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魔法学校の表事情と裏事情  作者: アウラ
1.リボンでポニーテールを作る方法
1/58

1限目 ケーキのために今日もガンバル

「術式の第三型式には魔力の本来の流れに逆行して発動させる。従って自分の魔力だけでなく相手の魔力も使うことが出来る。……と言ってもこれは精密な術式だから過度な魔力では負荷に……コホン、シロン君起きなさい」


 別に好きで寝てた訳でもない。かと言ってナルコレプシーとかの病気でもない。だが避けれぬ睡魔と避けてしまう危機。オレは上から降ってくる危機(教科書)を避けながら目を覚ます。


「シロン君、防御壁(シールディング)を第三型式にするには何が必要かな?」


 寝ぼけながらもしばし思考。隣の席に目を移すとカナミが心配そうな目でオレを見る。黒板を見れば今がその第三型式の魔法をやっていることがわかる。だが第一型式の防御壁を第三型式の回復防御壁リカバリーシールディングにする方法なんて書いてない。と言うかこれからやるのだろうな。

 そんな余計な思考をしながらの末。


「相手の攻撃魔法に干渉させる術式によってクラックした後に分解魔法を発動、速やかに魔力に還元してから再構築魔法によって損傷した防御壁の復元をします」


「勤勉であるのはよろしいが、態度は慎むように」


「善処します」


 いつものやり取りである。先生に起こされる寸前に起きては問題を解かされて出来れば免除、出来なくば説教。

 隣でカナミがホッとしているのもいつものことであった。






 「――くん!」


 先に言っとくが爆睡してる訳でも熟睡でもない。所謂浅く眠ってる状態だ。近くで誰が何をしているかはわかる。今だってそうだ。どうせカナミがオレを起こそうとしているのだろう。さて起きるべきか……。授業は終わったのだろうな。と言うことは放課後なのか。


「どうしたカナミ」


 うめき声を上げながらオレは16年の歳月を共にした幼馴染へと机に付したまま声を返す。


「もう放課後だよ」


「知ってる」


「おばさんから連絡きてるよ」


「……知らない」


 母さんから連絡? 何かしたかオレ……。テストで赤点は今回は取ってないはずだし、ちょっとばかし寮を魔法で壊した一件があるけどバレない程度だったし……。


「シロンへ、カナミちゃんにいつも世話になってるんだからたまには――」


「自分に都合のいいことを他人を騙って言うな!」


 そうしてオレはやっと体を起こす。


「だってそうでもしないと食べに行けないんだもん……」


 拗ねた風に言うカナミ。いや、オレは何も悪くない。

 言わんとすることはわかってるつもりだが何故にこんな面倒くさい言い回しにしているのだろうか?


「はぁ……」


 ここで一つ溜息。


「行くぞ」


 どうやらこの幼馴染に例え母からの手紙がなくともおやつ(エサ)を与えねばならないらしい。


「今日はどこに行くの?」


 見ろよ、もうこの笑みだ、子どもかよ。オレは支度しながら行き先を考える。以前カナミが言ってたリニューアルしたケーキ屋にでも行こうか。それとも近場のカフェにでも行こうか。どちらにせよ平民階の方か。


 そんなことを考えていたら校門まで来てしまった。守衛に外出書に名前を記入したところで手を差し出す。守衛は名前を確認し終わったら差し出した手首に腕輪をはめる。

 魔法の腕輪、通称リボンと言うものだ。魔法学校の外で魔法を使うことはその危険性から厳しく制限されている。それを警告、或いは懲罰を下すのがこのリボンである。

 魔法学校生のリボンを付け外しが出来るのは守衛のみに限らていることになっている。外で魔法を使って喧嘩なんてされたらそれこそ戦争だ。秩序として然るべきなのだろう。


 カナミのリボンが付け終わったところで平民階へ向かう。

 階とは言うものの山の高低差によるものだ。このオスカルテ王国は王宮が緩やかで広大な丘の頂に位置して輪を描くようにして貴族階、平民階そしてスラム階となっている。


 オレやカナミはちょうどこの貴族階と平民階の間にある王立セルシア魔法学校に通っている。全寮制だから通うという表現はおかしいが、許可さえ貰えば一時帰宅は認められている。


 平民階に下りればそこは賑やかな街だ。静かな住宅街もあるが平民階独特な雰囲気と言えばこの市場の雰囲気だ。


「ねぇどこ行くの?」


 カナミが執拗に訊いてくる。結局考えていなかったから今考えることになってしまった。


「カナミが以前言ってたケーキ屋でいいか?」


「え! いいの!?」


 この驚き、前々から気になってたとは言え好物に対する想いは半端じゃないよな。


「じゃあ行くか」


 歩みの向きを少しばかり変えて向かう。そのケーキ屋は賑やかな市場から少し離れて住宅街にある。夫婦でやってたとか言ってたっけ。カナミから聞いた話だけど。


 市場から離れると途端に閑静になる。この静かさは貴族階の雰囲気に似ている。落ち着くけど時々それが逆に落ち着かなくさせる。今はその落ち着かない気分だ。だがこれは――


「シロンくん」


 カナミが腕を軽く叩く。見つめる先は、如何にもな雰囲気を持った男達だった。その数4人。


「カナミ」


 それだけで意図はわかったらしく鞄からある物を取り出す。オレ達は物陰に隠れて様子を見守る。


「まったく、昼間からカツアゲかよ。貴族のくせに随分と小さなことするんだな」


 男達の内3人は服装が無駄に整ってることから貴族だ、見た目の年齢やリボンをしていることから魔法学校生だろう。もう1人はカツアゲされてる側、こっちは如何にもなひ弱な平民か。


「おおう、すごい剣幕だねぇ」


 カナミは何故か感心している。怒声が響くが周りは相手が貴族だからか注意する者なんていない。うるさいことこの上ないと言うのにな。


「そろそろかな」


 オレは物陰から姿を出して男達に近づく。


「おい、何してんだ?」


 すぐさま振り向くカツアゲ3人衆。おおう、これは確かに怖いな。貴族の優雅な雰囲気じゃないよな。


「なんだおめぇ、オレ達になんかあんのか? こっちゃあ取り組み中なんだよ」


 男その1が言う。


「カツアゲなんてすんなよ!」


 取り敢えず言っとく。


「ああん? 殺すぞてめぇ」


 今度は男その2が言う。すぐさまそう言った言葉を使う辺り、同じ魔法学校生と認めたくない。男その2がオレの胸元を掴もうとしたその瞬間、男その2の今まさに掴まんとする手が光る。


――爆音


「学校外での魔法の使用は禁じられてるはずなんだけどなぁ」


 事実、普通のリボンを付けてたらあの程度の魔法を使えば、リボンの懲罰で腕が消し飛ぶ。なのにそれがない。


「クソっ、避けあがって」


 土埃を落としながら次の攻撃を避ける。

 再度爆音、別方向から来たってことは3人共そう言うことか。


「そのリボン、どこで手に入れたんだ?」


 もし、リボンを外す道具を持っていて、憲兵の目を騙せる偽装リボンがあるなら。魔法を使っても腕が爆発することはない。


「そんなこと訊く必要ないだろ」


 最後の男その3から炎弾が射出される。爆発なんて芸のない魔法よりいくらかマシだが2年生で習うようなことをやってもなぁ。


 炎弾を避けつつ男その3の背後に立ち、肩を捻り上げる。


「っ!!」


 声にもならない悲鳴を上げている男その3には少々痛い目にあってもらおう。


「動かないでくれよ。この男の肩、誤って外しちゃいそうだからさ」


 さすがに仲間を犠牲にしてまで爆発魔法を使うことはないだろう。


「クソっ、そいつを離せ!」


 オレは言われた通り開放してやる。


「これ以上痛い目にあいたくなかったら大人しく帰るといい」


 もう相手にする気なんてない。だから早く帰ってくれ。


「お、覚えとけよ!!」


 テンプレートな捨て台詞で去っていった不良3人衆。特徴もさしてないし覚えられる気がしない。尤も覚える気もないけど。


「カナミ」


 そうしてずっと隠れて見ていた幼馴染に声をかける。


 カナミは手にビデオカメラを構えながら出てきた。


「バッチグー」


 とか言ってるあたりオレがボコボコにされるかもしれないことを心配してなかったようだ。男3人相手に余裕で勝てるようなら騎士団に入ってると思うんだが。


「カツアゲと魔法行使、それに偽装リボンだね。永久リボン付けの退学かなぁ。懲役もつくのかな」


 平然と魔法学校生の極刑を言うあたりさっきのカツアゲ現場も平気なんだろう。


「あの、君達は……?」


 ここにきて被害者の男が話しかけてきた。


「フーキーン」


「え?」


 カナミはいつもの言い方だがこれでは伝わらないものだ。


「こいつは王立セルシア魔法学校の風紀委員だ。オレはたまたま付き添いで平民階を歩いてただけだけどな」


 そう、カナミはセルシアの風紀委員だ。セルシアには各学年3つないし4つのクラスがある。A,B,Cと例外的にSのクラスで、C,B,A,Sの順で魔法習熟度でクラスが分けられる。

 風紀委員はAかSクラスの生徒のみで構成されている。理由は学校内では魔法の使用は許可されているから喧嘩が起きれば止められるのはより魔法の技術が高い者、AやSクラスの生徒となる。こんな危険なことをタダでやるのだったら普通は誰もやらない。


「ケーキのために今日もガンバル」


 ……学校内のカフェでケーキ特典がある。他にも成績特典があるがこいつは成績より甘味だ。


 撮影された映像はすぐさま風紀部に転送される。後は自明の通りだ。


「もういいか?」


 オレはこの被害者に別れを告げて目的地のケーキ屋に向かう。ちなみにカナミは風紀員の特典で昼にもケーキを食べている。


 礼の声が聞こえるが気にしない。こんな面倒くさいことに首を突っ込むのは好きじゃない。出来ればこの類に2度と遭いたくない。


 何故胸元からの魔法を避けれたのか。あの距離から到達するのに0.1秒もないだろう。人が反応できる時間が0.2秒が最短と言われている。実質不可能だ。魔法さえなければ。


「シロンくんの回避魔法ってリボンで反応しないよね」


 リボンは万能な魔法抑止の道具じゃない。人が作ったものに限界はある。リボンが反応出来ない魔法に強化魔法がある。筋力の増加なら反応するが例外に回避魔法や硬化魔法がある……と思われる。


「リボンの仕組みが開示されてない以上理屈はわかんねぇがな。そもそもこれが回避魔法なのかすらわからないし」


 とにかく今日は流石にカツアゲ現場に出会すことはないだろう。


 カナミがケーキ(エサ)をうれしそうに頬張ってる姿を見るだけで十分。あれも思いの外疲れるんだと知ったのは随分と昔の話か。


「ケーキ、ケーキ!」


 今日も平和なのであった。

 厨二病を未だにこじらせている理系が理系なりに文を書いた結果です。お見苦しい点は多々ありますが暖かい目で見てくださると至福です。

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