4限目 ファイト~いっぱ~つ(前編)
翌日
「眠い……」
昨夜も呪いの解呪の方法を模索して夜が明けてしまった。
寝ようにも以前よりさらに強まってしまったオレの呪いは物音などのせいで眠りを妨げる。その範囲が広まれば尚更だ。
とは言っても一応寝る努力はした。
「動くなら眠くならずに済むのだけどなぁ」
授業という睡魔さえなければ……と、何度思った事か。
「おい、起きろ」
「あと5分……いや20分……」
「巫山戯るな」
シガルを叩き起こしてオレは制服に着替え始める。
食堂に行き朝食を済ませて校舎へと向かう。
教室に着くとカナミが珍しく早くから席に座っていた。
「シロンくん、おはよ」
「ああ、おはよう」
オレの席であるカナミの左隣に座って答える。
「シフォンケーキ」
「わかってるって」
会うなり二言目にそれかよ。そう思いつつも微笑ましく思える。
そしてカナミの後ろの席の住人は――
「……」
一瞬だけその黒のつり目で睨みつけてからすぐに机に伏してしまった。
オレはそいつに声を掛けるでもなく授業の準備を始める。起きて受けるかどうかは別としてだが。
「おはよう、シロン」
コーラルレッドの長い髪が見えてすぐに誰かとわかる。
「お、おはようフェル」
思いもよらない人からの挨拶に少し戸惑ってしまう。
「何? わたしの顔に何かついてる?」
「い、いや。意外だったんだよ」
「何が?」
「フェルがオレに挨拶なんてしてくるなんてさ」
「そう?」
フェルはおかしくないでしょっと言った顔で首をかしげる。
「また明日って言ったでしょ」
「それは社交辞令だろ」
「まぁいいわ、それじゃあ」
フェルは自分の席へと向かって行った。
「……」
カナミは終始目を見開いて固まっていた。
「どうした? カナミ」
「あの人誰?」
あれ、カナミはこの前のエドラ帝国に行ってエル姫に会った時にフェルに会ったような……。
「あ、カナミは知らないんだったな」
「へ?」
「いや、なんでもない」
カナミは直接顔を見てはないのだったな。
「ぶぅー。そうやってなんでも秘密にするのイクナイ」
「と言うかフェルは昨日転校してきてちょっとした事件になってるんだからカナミも知ってるだろ」
「そうなの?」
「まさか、気付いてなかった?」
「うん」
「おいおい……」
「だってぇ」
「皆まで言うな」
手を出して止める。これ以上は色々と恥ずかしい。
まもなくチャイムが鳴り、しばらくしてオレは案の定睡魔に襲われるのであった。
上から降ってくる拳を首を曲げてギリギリで躱して起き上がろうとする。
「起きたようだな。と言うより躱せるのだから起きているのやもしれんが」
顔は笑っているだろうが怒っているだろうな。
「シロン君、身体強化魔法について知るところを話したまえ」
よりにもよってゲッヒ先生か。昨日も今日も授業があったのか。
体を起こしてゲッヒ先生を見る。やはり笑顔であった。
「身体強化魔法は第四型式の魔法です。体の一部の骨格筋の構造を変化させてより伸縮力の高いものへと変化させることで重い物を持ち上げたり高く跳び上がる、速く走る事が出来ます」
「そうだな。ではどのような理解が身体強化魔法をよりうまく使うことが出来るか知ってるかね」
「まず当然ではありますが、より魔力の消費を多くする事で変化させる骨格筋の量を増やす事が出来ます。しかしこれでは魔力の供給元となる筋肉の減少――すなわち使える魔力の低下を招きます。つまりこの魔力消費の増大化はあまり意味がない、と言う事の理解が大事です」
「ふむ」
ゲッヒ先生は頷く。
「次に重要なのは強化する部位における筋肉の構造の理解です。……これ以上は……すいません」
流石に勉強不足だった。ノルマ達成ならずか……?
「惜しいな。あと少し理解を深めるべきだ。だがどちらが重要か理解しているのは感心出来る。理解出来ていない部分についてはしっかり理解しておくように」
「はい」
どうやら及第点のようだ。
「いいか、シロン君の言った通り魔法の技術向上よりどこまでギリギリの魔力消費で必要最低限の強化が出来るかがポイントだ。他の魔法では違う事が多いがここが身体強化魔法の大きな特徴だ」
ゲッヒ先生は教壇に戻りつつ語る。
「もし過剰なほど身体強化魔法を使えば魔法使用における予想通りの魔力消費となろう。だが使える魔力は予想を超えて大きく減る。何せ魔力源たる筋肉が別のものになっているのだからな」
それがどう言う結果を招くのかを考えれば恐ろしい事である。
身体強化魔法を使わなければならない状況と言うのは戦闘中であったり逃走の最中であったりする。そのような中で他の魔法が使えないと言うのはリスクが高いのだ。
「さて、今日はここまでだ。そろそろ最初の試験だがこの身体強化魔法についてはかなり細かく出題する予定だ。以上」
そう言ってゲッヒ先生は教室を出る。
時計を見れば既に昼で長い間寝ていたのだと遅れながら理解した。
「シロンくん、お昼を食べよう」
「すまない、ちょっと先約が入ってる」
「そっか……」
例の如くしょぼーんとした顔になるカナミ。
「放課後はちゃんと行くからさ」
「指切り」
「え?」
「指切り」
そう言って小指を出すカナミ。
「子供かよ」
仕方なくオレも小指を出していい年した男女が指切りをする。
「貴方達ってそう言う関係なの?」
「うわっ」
唐突にフェルがまた現れる。
「貴方、わたしが現れる度に驚いてないかしら。少し心外よ」
「ならいきなり登場しないでくれ、心臓に悪い」
「気配を消すのは癖よ。不快だったなら謝るわ」
気配を消すのが癖って何者だよ。あ、騎士団関係者だったな。
「さっきの問いだがオレ達はそんな関係じゃないぞ」
確かに見えなくはないのかもしれないがそう言う関係ではない。
「あっそ。シロン、ご飯を食べに行きましょう。ここに来たばかりでどこで食べればよいのかわからないの」
「残念ながらオレには行かなくちゃいけない場所があるんだ」
しばし思案してからこう続ける。
「ここにいるカナミに連れて行って貰えばいい。甘味の1つか2つ奢ってやると言えば行くだろう」
「シロンくん、わたしの扱い雑……」
ジト目になっているであろうカナミと目を合わせるべきではないだろう。
「とにかくオレは行けそうにないから」
言うだけ言ってこの場を去る格好をする。
「カナミさん、いいかしら?」
「……わたしで…よければ」
歯切れが悪いがカナミが了承したので大丈夫だろう。
「じゃあ」
あの2人で一体どんな会話になるのか実は気になるがまずは生徒会室に行こう。
コンコンっ
「どうぞ~」
「失礼します」
ノックをして生徒会室に入る。
「いらっしゃ~い」
間延びする声で誰かすぐにわかる。
「こんにちは、リアベルナ会長」
「リアでいいわ~。こんにちは~、シロン君」
リアベルナ会長――リア会長はソファに座って紅茶を飲みながら挨拶をする。
「副会長は?」
「キオは図書館に篭っているんじゃないかしら~。今日は放課後からお仕事だから~」
「そうでしたか」
昨日見た限りキオ副会長はリア会長のブレーキ役なのではないかと思ってあの人が居た方がいいのではないか、と思っていたのだが残念だ。
なんかリア会長って天然っぽいし。
「それで~、シロン君はお返事しにここへ来たのよね~」
「はい」
「取り敢えず座ってくださ~い」
リア会長に促されて対面のソファに座る。
「生徒会室って言っても色々なものがあるんですね」
書類はもちろんの事、カップやお茶うけがあったり生活感があるような部屋である。
「そうね~。みんなお仕事はするけど休憩しにここへ来てるものですよ~」
そう答えながらカップに紅茶が注がれる。
「ど~ぞ~」
「すいません」
「いえいえ~」
「……」
なんだろう、このやり取り。
「昨日話した条件が全てです~」
しばし考えるフリをしてこう告げる。
「大変申し訳ありませんがお断りします」
シロン「なんだこの短さは!」
フェル「次の話とそのまた次の話の区切りが悪いそうよ」
シロン「なん……だと……」




