6限目 ハナニラ
目が覚めるとやはり例の男達がいた。
「お目覚めかい?」
眼鏡男は確認すると
「では、取引しよう」
そう合図を送る。
「やっとかよ」
「なんでそんなガキのために」
と言った感じでイライラしているようだ。
「一体君がエルミーネ姫殿下とどんな関係があるのか気になるからね」
「……」
ここで真実を言うのも嘘を言うのも良くない。沈黙は金なり。
「まぁいい、連れて来てくれ」
そう言って男達に指図して連れて来る。
手を縛られリボンを付けられおまけに猿轡をして来たのは間違いない、カナミだ。
思えばどうして都合よく屋上に現れたのだろうか。
今までの事を通して考えればわかるじゃないか。
どうしてカナミはカノアに対して何も助けもしなかった? 仮にも幼馴染だ。
まだある。カナミは苛めの主犯を知っていたようだ。なのにそれを言わない。
言っても被害はない。いくら平和主義者だからって幼馴染を見捨てるか? そっと口添えしても良かったのではないか?
「どうですか殿下、この子は知り合いですか?」
眼鏡男はオレが誰かをカナミに訊く。
幸か不幸なのかこいつは服装だけは姫なカナミをエル姫だとまだ勘違いしている。
だが気付くのも時間の問題か?
カナミは首を横に振る。知らない、と。
「おやおや、殿下は君の事知らないみたいだね」
「ふん……だからなんだってんだ。オレはカナミに訊かなきゃならないんだ」
「カナミ? それは誰だ? こいつは……はっ!」
バカみたいに反応して気付いたかバカめ。
「おい貴様ら、連れて来るのはエルミーネ・リートベルンザクス第二王女だぞ。誰がそれ以外を連れて来いと言った!!」
辺りの男共は戸惑っている。確かに姫様と呼ばれていた、と。
間違えるのも当たり前だ。
あの2人は影武者に使えるくらい似ている。服装を変えて髪も長さを変えるように見せれば大体の人はわからない。
ま、知ってても放置していたのが約3人いたが。
「貴様、この事を知っていたな」
「なんの事か――ぐっ!」
腹に蹴りを入れられる。
流石にキツイな。
それに――
「それにオレは今、怒ってんだよ」
「は?」
オレは忍ばせていた解除キーを使ってリボンを解除する。
リボンを付けている事は確認されているだろうからオレが魔術士か何かだとは知られているだろう。
あの眼鏡男も同じく魔法を使える。それも高度な魔法だ。
(勝負は一瞬か)
リボン解除と同時に身体強化魔法で拘束具を破る。
「何!?」
流石にオレが解除キーを持ってるかどうか調べなかったようだ。手ぬるいな。
すぐさま炎弾を射出するが向こうもすぐに防御壁を張り防ぐ。
「ほうほう、解除キーを持ってたのか。ここまで来るから偽装リボンかと思いリボンだけを調べたのが失敗だったか。だが」
眼鏡男は何かの魔法を使う状態になり
「こいつら全員相手に出来るのかな」
飛び出すは電撃5発だ。避けにくい魔法を選んだようだ。
ぶっちゃけ人攫い組含めて8人の手練れの男を倒すには厳しい。
まずは電撃を防いで一体ずつ処理。
地面に手を付けて土壁で防ぐ。
「属性を基準に魔法を分けていた時代は有利不利な魔法がはっきりしていたらしくてな。単純な魔法じゃオレには通じないぜ」
両手で片手3人ずつ計6人を拘束魔法で拘束。
このままじゃ魔法は使えないが、眼鏡男は拘束出来るような相手じゃない。
自分の呪いを信じて眼鏡男《強敵》に背を向けて1人目に狙いをつける。
(後ろから上と左右の動きを封じるために炎弾3つ、正面が殴り、か)
動きを封じるつもりなのだろう。
もし正面の殴りをガードしてもその次に後ろから拘束魔法をかけられておしまい。
「ならこうするんですよっと!」
オレは正面の男をスライディングで避けて足を崩す。
そのまま背後に立って脊椎を突く。
誰かへの怒りをそのままぶつけた感じだ。治癒でもしないと下半身不随にでもなるだろう。
盾にしたおかげで拘束魔法は受けずに残りの6人を仕留めにかかる。
もののわずかで残りの6人を仕留める。
「おいおい、本気出さなくて良かったのか?」
この眼鏡男は全然本気を出してない。
「まぁね、作戦に失敗したんだ。死んで償ってもらわないと」
その冷徹さは恐ろしいものだった。
「そんなにエル姫が必要なのか」
「あぁ、君が知るところではないと思うが、これからの未来のために生け贄となる逸材さ」
「人の命をなんだと思ってるんだ……」
生贄? そんな事をしていい人じゃない。
「それにボクはね、強い人をいたぶるのが好きなんだ」
「は?」
「強かったり女の子だったり、そう言うのを爪の先から骨の芯まで痛めつけるのが好きなんだよ」
「意味がわかんないな」
「さっきの動きで君が強い事はわかったからね」
そう言って眼鏡男は腕を横に振る。
(来る、側頭部か)
だがしゃがんで避けるのは愚策だ。次の攻撃が決まるのは避けた瞬間だ。とにかくまずは距離を詰めて――
「ぐぁっは」
避けた瞬間その見えない何かは急停止して背中を狙ってきた。
(物理法則無視かよ)
魔法も大概だが相手の動きがなくこんな動きをされたらたまったものじゃない。
呼吸が出来なく苦しいところをカナミがそれを目撃して何か叫んでいる。
今だけはあいつの声を聞きたくはない。あいつに心配されるのが癪である。
「どうしたんだい。それでもう終わりかい? もっと楽しませてくれよ」
踏みつける眼鏡男に抗えない。
そんな屈辱の中、オレは夢の事を思い出していた。
(なんでこんな時に思い出すんだろう)
どうして、今日の今日になって思い出すんだろう。
確かにカナミはケーキが好きじゃなかったよな。無理して食べてたのかよ。
「悪いんだけどさ……」
オレは呟く。
「どうしたんだい? まさか命乞い!?」
踏みつけるのをやめて眼鏡男はうざい目をしながらこちらを覗きこむ。
「今のオレ、殺したいくらいキレてんだ」
腕に目一杯力を入れて起き上がりざまに蹴りを入れてやる。
流石にこの至近距離じゃ防ぐ時間もなかったのか、おもしろい具合にぶっ飛ぶ。
「ボクの服が汚れちゃったじゃないか……」
あちらもどうやら怒ってくれたようだ。
「償ってもらわないとね!!!」
(踏み込みと同時に不可視の打撃が後ろから)
不思議な事にさらに先が読める。
(左に避ければ右から追撃、右に避ければ左から追撃)
一手先が読めるようだ。
「ならこうしないとね!!」
後ろに、打撃進行方向に向かって飛び蹴り、眼鏡男には雷撃を食らわせる。
「ヒット」
1度蹴ればサイズの検討は付く。
「足のサイズより大きかったらどうしようかと思ったが軌道予測もマシになったし……」
オレは大きく息を吸っては吐いてから再び吸って。
「殺してやるよ」
静かに言う。
「おいおい、まさかこんなところにトップ魔術士がいるのか? 強いのは好きだ。傷めつけてあげるよ!!」
こんな狂人に負けたくはない。
再びの戦闘行使。
(左から炎弾を打つのか、不可視ハンマーはよくわからない軌道を描いてるっぽいがオレが読めるのは結果だ。後ろした斜めから、その後避ければ水平にぶつかりに来る)
回避魔法がここまで便利なら十分楽に戦えるんだな。
オレは足に力を込めて瞬時に移動する。
その歩数一歩。
ハナ姉が好きそうな技である。
眼鏡男はその動きに対応して防御壁を張る。
「甘いっ! 掌底!!」
殴るより強く放てるこの技は対防御壁に使える。
(それにもし破けなくてもな)
「解呪」
オレの得意分野は解呪だ。掌底で脆くなった防御壁なんて朝飯前だ。
「バカなっ!」
「ぶっ飛べ!」
着地と同時に土を浮かせ、空いた手で掴みそのまま正拳突き。
「溶岩拳」
握りつぶした溶岩がオレの手の周りに付いて実態を持った熱の拳が眼鏡男に当たる……筈だった。
「はぁはぁ」
危害がないものを予測できないのが回避魔法の欠点だ。
あの見えないハンマーを盾に使ったのだ。
直後正面からハンマーが襲いかかる。
避けても軌道を変えて来るし弾いても無駄だ。
(壊せるだけの力は今はないからな……)
体も予想以上に消耗している。
身体強化魔法を切った瞬間立てなくなるだろう。
その身体強化魔法も持って3分だ。
オレは諦めてカナミを抱えて離脱する事にした。
「逃がすものか」
追撃のハンマーに拘束魔法で捕らえる。
サイズがわかってバカみたいに直線で襲ってきてるから出来る芸当だ。
オレはカナミを抱えて全力で平民階へと目指す。
平民階に着いた時には既に日が暮れていた。
衛兵にはさんざん怪しまれたが服装が確かにスラム階らしくなかったり、識字チェックで通過が許された。スラム階の人達は字の読み書きが出来ないのだろう。
ネグルさんのところに訪ねて解除キーを解除して湯浴みを貸してもらい、スラム階奥でこびりついた腐臭を落とす。
「ありがとうございます」
「いえいえ、シロン様方がご無事で何よりです」
ネグルさんに感謝の礼をして家に帰る。
今夜がちょうど帰国予定日であるから少し早いがそこらで時間を潰しながらなら大丈夫だろう。
「シロンくん……」
今日何回目のその声だろうか。
数十回に渡るその呼びかけをオレは無視している。さっきからこんなやり取りである。
ネグルさんも心配していたがオレからは大丈夫と言っている。信じてもらえてないが。
だがオレも我慢しているのだ。
カナミは曲がりなりにも魔法学校生活5年間を共にしている。
それを差し引いても初等学校での件についてオレはカナミを許せない。
「シロンくん……」
捨て猫のようにさっきからうるさい。
「ナミはさ……」
ついにオレも耐えかねて言ってしまう。
「え……今……」
案の定驚くカナミ。
そうだろう。記憶を失わせようとカノアを使ってオレの記憶を混濁させたのだ。
それが今になって解けているのだ。
「ナミはどうしてカノアにあんな事をしたんだ」
穏やかに出来る限りしてるつもりだが限界が近い。
「わたしはナミじゃない、よ?」
「ケーキ無理して食べてたんだな」
「ち、違う!」
「そう言えば困った時や悲しい時は花園に行ってたな」
「……」
「……」
しばし無言。
「おまえはカノアを傷つけた。それもこれ以上なく、だ。オレは許さない。それをしても平気でいてしかもオレの記憶を消してまでカノアのポジションを奪った」
「わ、わたしはそんな事してない!!」
「じゃあどうして今こうなってんだよ」
「それは……」
言い淀むカナミ。
「言えないだろ。言えない事してたからだろ」
「そうじゃない!」
カナミが否定するが無視する。
「カノアをあの時助けなかった。平和主義だからとか嘘ついて苛めの主犯である自分を秘匿した。卒業式に屋上で待ち伏せしていた!」
「違うの、聞いてシロンくん!」
「……そう言う風に呼ぶなよ」
「え……」
「カノアの真似して呼ぶなよ。もう2度とオレに近付かないでくれ。……それこそおまえを殺しかねない」
これはせめてもの情けだ。幼馴染と言う情け。
(思い出すべき過去じゃなかった)
そう思わずにはいられなかったのも事実だ。
作者「ひとまず4章完結です」
カナミ「どこが完結してるのか聞きたい」
作者「ヒーローに救われたでしょ?」
カナミ「おかげでめっちゃ嫌われてる」
作者「悪いがカナミちゃんを――
ハナ「おおっとそれ以上はダメ!!」
作者「くぁwせdrftgyふじこlp」




