光と闇の定(さだめ)
赤い空の下で、真っ黒い影がゆらゆらと揺れる。
「――来たのね、エイン」
何もかもがなくなった大地で、君は艶やかに笑った。
思い出の時代と、なんら変わらないように。
穢れを知らぬ、無垢な少女のように。
君に、俺は問うた。その問いに、君は答えなかった。
答えぬままに、君はほほ笑み続ける。
ほほ笑んだまま、しなやかな両腕を掲げた。
だから俺は、君に剣を向けた。
「どうしてここへ来たの?」
あなたの静かな問いは、私の胸を強く突いた。
大好きだった、翡翠色。
昏い光を湛えたあなたの両目を見つめ、私は唇を引き結ぶ。
「僕は、あなたを巻き込みたくなかった」
そう言うあなたの声は、今にも泣きだしそうな子どものようで。それがまた、私の体の奥にある何かを揺さぶった。
でも、だからこそ――ここで引き下がるわけにはいかない。
だから私は、あなたに五指を向ける。
土煙が立ち昇り、怒号と轟音に満たされた大地。そのただ中で、彼女は口の端を吊り上げた。
「本当に出てくるなんて。お馬鹿な天使様ね」
鮮やかな花のような声が紡ぐのは、彼への言葉だ。
わかりやすい嘲弄。それに対し、彼は肩をすくめる。
「俺もそう思う。けどこうするよりほかにないんだよ、どのみち」
彼女はくすくすと笑う。非の打ちどころがない、ゆえに不気味な美貌を、彼はいつもの調子で見つめ返した。
「それに、『馬鹿な天使様』はお互い様だろ?」
そうして広げた手のひらに、白い光が灯る。
時は流れ、血は続き、力は継がれる。
そしてそのたびに、戦いは繰り返された。
いつから定められたことなのか――その答えを持っているのは、きっと始まりの二人だけだ。
「わたしは、終わらせたいのです」
差し出される白い手。
ほほ笑みもしない少女。
「そのために、壊さなければならない」
その言葉にどう応じるのが正しいのか、『俺』にはまるでわからない。
幾星霜、続いた争いの果て。
運命の鎖の先っぽに触れた『俺たち』は――果たして何を選び取るべきなのだろう。