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追放された王太子と公爵令嬢が冒険者になる話  作者: 埴輪庭
第三章

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第69話 鷲の目

 ◆


 シャールは頷いた。


 外から見れば繁栄、中から見れば別の顔。それはウェザリオとて同じだった。火の魔力を持つ王族が頂点に君臨し、無の魔力は蔑まれる。シャール自身がその構造の被害者であり、同時にかつては加害者の側にいた。国家というものは、内側に立つ者と外側に立つ者とでは、まるで別の姿を見せるものである。


 ドリスは書状をもう一度手に取り、バーヴェラの走り書きを眺めながら言う。


「まあ、あの女の紹介なら信用はできる。ろくでもない奴だが、人を見る目だけは確かだからね」


 書状を抽斗にしまいながら、ドリスは肩をすくめた。


「それにしても」と、シャールは広間を見回す。採掘事業には十人以上の列、魔物討伐にも六人ほど。鑑定の窓口では山の民が職員と交渉中だ。


 ドリスの卓だけが静かだった。


「一つ訊いてもいいか」


「なんだ」


「なぜ貴女のカウンターには人がいないんだ。あなたは別に、理由なく冒険者たちを威嚇するような人ではないだろう。確かに押し出しは強いが、他に何か理由があるんじゃないのか?」


 ドリスは小さく笑い、「私の扱ってる依頼は調査が多いんだ」と答えた。


「調査!?」


 セフィラが興味を示した。この女は「調査」という言葉に滅法弱いのだ。シャールはセフィラの輝く表情に、なにやら猫が耳を立てたような姿さえ視えてしまう様な気がしていた。


「環境調査、生態調査、地形調査……そういう仕事だ。魔物を斬る仕事じゃない」


「なるほど」


「報酬も高くないし、刺激もない。冒険者ってのは剣を振って金を稼ぎたい連中が多いからね。こういう地味な仕事には見向きもしない。鉱石堀りもまあ退屈だけどね、あっちは金払いがいいんだ」


「人がいないのは、単純に人気がない依頼を扱っているから、という事か」


「そういうこと」


 ドリスはあっさり認めた。


「ただねえ、適当にやってもらっちゃ困るんだよ」


「もちろんそうだろうが……」


「依頼者が依頼者でね」


「厄介な依頼者だと言う事か?」


「ああ、厄介と言えば厄介だ。はっきり言えば国や学院だよ」


 ドリスは広間の東側を顎でしゃくった。


「環境の変化を記録する。植生の分布を調べる。水源の状態を確認する。地味だけど、いい加減な報告を上げられると困る。政策や研究の基礎になる数字だからね」


 セフィラの目が輝いた。


「興味があるのかい?」


 ドリスがセフィラを見た。


「ええ、とても」


「珍しいね。普通の冒険者は私の卓を避けて通るよ」


「わたくしは普通の冒険者ではございませんの」


 セフィラは澄ました顔で言った。ドリスは小さく笑った。


 ◆


「まあそういうわけだから私が任されてる」


 ドリスは両肘を卓について、組んだ手の上に顎を乗せた。


「人を見る目がある、とか言われてね。お世辞だろうけど」


「お世辞ではないと思いますわ」


 セフィラが首を傾げた。


「ドリスさんは鷲のような方ですもの」


「鷲?」


「高いところから見渡して、適した者を選び取る。冒険者の腕だけじゃなく、性格や適性まで見抜いて、依頼に合った人間を送り出す。そういうお仕事でしょう?」


 ドリスは黙った。それから、ふっと息を吐いた。


「面白いことを言うね、あんた」


 声の調子が少し柔らかくなっている。


 人を見る目とは結局のところ、人を信じる覚悟の別名に過ぎない。ドリスがその覚悟を持っているのかどうかはシャールにはまだ分からなかったが、セフィラはドリスを()()()()()()として判断したようだ。


 ◆


「あの女の見立てなら、私の扱う依頼を受けても大丈夫だろう」


「どんな依頼がありますの? いえ、もちろんすぐに受けるというわけではないのですが──」


「まあ、色々だね」


 ドリスは卓の脇に積まれた書類の束を手で示した。


「帝都の周りには、大きく分けて三つの地帯がある」


 ドリスは指を三本立てた。


「東には丘陵地帯。鉱山が点在していてね、帝国の金庫みたいなもんだ。土の魔力が濃くて、掘れば掘るほど良質な鉱石が出てくる。ただ、掘りすぎると地盤が緩んだり、地下水の流れが変わったりする。そういうのを調べる仕事がある」


 セフィラは真剣な顔で聞いている。シャールには、彼女の頭の中で何かが高速で回転し始めている気配が分かった。


「西には森林地帯。こっちは森の民が昔から住んでいる。彼らは森の変化に敏感でね、人間が気づかないような異変を教えてくれることがある。ただ、彼らの言葉を理解できる人間は少ないし、そもそも彼らが人間を信用してくれるかどうかも別の話だ」


「森の民と交渉する依頼もあるのですか?」


「交渉というより護衛だね。学院の薬草学者が森に入りたがることがあるんだが、森も魔物が出るもんだからねえ。一日中森を歩かされる事になるよ」


「なるほど……」


「北には山岳地帯。こっちは山の民の領域だ。水源もある。帝都の水は北の山から流れてくるからね、水質の調査は定期的にやってる」


「南は?」


 シャールが訊いた。


「南はあんたらが来た道だよ。農地と街道。調査の依頼は少ないね、人の目が多いから。調査ってのは基本的に、人があまり行かない場所でやるもんだ」


 ドリスは肩をすくめた。


「まあ、こんなところだ。どれも地味な仕事だけど、帝国にとっては大事な情報になるんだ。まあだったらもっと報酬を乗せろ、とは思うんだけどねぇ」


 国家の基盤を支える仕事。華やかさはないが、確かに誰かがやらなければならない仕事だった。


「面白そうですわ」


 セフィラが言った。目が輝いている。


「普通はそういう反応にはならないんだけどね」


 ドリスは呆れたような、しかしどこか嬉しそうな顔をした。


「まあいい。今日のところはこのくらいにしておきな。帝都に来たばかりなんだろう? 観光くらいしたらどうだい?」


 シャールは頷いた。


「落ち着いたらここに戻っておいで。その時にはあんたらに向いた仕事を出してやるよ」


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自作の長編と短編を宣伝。長編は大体ブクマ1000~1500くらいのやつ。短編は直近二ヶ月で書いたやつをポイント降順に。

【長編】

アステールの血を引く者は魔術に優れる事甚だしく、特にハイン・セラ・アステールはアステール史上もっとも強大な魔力を誇る麒麟児であった。
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いや、二味違う。
一味目は、彼が極度のマザコンだという点だ。
平行世界のハインもまた本来の歴史のハインと同様に邪悪なのだが、母への愛が魔と邪を覆い隠す。
勇者も聖女も元婚約者も、彼にとってはどうでもいいことだ。
ハインはただ母と静かに安らかに暮らしたいだけで、それを邪魔する者全てが彼の敵である。
では二味目はといえば、それは彼が本来の歴史のハインよりも遙かに強大な魔力を有し、遙かに強大な魔術を操るという点だ。
愛する母に格好いい姿を見せたいがために努力を重ねた天才──ハインに不可能はない。
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しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
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そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、"異常領域"という怪現象に巻き込まれてしまう。
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かつては嫉妬に狂い、互いに殺意すら抱いた男たち。
しかし奔放な妻に振り回され、同じ苦しみを共有するうちに、敵同士だったはずの三人の間には奇妙な連帯感が芽生え始める。
「オープンマリッジ」
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