四十三話 命懸けだなんてもったいない!!
竜の低く悲しく、奴が苦痛の最中にいるであろう事など容易く感じ取れる唸りを聞き。
そこで俺は、ある事を確信した。
「おいシャルカーニュ!!お前もしや、怪我をしているんじゃないか!?」
そうだ。この鉄臭さも、奴を所々赤く染める血糊も。全てはコイツの身から生じたものだと、そう俺は結論付けたのだ。
まあ先にも言ったが口内に食べカスは見当たらず、だと言うのにこの場は強烈な血生臭さで覆われているのだからな。今にして思えば推察は容易だったろうが。
……とにかくだ、そうと分かれば傷の手当てをしてやらなければならない。
『魔物相手に治療?』などとは俺自身考えなかったかと言えば嘘になるが。しかし。
この竜と俺とは、一度とは言え会話した間柄なのだ。それにコイツは知性もあるようだし、見捨てるのは少し酷かと思ってな……ま、今は興奮のあまりそれどころではないようだが。
とにかく、理由はただそれだけだ。
そうして今も尚、我が身を喰らおうと暴れ続けるシャルカーニュを抑えつつ俺は奴の体を見回す。
すると、そこで見つけた。無数の傷の中でも、特に深手と思われる二箇所の傷を。
一つは鮮血滴り、元々は白色だったはずのそこが現今は赤く塗り替えられた片方の翼。
もう一つは甲冑に隠されていてはっきりとはしないが、下腹部辺りのそれに広く血の滲む場所がある。
ふむ……そうだな、どちらかと言えば優先は前者だろうか。腹の方も傷は深いようだが、今はまだ血が止まっているみたいだからな。
とは言え、それでもコイツの行動次第でそちらが最優先へと変わる可能性は十二分にあるのだが……という事で、一刻も早く治療に取り掛かると決めた俺は。
まずはシャルカーニュを静止させるため、今一度声を掛けた。
「シャルカーニュ!!おいシャルカーニュ!!一旦落ち着け!!俺の事が気に食わないのかもしれんが、今はまず動くのを止めるんだ!!
そうしたとて俺は何もしない!!やるのは治療だけだ!!そうでなければお前、死んでしまうぞ!!
それが分かったらシャルカーニュよ、とにかく今は一旦落ち着いて」
「黙れ!!」
……しかし、シャルカーニュが止まる事はなかった。
それどころか勢いを増した竜は、先程よりも力強く俺を狙い暴れ始める。
また同時に僅かにも後退させられてしまい、俺は驚きを隠す事が出来なかった。
というのもそれが捨て身、文字通り命懸けの行いであると知っていたからだ。
シャルカーニュが動くのを皮切りとして、唐突にも湧き出るように始まった翼からの流血。それこそが、その行為がどれだけ危険であるのかを示す何よりの証拠である。
だというのに、何故コイツはそこまでして……それ程までに俺が憎いのだろうか?
などと考えた直後……その答えは、シャルカーニュ自身によって告げられた。
「落ち着けだと!?我が仇敵ともあろうものが馬鹿を抜かすな!!
国崩し……お前との戦いに敗れた私は見放され、手負のまま居場所までもを追われた!!
それでも私は生きようと必死だった!!これ以上傷を増やさぬため、魔物との縄張り争いを避けるため泥水を啜り、草の根を食べ、国中をひたすらに彷徨い続けた!!そうしてやっと辿り着いたのがこの場所だ!!
だと言うのに……やって来た手練れの娘には最奥を奪われ。漸くここで一息つけるかと思えば、今度は貴様が現れた!!
この私に敗北を与えた我が仇敵、国崩しがだ!!これが落ち着いていられる訳がなかろうが!!
これで分かったか国崩し!!これ以上居場所を奪われるくらいならば、私はここで死ぬ!!お前を道連れにな!!」
……血を、流しているというのに。どれほどの痛みかも分からぬ程だというのに。
それでも尚、喋り続ける竜のその言葉に、気迫に。
俺は再び驚愕させられる事となった。
……まあ、コイツの言い分は理解した。
光に影。勝者あれば敗者がある。俺の行為によって傷付き、辛酸をなめるような思いをした者がいるというのは確かであろう。
例えばそう、このシャルカーニュという竜がそうだ。
それはたった今痛い程よく分かった……
「…………だがな、シャルカーニュ」
「黙れ国崩し!!黙れと言っているだろう!!その憎き口で私の名を呼ぶな!!二度とそう出来ぬよう喉笛引き裂いてくれる!!」
次の瞬間、横薙ぎにされたシャルカーニュの足が、爪が俺の顔へと迫る。
だが、手負の竜が仕掛けた一撃を凌ぐなど容易い事。
「だがな……」
「クソッ!!私の攻撃を腕一本で受け止めるとは、本当に忌々しい……!!」
俺はすぐさまそれを片手で防いで見せ、再びこう続けた。
「お前がこの場にいる事、手傷を負った事。全てが俺のせいだと言うのなら……
だったら尚更!!お前を見捨てられるはずがないだろうが!!分かったらいい加減に大人しくしろ!!
お前は黙って俺に治療させれば良いんだ!!」
そして言い終えた直後、俺はシャルカーニュへと頭突きを喰らわせ。
「ゔぅ!?…………グハッ…………」
それを受けた竜はそこで始めて、静寂にその身を沈めるのだった……
まあ、正しくは気絶しているのだが。
我ながら興奮が過ぎただろうか。
あの頭突きはもしかすると少々、いや結構。度を越した威力だったかもしれないな。
まあ良い、息はあるようだし。それに、さっきの衝撃でせっかく作った『竜骨の仮面』が残骸と化してしまったのだ。
つまり、壊れたのである……だから両者痛み分けだ。それで勝負は引き分け、互いに損害を被ったという所でチャラにするとしよう。
(ただ正直に言うと、あの仮面は取れずに困っていたのでむしろ俺の方は嬉しいくらいである……のだが、シャルカーニュに真実を告げるつもりはない)
シャルカーニュもきっと分かってくれるだろうからな……多分。
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