5限目 白チューリップ
塀を抜けた先には身なりがそこら辺と同じだが屈強そうな男が4人、そして明らかに身なりが違う男が1人いた。
「おやおや、君、迷子かな?」
身なりの違う長身眼鏡男が尋ねる。
「……こんなところまで迷子になる奴がいるのか?」
「ははは、それは失礼」
そう言って眼鏡を正して再び尋ねる。
「ここで大人しく引き下がれば見なかった事にしてあげてもいいよ? なんせ今日のボクは気分がいいからね」
「ここに来るだろう人物と一緒に帰らせてもらえないか?」
「はは、随分と無理な事言うね」
「皮肉だ」
「そっか、じゃあ悪いんだけど――
(右肘を水平に打撃)
オレは2歩後ろに下がり目で見えない何かを避けるが次の打撃点がわかる時にはもう遅かった。
「ぐぁっ!」
斜めしたから後頭部――それがオレが、オレの呪いが次に当たると避けた時点で予測した場所だ。
「まさか初撃を避けられるとは思わなかったからつい力を入れちゃったよ。一体どこでボク達の情報を手にしたのか気になるし、例の取引の子とはどんな関係なのか気になるのになぁ」
意識が薄れゆく中、眼鏡男はこう告げる。
「目の前で最高のショーを見せてあげるよ」
オレは口角を上げたが、その男は頭を打って混乱していると思ったのかそれ以降オレに語りかけはしなかった。
初等学校の卒業式が間近に迫ってる中、カナはついに学校に来なくなっていた。
実際は来てるのかもしれない。
その証拠にオレが登校の寄り道にカナの家を訪ねてもカナは家を出たと言っていたし、それより早くに尋ねれば一緒に登校している。
しかしそれでも授業が始まる頃にはいないのだ。
「そろそろ卒業式なのに大丈夫なのか?」
「せめて卒業式くらいはみんなでいて欲しいですね」
オレは委員長と向い合って話している。
何故か卒業制作委員だかなんだかわからないものに任命されてしまったのだ。受験が終わって暇そうにしていたからだろうか。
委員長は1人だと大変でしょう、と言って手伝ってくれている。
「世間一般的にはみんなで集合して何かしたりするからな」
「そうですね。私が呼びましょうか」
「委員長が呼んで来るのか?」
「シロン君が呼んでダメなら他の人に任せるしかないじゃないですか」
「それもそうだけどさ」
来るのか怪しいカナをどうやって連れ出すかオレも考えあぐねている。
家まで迎えに行けば付いて来てくれるだろうが式が終わった時にはいなさそうである。それくらい最近のカナは酷くなっているのだ。
でも連れて来る事にもオレは不安を覚えている。
苛めは未だに続いている。
オレが可能な限り見つけてもなかなか撲滅できていない。誰が主犯かも未だにわからないのだ。
このまま進学すればどうなったものかと思わざるを得ない。
「とにかく前日は私があの子のところへ行きます。あの子に渡すものもありますし」
「だったらオレも行くよ」
卒業式にはカナには来て欲しい。それに言いたい事だってある。
「いえ、シロン君が行ってはまたいつもの展開になるんじゃないでしょうか。それでしたら私だけで行ってみるのもよろしいのではないでしょうか」
「そう言われればそうとしか言えないけど……」
「ここは私にお任せください」
保身派の委員長がここまで言うんだ。任せてみるのも良いのかもしれない。
「わかった。お願いするよ」
「はい」
すると卒業式の日になんとカナは教室に来ていた。
「おはよ、カナ」
「……おはよう」
相変わらずの様子だけどカナが来てくれた事にオレは喜びを隠せない。
今日持って来たカナが大好きなケーキはどうやら役立ちそうだ。ポケットサイズだがカナも喜ぶ筈だ。
「良かったよ、卒業式の日も来てくれないんじゃないかって思ってたんだ」
「ごめんね、心配かけて」
「いや、いいさ。オレとカナの仲なんだから」
「……ごめんね」
ただひたすら謝り続けるカナにオレは嫌な感覚を覚える。
「どうしたんだよ急に、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ、大丈夫だから。ほらそろそろ移動だよ」
明らかに無理をして引きつった笑みは昨年と比べてまったく違うものであった。
そして式が始まり式が終わる。
別々の進学するために誰かと別れるのは悲しいが別段泣くような事じゃないとオレは思っている。
もしかしたらそれだけ今のオレはカナへの気持ちを占めていたのかもしれない。
最後のホームルームが終わりクラスで騒いでる連中を放っておいてオレはちゃんと最後までいたカナに声をかける。
「カナ、少し話があるんだけどいい?」
「ふぇ?」
真剣な面持ちにカナは驚いたのか久々にその気の抜けた返事を聞いた気がする。
「大事な話なんだけどさ」
「……いいよ。わたしもシロンくんにお話あるから」
しばし迷った末の返答だったがどうやらオーケーしてもらえた。
「でもちょっと待って。少し用事」
そう言ってカナはトイレの方向に向かって行く。
(少しデリカシーに欠けたか)
反省はしよう。
オレはケーキをポケットにしまって教室を出る。
場所はいつもの場所――屋上である。
カナが不登校気味になってから訪れていない場所だ。
「2人でここに来るのも久々だな」
「そうだね」
6年と言う歳月を経てもここは変わらずオレ達の世界であった。
カナを苛めるものはない平和な世界だ。ずっとここに居たいとオレは願う。
冬も近づき寒い季節で長くいるのはお互いの身に良くないだろう。オレはいきなりだが言う。
「好きなんだ。1年のあの時からオレはカナが好きなんだ!」
6年間秘めていた想いをオレは告白する。
「……!」
「たとえ違う学校に行ってもオレはカナに会いに行く。だからさ――
「ごめんな…さい……」
言い終わるより先にカナはオレの告白に返答した。
「……え?」
まさかそう言われるとは思わなかったのだ。
オレだってそれなりに貴族をやっているつもりだ。相手の気持ちには気付けると思っている。だからその返答は――
「もう、わたしの近く…に……いない、で」
「な、なんの冗談だよ、はは」
思わず笑ってしまう。
「シロンくんがわたしの事好きだって知ってたよ。それがあの時からだって」
バレバレな初恋。でもそれは
「でもそれはカナだって同じだろ」
決めつけて言うオレに対してカナは首を横に振る。
「どうして……」
「前から言おうと思ってたんだ。付きまとってうざいからもうわたしとお話しないでって」
「何わかりやすい嘘ついてんだよ」
「だからね、わたしを好きだった過去はなかった事にしよ」
「……は?」
意味がわからない。オレの話を聞けよ。
「はい、これ」
カナはハンカチから薬を取り出す。
そのハンカチは奇しくも6年前のハンカチであった。
「これ飲んで、わたしの事忘れて。そうすればお互い幸せになれるから」
言ってる事とオレの知識を組み合わせればこの薬の正体には気付ける。
「……お願いだから飲んで」
さっきまで平静を保っていたカナが突然涙ぐむ。
「お願いだから。そうしないとわたし、わたし……!」
「巫山戯るなよ! それが何を意味してるのかわかるのか!?」
「お願い……」
「いい加減にしろよな!」
オレはカナのハンカチを払おうとしたが手を引っ込められて空振る。
逃げようと後ずさるカナの細い二の腕を掴んだ瞬間、違和感に気付き膠着してしまう。
それが運の尽きだった。カナはハンカチに包んでいた薬をオレの口へを無理矢理入れた。
吐き出そうとするも時既に遅かった。薬は飲むタイプでなく口で吸収するタイプだったようだ。恐ろしい早さで溶けてしまっていた。
「気付かれちゃったしもう遅いから言うけどわたしね」
そう言って寒空の下で服を脱ぎ出すカナ。
Yシャツを脱いで下着だけの姿で背中を見せる。
「!!」
そこには絶句しかない。
無数の引っかき傷、刺した痕、もしかしたらタバコの痕かも知れない。
その傷跡はや生傷はオレは詳しくは知らないが卑猥な記号だと思われるものが描かれている。
「わたしはね、シロンくんといればいるほどこうなっちゃうんだよ?」
「……」
「シロンくんは優しさだと思ってわたしといてくれたと思うけどそれがこれ」
カナは服を再び着ながら言う。
「もっと早くからわたしを見限ってくれればいいのに……」
「それは……カナが――
「もうカナって呼ばないでよ」
その一言は背中の傷を見た時より衝撃的なものだった。
「わたしの名前、知ってるでしょ」
「……カノア」
たぶん初めて口にする名前だ。
「いい加減わたしの聞き間違え正してよ」
カナは、カノアは着替え終わって肌が冷えてしまったのか寒そうな感じでいた。
だからオレは上着をカノアにかけようとする。
「その優しさをやめてって言ってるでしょ!」
おそらくカノアの全力で弾かれたオレの上着はオレの足下すぐ近くに落ちた。
「シロンくんのその優しさがわたしを傷つけるの、痛いの!」
「……ごめん」
謝る事しか出来なかった。
謝る以外に出来るものをオレはしなかった。
「今更謝ったってもう遅いんだよ。ずっと痛いの」
「……」
「……もうわたしの事は忘れて魔法学校で幸せになってね」
そう言って泣いてるカノアにハンカチを渡す事も出来ずにカノアは屋上を後にする。
泣きたいのはオレだった。
どうしてオレは助けられなかったのだろう。
後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔コウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイコウカイ。
ついに立つことすら出来なくなり跪く。
「シーくん?」
2人の楽園だった場所に現れたのはナミだった。
「シーくん悲しそう」
「あぁ……」
もうどうにでもなって欲しかった。
「ナミね、決めたんだ」
「何をだ?」
別にどうでも良かった。
「ナミの名前、知ってる?」
何巫山戯た事いってるんだ?
「カナミだろ?」
「ナミが、わたしがカナになる、よ?」
「本当に巫山戯るなよな」
怒気を込めてオレは言う。
「ケーキは嫌いだけどシーくんのために、シロンくんのために好きになる。お花も好きだけどケーキも好きになる。シロンくんと同じ学校で同じクラスになるよう頑張る。だから……」
「ナミはナミだ」
段々意識が朦朧としてきた。
カナ、最後の最後でなんでこんな事を……。
「……わたしがカナだよ」
「カナ、どうして……」
「わたしはカナ。シロンくんが好きな人」
「どうして……カナ、オレを見捨てたんだ」
「わたしはシロンくんを見捨てはしない。ずっといるから」
「カ……ナミ」
フータ「意気込んどいて戦闘シーンが20行もないなんて弱すぎだろw」
ナホ「お兄ちゃんが強いなんて思ってないから嫌いにならないよ?」
シロン(もう何も言わないでくれ。オレのライフはもうゼロよ)




