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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
4.時の回廊 〜Her memory〜
32/58

5限目裏 スカシユリ ~Her memory~

視点:カノア

 シロンくんと屋上で別れてから……違う、シロンくんから逃げてからわたしは自分の部屋に引き篭もった。


(やってしまったやってしまったやってしまった)


 後悔の嵐がわたしに吹き荒れる。


 誰よりも優しくしてくれたシロンくん。

 シロンくんの方が辛くてもわたしの方を心配してくれたシロンくん。

 わたしに魔法適格がなくて違う学校に行っちゃう事になっても毎日慰めてくれたシロンくん。


 わたしの学校生活にシロンくんがいない日はなかった。


 シロンくんは気付いてないけど、ああ見えて結構モテている。


(カナミちゃんもシロンくんの事好きだったんだよなぁ)


 幼馴染同士であるカナミちゃんも仲がいいからわかってしまう。

 でも逆もそうだ。カナミちゃんはわたしがシロンくんの事を好きだって知っていた。


 だからわたしはシロンくんと同じ学校に行くカナミちゃんにシロンくんを任せる事に決めた。

 シロンくんのその優しさがわたしでなく、魔法と言う立ち向かえる力を持った女の子にならこの悲劇を起こさないで済むとわたしは思ったからだ。






 でも決心がついたのは卒業式の前日だ。


 いつものようにシロンくんがその優しさでわたしの元に訪ねたのかと思えばそこにいたのはクラス委員長さんだった。

 彼女もまたシロンくんによく声をかけている。


「カノアさん、明日卒業式ですから卒業式くらい来てくださいね」


「……はい」


 どちらかと言えばわたしはこの人が苦手だ。

 なんだろう、目が怖いのだ。


 人見知りも相まってわたしが曖昧な返事をすると


「しっかり返事をしてください。委員長として仕方なくわざわざあなたのお家にやって来てるんです」


(だったらいつもみたいにシロンくんに任せればいいのに)


 そう心で悪態ついてるとそれを察したのかなんなのか


「私、あなたがシロン君と別れる事を毎日祈ってますの」


「え……」


 思ってもないくらいストレートな言い方だ。


「でも最後の最後まで叶いませんでしたのでこれをあげます」


 出してきたのはお薬のようなものだった。


「お薬?」


「そうです。大体6年分の印象深い部分の記憶を消す薬です」


「それって……」


 それって犯罪なんじゃ……。


「医師であるお父様に頼みに頼んでもらったものです。どうぞ、飲んでください」


「今……ですか?」


「もちろんそのつもりでしたが……私もそこまで慈悲のない人になったつもりはありません。明日の卒業式が終わったら飲んでください。もし飲んでいないとわかったら……私とカノアさんは同じ中等学校でしたよね」


 この人は中等学校に進学しても苛めは続けるぞ、と暗に言っているのだ。


「それではごきげんよう」


 言うだけ言って、渡すものは渡して帰っていった。


 お薬を見る。口の中で溶けて吸収するタイプのお薬らしい。


(明日シロンくんとさよならしてから飲もう)


 そう考えたのだが


(あれ、シロンくんに飲ませてもいいんじゃないかな。そうすればシロンくんはわたしがいなくても苦しまなくて済む)


 そんな考えが浮かんだのだ。わたしは忘れたフリをすればいいだけだ。


「痛い……」


 普通にしてるだけでこの痛みだ。辛い。






 翌日の卒業式。


 わたしは意を決して学校に行く。

 席に座って誰にも目を合わせず座っていると案の定シロンくんは声をかける。


「おはよ、カナ」


「……おはよ」


 その優しさがわたしを苦しめるのだ。痛いのだ。


「良かったよ、卒業式の日も来てくれないんじゃないかって思ってたんだ」


 わたしもそれを考えた。


「ごめんね、心配かけて」


「いや、いいさ。オレとカナの仲なんだから」


「……ごめんね」


 その優しさを裏切る事になって。


 式はつつがなく終わってホームルームも終わる。


「カナ、少し話があるんだけどいい?」


 わたしがシロンくんに切り出そうと思っていたのだが先回りされてしまった。


「ふぇ?」


 それがなんの話かわかってしまって、それがとても嬉しくてわたしはついいつもの、わたしらしい返事をしてしまう。


「大事な話なんだけどさ」


「……いいよ。わたしもシロンくんにお話あるから」


 シロンくんが意を決したように、わたしも意を決する。


「でもちょっと待って。少し用事」


 失敗した時のためと、成功してもシロンくんが傷つくのを防ぐためにわたしはもう1人の幼馴染に会いに行く。


「カナミちゃん」


「どうしたの?」


「あのね――」


 わたしがカナミちゃんに頼むのは3つ。

 1つ目は違う学校だしわたしと関わらないで欲しい事、2つ目はシロンくんが困っていたら助けてあげて欲しい事、そして3つ目が


「シロンくんは優し過ぎるからカナミちゃん、わたしの代わりに頑張って受け止めて」


「カノアちゃん……」


「わたしがシロンくんといればシロンくんが苦しんじゃうから……」


「わかった」


 言うだけ言ってわたしはシロンくんの元へ戻って戦場《楽園》に向かう。


 屋上はわたしの大切な場所だ。

 1年生になりたての頃は人見知りのわたしを守ってくれる要塞だったけど、シロンくんを誘ってからは毎日が楽しい楽園になった。


 でも今は違う、わたしとシロンくん、最初で最後の戦いだ。


 わたしの心や体がどんなにボロボロになってもいい。ただシロンくんが苦しまない世界であって欲しい。

 だからわたしはシロンくんと戦う。


 自らを壊してまでわたしに優しさを向けなくていい。


 どうかシロンくんが何にも苦しまず、シロンくんの事だから楽しい事を楽しいって言わずに文句を言うかもしれないけど楽しい世界にいて欲しい。


「2人でここに来るのも久々だな」


 寒風に吹かれてシロンくんは何かを抑えるように言う。


「そうだね」


 6年前から一緒だもんね。


「好きなんだ。1年のあの時からオレはカナが好きなんだ!」


「……!」


 6年間わたしが抱いてきた想いをシロンくんは代弁する。


 それがどんなに嬉しくて仕方がないかは想像を絶するものではないだろうか。

 わたしも嬉しすぎて今すぐシロンくんを抱きしめたい。ずっと一緒にいたい。


「たとえ違う学校に行ってもオレはカナに会いに行く。だからさ――


「ごめんな…さい……」


 これ以上シロンくんに告白されたらわたしはもう我慢できなくなってしまう。


 ここから先は全部嘘。わたしがシロンくんに出来るのはこれだけだけど、シロンくんが幸せになれるならそれがわたしの本望だ。


「……え?」


 まさかと言った感じで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするシロンくん。


「もう、わたしの近く…に……いない、で」


 精一杯、1つ1つの音を確かめるようにわたしは言葉を紡ぐ。


「な、なんの冗談だよ、はは」


 苦笑いなシロンくん。


「シロンくんがわたしの事好きだって知ってたよ。それがあの時からだって」


「でもそれはカナだって同じだろ」


 お互いバレバレな初恋だからわたしも思わず苦笑いしてしまいそうだ。


 でもわたしは首を横に振るしかない。


「どうして……」


「前から言おうと思ってたんだ。付きまとってうざいからもうわたしとお話しないでって」


 痛い。


「何わかりやすい嘘ついてんだよ」


「だからね、わたしを好きだった過去はなかった事にしよ」


 すごく痛い。


「……は?」


「はい、これ」


 わたしはハンカチからお薬を取り出す。昨日委員長さんからもらったお薬だ。


 そのハンカチは奇しくも6年前、シロンくんに貸したハンカチだった。

 そのハンカチがシロンくんとの優しい思い出を抉り返すようでこれ以上なく痛い。


「これ飲んで、わたしの事忘れて。そうすればお互い幸せになれるから。……お願いだから飲んで」


 頑張って耐えてたのにハンカチ失敗しちゃったな。涙が止まらないよ。


「お願いだから。そうしないとわたし、わたし……!」


 痛いの。すごく痛い。


「巫山戯るなよ! それが何を意味してるのかわかるのか!?」


 シロンくんは怒ってる。1度もそんな風にわたしに怒った事ないのに怒ってる。


「お願い……」


 痛い。


「いい加減にしろよな!」


 シロンくんはわたしのハンカチを払おうとしたが、シロンくんがそうするとわかっているわたしにはその動きがわかる。そして案の定シロンくんの腕は空振る。

 次の動きが予想出来たわたしは避けようと後ずさるが予想以上に動きが速くてわたし傷ついた二の腕を掴まれた。


(シロンくん、怒ってるなぁ)


 それだけわたしに真剣な気持ちでいてくれるのが嬉しくてそれが痛い。腕を掴まれるよりずっと痛い。


 そしてバレてしまった。ずっと隠してたこの傷がバレてしまった。

 バレるかなぁって思ってたし、いっその事バラしてしまおう。その隙にお薬を使おうと考えていた。


 そしてやはり一瞬シロンくんの動きが止まる。

 だからわたしは予定通りシロンくんの口の中にお薬を入れる。


「さようなら……」


 シロンくんには聞こえない声で小さく呟く。


「気付かれちゃったしもう遅いから言うけどわたしね」


 やる事はもうやった。後は散々わたしの嫌なものを見せて嫌ってもらおう。


 尤も、優しいシロンくんがそうなるなんて事ないと思うけど。

 でもわたしは一分の願いにかける。


 寒空の下で服を脱ぎ出すのは別の意味で勇気がいる。


(露出癖があると思われないかな)


 どうもなんか落ち着いてる。

 終わっちゃったからなのかな……。


 上半身はブラだけでシロンくんに背中を見せる。


(は、恥ずかしい! やっぱ腕だけにしとけばよかったかな……)


 後悔先に立たずである。


「!!」


 シロンくんは絶句するしかないだろう。こんなもの見せられて平気な人は頭がおかしい。


「わたしはね、シロンくんといればいるほどこうなっちゃうんだよ?」


 痛い。


「……」


「シロンくんは優しさだと思ってわたしといてくれたと思うけどそれがこれ」


 そろそろいいかなって思って着直す。


「もっと早くからわたしを見限ってくれればいいのに……」


 そんな事言って欲しくないけどわたしは嘘を続ける。


「それは……カナが――


「もうカナって呼ばないでよ」


 シロンくんに嫌われるためならなんでもする。わたしが1番好きな呼び名を捨てても構わない。


「わたしの名前、知ってるでしょ」


「……カノア」


 初めて呼ばれた。


 その一言は赤の他人と断定されたような辛さだった。

 とてつもなく痛い。


「いい加減わたしの聞き間違え正してよ」


 わたしが人見知りで“ノア”の部分をつなげてしまったのだ。だからカナ。

 カナミちゃんだってカナになるのにナミになっちゃったのもそれが理由。


 わたしが寒そうにしてるとシロンくんは上着をかけようとしてくれる。


「その優しさをやめてって言ってるでしょ!」


 痛いんだよ。


 わたしの渾身の力はシロンくんの上着を十分に弾くことは出来なかった。

 それだけわたしの腕には力が入らない。


「シロンくんのその優しさがわたしを傷つけるの、痛いの!」


「……ごめん」


 今朝のわたしのように謝るシロンくん。


(違うの、わたしが悪いの)


「今更謝ったってもう遅いんだよ。ずっと痛いの」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ居たい


 シロンくんの側にずっと居たい!


 もうダメだった。何もかもがうまくいかなかったのだ。


 いや、何か1つうまくいけばそれで十分だった。

 わたしが魔法適格者なら。人見知りじゃなかったら。わたしを支えてくれる友達がいたら。わたしを苛める人さえいなかったら。シロンくんがわたしに優しくしてなかったら……!


 そんな1つピースがあればうまくいったのに、わたしにはなかった。

 否、見つけようとしなかったのだ。


 シロンくんの優しさに甘えてわたしは何もしなかった。だからこれは罰だ。わたしへの罰。


「……」


 シロンくんは言い返さない。


「……もうわたしの事は忘れて魔法学校で幸せになってね」


 たった一言、最後の一言だけ本心を口にしてわたしは屋上《楽園》を後にする。


 涙が止まらなかった。すごく痛かった。

 どんな他人からこの体を傷つけられるより痛かった。


 すれ違いざまにカナミちゃんに会う。


「あ、その……」


 カナミちゃんは気まずそうにわたしを見る。


「大丈夫だから、大丈夫だから……」


 わたしはカナミちゃんに挨拶もせず階段を下る。


 荷物はイタズラされないように裏庭に隠してある。

 昇降口を出て荷物を回収してわたしは学校を後にする。


「さようなら、わたしの大好きなシロンくん」

と言う訳でネタばらしの5限目裏です。

主犯は彼女だって事は3話目でわかったかと思いますし、カナミがカナではないと言う事は3章のカナミ視点で気付いて欲しいですね。

元々ミスリードさせる気もなく5話目に全力を尽くすつもりでした。

それなのに他所の小説に影響を受けた結果がこれだよ!


サブタイトルは花言葉です

白ツツジ:初恋

スイートピー:優しい思い出

黄バラ:嫉妬

アキレア:戦い

白チューリップ:失恋

ハナニラ:卑劣

スカシユリ:偽り

他の花言葉もありあまり良くないネタでした。

元々回想でしたので台詞には組み込まないネタだったんですよ。

ただ、従来のカナミが花好きであった事を皮肉ってカノアの過去を書いています。

てかカノアちゃん『シロン』ってこの話だけで70回も出てますよ?

相手のために命とは言わなくても記憶を盗るなんてヤンデレじゃないのかな……。

作者も今更思った次第です(苦笑


作者個人としてはこれから本編が始まる――言うなれば主人公の成長待ちでした。

シロンくんが作中世間で強敵と言われる人達と互角か苦戦程度に戦わなければあっさり負けますからね。

初期にシロンくんが眼鏡男と戦ったところで不可視のハンマーにやられます。

彼がご都合主義で手に入れた『さらに一手先を読む力』と言うのは次章以降で語られるものです。

でも、これ、さんざん伏線を張ったんですよ?

ただその力を手に入れるためのトリガーは残念ながら入れてません。

それこそこの世界の魔法と呼ばれる力の秘密ですからすぐには明かせませんでした。

その結果が伏線らしからぬ伏線になってしまったのも確かです。


後書きが少し長くなってしまいましたが、次章はあの娘の出番にしたいなぁって思います。

でもそうすると……。

やっぱ次々章にしましょうか(おい

あ、でもあの娘のサブストーリーも加えたいな……!

いろいろやってみたいですね(笑

秋になってまた忙しくなるんですけども!(9月5日)


では、また次章もよろしくお願いします。

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