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機動宅配デリバリウス

作者: 塩ペンギン
掲載日:2026/03/29

 宇宙は今、“運ばれること”で成り立っている。

 資源、情報、兵器――そして人の命すらも。

 それらすべてを届ける者たちがしのぎを削る時代。

 人はそれを“大宅配時代”と呼んだ。


 その頂点に立つのが、宅配貴族オトド家である。


「――では、本日の依頼内容をご説明願います」


 ブリッジに立つ少女は、まだ十四歳。

 だがその声には、揺るぎない自信があった。

 シナモン・オトド。

 第百八代当主にして、次世代人型宅配機――デリバリウスのパイロット。


「今回の荷物は――こちらです」


 モニターに映し出されたのは、巨大なパーツ群。

 腕部、脚部、胴体、そして頭部。

 それぞれが戦艦クラスのコンテナに収められている。


「……ロボット、ですの?」


「ただのロボットではありません」

 オペレーターの声には、わずかな緊張が混じっていた。


「分割状態の――大型組立式スーパーロボット。各パーツを指定座標へ届け、現地で組み立てることで起動します」


 シナモンはわずかに眉をひそめる。


「納期は?」 

「三時間以内です」


 一瞬の沈黙。


「……さすがに、不可能ですよね……?」

「いいえ」


 シナモンは静かに答えた。


「わたくしが、どんなものでもお届け致しますわ」


 ――その直後。

 警報がブリッジを切り裂いた。


「敵性反応! 未登録の宅配艦です!」


 映し出されたのは、武装した輸送船団。

 塗装を剥がし、識別コードを消した――宇宙海賊。 

 通信回線が強制的に割り込まれる。


「本当なら全部いただきたいところだがな……」


 粗野な男の声が笑った。


「こっちも仕事でね。悪いが――破壊させてもらうぜ!」

「荷物狙いです!」

「当然ですわね」


 シナモンはあっさりと言った。


「このロボットは、戦局を変える鍵ですもの」


 彼女はゆっくりと操縦席に腰を下ろす。


「デリバリウス、起動」


 白と金の装甲に包まれた人型機が、静かに宇宙へ躍り出た。


「コンテナ投下します!」


 巨大なパーツコンテナが切り離され、デリバリウスが受け取る。

 目標地点――小惑星帯。


「それでは、最短距離で――」


 その言葉を遮るように、シナモンは操縦桿を倒した。


 コンテナを牽引するデリバリウスは――まったく逆方向へ飛び出した。


「えっ!?」

「……あら?」


 シナモンは小首を傾げる。


「こちらではありませんでしたかしら?」

「違います!!」


 すでに海賊艦隊が追撃を開始していた。


「ロックオンされてます!」

「問題ありませんわ」


 シナモンは微笑む。


「正面から行けば、迎撃されるだけですもの」


 デリバリウスは不規則な軌道を描く。

 右へ、左へ、上下へ――まるで迷っているかのように。


 ――いや、実際に迷っていた。


 デリバリウスには、どんな方向音痴でも目的地へ辿り着ける補正機能がある。


 だが――今日のシナモンは、それすら上回っていた。


 しかし。

 その軌道は、結果としてすべての攻撃を外していた。


「当たらない……!?」

「軌道が読めない……!」

「ふふ」


 シナモンは楽しげに笑う。


「最短距離だけが、正解ではありませんの」


 ――三時間後。


 戦場上空。

 デリバリウスが突入する。

 その背後には、組み上がった各パーツ。

 戦場へ向かう途中で接続された、未完成の巨体。


「間に合わない! まだ頭部が――!」


 依頼主の悲鳴が響く。

 だがシナモンは、ただ静かに言った。


「いいえ」

「間に合わせますわ」


 デリバリウスが加速する。

 敵の砲火をかいくぐり、一直線に突っ込む。


 そのまま――

 一切の減速もなく。


 抱えていた頭部ユニットを、叩きつけるように接続した。

 閃光。

 次の瞬間。


 巨大な機体が、ゆっくりと立ち上がる。


「――起動確認!」


 戦場が、静まり返った。

 シナモンは小さく息を吐く。

 ほんのわずかだけ、肩の力が抜ける。


「配達完了ですわ」


 その言葉と同時に、スーパーロボットが咆哮した。


 ――戦局が、変わる。


 だが、それはまだ始まりに過ぎない。


「次の依頼は?」


 何事もなかったかのように、シナモンは言う。


「どんな荷物でも、承りますわ」

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