五十三話 結婚だなんてもったいない!!
「……先生」
かと思いきや、漸くユーデリアが口を開いた。
何を言いたいのだろう?ただ、先程の件ではないといいが……とにかく、俺は返事をする。
「ど、どうしたユーデリア?」
「シャルカーニュの話してた事って本当なの?」
だが残念。俺の予感は的中し、例の話題が再び俺へと降り掛かって来た。
「な!?……お、お前、まだそんな事を言ってるのか?だからあれは違うというか、仕方なかったというか……とにかく、さっきあれほど説明したはずだろう?」
そこでやむを得ずまた弁明する俺。
しかし、ここまで強い疑いの念をもってしまっているのだ。今のユーデリアには何を言っても「嘘吐き!!この変態!!」などと罵られる未来しか見えない。
そう、思っていたのだが。彼女からは予想外の答えが返って来た。
「……そうじゃなくて。私は、それで先生はどうするのかって聞いてるのよ。
責任は取るの?結婚しちゃうの?仮にもしそうなったとしたら、私とはもういられないの?
私、それは嫌。もし先生も嫌なんだったら…………私。
私、が……その……せ、先生と結婚してあげても良いのよ?」
「…………え?お、お前急に何を言ってるんだ?」
「だって私達同じ錬金術師でしょ?だから先生がもっと私に沢山の事を教えてくれればきっと二人でだって生きていけるでしょうし。
それに、先生って凄く強いじゃない?だから当面は先生が依頼とかをこなしたお金で暮らしていけ……いいえ、そういう事が言いたいんじゃなくて。
正直に言うわ…………わ、わ、わ、私。
私に何でも教えてくれて、あの時も私を離さずにずっと守ってくれた。せ、先生の事がす…………というか。
だ、誰にも取られたく…………ない…………というか…………そのお礼をしたい…………というか…………お礼に私を…………なんて……」
「ん?すまないが最後の方が聞き取れなかった。もう一度話してくれるか?」
「え、えぇ!?そ、それはちょっと…………ああ、もう!!やっぱりなんでもない!!今のは忘れて!!
じゃ、じゃあ私!!先に集会所行ってるから!!」
そう、送られたのは罵詈雑言でも何でもなく。ただ何やらよく分からない発言であり。
しかもその上、彼女はそれをはっきりと口に出そうともせずして走り去ってしまったのだ。
「……今のは一体、何だったんだ?」
とはいえ立ち止まる訳にもいかず、俺もまた集会所へと歩を進めて行く。
無事、集会所への報告は終わった。
しかし〝こちらの方〟は有事なのか。何故だかユーデリアはあの後からずっと俺を避け続け。顔を向ける事すらなく。
そのまま集会所内を、街を足早に駆け抜け、今度はまた俺を置き去りに屋敷へと逃げ帰ってしまった。
「……はぁ」
溜め息が出るのも仕方ないだろう?それ即ち、彼女はまだ誤解しているという何よりの証明であるのだから。多分。
そうして、俺は肩を落としつつもユーデリアの跡を追うようにして屋敷へと向かう……すると、屋敷の窓に二人の使用人が見えた。
サブリナとエスピリカだ……しかし、何やら妙だ。
サブリナが俺と同様、肩を落として歩き。エスピリカがそんな彼女の背に手をやり、まるで幼子に諭すようにして何処かへと歩いて行くという。
俺が目撃したのはそのような様子であった。
ええと、そうだな……推察するに、今のは仕事でミスをしたサブリナを、エスピリカが励ましていたといった所なんだろうか?いや、きっとそうだな。
だが、それにしても……あの二人、本当に仲良くなったな。
とはいえ、それもそのはず。どうやらヨルダに聞いた所によるとだな。
実は皆が屋敷に戻って来た後、エスピリカは自身への罰だと言ってここを立ち去ろうとしたらしいのだが……
そんな彼女を真っ先に止めたのがサブリナであったらしく、それをきっかけとして彼女達は友人へと。要するに仲が深まったという事らしいのだ。
……まあ、元から知り合いの間柄だったようだし、いずれそうなるだろうとは思っていたがな。
とにかく、そういう事ならばここはエスピリカに任せておけば何ら問題はないだろう。
そう考えた後に俺は何もせぬと決め、報告のためヨルダの元へと向かうのだった。
彼女達が俺の思惑とは全く異なる、また別の行動に移そうとしているとも知らずに。
「グスッ……グスッ……」
「サブリナ、いい加減泣き止んで下さい。でないと目が腫れてしまいますよぉ?」
「だって……このままだとアルスが、アルスが取られちゃう……ねえエスピリカ。私どうしたら良いの……?」
「う、うむぅ……そうですねぇ。お師匠様ともっと長く一緒にいられるよう、冒険者になるとか?いや、危険過ぎますね……今のは忘れて下さい」
「冒、険者……そうよ!!それよ!!私も錬金術師になれば良いんだわ!!そうすればアルスともっと一緒にいられるし、非戦闘職だからそこまで危険でもないはずよ!!よし決めた、私錬金術師になる!!」
「え……ちょ、ちょっとサブリナ!貴女早計が過ぎますよぉ!?そもそも冒険者は愚か、ギルドに所属可能な職業に適性があるかもまだ分からないというのに……」
「それでも冒険者になりたいの!!適性があるなら例え錬金術師でなくても構わないわ!!戦士だって何だって良い!!私アルスと一緒にいたいの。もう、離れたくないの……」
「サ、サブリナ……」
「でも、だからと言ってこれからどうしたら良いのかを私は何も知らないわ……本当に、まずは何をしたら良いのかしら……?」
「……それならば、この離業術師ことエスピリカに全てお任せ下さい。自分に適性のある職業を知る事の出来る場所を知っていますから。
心配は要りません。それが例え戦士であろうと魔法使いであろうと、アタシが全力でサブリナをサポートしてあげますから」
「エ、エスピリカ……!!ありがとう!!このお礼はいつか必ずさせてもらうわ!!」
「そんなもの必要ありませんよ。サブリナ、アタシは貴女のお陰で初めて〝友〟のいる幸せを知る事が出来ました。これはそのお返しなのです。
ですから、今度はアタシが貴女を幸せにして差し上げましょう……ムヒヒ!」
あ、もうちょっとで最終回です!




