らせてもらうよ」


 細めの男はそう言って去ろうとする。


「ハハハ、行き先は冥土な」


 そう言って赤毛の男は引き金を引いた。


 爆音――魔法特有の爆音ではなくもっと軽い音である。


「な、何故だ……?」


「何故かって? オレは想定外が嫌いなんだ。設計図に逃げ出されるようなヘマをしてブツを手に入れるのが予定より遅くなった。ただそれだけだ」


 細めの男からは血が流れ続ける。


 リング側の取り巻き4人は細めの男を助けようとするが――


「おっと動くなよ、そこの男以外にもおまえらにも撃っちまうかもな」


 赤毛の男は拳銃を4人にも向けている。迂闊に動けない。


「シロンくん、あの人……助けなきゃ!」


「待て、今動いたらオレ達が撃たれるぞ」


 問答無用で撃たれるだろう。


「それじゃあ、あばよ」


 そう言って赤毛は拳銃の引き金を引こうとするが――


「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 叫んでしまったカナミは走って細めの男を庇う。


「殺しちゃダメぇぇぇぇぇ!!!」


「誰だ、こいつ」


 赤毛は動揺するがすぐに立て直す。


「邪魔だ、おまえも死ね」


 そう言って再び引き金を引く。

 再度軽い爆音がする。

 しかしカナミに向けて発射された銃弾はカナミの足元に落ちていた。


「ちっ、魔法使いかよ。おめぇら、やれ!!!」


 裏組織側の取り巻き、約25人は全員手に入れたばかりの解除キーでリボンを外す。


「あいつら全員セルシア(うち)のOBだったのかよ!」


 オレは解除キーで自分のリボンを外す。






「危険が伴うことでしょうから作っておきました」


 渡されたのは新型リボンの解除キーである。


「これは……」


「設計図が彼らに渡ればいずれ作られてしまうものです。先に私が作り上げたまでです。もし危険な事を対処する事になったらリボンを外して魔法をお使い下さいませ」






 ネグルさんが司令部に向かう前日に作ってくれた解除キーだ。シグル家が商家で助かった。ネグルさんが家を出なくても必要な部品が揃ったのだ。


 カナミはリボンを外して防御壁(シールディング)を張ったから銃弾を防げたのだ。

 だが、25人近くからの攻撃は守れない……!


「その人を連れて早く逃げろ!!」


 オレはカナミに叫んで約25連炎弾を第三型式の防御壁――回復防御壁リカバリーシールディングで防ぐ。そんな程度の魔法だったらオレでも防げる。


 突如雷撃が襲う。


「嘘だろ……」


 炎弾より遥かに高度な魔法、雷撃がオレの回復防御壁を突き破りオレの左腕をかする。今ので軽い火傷はしただろう。

 それよりも恐れるは盾を壊されたことだ。再び襲ってくる25連炎弾。


「集中……」


 よく炎弾を見ろ。避けれなくはない。後ろにいる連中はもう外へ出たことから被弾はないだろう。

 身体強化の魔法を施して回避魔法を頼る。1発、2発、3と4発目……。オレは刹那の隙間を縫って避ける。19発目のところで下腹部右に被弾するのを察知してしまった。


「ぐぁっ!」


 予測通り当たる。肉体的に避けれないものは被弾してしまう。

 それにしても炎弾ってこんなに痛いのかよ。魔戦の場合は模擬戦だから審判の判断で致命傷と判断される一撃は打ち消される。


 う、動けない。声が出ない。視界もぼやけてきた。

 どうやら残りの約6発はオレが倒れたから外れたのだろう。

 でもダメだ……。次の炎弾か雷撃、はたまた銃撃で死ぬんだな。

 意識が薄い。せめて痛みがなく死にたい。最後に見えたのは若草色の炎弾だった。

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