八話 離れるなんてもったいない!! 2
やってしまった。
つい余計な事を口走ってしまったばかりか、下手くそな言い訳までしてしまうとは。
しかもそのせいで、すっかり隊長殿は俺を気に入ったときている……さて、ここからどうしようか。
もう手遅れかもしれないが、やるしかない。
何故ならば今の俺は、指名手配も同然の身であるのだから。彼女に付いてなど、行けるはずもないのだ。
という事で俺は賭けに出た。
あくまでもこの村に残りたいという主張を貫き、それでこの隊長殿に諦めてもらおうというギャンブルにな。
と言うか『僕は一流の錬金術師なんかじゃありません!!』とはもう言えぬだろうし、こうするより他が無いと言った方が正しいのだが。
とにかく、やるとなったからにはもう覚悟は出来ている。それで相手の心を揺さぶるのだ。魂に訴えかけるのだ。
「どうした?私と来るのは嫌か?是非ともお前に頼みたい事があるんだが」
「い、いえ。嫌という訳ではないのですが、その……私はこの村で産まれ、この村で育ったのです。ですからどうにも、ここを離れるのが名残惜しく……」
「安心しろ、お前が望めばいつでも長期休暇をくれてやろう。その時に帰って来れば良いではないか?」
「で、ですが……」
「もしや、金か?それも心配無い。お前になら幾らでもくれてやろう、どうだ?」
「と、とんでもありません!そのような待遇、私には勿体無いかと……」
しかしご覧の通り。
作戦は遂行中のはずだが、一向に事態が好転する兆しは見えてこない。どれもこれもこの女隊長が折れぬせいだ。
と言うか、まずそもそもとして兵士である彼女が俺に何を頼むというのだろう?
俺と彼女とは、職業も違えば何もかもが違う。
錬金術師をまず真っ先に戦力としては見ないだろうし。仮に何か錬成して欲しい物があるのだとしても、彼女の身分を考えればその財力を使い手に入れた方が余程手っ取り早いであろう。
容易にそう推察出来るだけに、本当に何が目的なのか全く予想が付かない。
……などと、余計な思考に走ったのが原因だろうか。
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったな。思えば確かに、素性の知れぬ相手について行くのは気が引けるというものだ。ならば教えてやろう」
「いえ、そういう訳では……」
「私は王国視察団隊長のヨルダ。ヨルダ・ヒルデガルンだ。さあ、これで私の名は明かした。良ければお前も名を聞かせてはくれないか?」
「えっ」
事態はますます悪い方へと傾き、俺は諦めるどころかそうして目を輝かせて迫る女隊長から名を聞かれ、とうとう逃げ道を失ってしまうのだった。
……と言うか、コイツ。
思い出した。
ヨルダ・ヒルデガルン。確かコイツ、俺が元いたギルドのメンバーだった女だ。
とは言え当時の俺は弱く、すぐにギルドを追い出されてしまったのでそこまで彼女と交流があった訳ではない。
なので彼女がどう言った人物であるのかもまた、あまり知りなどしないのだが。それでも、妙だ。
突出する程の強さはなかったであろう彼女が、まさか視察団の隊長となるまでに成長を遂げているとは……正直、夢にも思わなかった。
何事かが起こり、それが彼女をここまでの地位に押し上げたのだろうか?それとも単純に努力、実力のせいか?
……いや、それよりも俺はまずこれからの事を考えるべき、か。
そりゃそうだ。何せ俺は今、大変な状況に立たされてしまっているのだから。
名を聞かせてくれ?悪いが無理だ。正体を知られてはならないというのに、その象徴たる名前など教えられるはずもない。
そんな事をしてしまったら最後、数瞬後にはこの場が切られた戦いの火蓋によって轟々と燃え盛る火の海と化するであろう。
だがしかし、沈黙すればヨルダの怒りを買ってしまう事は必然。そしてそれ即ち、即刻打ち首となっても何らおかしくはない状態に足を踏み入れると同義であるのだ。
これは、参ったな……とにかく。さっさとこの村、この地方、この辺りに普通にいてもおかしくはないような、適当な偽名を考えなければ……
と、そんな時だった。ドルガが耳元で囁いたのは。
「アニキ、お困りでしたら是非ここは俺の名前を使って下さい。ドルガなんてここらの地方ではさほど珍しくもない名前ですから、きっと女隊長さんも納得するはずです」
なるほど確かに。今の俺が、しかも即興で編み出した名前など絶対に嘘だとバレるだろう。
となればこの男の名前を拝借するのが最善手……ああそうだ。それは悪くない思い付きだ。
流石だドルガ、助かったぞ。
と、言う事で俺は謝辞の意味を込めた目配せをドルガに向けた後、ヨルダへとこう告げた。
「……私は、私はドルガと申します」
「そうか、ドルガか…………ん?待てよ」
だがその直後、ヨルダの顔が曇る。
あれ。俺はまだ一言しか発してないぞ、問題発言などしてはいないはず……そう、思っていたのだが。
「おい、確かドルガという名の手配書を渡されていたはずだ!それを持って来てくれ、今すぐにだ!」
ヨルダはすぐさま一人の兵士へとそう言い、手配書を用意させると。
「お前、嘘を吐いたな!!ドルガとはお前の横にいるその男の事だろう!?そしてドルガ、お前はこの辺りで村を襲っていた盗賊の親玉だな!?」
俺の隣にいるドルガを指し、声を荒げ始める。
だけに止まらず。
「……なるほど、そうかそうか。お前は一流の錬金術師であると共に、大罪人を匿う共犯者であったのだな……そうか、そうか」
彼女は背にした剣を手に取り。
「考えが変わった。錬金術師よ、旅支度などせずとも良いぞ……私が持ち帰るのはお前達の首、ただそれだけだ!!」
怒気を露わにすると、俺達にその剣を振り下ろそうと迫り来るのだった。
そしてその時に、漸く分かった。
先の発言。それは最善手などではなく、むしろ真逆の最悪手であったのだと。
「アニキ、すいません……俺、自分の手配書が出てるなんてこれっぽっちも知らなくて……」
「ドルガ、大丈夫だ。謝らなくても言い。もう問題だらけでどこをどう怒れば良いか、俺にも分からなくなってきたからな……」
この場の空気は途端に剣呑なものと代わり、俺達の前には剣を手にしたヨルダが迫る。
と、その時。ドルガが立ち上がった。
「アニキ!もうこうなっちまったら仕方がねえ!俺が時間を稼ぎますから、アニキはその間に逃げて下さい!」
彼はそう言い、俺を守るようにして彼女の前に立ちはだかると拳を握り締め戦う姿勢を見せる。
「止めろドルガ!!戦ってはダメだ!!」
だが、それだけは看過出来なかった。
まず今のドルガは丸腰。それが得物を手にした相手と戦うなど有利不利以前の問題である。
それに、彼女は……
[ Lv ]40
[ 体力 ]2450
[ 魔 力 ]307
[ 攻撃力 ]215
[ 防御力 ]280
[ 俊敏性 ]605
そう、ドルガよりも強かった。先程鑑定水晶が反応し、そのようなステータスを表示して見せたのだから間違いない。
だからそう。確かに攻撃力、体力共にドルガの方が上だが。総合的に見れば更にその上を行く彼女に、コイツが勝つ事など到底不可能であるのだ。
「良いんですアニキ!俺はアニキの役に立てればそれだけで充分ですから!さあ早く!」
しかしドルガは聞く耳を持たず、その場を動こうとしない……その言葉の端々から分かった。相手との実力に差がある事を知りつつも、コイツは俺のため不動でいるのだと。
「話は終わったか……?」
だが当然、そうした所でヨルダが気を改めるはずもなく。
それどころか興奮を増しているのか、憤怒のような表情を浮かべた彼女はみるみるうちに距離を縮めて来る。
……ならば、致し方あるまい。
「クソッ!!」
「ア、アニキ!?」
ああ、またやってしまった。
「な!?わ、私の、私の剣が……!?」
それで一体、俺は何をしたのかって?
単純な話だ。ヨルダと会う直前に錬成した『火精霊の仮面』、あれを武器として使用し、その炎によって彼女の剣を溶かしてやった。ただそれだけだ。
まあでも、それによって内部の魔力を使い果たした仮面は塵の如く消え失せてしまい。
俺は、ヨルダにその顔を晒す事となってしまったのだがな。
「お前、よくも……!?お、お前!?国崩し……いや、アルスか!?」
しかもコイツ、俺の事を知っているようだ。いや、覚えていたというのが正しいだろうか。
…………終わった。
「もう、アルスったら私の作ったお昼ご飯に口も付けないで行っちゃうんだから……全く、早く戻って来てよね。お料理冷めちゃうじゃないの」
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