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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
1.リボンでポニーテールを作る方法
3/58

3限目 モンブランにしよう

「シロンくん」


 目を覚ませばカナミがオレを起こす。いつものことだ。おやつ(エサ)の時間か。今日はどこにしようかな。いつものカフェでオーケーしてもらえるかな。


「カフェでいいか?」


「それもだけどそれじゃない」


「なんだそれ?」


「この前の…偽装リボンのこと」


 偽装リボン? あぁカツアゲのあれか。憲兵が処理するレベルだよな。


「それがどうした?」


「ちょっと来てくれって……」


 どうやらただ事ではないようだ。と言うか憲兵団や風紀部の問題なんだから風紀委員と一緒にやって欲しい。何故オレを巻き込むんだ。オレがしたことなんてカツアゲしてる連中が偽装リボン付けてたところを抑えただけじゃないか。面倒くさいことに巻き込まれるのは好きじゃない。


「昨日、いなかったけどどうしたんだ?」


 そのせいでRD(ロイヤルデラックス)ケーキを見ず知らずの人に奢る羽目になった。オレの財布が終わる必要もなかった……。


「風紀委員の会議。ケーキ食べたかったなぁ。シロンくんのお金で」


「おい」


 そう言うことを言う奴はこうだ。


「痛っ」


 カナミの頭をコツンと叩く。







 10分後


「そう言う訳だ」


 延々と話したのは風紀部部長のゲッヒ先生だ。ちなみに風紀委員は生徒で構成されているが風紀部は先生達で構成されている。委員は部の下請けみたいなものだ。


 内容はこんなものだ。

 大々的に偽装リボンについて捜査出来ないから委員と一部の生徒に捜査させたい。


 なんだそれ。憲兵がするものだろ。

 その問に対しては、この件に対して憲兵が動くつもりはない、のだそうだ。


「なんだか怪しいですね」


 オレはそのまんまの不満を言う。


「憲兵団に関して我々もそう思っている。だが動くつもりはないと言った以上動かないのだろう。だからと言って憲兵団が動かないで風紀部が偽装リボンについて動くのはあまりよろしくない。そうなると偽装リボンを解決出来るのは風紀委員しかいない。憲兵団の目にとまることなく動けるだろう。撮影映像はこちらで処理する」


「それでボクを使うのになんの関係があるんですか?」


「寮の壁を壊したのはどこの誰だったかな」


「……」


「バレてないと思ってたのかね。魔法の痕跡は残りやすい。君が十分だと思えても我々教師からしたらまだまだなのだよ」


 バレてたのか。さすがはゲッヒ先生、オレ達に魔法術式を教えてるだけあって術式の痕跡から探り当てたのか。


「その件に関してはすいませんでした」


「その代わりと言ってはなんだけど」


 そう言うことか。


「罰として風紀委員の手伝いを、ですか」


「まぁそう言うことだ。話が早くて助かる。カナミ君の補佐として動いてくれ」


「……わかりました」


「よろしくだよ、シロンくん」


 カナミは笑顔でオレの顔を覗く。


「「失礼しました」」


 オレとカナミは風紀部室を後にして廊下を歩く。


「シロンくん、本当にやらないの? 壁のことおばさんに言われちゃうよ?」


 さすがは16年来の幼馴染みである。オレが言ったことと真逆の意味を持つ真意がわかっている。

 そう、手伝う気なんてさらさらない。いちいちあんなカツアゲするような連中を相手になんてしたくない。そう言うのは好き好んでやる奴に任せればいい。


「適当にやってるフリだけして誤魔化せばいいだろ。結局手がかりは得られませんでしたって言えばいいんだし」


 一介の生徒に何を求める? 結果がどうであっても責められるのは心外だ。


「そう言うところ昔からだねぇ」


「で――」


 そこでオレはカナミの頬に指2本向けて――つねった。


「おまえは今度は何に釣られたんだー!!」


「お、おかひだよ!」


「何の!?」


「ひろっふがたくひゃんかかっひゃけーひ!」


「シロップがたくさんかかったケーキ? 太るぞ」


 ゲッヒ先生、そんなので釣ったのかよ。実は全然期待してないんじゃないのか?


「ひ、ひろんふんひはひゃんへいなひ!」


 そこで指を離す。


「い、痛いよぉ」


「おまえがそうすぐ簡単に受けちゃうからオレまで手伝わされるんだろ!」


 今までにも何回もあった。風紀委員以外にもカナミのお母さんにも近所のおばさんにも。カナミが何かに釣られてオレを巻き込むのが何かのテンプレートになっている。


「今回は手伝わないからな!」


 もう懲り懲りだ。ましてやこの前のような連中を相手になんてしたくない。


「でもぉ……」


 カナミが心配するのはわかる。偽装リボンの蔓延は秩序を乱す。上の者が下の者を力で押さえつけるのはよくない。カツアゲされるような人が増えるのはよくないだろう。


「でもも何もオレは何もしない。カナミがやりたいなら好きにすればいい」


 そう言ってオレは歩みを早めて男子寮へと向かう。

 男子は女子寮に、女子は男子寮に入ることは禁止されているからカナミが男子寮に入ることはない。


「シロンくん……!」


 呼び止めるカナミは無視だ。






「はぁ……」


 とは言いつつこの溜息。ちょっと言い過ぎたかな。


「何溜息してんだ?」


 ルームメイトのシガルが訊いてきた。平民出身だが貴族にも対等に話そうとするその姿勢はすごいと思っている。


「なんでもない」


「おまえは嘘がホントに下手だな」


 そう言って笑いながらマンガを読んでいるシガル。


 寮は1部屋に2人の相部屋式だ。そこにやはり身分での部屋の良し悪しはない。

 ルームメイトは1年生の時は自動で決まるが2年生以降は本人達の合意と審査があれば各自で決められる。


 シガルとは3年生の時からのルームメイトだ。2年生の時にオレが解呪の勉強のし過ぎでそれ以外が疎かになった結果3-Bになった時に知り合った。あの時は結構凹んでた記憶がある。


「どうせカナミちゃん関連だろ」


「……」


「……図星かよ」


 どうやらこの2年来の知り合いはどこぞの幼馴染みのように見抜けないようだ。だがオレが墓穴を掘る始末だったのは何も言えない。


「今回もケーキですごく面倒くさいことを引き受けてオレを巻き込もうとしてるんだよ」


「ははは! 頑張れよ!」


 シガルめ、他人事だからってそう笑いあがって。いつか後悔させてやる。


「悪いが今回はオレはそんな面倒くさいことに巻き込まれるのはゴメンだ」


「おいおい随分と冷たいじゃないか」


「いいんだよ、カナミがやりたいことは勝手にすればいいんだよ」


 勝手にすればいいんだ。


「それで溜息かよ、おかしな話だな。カナミちゃんがやりたいことをシロンが手伝ってやればいいだけの話じゃん」


「そんな面倒くさいことをオレはしたくない」


 何が楽しくて探偵もどきをしなければならないんだ。


「じゃあシロンは何をしたいんさ」


「え?」


 オレは唐突な質問に対処できない。


「何事も自分が1番やりたいことをすればいいんだよ」


 珍しくシガルが真面目な口調で言った。


「だからオレっちはマンガを読みたいから読むんさ!」


 ……どうやらシガルは自分の主張をしたかったようだ。


 さて、シガルのさっきの質問を真に受けるのは癪だがオレは何をしたい? 一刻も早くこの呪いを解きたいに決まってる。そうに決まってる。カナミの報酬(ケーキ)のためにオレが面倒くさいことに首を突っ込むこともないだろう。


「モンブランにしよう。それでご機嫌取りだ」


 ケーキでも買ってきてやれば機嫌を直すだろう。オレに非がある訳じゃないけど。


「アッハハハ」


 シガルがまたしても笑う。こうして夜が更けていくのであった。






「モンブラン1つ」 


 3度目のケーキ屋で毎回違うものを頼んでいる。全種類制覇するのはそう遠くないのではないだろうか。1番の難関と思われるRDケーキもクリアしたし。


「どうぞ、ロイヤルデラックスケーキのお兄さん」


「……」


 顔を覚えられてるようだ。


「別に好きで買った訳じゃないです」


 オレは既に瀕死の財布から代金を払いながら言う。


「フフフ、そうね」


 そう言ってお釣りを返してくるお姉さん。


「またのお越しをお待ちしております。今度おまけしてあげますよ」


「2度とあんなケーキを買うつもりはないですので」


 そう言ってオレはケーキ屋(金の墓)を後にした。


 次に向かうはカナミのところだがなんて面して会えばいいのだろう。

 授業やその合間はオレが起きれず話す機会はないし、昼休みや放課後は話そうとせずどこかへすぐ教室を出て行った。回避魔法でそう感じただけだけど。

 と言うかカナミはどこにいるのかすらわからない。だが一応は幼馴染みだ、どこにいるかの検討は付く。


「第一候補にでも向かうかな」


 オレはあのいつものカフェに向かうことにした。

 あのカフェはオレとカナミの姉さん的な人に連れて行ってもらった場所だ。カフェなんて全く似合わない人だ。出会したら災害だと思っていい人である。

 同じセルシアにいるから災害遭わないよう日頃から気をつけねばならない。こう言う時には回避魔法が役に立つからこの呪いは決して悪いことだけじゃない。悪いことが多いけど。


 カフェについてもカナミはいなかった。店主のおじさんにコーヒーを勧められたが今はカナミへのお供えが優先だ。


「じゃあ第二候補か?」


 次はクレープ屋だ。ここから少し遠い。もうわかると思うがカナミは取り敢えず甘味処に行けば会える。それをお気に入りの順に行ってるだけだ。もちろん例外もあるが今は可能性の高い方からだ。

 しかしクレープ屋にもカナミはいなかった。


「いったいどこにいるんだ……」


 案外見つからないものだ。次の甘味処に行くのも手だがここは路線を変えてみるのも手だ。


「……貴族階に行くか」


 あまり行く気になれないがカナミはおそらくそこにいるだろう。どうしてそこにいるのかあまり考えたくないが。結局学校前を通過して今度は貴族階に行くことになる。これは少し遠いのだ。


「近道しようかな」


 なので裏道を使う。貴族が他の階の裏道を知る機会はあまりないだろうが、かつて日々災害に追われていたのだ。逃げ道を使い続けている内に裏道を知った。今は大人しくなって本当に助かる。7年生だし勉強が忙しいのだろう。


 だがオレはこの裏道を使うことに後悔することになったのだった。いや、本当は感謝するべきなのかもしれない。しかし決していいものではない。


「ん?」


 咄嗟に反応するオレの呪い(回避魔法)。どうやら危機が今日も迫っているらしい。


「……またか」


 また、カツアゲである。被害者も“また”である。似たような危機感な訳である。


「カツアゲされ体質ってあるものなのか?」


 しかし今現在カナミ(風紀委員)はいない。オレが止めようとしたところでただの喧嘩にしかならない。そう思ってやり過ごそうとした。


「助けて!」


 その言葉さえ聞かなければやり過ごせた。オレの良心が助けなければと叫びを上げなければやり過ごせたのだ。


「ちくしょうっ」


 そうやってオレは再びカツアゲ現場に出て行くのであった。


「確かに人気のないところでカツアゲするのは正しいやり方だが、カツアゲそのものはよくないよな」


 今回の相手は幸いにも1人である。似たような危機感であると言うことは――


「うるせぇ!!」


 突如の炎弾。それも前回より精度が高く速い炎弾だ。こっちは魔法が使えないから避けることしか出来ないと言うのに。


「いきなりかよ……」


 そして何よりも攻撃的であった。


 続く炎弾。どうやら本当にタイマンの喧嘩をやらなければならないようだ。


「見られちまったもんは仕方ねぇ、死ね!」


 貴族じゃないのはわかる。かと言って平民とはあまり思えない。なんなんだこいつ。


 体力が続く限り避けられるが相手の隙を付くことでしかこちらに勝ち目はない。


「ならこうする!」


 オレはなけなしの金で買ったモンブランとそれが入った箱を投げる。それが一瞬の隙。相手が魔法を使ってる以上、運動能力はこちらが互角以上は明らか。炎弾は見事箱に当たり中身のモンブラン(なけなしの金)が飛び出して相手の顔にヒットする。

 取り払おうとした瞬間に腹部に蹴りを入れる。うずくまったところで背中に飛び乗り相手の腕をそのまま引き上げる。背負投逆バージョン飛び乗り付き。相手は後ろに270度回る感じだ。そのまた昔、災害に遭った時にその身をもって学ばされた話だ。


「肩を外して顔面強打だ。しばらくは動けないだろう」


 残念ながらこの犯罪者を捕まえることをオレには出来ない。カナミがいればどうにかなるのだが。


「また、おまえか。大丈夫か?」


 オレはひ弱な平民に話しかける。


「は、はい……。この前と続きありがとうございました。」


「別にいい」


 もちろん良くはない。モンブラン(お供え物)がなくなったのだ。買い直す金はもうない。だが平民の前で貴族が金に困ってる姿なんて笑止千万。だから何も言えない。


(わたくし)、ネグルと申します。貴族様、是非ともお願いがございます」

「オレに頼まないでくれ。それに貴族はなんでも出来る神様じゃない」


 貴族をなんだと思ってるんだ。


「いえ、もうあなたのような方にしかお頼み申し上げられないのです」


「聞かない、オレは用事があるんだ」


 どうやら鬱陶しいのを助けてしまったようだ。


「私は憲兵団リボン開発グループの者です」


 それを聞いてしまいオレは立ち止まってしまう。


 リボン開発グループ、通称“リング”と言われる組織。RDGと素直に言う人もいるが誰が考えたのかリングと読んだのが事の発端だ。

 リングはその名の通りリボンを開発する組織だ。主に魔法抑止の向上や不正解除出来ないようにするために研究している。憲兵団保安部の管轄でこの国の秩序の特に大事な部分の1つだ。


「あの、年齢は……?」


 それにしてもこの男、若すぎやしないか? オレと同年齢に見えるんだが。


「今年で25になります」


 歳7つは若く見える。人は外見ではわからず。


「そうでしたか、すいません」


 これでも一応平民へも言葉は気を付けてるつもりだ。わざわざ一人称も“ボク”にしてるのだ。


「いえいえお構いなく」


「そんな人がどうしてカツアゲなんてされていたんですか?」


 憲兵団の中でリボンを外して歩けるのは保安部実動部隊ぐらいだ。

 彼はそこの部隊じゃないからリボンを付けなければならないからカツアゲされたらどうしようもないが、彼はリング所属と言ったのだからリボンは困ったら外せるはずだ。処罰も正当防衛だし受けることはないだろう。


「追われているのです」


「は?」


「私はリングから抜け出して来たのです。重要なデータと共にです。私とそれをある組織が追いかけてきているのです」


「話が物騒なので関わらなくていいですか?」


 いや、ホントに面倒くさいし関わるとろくな事は起きないだろう。オレの呪いも回避せよと騒いでる。


「そこをどうか! もう頼れる人が身近にいないのです!」


 まぁ憲兵団から抜けだして組織に追われてる。あれ?


「なんで憲兵団は追って来ないのですか?」


「それは…この件を大きくしたくないからでしょう。彼らは私をリングから抜け出したことで捕まえたら彼らが賄賂を受けていることが判明してしまいます」


 平然と恐ろしい言葉が出てきたぞ。賄賂だって?


「そこで彼らは偽装リボンの取引先であるとある裏組織に私の始末を命じているのです」


「待ってくれ、ちゃんと一から言われなきゃわかんないですよ」


 ネグルさんの言ってることはこうだ。

 リングは今現在汚職にまみれている。偽装リボンを作っていたのはあろうことかリングだったのだ。

 それに嫌気が差してネグルさんはリングから逃亡を図る。だがリングは憲兵団にネグルさんを捕まえさせることは出来ない。汚職がバレるからだ。

 そこで偽装リボンの買い手の裏組織、自称革命軍にネグルさんの殺害を頼んだ。さっきの奴やこの前の3人衆はその下っ端と言ったところだろう。


「ネグルさんはなんのデータを持ち出してきたんですか?」


「最新型のリボンの設計図です。コピーはないのでこれがないとこの型のリボンの解除キーは作れません」


 学校のリボンの解除キーは特定の場所、この場合は校門の守衛所の前でしか使えないし、一般家庭用のリボンは特定の人が特定の場所のみ特定のリボンしか外せないようになっている。だから他人の解除キーを盗んでも意味がなく、不正に外すには作るしかない。

 今まではリングが作っていたが最新型のリボンの設計図はネグルさんが持っていて他にないと言う。設計図がなければ解除キーを作ることは出来ないのだろう。


「新型のリボンは生産が完了しているのでもう少しすれば旧型と入れ替わります。そうなれば組織は目的遂行に歯止めがかかります。そうしないためにも私を狙うのです」


 なんかいろいろ情報が入り過ぎてパンクしそうだ。ショックなことが多くて正直もう限界だ。


「どうか、せめてこのデータだけでも守ってください」


 必死に哀願するネグルさんを見て何も思わない訳がない。結局は偽装リボンと言う面倒くさいことに首を突っ込まざるを得ないようだ。


「……わかりました。でも確実に出来ると思わないでください。ボクは一介の魔法学校生なんですから」


「ありがとうございます」


 そう言ってネグルさんは深々と頭を下げるのであった。

カナミ「1つのお話の文量安定しないねぇ」

シロン「し、仕方ないだろ。起承転結にしようとしたら転が思いの外長くなっちゃったんだ」

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