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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
5.明日来る春の嵐を避ける方法
33/58

1限目 ドーナツがこんなに怖いものだったとは

前回までのあらすじ

・シロンくん、謎のパワーアップ

・シロンくん、カナミと喧嘩

・シロンくん、借金する

 春もそろそろ新学期の少し前の日の事である。


「きっかし借りた分です」


「まさか約束を守れるとはな」


 オスカルテ王国の魔法騎士団の本部にオレは来ていた。

 スラム階の住人であるフータとの取引の際にサグマセリュウさんから借りたナホ救出の資金を返しに来たのだ。


「あなたの目論見とは違って自分のお金です」


「……そうか」


 少し驚いたかのように答える。


「ボクはたとえ悪意で信じられようとも頼られようとも引き受けたからには裏切るつもりはありません」


「……そうか。1つ訊いていいか?」


「なんでしょうか」


「どうして姫様にお借りしなかった?」


 確かにエル姫から借りる事も出来たと言えば出来た。かなり面倒な事にはなるかもしれないのだが何より


「負い目を感じさせて借りるなんて卑怯じゃないですか。あの状況でもボクは対等な人に借ります」


 あの状況だと貸すと言うより譲渡になっただろうが。


「そうか」


 サグマセリュウさんはポツリと呟く。


「じゃあボクはこれで」


 そう言ってオレはここから去っていく。


(それにしても本部経由で届けてもらうために来たのにまさかサグマセリュウさんがいるとはな)


 サグマセリュウさんは魔法騎士団のエース――国軍の最高戦力である。

 そんなものを鞘に納めて大人しくするような余裕はこの国をはじめどんな国にもない。日々あちらこちらで戦いに駆り出される筈なのだが。


 かくしてあいつに関する一件はこれで幕を閉じる。


「お疲れさん」


「あぁ、ホントに疲れた」


 外で待っていてくれた友人のシガルが声をかけてくれた。


「よし行くっか。しっかしシロンも頑張るねぇ。オレっちにはとても無理だよ」


「1番疲れたのがおまえのところでのアルバイトだったのが心底驚いたよ」


 サグマセリュウさんに返した金はシガルのところで稼いだ金だ。


「まさかおまえがこんだけの金が必要だから働かせてくれって言ってきた時は何かと思ったんよ」


「オレもおまえのところで働く日が来るとは思わなかった」


 雑用なんでもやると言ってしまったのがダメだったのだろうか。


「書類整理から品運び、算盤(そろばん)代わり、接客補佐に修理まで器用過ぎるだろ」


「全部魔法学校で必要な能力とハナ姉に鍛えられたからだな」


 高度な処理能力や肉体重労働に耐えられるようになってるのはそれらに感謝すべきところではあるが面倒事である事に変わりはない。


「でも最初は大変だったわな」


 シガルは苦笑いしながら言う。


 あいつを回収して家に帰った翌日、オレはシガルの家で三日三晩働いた。


 だが致命的な事に魔法の過剰行使のせいで筋力が大幅になくなっていて動く事もままならない状態であった。

 魔法は魔力を使って発動するがその魔力が筋肉を消費して作り出される。魔法を使えば使うほど体は衰えてしまうのだ。


「そもそもちゃんと歩けなかったんだから仕方ないだろ」


 オレとしてはあの眼鏡男と戦ってもまだ余力があるように魔法を使っていたつもりだったのだが予想以上に魔力を使っていたようだ。


(おそらくはオレの呪い(永久回避魔法)のせい……)


 あの時、いつもよりさらに一手先の攻撃が読めていた。


 それだけじゃない。あれ以降もこの状態が続いているのだ。

 おかげで寝付きはさらに悪くなり、消費魔力量も増大、筋トレしてもなかなか魔力(筋肉)の消費に追いつかずなかなか筋肉がつかないのだ。


「だがきちんと働いてくれたしこっちとしては助かったんよ」


「こちらとしても助かった」


 オレは歩く事を中断し左に跳び、屈む。


 直後右に薄い金色の影が落ちてはその影がオレの元あった上半身へと伸びる。


「へ~あれで避けちゃうんだ」


 砂埃が舞う中、災害がやって来る。


「うわ、ハナ先輩じゃないっすか!」


「およ、しろろんのルームメイト君、おひさ~」


 そう言いながらハナ姉(災害)は右足でしゃがんでいるオレをめがけて回し蹴り。


「っと」


 それを後ろに避けて立ち上がる。


「ルームメイト君、しろろん(これ)借りてくね」


「はい、お好きにどうぞ!!」


 おい、友人を譲り渡すなよ。


 オレはすぐさま走りだしてハナ姉との距離を空けようとする。


「あ、ちょっと待ちなさいよー!」


 気づくや否やその常人離れした脚力で急加速するハナ姉(悪魔)


「さようならぁ……」


 呆然としているシガルを傍目にオレは角を曲がる。


「なんでいつもいつも追いかけてくるんだよ!!」


 爆走しながらハナ姉にオレは問いかける。


「う~ん、なんとなく?」


 わざとらしく首を傾けながら答える。なお、ハナ姉も爆走中だ。


「なんとなくでボコボコにされてたまるかー!!」


 オレは既に感じ取った急加速による突進を回避すべく急ブレーキをかけて右折する。


「おお」


 ハナ姉は急加速してしまったがために曲がりきれず交差点を直進して通り過ぎる。


(これで距離を空けることには成功したか?)


 と、思っていた時期がオレにもあった。


「ギア1つ上げちゃおっか」


 ハナ姉はオーバーランした分を後ろ跳び一歩で戻り、しばしの勢いを貯めた後オレに目掛けて急々加速したのだ。


 純粋な突進――オレはそれが読めていたが避けることが出来ない。


(くそっ! オレがトンネルに入るところを待ってたのかよ!)


 短いトンネルではあるが、抜けだす前にハナ姉に追いつかれる。そんなビジョンが浮かんでしまったからにはどうしようもない。


 オレは180度向きを変えてハナ姉を迎え撃つ。

 一発勝負。

 オレは突進してくるハナ姉の胸ぐらを身を低くして掴もうとするが――


「げっ……」


 掴む場所が悪かった。そのやわらかな感覚に動揺してしまう。


「獲ったー」


 後は言うまでもない。

 オレの世界は一周半回り石畳の冷たさを全身で感じる事となる。


「ねぇしろろん」


 バックマウントを取っているハナ姉がうつ伏せになったオレに訊いてくる。


「お姉ちゃんの――


「もうそれ以上は言わないでくださいごめんなさいごめんなさい!」


 確かにオレは年頃の男ではあるがそれを自分が言うのと他人に言われるのとでは全然違う。


「もう1度触ってみる?」


「何を言ってるんだよ」


 口の端を釣り上げながら笑ってるんだろうなぁ、と思いながらオレは答える。


「え!? あ、えっと……なんでもない!」


 突如振り下ろされる拳はオレの背中をヒットする。


「いたたた……」


「今日はこの辺にしといてあげよう」


 そう言ってハナ姉はオレの背中から降りて砂埃を落とし始める。


(あれ、いつもの地獄車は?)


 言っておくが求めている訳ではない。


「どうせまだ本調子じゃないんでしょ」


 ハナ姉はオレの具合を見透かして言う。


「わかってるんだったらやるなよ」


「いやぁ見かけたらやりたくなる性でね、あははは」


 嘘をこけ、と思う。普通は騎士団の庁舎に用でもない限りあそこに立ち寄らない。奇襲も含めてどうせ待ち伏せしていたのだろう。


「またね~」


 やるだけやったハナ姉は走ってどこかへ行ってしまった。


「どうかオレの生活に平穏が訪れる事を」


 何かへと祈りながらオレは足を引きずり家を目指す。






 そして新学期。


「あけましておめでとう」


「おめでとー」


 そんな挨拶があちらこちらで行われている。


 オスカルテは――と言うより殆どの国では――春に年が明ける。新年最初の日は祝日だが2日目からは役所も店も学校も始まる。

 このセルシア魔法学校も例外ではない。新年2日目にして新学期が始まり、冬が厳しくなる前に卒業または修了式がある。


 冬の2ヶ月以上ある休み以外に大きな休みは殆どない。これから10ヶ月弱は学校に通い続ける事となる。


 オレは学校に着いてクラス表を見る。


「6-Aだな」


 セルシアには基本は3つのクラスがある。

 魔法を使う事は可能だがその実力は未熟とされるC組、概ねの実力があるとされるB組、十分な実力を持つA組の3段階に分けられる。


 しかし例外にS組がある。

 今年のセルシアには2年、6年、7年の3学年にある。

 S組は今後国の宝となり得る人材のクラスである。A組すら比較にならない天才集団とも言われ、その実力はオレ達凡人からしたら測定不能(未知数)だ。

 S組はその学年に3人以上の時に設立されるためS組のない学年のA組にもS組に匹敵する人はいると言われている。


 誰かに見られているような気がするがオレは気にせず新しい教室を目指す。


「お、シロンじゃん」


「なんだシガルか」


 ついこの前まで一緒に働いていたため特に久しぶりな感じはない。


「今年もBか?」


「オレっちがAに上がる訳がないだろ」


 そう笑いながら答えるシガル。


 クラスが3つ或いは4つに分かれていても才能で分けるなら2つのグループになる。

 1つ目はA組になる可能性のある者達だ。努力次第でA組にもB組にもなるがCになる事はないと言ったグループ。

 もう1つがA組になる可能性が見込めない者達だ。いくら努力をしてもB組が限界、気を抜けばC組になる可能性もあるグループだ。


 例外は多くあるが魔法の実力が本人の生まれながらの才能――使える使えないを含めて――に左右されるためにこのようにグループが分かれる。


「シガルにはAになって欲しいんだけどな」


 是非ともその例外になって欲しい気持ちはある。


「努力はすっさ」


 オレがルームメイトとして見る限りシガルは努力の余地がまだある。テスト前以外にも頑張れば或いは、と思ってしまう。


「じゃあな」


「ああ」


 教室が違うシガルと別れてオレは教室に入る。


 教室を見渡して今年一緒に過ごすクラスメート達を見るが、やはり変わり映えしない。


(当然か)


 そして目があってしまった。

 睨みつけるようなその黒いつり目は昔から苦手だ。


(オレが何をしたんだよ)


 オレは睨むクリムゾン色の髪の人物――サイフォンを視界から外して席につく。


 席は完全にランダムだ。1年間その席となる。

 一説には成績順と言われるが、調査した人――シガルだが――によると担任が適当に配置しているだろうとの事。


(だからってこの位置はないよな)


 視界からサイフォンがいないと言うのは別にいい。問題はサイフォンがオレを視界内に留めていると言う事だ。


(あろう事かサイフォンの左前だなんて)


 右後ろにサイフォンがいるのだ。後ろじゃなくて良かったと心底思う。


 そして右には……


「シロンくん……」


 聞こえるか聞こえないか、奴だったら何を言うだろうか考えればわかる程度の声量でぼそっと言う。


 もちろん聞こえない振りをして無視する。


 そしてチャイムが鳴る。

 セルシアには特に始業式などがなくすぐに授業が始まる。


 今年は新たな魔法型式を習う。まず1つ目が――


「よおし、やるぞ」


 ゲッヒ先生だ。


「1番最初が第四型式だ。何も苦労する事がなくて良かったな」


 そう笑いながら授業を開始する。


「諸君らはもう勝手に知ってるだろうから説明は大雑把にするが、魔法には5つの型式がある。事象干渉魔法の第一型式、変流魔法の第二型式、昨年やった還元魔法の第三型式、今回やる構造変化魔法の第四型式、そして他の授業でやる創造魔法の第五型式だ」


 板書しながら言っているが誰も書き留めようなど考えていない。こんなのは基本中の基本なのだ。


「習うとは言ってもA組だ、身体強化魔法(パワープラス)衝撃緩和魔法(ダメージマイナス)はもちろんの事、水弾(アクアシュート)や中には召喚術(サモン)も修得している者がいるだろう」


 召喚術は別としていずれもセルシアの技能試験である魔戦のために修得するべき魔法だ。


 A組はそう言った魔法を予め修得している人が多い。この自ら力を付けていこうとする向上心こそがA組に入れる所以である。


「だがな、諸君らは所詮付け焼き刃程度にしか修得出来ていない。身体強化魔法すら下手だと言えよう。この1年しっかり学んで欲しい。では始めよう」






「と、言うところまで起きてたんだけどな」


 起きていたには起きていた。何を言っているか不明だったが。


 結局起きたのは諸々の授業を飛ばして昼休み前であった。

 学食の一角にてオレはシガルを誘って食べていた。


「シロンはいつも寝不足だよなぁ。オレっちを見習ってぐっすり寝たらいいんよ」


「おまえの場合は授業でも寝てるけどな」


「ちょ、おまえどこでそれ知ってんだよ!」


 シガルは揚げた肉が挟まったサンドイッチを吹き出しかけながら問い質す。


「いや、どうせシガルの事だから3年前と同じじゃないかと」


「うぐっ」


「もうその反応でわかったから安心しろ」


 オレはシガルの肩を叩いて宥める。


「ちくしょー、覚えてろよ」


「オレは面倒臭い事は嫌いなんだ」


「そう言えばカナミちゃんは?」


 途端空気が変わる。いや、オレが空気を変えた。


「……すまない。地雷踏んじまった」


 目だけでその件には触れるなと語ったが上手く通じたようだ。


 商売人は空気を読む能力が問われるからそこら辺の技術はちゃんと身につけているのだろう。


「なぁシガル」


「ん、なんだ?」


 しばし迷った末に訊いてみる事にした。


「大切な人だと思ってたけど実は大切な人じゃなかったらどうする?」


「なんだそれ」


「例えば親だと思ってたけど実は親じゃなかったとか、さ」


「あーそう言うの? 珍しいなシロンがそう言う話をするの」


「いいから答えてくれよ」


 自分でも性に合っていない質問をしているのはわかっている。


「そりゃ、実の親はどこにいるかは訊くさ」


「“は”?」


 シガルが敢えて強調した助詞に聞き返す。


「恨む事もなくね? だって今までそう接してくれたんだろ? そんだったらちゃんと話だけ訊いて後はチャラ、感謝こそすれ恨む事はない」


 そう言ってオレの問の意味を察してくれたシガルは答える。


「……じゃあ実の親を殺したのがその育ての親だったら?」


「やけに複雑な関係だな。まぁ恨むんも仕方ないわな。だがちゃんと理由は訊くぜ」


「それじゃあ――


「だがそれ憶測だろ?」


 全てを知ってるかのような、決しておちゃらけてる訳でない笑みで、疑問形だが断定する言葉で言うシガル。


「そんなに空気を読むなよ」


「商人だかんな」


「嫌われるぞ」


「おまえと同じあんま友達いない族だからな」


 嫌味を含めて言うなよ。


「でもオレなら訊くなんて無理だな」


「どうして?」


 そう問うシガルに対してオレはトレイを持って立って言う。


「殺意があるからな」


 オレは食器類を返却して教室へと1人で戻る。


 戻る最中に声をかけられる。


「ちょっといいでしょうか~」


 何かぞくっとして振り返ると暗くて赤い瞳がオレをまっすぐとらえていた。


「リア、あまりからかわない」


「あは」


 後ろを見ると女性がもう1人いる。


「ちょっと私達とお話しましょ~」


「すまない、君、これあげるから一緒について来てくれ」


 そう言って渡されたのはドーナツだった。


「それじゃ~行きましょ~」


 赤い目の黒髪の女子生徒はオレの襟を引っ張りオレを引きずる。


(あれ、ドーナツって拉致るための交換材料だっけ? まさかドーナツがこんなに怖いものだったとは……)


「ってちげーよ、ドーナツはそんなんじゃねぇよ!」


「何言ってるの?」


 もう1人の女子生徒――こちらは栗色の髪の青目――はよくわからないと言った感じで見る。


 どうやら新学期初日にしてオレの平穏は崩れ去るそうです。

シロン「半年近く更新出来なかったのは訳があってだな……」

シガル「そ、そうなんよ。季節調整ってのがあったんよ」

カナミ「うそ、イクナイ」

シロン&シガル「「すいませんでした」」


と言う訳で大変お待たせしました。

5章の始まりです。

この章も約10日更新でいきたいと思いますのでよろしくお願いします。

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