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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
5.明日来る春の嵐を避ける方法
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6限目 天使のラッパ(前編)

 覚醒者エルズ――殺意を抱き、何かしらの無意識の理解によって至った魔術士。


 昨日のリア会長とキオ副会長との会話を思い出しながら内容を噛み砕いて理解しようとする。

 知られざる魔法の裏話。オレもそれを知る一員となったが生活の内容に変わりはない。


「にしてもこいつ、帰ってくるなり全力で殴りに来るんだからなぁ」


 昨晩この部屋の扉を開けるとルームメイトであるシガルが親の仇よろしくで殴りにかかってきた。当然オレはこれを避けて足払いをして戦闘不能に追い込んだのだが。


「誰のせいだ誰の!!!」


 そんな昨日の教訓をシガルは珍しく活かしたらしく早起きである。


「起きない方が悪い」


「なんだその詐欺に騙された方が悪いって言い方は!」


「詐欺の方よりも正論だがな」


「ぐぬぬぬ」


 オレは制服の最後のボタンを締める。


「珍しく早起きしたし早めに食堂に行くか」


「ん、わかった」


 寮の食堂のご飯はかなり考えられていると言っていい。

 何故なら身分を問わないと言っても貴族が大半を占めるこの学校であまりにも質素なものは出せない。もちろん豪華な食事でもないのだが。


 また、魔法はその名の通り体を削って行使するため体作りのための栄養バランスとなっている。


 そして最後に、年齢層が12歳から21歳と若いため食べる量が多くおかわりが自由なのである。


「一応この国にも食糧問題がある筈なんだけどな……」


「ん? なんか言ったんか?」


「いや、独り言だ」






 あれから教室に行きカナミといつも通りの挨拶をしたのだが、授業が始まるなりすぐさま寝落ちしてしまい今は昼休みである。途中何度か先生(脅威)によって起こされたのは語るまでもないだろう。


「シロンくん」


「……なんだ?」


 机に伏しながらオレはカナミの呼びかけに答える。


「昨日一緒に食べるって約束した」


「……そうだったな」


 そう言えばそんな約束をしたのであった。


 オレは起き上がって目をこする。


「何か考え事?」


 ずばり言い当ててくるカナミである。

 大方オレのこの眠気の様子から察したのだろう。恐ろしいものだ。


「んー」


 とは言ってもその考え事を教える訳にもいかず誤魔化すしかない。


「昼飯でも食いに行くか」


「うむ」


「そう言えばフェルは?」


 目立たないようで目立つあのコーラルレッドの髪の持ち主がいない事に気付く。


「フェルさんは所用があるとか言ってどっか行っちゃった」


 おそらくは仕事だろう。


「そう言えばカナミ達って普段何を話してるんだ?」


「何って……なんだろう?」


「首を傾げてオレに訊くなよ」


「えへへ」


「まぁいいや。行くか」


「うん!」


 オレ達は食堂に行く。


 ちなみに寮の食堂と校舎内の食堂――通称昼食堂は違う。


 寮の方は朝と夜やっており選ぶ事は出来ず決まったものを食べる。こちらは学費に含まれている。

 一方昼食堂は昼のみやっており様々なメニューから選ぶ事が出来るが有料である。


 学校の方針としてはあまり貧富の差を表に出したくないようで昼食堂のメニューは同価格帯のものにしようとしているが、やはり肉類など材料費が高いものは値段が高くなり必然的にクオリティ差がついてしまう。

 そのため貴族や大きな商家の出の生徒達が高級志向に走り、逆に辛うじて学校に通える生徒達は安価なものを選ぶ。


 貴族がこの学校で家の名を名乗らないのは身分格差による衝突等を予防するためなのだが、こうした志向の表れが格差を浮き彫りとしているのが実態だ。


 そう言う訳でオレとカナミは今、目の前で繰り広げられている様子を遠くから眺めている。


「へへ、こいつこんな安っちいもんくってやがるよ」


「上から落ちてきた奴だから出来る奴だと思ったがこんな貧乏人だとはな。おまえみたいな貧乏人は上に上がっちゃいけないって事だな。あっははは」


 聞いていて反吐が出る奴らの会話だがオレ達はまだ手を出す事は出来ない。


「シロンくん……」


「まだだ」


 風紀委員会とはその名の通り学校の風紀を守る組織である。


 だが制服の乱れや遅刻を注意するようなものではなく、喧嘩の仲裁や半違法行為を押さえる警察的なものだ。はっきり言えば生徒を監視する生徒である。

 さらにその風紀委員を監視する風紀部があるがそれは今は関係ないであろう。


 しかし風紀委員が生徒である以上その存在はとても不安定なものである。そのためかなり緻密にこの状況では止めに入るがその状況では手を出さない、と言ったマニュアルが存在する。


 そして今の状況はまだ(・・)後者なのである。


「おいおい、何か言ったらどうなんだ貧民?」


 不良その1がテーブルに手を置く。置いた側にはトレイがある。


「カナミ」


「うん」


 そう言ってカナミはビデオカメラを取り出す。


(懐かしいな)


 最後に見たのは昨年の秋だったか。


「いつまでもしらばっくれてんじゃねえ!!」


 ついにしびれを切らして不良その1がトレイを払おうとする。

 しかしいつまで経ってもトレイは落ちず、その腕も動かない。


「はいはい、人の食べてるものを故意に落としちゃいけないだろ」


 ついでに不良その2も拘束魔法で縛りつけておく。


「あそこに風紀委員いるのわかる? 後で指導室に行くといいかもね」


 2人は睨みつけるが動けないので何もしてこない。

 試しに拘束を解いてみようか。


「ふん、2人相手に喧嘩売るとはいい度胸だな」


 案の定突っかかってきた。


「はぁ……」


 オレは昨日の事を思い出して目を閉じる。


「舐めた真似しあがって!」


 そう言って殴りに来たのだろう。

 オレは半身を右にずらして来ているであろう攻撃を避ける。


制限魔法(リミテーション)……解呪」


 すると急激に感覚が狂い始めた。回避魔法の効力が強まったせいだろう。相手の動きが遅く感じる。


(まだ未完成だな……)


 感覚が狂った程度で負けるような相手でもない。


 目を閉じたまま振りかぶっている不良その2の背中を肘打ちして叩き落とす。

 続いて不良その1を電撃魔法で麻痺させる。


 そして再び制限魔法をかけ直す。


 目を開ければやはり野次馬が周りを囲んでいた。


「あー……昼食は静かに食べましょう……?」


 あまり自信はない。


 その後駆けつけた先生に引きづられて例の2人は退場した。


「で、ワザとなのだろ?」


 オレは騒ぎが収まってから被害者の前に座る。


「……それが? 助けるのが風紀委員の仕事だろ?」


「自分でどうにかするのが当然じゃないのか?」


 困ったらヒーローが助けてくれるなんてどこのお伽話だ。


「あんたらがやるのは当然だ。義務だ」


「……そうかい」


 オレは席を立ってカナミの元に戻る。


「食べるとするか」


「また?」


「そう言うのは訊くものじゃない」


「そっか……」


 風紀委員は感謝される頻度は低い。寧ろ憎まれ役である。

 加害者側には恨まれ、被害者側は守ってくれて当然と考える。


 今回みたいに守ってくれると思ってるから何もせずただじっと黙っていたのだ。

 正直言ってやりがいなんてこれっぽっちもなく、せいぜい成績を良くしてくれたりちょっとした褒美が貰える程度なのだ。


「それにしてもおもしろい道具だよな、それ」


 オレが指差すのはビデオカメラである。


「昔の道具の名前と同じだよね?」


「そうだな、同じ映像を送る道具だったっけかな」


 魔道具“ビデオカメラ”は念話魔法(テレパス)の映像版である。

 詳しい構造はわからないが魔力を込める事で近くにいる風紀部員に映像が送られるらしい。

 だが学校外でも使えるようでもしかしたら遺産の類ではないのかと思っている。


「本当にブラックボックスって感じがするね」


「だな」


 形状は黒い直方体でありいくつか紋様があるだけだ。

 オレ達の知識じゃ解き明かせないまさしく魔法である。


「ところでさ」


「なぁに?」


「こんなに価格差あったっけ?」


 メニューの値段を見てオレは驚愕する。

 1番安いものと1番高いもので5倍も違うのだ。


「この春から人が変わったらしいよ?」


「さっきみたいな事が起こるのも納得だな」


 一部の見栄っ張り達は自分より格下(だと思っている相手)と同等の扱いを許さないものなのだ。


「はぁ面倒だ……」


 何が面倒ってカナミの手伝いが増えそうだからだ。


「何にしようかなぁ。やっぱケーキ!」


「ちゃんとしたご飯を食べろよ!」


 やはりカナミはブレなかった。


「ってこれは高いな……」


 どうやらケーキは高級志向なようで価格が以前より大分高い。


「久しぶりだ」


 流石のカナミも連日手を出す事が叶わずやっと手が出せたようだ。






 カナミとの昼食後、教室に戻るとフェルがいたが特に挨拶する様子でもなく何も話さないまま放課後になった。


「さて、お仕事ですかね」


「また生徒会?」


 カナミはジト目になりながらオレを見る。


「オレが悪いんじゃないっての」


 色々と今までの出来事を顧みればオレが悪いのかもしれないが……。覚醒者の原因はリボンの件に突っ込んだからだし。


「むぅ」


「明後日は休みだろ? 喫茶店に行こうか」


「本当!?」


 カナミは小指を出してくる。


「はいはい」


 オレは呆れながら小指を結ぶ。


「じゃあな」


「約束だよ」


「わかってるって」


 そんなに信用出来ないのだろうか?

 ここ最近セルマスク関係で忙しかったからカナミとあまり遊びに行けてないのも事実だ。


 教室を出て生徒会室に着くとオレ以外は全員既に席についていた。どうやらオレが最後のようだ。


「遅いですわ」


 案の定開口一番に文句を言うのはノトさんであった。


「全員来たようなので~、早速ミ~ティングしましょ~か~」


 リア会長は首をわずかに傾げて笑顔で言う。相変わらずこの会長は笑顔を崩さない。


「会長、今日はなんの会議なんっすか?」


 イリューは手を挙げて質問をする。


「今日は~、問題について話しま~す」


「なんの問題っすか?」


「新しい事で~す」


 まったくわからない。


「つまりだな」


 キオ副会長は咳払いしてリア会長の言葉に補足する。


「年が変わって新しくなった事が増えた。それ自体は何ら問題はないのだが、問題は改悪された部分だ」


 そう言ってキオ副会長はメモ帳を取り出してじっくり読んでいる。


「今一番に解決したいのが昼食堂の問題だな」


「昼食堂ですか?」


 思い当たる事があったのでオレは聞き返してしまう。


「ああ、君は昼のアクシデントに関わっていたな」


「キオ副会長の耳にも入っていましたか」


 あれはちょっとした騒ぎだったから知っていてもおかしくないだろう。


「何かありましたの?」


 ノトさんは興味を持ったのかオレに訊いてくる。


「今年から昼食堂の値段が二極化したんだよ。明らかに貴族向けのものとかなり値段の低いものの2つに」


「そうなったのは昼食堂の委託先が変わったからだ」


 キオ副会長はオレの言葉を継ぐ。


「昨年までは平民階――とは言っても割と上流の方だがそこのレストランが昼食堂の調理場を受け持っていたのだが……」


 そこまで言ってキオ副会長は言葉を濁す。


「……何かあったんすか?」


「どうも昼食堂の収益が良くてな。貴族が個人でやっている商会に取られてしまった」


「おそらくは~圧力を掛けたんじゃないかって思うんです~」


 貴族個人が持つ営利目的の商会は趣味でやっているところが多い。

 だが金になる趣味となれば一部の人は徹底的に儲けようと考える。そんな欲に溺れた貴族は相手を潰してでも儲けようとする。

 そう言う彼らは権力がある分厄介な輩である。


 今回の場合、昼食堂の委託先を権力で潰してその座を奪った形である。


「許せないっすね……」


 イリューは拳を作って俯いている。


「新しい昼食堂のスタンスには~、それなりの数の人達が反対してま~す」


「だが反対意見を背に新委託先と掛け合ったところで意味はないだろう」


「権力を笠にって事ですか?」


「そうだ」


 学校内で身分差別が禁止されていても外部とはそんな事はない。例えそれが学校の敷地内であってもである。


 ましてや相手はその権力で旧委託先を――どこまでかは知らないが――潰したのである。学校外では権力のないセルマスク(オレ達)では話すら聞く事はないだろう。


「ですがこのままでは学校の秩序が乱れますわ」


「だから我々が動く」


 キオ副会長は手を組んで重い雰囲気を纏って言う。


「わかりましたわ」


 ノトさんは理解したのか若干前のめりの姿勢を正す。


「結局どうするんすか?」


 理解出来ていないのはオレ以外にもイリューやまだ何も喋っていないアクィナもであったようだ。


「どうしても対処出来ない事は~、ズルをするんです~」


「ズル?」


 あの天才リアベルナ・ツェクトゥが卑怯な手段を取らないと対処出来ないと言うのか。


「シロン君、ジャンケンをしましょ~」


「ジャンケンですか?」


 何故ここでジャンケンなのだ?


「はい~。私はパ~しか出せませ~ん。それ以外を出したら私の負けで~す」


「それだとリア会長は勝てないじゃないですか」


「大丈夫ですよ~」


 リア会長はオレの目を見て笑う。


「始めますよ~。ジャ~ンケ~ン……ぽい!」


 そこでオレの意識は絶たれた。

フェル「貴方の戦闘は今章ではこれで終わりよね」

シロン「最強フェルさんは戦ってすらないけどなー」

フェル「2章を見返しなさい」

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