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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
3.路地裏の落とし穴を探す方法
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7限目 傷口に塩を塗りたくってやる(前編)

同日投稿です(1話目)

ご注意ください。

 人が少ないと言うのはいいものである。

 何故ならばオレの悪しき呪いの影響を受けずに寝れるからだ。


「ふわぁよく眠れた」


 とわ言うものの、陽は登ったばかりでまだ暁方である。

 遥か遠くの(屋敷内ではあるが)厨房で頑張っている人達に起こされたのだ。

 深夜徘徊があるセルシアの寮では長く眠れないし、実家でも家の広さの関係上誰かの動きで起きてしまう。


「他所の国で大きな家でも建てて暮らそうかな」


 等ととても次期当主とは思えない発言をしながら朝の支度をする。


「シロン・メイトナス殿」


 不意に声をかけてきたのは昨日のエル姫の護衛のジーグスさん。


「じ、ジーグス総団長」


 オレがこんなオーラばりばり出してる人に気が付かなかった……?


「騎士団の者でもない者がそのように呼ぶものではないぞ」


「それは失礼致しました。シーミルゲート卿とお呼びすればよろしいでしょうか?」


「いや、ジーグスで良い。職業柄、家名で呼ばれるのは慣れてはおらぬでな」


「ジーグスさん、いつからそこにいらっしゃるのですか?」


 永久回避魔法なら声をかけられる前に人がいると気付ける筈だ。


「何、単純な事よ。君がここを通る瞬間に現れたまでだ」


 つまりこの人はオレの回避魔法より早くここに現れて声をかけたのだ。

 そんな事出来るものなのか?


「さて、シロン殿、一体どこへお出かけかな?」


「朝の運動でもしようかな、と」


「ほう、鍛錬とな。殊勝な心がけよの」


「いや、そこまで大層なものではないかと……」


 危険な臭いがプンプンするんだが……。


「どれ、小生が稽古しよう。付いてきなさい」


 そう言ってジーグスさんは付いてこいと言わんばかりの背中でどこか稽古場へと足を向かわせる。


「間違いなくこれはあのパターンじゃないのか……?」


 ともあれ、師事するのはあの魔法騎士団総団長である。第一線を退けたとは言え実力はさっきの動きでオレとは桁違いに実力が上なのはわかる。


「良い経験として教え授かりますかね」


 稽古場は学校セルシア魔法練習場プリンをさらに頑丈にした部屋だった。


「ここでなら思う存分魔法が使えよう」


 ジーグスさんはさぁかかってきなさいと言った感じで待ち受けている。


「他の魔法騎士の方々はいないのですか?」


 オレとジーグスさん以外誰もいないため不思議に思う。


「今は遠征任務でな、小生とあやつの2人で姫の護衛をしておる」


 ジーグスさんは早くかかって来いと言わんばかりで答える。


「あの……体術だけでいいですか?」


「ほぅ。魔法は使わないと?」


「はい。ボク、魔力が少ないので」


「よかろう、いつでもかかってきなさい。魔法もいつでも使って良い。だがこちらも必要とあれば使う」


 そうは言ってもジーグスさんは仁王立ちである。


「それではお願いします」


 オレは一礼して距離を詰める姿勢になる。

 ジーグスさんとの距離は目測15メートルだ。体術のみでは小細工が効かない距離である。


(ならばここは一直線!)


 オレは直進して距離を詰める。

 案の定ジーグスさんは横へ動く――筈だった。

 確かに横へ動いた。


「目に見えるものがすべてではない。無論見えないものを見るのは愚かだ」


 ジーグスさんの動いた方向へ向いたオレの背中から手刀打ちが襲いかかる。

 当たるであろう場所は右肩甲骨から右へ6cm、気心を加えた場所なのだろう。

 だが当たる訳にはいかない。


 オレは右足に身体強化魔法をかけてサイドステップ。

 爆発的な力を加えたことで急加速した体はジーグスさんの左手からの攻撃を避ける。


「魔法を使ったとは言え見事なり。ならば次は小生からであろう」


 オレはブレーキをかけながらジーグスさんの次の一手に備えて姿勢を低くする。

 途端上から暴風が吹く。


「ほう、これを避けるのか」


 鎌鼬サンドカットかよ!

 発生させた局所的な風に砂などの微粒子を巻き込んで斬りつける魔法だ。


 姿勢を戻した時にはすでに後ろを取られていた。

 振り返る前に手を突きつけられていたのだ。


「この速さでは流石に対応出来んようだな」


「……参りました」


「それにしても学生とは思えん反応の早さだのう。騎士団に入る気はないかね」


「今のところそのつもりはないです」


「憲兵団に入るための鍛錬かの?」


「いえ、安定した魔力を常に用意出来るようにするためです」


「是非とも我が団へ入ってくれ。その気次第で良き騎士となれよう」


「ありがたきお言葉です」


「次、稽古をつける時までにその重荷を外しておくと良かろう。避けが少々単調である」


 そう言って開放され、ジーグスさんは去っていく。


「もしかして気付いてたのか、あの人」


 もちろん、おもりを付けていた訳ではない。おそらくオレの呪いを見抜いたのだ。


「と言うか、回避魔法()反応出来ない動きってなんだよ」


 回避魔法()反応出来ない動きならハナ姉でも出来る。それは体の作りが問題だ。

 だが回避魔法が反応出来ないとなると、それは数ミリ秒の世界の動きである。


 オレはだだっ広い練習場をぐるぐるランニングをしてから練習場を後にする。






 朝食までにシャワーを浴びてご飯をエル姫とカナミとで食べる。


「シロンくん、今日お買い物行こっ」


 提案するはカナミだ。


「まぁいいんじゃないか?」


「やったー!」


「喜びすぎだろ」


 やけに喜ぶカナミだ。

 上機嫌なのは今朝もケーキがあるからであろうか。


「あ、でもエル姫は……」


 オレ達は招かれている訳であるからエル姫にも彼女なりに何かしらのオレ達をもてなす予定があるのではないだろうか。


「わたくしも行きます!」


「エルミーネ姫様、本日はご予定がございます」


 侍女のコルハさんがそれは無理だと伝える。


「え……はい」


 エル姫は落ち込んで答える。


「予定があるなら私とカナミだけで少しクルミアを見て回りたいと思いますよ」


 かくしてカナミとクルミア散策が始まった。






「おい、行くぞ」


 その筈なのに一向に部屋から出てこないカナミさん。


「ま、待って~」


 女子とはどうしてこうも出発に時間がかかるのだろうか。


「お、おまたせ!」


「取り敢えずまずはそのボタンを締めろ」


 カナミはあろう事かワイシャツのボタンが上2つのみ締めているだけで出てきた。


「え、ど、や、やって!」


「はぁ!?」


 恐ろしい言葉が出てきたものである。


「仕方ないなぁ」


「そう言いつつボタンを締めてくれるシロンくんなのであった」


「何偉そうにしてんだよ」


 オレは渋々締めてやっているのになんだその言い草は。


「あんがとさん」


「とっとと行くぞ」


「う、うん!」


 カナミは持っていたカーディガンを着て付いてくる。


「どこ行こっか」


「そうだな、父さん達にお土産でも買いたいからそっち見に行こうか」


 リストは父さんと母さん、それにオルラ達3人とついでにシガル、翠風の店主さんとユリア……思いの外多いな。


「それとケーキ」


「……カナミはいつでも平常運転だな。後でそっちにも行きますよ」


「シロンくんはさ、どんな女の子が好きなの?」


「はぁ!?」


 唐突に何言い出すんだこいつは!?


「どんなって、そりゃ……」


 どんな人だろう。

 口にしようとした瞬間、煙のように消えてしまった。


「どんな娘なの?」


「優しくて気が利いてて――」


 あれ、そんな感じじゃない。


「そ、そう言うカナミはどうなんだよ」


「わたしは困ってるとき助けてくれる勇者様みたいな人かな」


「ぶっ、なんだよそれ、お伽話かよ!」


 カナミもまだまだお子様だな。わかっていた事だけど。


「も、もうシロンくんったら!」


 カナミは頬を膨らませて怒る。


「悪い悪い、いつか見つかると、ぷっ、いいな」


 オレは笑いをこらえながら言う。

 そんなやり取りをしながらお土産屋に着く。


「いろいろあるね!」


 カナミは早速物色している。

 オレも見てみると水晶細工がたくさん並べられていた。


 エドラ帝国は石英の産出が有名である。

 オスカルテ王国はその国土の狭さから鉱物はほとんど得られないから宝石類は結構貴重であったりする。


「この鳥の水晶細工いいな」


 オスカルテでは見かけない鳥であるのがこの国に来たお土産として良い。


「見て見て!」


「ガラスの靴? いや、水晶の靴!?」


 カナミが指差すケースの中には水晶で出来た靴がある。


「わたしの足にピッタリサイズ」


 何故か値段以外にも足のサイズまで書かれている。


「……わかってるとは思うが買わないからな?」


「え~」


 値段を見れば庶民一般の家が建つ値段だ。見せ物としてあるのではないかと思っておこう。

 他のものも見てみたが結局は鳥の水晶細工とオルラ達には柄が入った水晶の小球を買った。


「じゃあ次はお楽しみの場所だね」


 カナミはもうわくわくして堪らないと言った感じで浮き足立っている。


「はいはい」


 カナミのおやつタイム(オレからの搾取の時間)だ。

 どうやらカナミは事前にどこのケーキ屋がいいのか調べていたらしく向かう先は決まっていた。


「ず、随分と高級そうな店だな」


 貧富が混じった都市でも多少なりは分布する。ここがその富の方の場所にあるケーキ屋だ。

 荒れた土地にあるクルミアには似合わなさそうな白が基調で、店と言うより小さな城と言う方が正しそうな形をした建物である。


「クルミアの貴族の人達が時々お茶をしにここに来るんだって」


 トドメがこれである。

 もちろんオレ達も貴族ではあるのだが、どちらの両親も贅沢をしないような教育方針で育てられている。

 小さい頃から贅沢している奴の性格が総じて良くないのは身をもって知っている。


 セルシアも平等と言った面で贅沢な生活をさせないため、元からでさえ質素なのに昔より質素に生きている気がする。

 そんな2人が贅沢の極みのような生活をする人達が行く場所に行けるだけの金を、今回は旅先でとは言え、普段持ち歩くだろうか?


「カナミ、悪いがそんなところで食べる事が出来るだけのお金はないぞ」


「でも……」


 平民が行くようなところだったらケーキの2つや3つ食べさせられるだろうがここは無理だ。


「わ……わたしが払う!」


「……」


 絶句。

 ば、バカな、カナミが自分から金を出す……だと……。


「おまえ、熱でもあるんじゃないか?」


 オレはカナミの額に手を当てる。


「やっぱり、少し熱い気がする」


「ち、違わい!」


 カナミは大きく後退りして否定する。


「いや、でも……おまえ変だぞ?」


 主に自分から金を出すとか。


「し、シロンくんのお金が足りなかった分だけ出すの!」


 ですよねぇ。


「とにかく入ろっ!」


 カナミはオレの手を引っ張って中へ連れて行く。


「いらっしゃいませ」


 出迎えるのは女性店員3名。


「店内で食事でオススメのケーキとかありますか?」


「はい、当店自慢のモンブランは皇族の方々にもお召になられています」


「じゃあ、それを1つお願いします」


「かしこまりました」


 オレ達は席を案内されて広間の中央付近の椅子に座る。


「シロンくんは食べないの?」


「あのなぁ……」


 そもそも金がないのに2人分も頼める訳がないのだ。

 と言うかいつもオレは飲み物だけ頼む事が多い。


「じゃあシロンくんと半分こ、しよ?」


「……」


 再度絶句。


「やっぱり熱あるんじゃないか?」


「ない」


「いつものカナミらしくないぞ」


「そう……かな?」


「そうだ」


 オレの知るカナミはオレを動く金の湧く泉か何かと思って容赦せずオレにケーキを奢らせる奴だ。

 それを不足分は自分で払ってさらに半分を分ける(大半はオレが払う計算だが)だと!?


「でもここには一度来てみたかったし、シロンくんもせっかくだから食べてみたらどうかなぁって」


 それがおかしい。カナミにケーキの事に関しては容赦しない筈だ。


「お待たせしました、ガトー・デ・シャトゥーニでございます」


 他国の言葉を敢えて使って高級感を出そうとするのが果たして良い効果を出すのかどうかはさておき、普通のモンブランより黄色味のある鮮やかなケーキで、イチゴソースっぽい赤いソースがかかっているのがアクセントである。


「わぁ!」


 目をキラキラさせながらカナミはさっそく食べ始める。

 サイズが一般的なため、2分でカナミは食べ切った。


(あれ、オレの分は……?)


「ごちそうさま~! ん? どしたの?」


「いや、なんでもない……」


 食べたかったかそうでないかと訊かれたら食べたかった。

 帰ったらエル姫達が何か作っているだろうからここは我慢しよう。……我慢だ。


「わたしね、一度でいいから自由気ままに歩いてみたかったの」


「それは……カナミとしてではなく?」


「え……? シロンくんはやっぱわかっちゃいますよね」


 カナミの姿をしたエル姫はあのくりっとした瞳で微笑む。


「いや、最初は気付けませんでした」


 気付いたのは目の前にあったケーキの食べ方である。


「あまりにも上品な食べ方でしかもカナミよりずっと時間かかってましたからね」


 カナミはあの程度の大きさだったら30秒程度だろう。すごくもったいない感があるが。


「そんなにカナミの事をよく見ているのに気付いてあげないのですか?」


「さてなんの事でしょうか」


「……」


 エル姫には申し訳ないがそう答える他ない。


「こんな事しなくても外に出る機会はあったのではないでしょうか?」


 変装魔法デシーブをしてカナミと入れ替わるなんて事をするのは少々大袈裟な気もする。


「それは――


「シロン・メイトナス」


 背後から突然声をかけてきたのはサグマセリュウさん。


「どうしたんでしょうか?」


 考えてみれば魔法騎士団のトップであるサグマセリュウさんやジーグスさん程の実力があれば変装魔法なんて簡単に見抜ける筈だ。

 気付いていて黙っていたのは何か思惑があったのかもしれないが、だからと言って目を離す訳はないだろう。ずっと隠れて監視していたのだろう。


 その点に関して敵性のものでないからオレの回避魔法は反応しないし、今朝のジーグスさんのように反応するより先に近づけるのだったら敵性があっても気付けない。

 つまりは監視されている事に気付くのは無理だったと言う事だ。


 だからと言ってエル姫がカナミとすり替わっていたとわかった時点で予想はつくため背後に突然声をかけられても驚く事はない。


「カナミ・シューレナコが攫われた」


 なんて事を言われなければの話だが。

シロン「7限目で終わる(次で終わりとは言っていない)」

エル「長すぎて分割せざるを得なかったんですよね……」

シロン「次で3章終わりです」

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