七話 離れるなんてもったいない!!
サブリナの家へと向かう道中、ドルガは彼女についてのある話を俺にしてくれた。そこからも分かるように、コイツはもう村に馴染み始めているらしい。
そしてその話はと言うと、こんなものだった。
まずアイツ、未だ独身でいるのには理由があったらしい。
いやまあ、パームさんからも軽くは聞いて知っていたのだが……どうやらアイツ、求婚する者自体は後を絶たないというのにそれを拒み続けているようなのだ。
……とは言え、薄々だがその事には気付いていた。
何せ、俺は当の張本人であるサブリナ自身から結婚を仄めかされているのだから。
ある時は普段の会話の中に、それも言葉の端々で。またある時は村の手伝いや錬金をしている最中に。
『アルス……まだ起きてる?』
そう言えば確か、真夜中にサブリナが俺の現自宅の戸を叩いた事もあったな。流石の俺もこれには驚かされてしまったが……と。
ここまで話した内容でも分かるように。
つまり『彼女が真に求めていたのは俺』だと言う事だ。求婚さえ断ってまで……恐らく、今の今まで待ち続けていたのだろう。幼馴染である俺が戻って来るのを。
それは過去の記憶がそうさせるのだろうか。その中にいる俺が彼女にはそこまで魅力的に映っていたのだろうか。それともついこの間、俺が盗賊から村を守ったからだろうか。
それは分からないが……でも、ダメなんだ。
彼女を放ってまで旅立った甲斐性無しであり、しかもそれだけでなく、今や国を追われる身となっているのがこの俺だ。
そんな者が妻を娶るとなれば、必ずやその女性にも災が降り掛かるだろう。そんな事は分かり切っている。
ただサブリナの好意は正直、嬉しくないと言えば嘘になるし。いつまでも答えを出さないのは卑怯と言うか、それでは余りにも彼女が不憫ではないかとも思っている。
でも、それでもダメだ。いや、だからこそダメなんだ。
だからサブリナには悪いが、俺はこのまま返事を保留し続け、それで数日後にはこの村を立とうと考えている。
彼女には俺なんかより、もっと良い男がいるはずなんだからな……
などと考えていたら、サブリナの家が近付いてきた。
俺は頭に浮かぶ様々な思考を振り払うように頭を振り、ドルガと共にサブリナの家へと急いだ。
だがこの時の俺は、まだ知らなかった。
アルス・アルキミア。この俺が、明日にもこの村を去る事になるとは……
「た、隊長!!これは……!?」
「驚いたな……資源も少なかろうこんな村に、このように立派な門があるとは……それに、あれは何だろうか?」
「魔力水晶、でしょうか?……しかし、何と質が良い!」
「もしかすると、この村には錬金術師がいるのかもしれないな。それも一流の……」
「昼飯もまだだって言うのに、はぁ。全く気が重いな」
「アニキ!!そういうと思ってサブリナさんにサンドイッチを作ってもらいましたよ!!さあどうぞ、これなら歩きながらでも食べられますから!!」
「おお、それは助かる……!ありがとうドルガ!」
俺達はサブリナ作だというサンドイッチを頬張りながら、再び村の入り口へと向かっていた。
それは錬成した魔力水晶の出来に不満があったからでも、はたまた忘れ物をしたという訳でもない。
何やら俺に会いたいという者が、そこで待っているらしいのだ。
また、それはどうやら兵士達の消えたこの地方にて増加傾向にある、盗賊や魔物の被害に対処するため急造された国の視察団、その隊長殿であるそうだ。言伝を頼まれたという村人の一人がそう話していた。
まあ大方、その訳は『この村にだけ被害が無く、その代わり入り口には頑丈な門と妙な水晶球があった……その理由を知りたい』などというものなんだろうが。
…………はぁ、正直行きたくない。
だが相手は国の視察団だ。その指示を無視したり、身代わりとして他の者を向かわせたりして怒りを買えば最悪の場合は即切り捨て御免となるやもしれない。
なのでいくら嫌であろうと、指名手配同然の身であろうと、それでも製作者であるこの俺自身が行かなければならないのである。
まあ良い、いくら文句を言おうがどうせ避けては通れぬ道なのだ。なるべく相手の印象に残らぬよう接し、尚且つさっさと終わらせるとしようか。
俺は先程火精霊の鱗を使い錬成した『火精霊の仮面』で顔を隠し、村の入り口へと急いだ。
門が見えてくると共に、彼等の姿もまたこの目で捉えられた。
視察団。それは数名の兵士達によって構成されたキャラバンであったようだ。魔物の多い地方を回るにはやや心許ない人数のような気もするが、あくまでも調査のためだけというならそれで問題は無いのかもしれない。
それを見た俺とドルガは彼等に歩み寄って行った。
すると、馬に跨り俺達を見下ろす一人の兵が、こちらへと接近して来る……全身を白色の鎧で包んだ、燃えるような長髪を持つ女だ。女兵士とはまた珍しい。
と言うか、コイツ何処か見覚えがあるような?……まあ良い。どうやらこの人物が視察団の隊長であるらしい。
俺達はその場で片膝を地に付け、深く頭を下げた。
「門と水晶を作ったのはお前か?」
騎乗しているためか、俺達にそう告げる女兵士の素顔がよりはっきりとこの目に映る。
そこで俺は、彼女がなかなか端正な顔立ちとその瞳までもが赤色である事を知った。
これならば国に頭など垂らさずとも、貴族に嫁ぐ等して充分にやっていけるのではないだろうか。やはり兵士となるような者だから気性が荒いのか?それとも、そう出来る程の身分ではないのか?
……ま、俺には関係のない話か。
俺は彼女の前に今一歩踏み出し、殊更に頭を下げ返事をした。
「はい。その通りで御座います」
「一つ聞いても良いか?この水晶の事なんだが、先程触れた直後に私達のステータスが誤差も無くはっきりと表示されてな……これは一体何なんだ?どのようにして作った?」
「それは私が魔物や賊の襲撃に備え設置した鑑定水晶に御座います。魔力水晶と鑑定眼鏡とを掛け合わせて作りましたので、付近にいる者のステータスが表示されるのです」
「何!?鑑定眼鏡だと!?それだけでも国宝級の代物のはずだ。なのに、それを……お前、それを何処で手に入れた!?」
しまった、少し喋り過ぎたか。さて、どう誤魔化したものか……
「え、ええと……い、以前、この村を訪れた旅人が一宿一飯の恩義と言って残していったのです。私はそれを利用したと言うだけで……」
「旅人がわざわざ国宝級の代物をこの村に残し、しかもそれをお前がこれだけの精度で錬成に使用したと?……フフフ、誤魔化さずとも良い。鑑定眼鏡はお前が所持していたのだろう?」
あ。マズい、やってしまった。
つい焦って下手くそな言い訳をしてしまった。さて、ここからどう挽回するか……いや、最早手遅れかもしれない。
と言うか、この流れは……
「そして、そんなお前は恐らく一流の錬金術師……なあお前、私と一緒に来ないか?」
ああ、やはり手遅れだったか。
どうやら俺は隊長殿に気に入られてしまったらしい。
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