3限目 黄バラ
泣きぼくろの少女――ナホとその幼馴染のフータが寝静まった頃、オレは就寝のために薄暗くなった車内で車窓を覗いていた。
森のど真ん中を通過しているため景色は良くない。
(オスカルテに着くのは明日の朝、カナミを助けに行かなきゃならない!)
そこで気付く。
「あれ、いつからオレ、カナの事カナミって呼ぶようになったんだろう……」
もう一眠りすればわかるのだろうか。尤も夢であるからに事実とはあまり思えない。
だが寝れる時に寝ようと思い、再び深い暗闇へと落ちて行く。
雨が降ってカナと雨宿りをした次の日、まさかの風邪をひいてしまった。
「シロン様、お優しいのはよろしいですがご自分の体調管理はしっかりしてくださいませ」
「わかってますって」
メイトナス家のメイドであるオルラは雇い主の息子であるオレであっても容赦なく叱りつける。それはオレの家庭教師を兼ねているからだろうか。
「とにかく、2度とこのような事がないように」
「……はい」
カナは大丈夫だろうか。そう思い続ける1日であった。
翌日には風邪が治りオルラから登校する事が許される。
教室に着いたがそこにカナはいなかった。
(オレと同じ風邪ひいたのかな)
心配をするもいない人物に声をかけようはない。
「おはようございます、シロン君」
「あぁおはよう」
クラス委員長が挨拶にやって来た。
「あの子は遅刻っぽいですね」
「そうなのか」
あの子とはカナの事だ。
「そうだシロン君、今日の放課後はお時間ありますか? 近場でおいしいクレープ屋さんがありまして――
「いやいい。今日も勉強しないといけないし」
委員長が言い終わる前に断る。
「ですが最近シロン君、根を詰め過ぎでは……」
「大丈夫だって」
「……そうですか」
委員長は明らかに残念そうな顔をしながら答える。
「気持ちは嬉しいよ。ありがとうね」
「いえ、私は特に何も……」
そう言って戻っていった。
(本当に特に何もしてないけどね)
それが委員長としての仕事なのかそれとも別の思惑かは置いといて
(カナを探しに行きますかね)
オレは席を立ってカナを探しに行く。
とは思ってもどこにいるのだろうか。
本当に遅刻するのかもしれないし学校にいるかは不明である。
(とは言っても当たりは付くかな)
オレはその思い当たった場所へと向かう。
そして案の定そこにカナはいた。
「カナ」
「わわわ!」
驚いたカナは拾い集めている物を再び床に撒き散らす。
「何やってんだよ……」
「ご、ごめん……」
「取り敢えず集める……と言うより片付けるぞ」
オレは一昨日の教訓を兼ねて持って来たハンカチを取り出してカナの落し物をかき集める。
「わたし1人でやるからいいよ?」
「いや、やる」
「でも……」
「誰がやったかは知らないけど弁当の中身ぶちまけてんだから1人で片付けるには大変だろ。朝だし時間もないんだから」
「わ、わたしが自分でやったの!」
「はいはい」
オレは適当に返事をしておかずをかき集め、ハンカチですくってはゴミ箱に捨てる。
「昨日もあったのか?」
「な……ない……よ」
「そうか」
あったのか。
カナが苛められ始めたのはいつからだろうか。
昨年には始まっていたような気がする。
最初はオレも気付けなく、そもそもカナでさえそれが苛めの類だと気付いていなかった。
気付いたきっかけはオレが指摘したからである。
カナが宿題に使うノートを失くしたと言ってきて、それを探す時にゴミ箱に捨ててあったのを発見した時だ。
それ以降も続いていたが誰が具体的な犯人か見つける事が出来ず、そもそもカナが気にしていないと言っているのでオレも気にしないようにしてきたが最近になって段々酷いものに、頻度も多くなってきている。
やはりここはオレが犯人をとっちめるべきなのだろう。
「よし、これでいいか」
「ありがとう」
「ご飯はオレの弁当半分分けるよ」
「え、いいよそんなの!」
「人のおかずを盗っていくような奴が何を言うんだか」
前科何犯だろう。
「昼休みは屋上で待ってるからな」
そう言ってオレは先に教室へと急いで戻る。
「なぁ委員長」
教室に戻って真っ先にオレは委員長の元にへと行った。
「なんでしょうか」
「どうしてカナが遅刻するって知ってたんだ?」
「知ってはいませんよ。いつもあの子は同じ時間に来るのに今日はいなかったのでそう思っただけです」
確かに断言はしてなかった。オレは委員長とのやり取りを思い出しながら頷く。
「でもあの子の事についてはなんとかしてあげたいとは思うんですけどね」
「……知ってるのか?」
「あんなにあからさまにやってますから知らない方がおかしいと思いますけど」
「それもそうか」
「これは忠告ですけど助けようとしない方がいいですよ」
「……は?」
何を言ってるんだこいつ。
「誰しもが正義の味方になんてなれませんよ。助けようとして逆に苦しめてしまうのが多くある事です。私もそう」
「……」
「忠告はしました。それとクレープの件、お暇があれば一緒によろしくお願いしますね」
そう言って委員長は話は終わりだと雰囲気を出す。
(助けるな? カナがどんな目に遭ってるかわかってて言ってるのかよ! 結局は委員長は保身で言ってるだけじゃないか)
オレはカナを守ろうと1人決心する。
だが昼休みにカナが屋上へ来る事はなかった。
カナへの苛めは益々悪化していっている。
ある日に学校に早くに来てみればカナの机に落書きが施されていた。
「なんだよこれ……」
ブスやキモいと言ったありふれた罵倒や意味はわからないがおそらく同様の悪口の言葉が書かれていた。
教室には誰もいないため誰がやったのかもわからない。もしかしたら昨日やったのかもしれない。
オレはすぐさまハンカチを水で濡らして机を拭く。
「消えない……」
どうやら油性の物で書かれているようだ。
オレはトイレから洗剤を持って来て再び消す作業に入る。
教室でちらほら人が入ってきた辺りで全て消すことに成功した。
もちろん彼らは手伝うことなく傍観していただけだ。手伝う気があったらとっくにカナへの苛めに対して何らかのアクションを起こしている筈だ。
オレはそんな彼らを見向きもせずハンカチを洗いに教室を出る。
(カナが来る前で良かったかな)
オレは洗い終わったハンカチをそのままポケットに入れて教室に入る。
「おはよ、カナ」
「おはよ……」
目を合わせようとするもすぐにそれを諦めるそれは不審なものである。
「どうしたカナ、元気ないな」
「そ、そう? わたしは大丈夫だよ?」
「何かあったらすぐにオレに言えよな」
オレがなんとかしようと頑張るからそんな暗い顔をするなよな。
「うん」
オレは席に戻って授業の準備をする。
その日カナが早退したのは昼休みの前であった。
やはり、オレの知らないところでも苛めがあるのだろう。
「ナミ」
「あ、シーくん!」
せめて情報だけでもと思い、オレはナミの元へ尋ねる。
委員長じゃ保身のためにあまり教えてくれないだろう。
女子で起こってる苛めなら同じ女子のナミに訊くのがいいだろう。
「カナに対する苛めの件で知ってる事があったら教えてくれないか」
「う~ん」
ナミは迷った、或いは困った感じの顔を浮かべる。
「……何が原因なんだよ、カナの何が悪かったんだ!? 冷たく接してる事か? あいつは人見知りなんだよ。わかってるだろ」
つい怒り口調で言ってしまう。
「シーくん」
「な、なんだよ」
「今週のお休みにお花見に行こう」
「……は?」
思ってもみない発言であった。
「それが交換条件」
「何が狙いなんだ?」
「シーくん最近疲れてる顔してる。リフレッシュ」
「オレはいいさ、カナの方が今は大事」
「……じゃあ教えない」
どうやら譲ってくれないようだ。なんだかんだ言ってナミも幼馴染である。オレの具合を心配してくれてるのだろう。
「わかったよ、今度の休みにケーキ屋にでも行くか?」
「……ケーキは好きじゃない」
突然むっとした顔になった。これは失敗だったようだ。
「じゃあ花園でいいか?」
「うん」
ナミのお気に入りの場所である年中様々な花が咲く場所に決まった。
そして約束した日。
「よっ」
ナミの家まで迎える。
「おはよ、シーくん」
「行くか」
「うん」
そしてオレ達は歩き出す。
「シーくんとこうして2人で歩くのって久々だね」
「そうだな」
「いつ以来かな……?」
「さぁな」
さて、いつだったろう。覚えてないほどだいぶ前なのだろうな。
「覚えてないんだね……」
「え、何?」
「ん? 覚えてないほど前なんだねって」
「オレの心が読まれた!?」
「シーくんの気持ちはわかるよ。幼馴染だもん」
「確かに幼馴染だな」
カナと同じくらい付き合いが長いのも事実だ。
「うん、心配してる事も気になってる事もわかっちゃう」
「何それ怖い」
それはそれで恐ろしいな……。
「そう?」
天然って怖いな。
ナミの家から花園までの距離はあまりなくすぐ着く。
「着いたー!」
「ナミはよく来るんだろ? いいのかここで」
「シーくんと来るのは久々だからいい!」
ナミは両手を広げて堪能している。
確かに季節毎に花が咲き変わり、カラフルな色合いが目を引く。
オレはあまり花について詳しく知らないからどれがなんの花かはわからない。
近くのベンチに座って景色だけを堪能する。
「チューリップって1年中咲くんだな」
目に写った白いチューリップを見ながら思った事を言う。
「そうだよ。でも冬は無理だと思うよ」
「気温的な?」
「そ」
「ふーん」
白いチューリップは風に吹かれて儚げに揺れる。
「そろそろカナについて教えてくれるか?」
「もう?」
まだ堪能してないと言った感じでナミは頬を膨らませる。
「話が終わってもナミが満足するまで今日は付き合うから」
「……それならいい」
話を聞き終わったら帰ると思っていたのだろうか。
ナミはオレが座っていたベンチの隣に座って話し出す。
「シーくん……」
「どうした!?」
突然雰囲気が変わった事に驚く。
「実はね、シーくんを好きな女の子がいるの」
「それって……」
ただそれだけの一言で察しはついた。
「その子がね嫉妬してるからだよ」
「巫山戯んなよな! 堂々とオレに言い寄ればいいだけじゃないか。なんでカナを苛めるんだよ!!」
あまりの理不尽さにオレは怒りを隠す事は出来ない。
「ナミに怒らないでよ……」
「すまん」
確かに怒る相手は違う、ナミじゃない。
「で、それは誰なんだ?」
「……知らない」
「知ってるような雰囲気だけど?」
ナミは昔から嘘がつくのが下手である。
「もしナミが知っていてもシーくんはその子を苛めるんでしょ?」
「まぁな、やられた分はやり返す」
カナを散々な目に遭わせたんだ。1倍返しどころか倍返しである。
「それはいくない」
「平和主義だな」
「そ、ナミは平和主義」
どうやらナミは自他共に認める平和主義なようだ。
「シーくんに出来るのは距離を置く事」
「委員長にも似たような忠告を言われたな。あれはそう言う意味だったのか」
委員長は「助けようとして逆に苦しめてしまう」と言っていた。あれは近くにいるなと言う忠告だったのか。なんともわかりにくい忠告だったが。
「ナミも忠告する。これ以上苛めを酷くさせないために」
「忠告ありがとう。だがカナを1人にする訳にはいかない。オレが離れたら頼れる人が誰もいなくなる」
「……そう」
ナミは寂しげに返事をする。
「さて、ナミが満足するまで今日は付き合いますよ」
「やった!」
本当に昔からコロコロ表情を変える奴である。
シロン「本当にポンポン場面転換が激しいな」
作者「か、回想ですし……」
シロン「それと作者さんよ、回想のフラグは回収するのか?」
作者「フラグ? あー仲の良かった登場人物が突然発狂してヒロインをころ――
シロン「それは絶対違う」




