四話 俺なんかにはもったいない!!
今俺の目の前にある、茅葺きの屋根と泥や藁で出来たやや草臥れた小さな家屋。それこそがサブリナの住まいだった。
勿論、俺もよく覚えている。ここでサブリナと共に大人達の畑仕事を手伝ったり、遊んだりしていた事もな。
「サブリナ、パームさんは室内にいるのか?」
「ええ、怪我の具合があまり良くなくてね……ここ暫くはずっと寝たきりよ……さ、上がって」
俺達は扉を開け、彼女の自宅へと入る。
薄暗い室内の中、パームさんはただ目を閉じていた。サブリナも言った通り、ベッドの上でまるで息を潜めるかのように。
以前は長身に仕事で鍛えられた肉体と、そこに顎髭を蓄え精悍な顔立ちを持つ、『逞しい』の一言が非常に良く似合うのがこのパームさんという人物であったが。現在では白髪が目立ち、身体もやや細くなったように見える。
まあ、それは病ではなく老いが蝕んだからなのだろうが、今の苦痛げな表情は恐らく負傷がそうさせているのだろう。
そんなパームさんの様子を見、声を掛けあぐねていた俺を尻目にサブリナが彼の肩に手を置く。
「お父さん、具合はどう?」
すると、やはり不調なのであろう。パームさんはこじ開けるかのようにして何とか開目すると、俺達に視線を向けた。
「快調だ……と、言いたい所だが、まだそうでもないな。サブリナ、迷惑を掛けてしまってすまない。
それで、サブリナ。その人は一体……あ。ま、まさか!!」
「えっ!?お、お父さん!?」
「パ、パームさん……!?」
だがその途端、パームさんはあたかも本当に全快してしまったかのようにして寝床からがばりと飛び起きると。
彼女もやったように、今度は彼が俺の両肩を思い切り掴むとこう言った。
「君!!娘の婚約者なんだろう!?いや、きっとそうだ!!娘がわざわざ家に男を連れて来るだなんて初めてだからな!!ああ、そうに違いない!!」
怪我をしているというのにも関わらず、その力強さに図らずも苦笑してしまった。
隣にいたサブリナが火精霊の如く顔を真っ赤にしていた事すら後で知った程だ。余程自身の娘が気掛かりで、尚且つ大切で、可愛くて堪らないのだろう。
「……この人のこういう所が好きなんだ。やっぱり、パームさんはこうでなくちゃな」
彼の温かみに触れ、思わず俺はそう呟く。
だが、いつまでもそうしている訳にはいかず。
「ん?君、何か言ったかい?
いや〜それにしても、本当に良かった!!一時はどうなるかとばかり思ってたが、これでオレも安心して最期を迎えられ……ゴホッ!ゴホッ!」
「ちょっと馬鹿な事言わないでよお父さん!!ほら、落ち着いて一旦横になって!!
そ、それとこの人は婚約者じゃないから!!アルスよ、覚えてるでしょう!?お父さんの怪我を治しに来てくれたのよ!」
「ゴホッ!ゴホッ!……な、何!?アルスだと!?」
「ええ、お久し振りですパームさん。早速ですが、お怪我の具合を見せてもらえますか?」
「アルス……確かにその声はアルスだ!!お前、手紙の一つも寄越さないとは何事だ!!心配したんだぞ!!飯はちゃんと食ってるのか!?金には困ってないか!?」
「と、とにかく落ち着いて、今は怪我の具合を……」
興奮し、それによって咳き込みもするパームを何とか宥め、俺は彼の治療を開始するのだった。
パームさんの容態。俺はまずその確認から始めた。
サブリナは家の外に出てもらっている。名目上は『実の娘とは言え裸を見られるのはパームさんも嫌だろう』のような理由で説得したのだが、実の所『彼女が父の怪我を目の当たりにして苦しまぬための処置』というのが本音だ。
それに、どの道治療は俺一人で行うつもりだったからな。とにかく何も問題は無いし、二人は何一つ気にせずとも良いのだ。
さて、それでは治療といこうか。俺は服を脱いでもらったパームさんのその身体を見つめた。
彼の胸部には斜めに入った大きな切り傷が一つあるのみだ。だがしかし刻まれたその跡は深く、また薬が手に入らなかったのだろう、既に化膿しており実に痛々しい。
そしてその深さから察するに、恐らくだがパームさんは村人達を守るためと一歩も引かず盗賊達と向き合い、それでこのような結果となってしまったのだろう。
その優しさで災厄をも引き込んだと言う事だろうか。まあ理由が何であれ、これだけ慈悲深い人にはあってはならない傷跡だ。俺が綺麗さっぱり治してやらなければ。
俺は懐のマジックバッグからある素材二つを取り出し、それを両手で包み込んだ。
「なあアルス……難しいなら、無理に治療の真似事などしなくても良いんだぞ?お前さっき、自分が錬金術師だと言ってたろう?治療なんて、錬金術師の範疇外なんじゃないか?
大方、本当は治療なんて出来ないが、オレを心配して勢いで言っちまったんだろ?大丈夫、その気持ちだけで充分だ。オレもサブリナもお前の事を責めたりはしないぞ」
すると、俺のその様子があまりにも本来の治療とはかけ離れていたからなのか、パームさんはそのように言って俺の頭をぽんぽんと撫でた。
まあ、知らなければそんな反応でも仕方ないだろうな……だが問題無い、出来るんだ。俺はこう返した。
「いいえ、出来ますよ。今はふざけているのではなくて、セルパ大森林で採った『大樹の葉』と『薬草の素』を使用して錬成を行っている最中なんです」
「あ……そ、そうか。だが、そんな事が本当に……」
「ええ、もう少しすれば薬が完成します。あの時採っておいて本当に良かった……さあ出来ましたよ!」
「おお……!!」
そうして出来上がったのは『特薬草(大)』だ。
俺の魔力入りに加えて『大樹の葉』を使用したのでとても大きく。まあ簡単に言えばそこら辺のものよりも格段に効果が高く、しかも前述したようにデカいので傷跡を全て覆い尽くしてしまえるのだ。
これを貼っておけば、すぐにでも怪我は治るはず。俺はパームさんの胸元に痛まぬようそれをゆっくりと貼付した。
「よし。これで暫くすれば傷は癒えるはずですよ」
「す、凄い!!もう痛みが引いてゆくぞ……!!アルス、疑ってすまなかった。まさか本当に治療出来るとはな……だが、ありがとう。助かったよ。
礼をさせてくれ。とは言っても、この家にはほんの少しの穀物と小銭くらいしかないが……そうだ!!
なあアルス、礼と言うわけではないが、やはり娘を嫁に貰ってはくれないか?」
「いや、そ、それは流石に……俺なんかにはもったいないですよ!それにほら、サブリナの気持ちもまだ聞いて無いわけですし……」
「何だ、そんな事か!それは気にせんで良いぞアルス!何せサブリナはお前がいなくなってからもずっと『アルス、アルス』とお前の話ばかりしていて、今だに結婚していないのもそのせいだからな!何なら大喜びすると思うぞ!!」
「…………と、とにかく!お礼なんて要りませんから安心して下さい!」
「しかし……その素材とやらは高価だったんじゃないか?」
「いいえ、そんな事はないですよ。それに、もし例え本当に高価だったとしても、お世話になったパームさんのために使えるなら安いものです」
これでまた一つ、恩を返せただろうか。俺はパームさんからの謝辞に心から喜び、それに微笑みで返した。
「ええ、じゃあ俺はサブリナを呼んで……」
次に、サブリナにもそれを報告するためと、俺は家の戸を開けて外に出た。
まさか、外が大変な状況になっているとは露も知らずに。
「あれ、お〜いサブリナ〜!全く、アイツ一体何処に……」
「嫌!!止めてっ!!離して!!」
「へへへ……なあお嬢ちゃん、良い加減に大人しくしないと、また親父さんの傷が一つ増えるかもしれないぜ?」
「……!!この悪魔……!!」
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