機動宅配デリバリウス
宇宙は今、“運ばれること”で成り立っている。
資源、情報、兵器――そして人の命すらも。
それらすべてを届ける者たちがしのぎを削る時代。
人はそれを“大宅配時代”と呼んだ。
その頂点に立つのが、宅配貴族オトド家である。
「――では、本日の依頼内容をご説明願います」
ブリッジに立つ少女は、まだ十四歳。
だがその声には、揺るぎない自信があった。
シナモン・オトド。
第百八代当主にして、次世代人型宅配機――デリバリウスのパイロット。
「今回の荷物は――こちらです」
モニターに映し出されたのは、巨大なパーツ群。
腕部、脚部、胴体、そして頭部。
それぞれが戦艦クラスのコンテナに収められている。
「……ロボット、ですの?」
「ただのロボットではありません」
オペレーターの声には、わずかな緊張が混じっていた。
「分割状態の――大型組立式スーパーロボット。各パーツを指定座標へ届け、現地で組み立てることで起動します」
シナモンはわずかに眉をひそめる。
「納期は?」
「三時間以内です」
一瞬の沈黙。
「……さすがに、不可能ですよね……?」
「いいえ」
シナモンは静かに答えた。
「わたくしが、どんなものでもお届け致しますわ」
――その直後。
警報がブリッジを切り裂いた。
「敵性反応! 未登録の宅配艦です!」
映し出されたのは、武装した輸送船団。
塗装を剥がし、識別コードを消した――宇宙海賊。
通信回線が強制的に割り込まれる。
「本当なら全部いただきたいところだがな……」
粗野な男の声が笑った。
「こっちも仕事でね。悪いが――破壊させてもらうぜ!」
「荷物狙いです!」
「当然ですわね」
シナモンはあっさりと言った。
「このロボットは、戦局を変える鍵ですもの」
彼女はゆっくりと操縦席に腰を下ろす。
「デリバリウス、起動」
白と金の装甲に包まれた人型機が、静かに宇宙へ躍り出た。
「コンテナ投下します!」
巨大なパーツコンテナが切り離され、デリバリウスが受け取る。
目標地点――小惑星帯。
「それでは、最短距離で――」
その言葉を遮るように、シナモンは操縦桿を倒した。
コンテナを牽引するデリバリウスは――まったく逆方向へ飛び出した。
「えっ!?」
「……あら?」
シナモンは小首を傾げる。
「こちらではありませんでしたかしら?」
「違います!!」
すでに海賊艦隊が追撃を開始していた。
「ロックオンされてます!」
「問題ありませんわ」
シナモンは微笑む。
「正面から行けば、迎撃されるだけですもの」
デリバリウスは不規則な軌道を描く。
右へ、左へ、上下へ――まるで迷っているかのように。
――いや、実際に迷っていた。
デリバリウスには、どんな方向音痴でも目的地へ辿り着ける補正機能がある。
だが――今日のシナモンは、それすら上回っていた。
しかし。
その軌道は、結果としてすべての攻撃を外していた。
「当たらない……!?」
「軌道が読めない……!」
「ふふ」
シナモンは楽しげに笑う。
「最短距離だけが、正解ではありませんの」
――三時間後。
戦場上空。
デリバリウスが突入する。
その背後には、組み上がった各パーツ。
戦場へ向かう途中で接続された、未完成の巨体。
「間に合わない! まだ頭部が――!」
依頼主の悲鳴が響く。
だがシナモンは、ただ静かに言った。
「いいえ」
「間に合わせますわ」
デリバリウスが加速する。
敵の砲火をかいくぐり、一直線に突っ込む。
そのまま――
一切の減速もなく。
抱えていた頭部ユニットを、叩きつけるように接続した。
閃光。
次の瞬間。
巨大な機体が、ゆっくりと立ち上がる。
「――起動確認!」
戦場が、静まり返った。
シナモンは小さく息を吐く。
ほんのわずかだけ、肩の力が抜ける。
「配達完了ですわ」
その言葉と同時に、スーパーロボットが咆哮した。
――戦局が、変わる。
だが、それはまだ始まりに過ぎない。
「次の依頼は?」
何事もなかったかのように、シナモンは言う。
「どんな荷物でも、承りますわ」




