三十九話 誤解だなんてもったいない!! 2
ユーデリアの瞳を見つめ返すうち決意したはずの心が揺らぎ始め、どうにも口火を切れずにいた俺。
すると、そんな俺よりも先に彼女が語り出した……
「……ねえ、先生」
「ど、どうしたユーデリア?俺に何か言いたい事でもあるのか?」
「私ね、あれから色々考えてみたの。
確かに、先生が『国崩し』だって分かった時は凄く驚いたし、同時に怖くもあったわ……
そこまで詳しくは知らないけど、国崩しに関する恐ろしい噂なんてものは幾らでもあるらしいし。実際、屋敷からあまり外に出ない私だって、使用人達に聞いたりしてそのうちの何個かは知ってたくらいだからね」
そこで彼女は俯き、姉であるヨルダの胸に顔を埋めた。一方、ヨルダは困り顔をして俺と妹を交互に見遣る事を繰り返している。
恐らくは何か言いたいのであろうが、上手い言葉が見つからない。ヨルダはそんな様子であった。
「そ、そうか……」
俺もまた、言い終えると共に視線を落とした。
ユーデリアのその様に。以前、扉越しに俺を突っぱねたあの少女の姿を垣間見たからだ。
……そう、思っていたが。
「……………………でも」
「え?」
それは間違いであると知った。
再びこちらに向いたユーデリアの顔は拒絶でも嫌悪でもなく。
恐らくはこれからの発言に照れ臭さを感じているのだろう。ただ頬が朱に染められていただけ、それだけであったのだから。
「先生、ここの入口で私達に言ってくれたでしょう?『これまで共に過ごして来た日々を思えば、お前達が悪人でないという事はすぐに分かる』って。
その言葉を思い出してね、私すっごく自分が嫌になったの。先生は私達の事をすぐに信じてくれて、受け入れてくれて、その時私は凄く嬉しかったはずなのに。
なのに、私の方は先生を信じられずに逃げ出しちゃって。私だって、すぐに先生を信じたかったのに。信じてみようって決めたはずなのに。
…………だから、今からでもそうしたいの。先生を信じてみたいの。ねえ先生、ダメかしら?」
そんなユーデリアの瞳は、こちらへと真っ直ぐに向けられている。
それはまさしく普段のユーデリアだった。そこにはもう、俺を恐れる彼女はいなかったのだ。
「……そ、それは、こちらが決める事ではないと思うが。ま、まあ俺としては一向に構わん」
「良かった。でも、その前に一つ聞かせて欲しいの。ねえ先生、先生は何で『国崩し』なんて呼ばれ始めたの?」
う……いつものユーデリアに戻ってくれたのは良いが、少々口にし辛い質問を寄越されてしまったな。
いや、むしろ絶好の機会か。ならば今だからこそ、彼女に話しておくとしよう。
「そ……そ、それは……」
「それは?」
「……実は、消費するのがもったいないと思って少し……いや、かなり錬金術に使う素材を集め過ぎてしまったらしくてな。
それで資源が枯渇するのを恐れた国が、俺に付けた異称が『国崩し』だったという訳だ。俺の素材収集はまさに国一つ崩す程の勢いだったそうだからな。
ただ正直に言えば、俺はそんなつもりでやった訳ではなかったんだが……」
すると、俺が言い終えるが早いか。
途端にユーデリアは笑い声を上げ、そこには彼女の笑顔という花が咲いた。
「……アハハハハ!!やっぱり!!
何か悪い事をしたとかじゃなく、素材の集め過ぎ!!変な理由ね……でも、先生ならそんな所だと思ってたのよ!!
……私も、先生のその話を信じるわ。
だから、これからもよろしくね先生。っていうか、もっと沢山色んな事を教えてもらうって約束したものね!」
最後に、ユーデリアはその花をこちらへと向ける……それと、妹の背を押すように微笑むヨルダも。
そしてその先には。思わずも彼女達に釣られ、仮面越しに口元を綻ばせてしまう俺がいるのだった。
「……フッ。ああ、そうだったな。なら、屋敷に帰ったら約束通り、まずはお前に慣用句の授業をしてやるとしよう」
「ウフフ、ありが……ん?そんな約束したかしら?」
とにかく。こうして俺はユーデリアと和解する事が出来た。
最初はどうなる事かと思っていたが……どうやら、俺と彼女との絆は思いの外深く。また長いようで短い共に過ごしたあの期間は、色々と積み上げられるものがあったという事なのであろう。
むしろそうでなければ、このような結末を迎えられるはずもないのだから。
さて、これで一件落着……いや本当にそうか?
当然帰還はまだであり、しかも現在地はダンジョン最奥。しかもしかも、今は戦闘によって体力を消耗している状態だ。
よって俺達は魔物の影だけでなく、それと共に付き纏うであろう、『これ以上負傷者を出さずに帰れるか』という不安にさえも怯えなければならないのだ。
更にはその中で、負傷者&ユーデリアまでもを抱えて行かなければならないとなると。最悪、無傷どころか無言の帰宅となる場合も……いやいやいやいや、変な妄想はこの辺りで止めておくとしよう。
それに、エスピリカの事もある。
よくよく考えてみれば俺とヒルデガルン姉妹は和解こそしたが、一方で我が愛弟子はまだそれを終えてはいないのだからな。
ただし、とある事実が判明しただけの俺とは違い、今回の一件の黒幕(?)はエスピリカであり、その被害者こそがヨルダとユーデリアなのだ。
分かり合うために要する時間は俺の場合よりも遥かに多かろう……いや、それだけならばまだ良いが。
もしも話し合いの最中に意見が対立し、そして決裂し、再び争いが勃発する……などといった事が起こらないとも限らない。
正直に言えば、俺はそちらの方がより心配で仕方がないのだ。
……等々、俺が彼女等三人の前途を案じているというにも関わらず。
「さあ皆!全て終わった事だし、さっさとここを脱出しましょう!そうじゃないといつまた魔物達が襲って来るかも分からないわ!」
「ま、待てユーデリア!!一人で先に行ってはまた前のようになるぞ!!」
ユーデリアは最早完全に元気を取り戻したらしく、そう言ってはまた単独行動を始めようとしてヨルダを困らせ。
「お師匠様、この二人を運ぶ役目はアタシにお任せ下さいまし」
「いやエスピリカ、俺も手伝うぞ……というか。なあエスピリカ、運ぶにしてもそのやり方は何というかこう……少し非人道的じゃないか?」
「大丈夫ですよお師匠様、これはゴーレムと同じ素材で作った丈夫な縄ですから、切れる事などまずありません。お二人共、無事に出口まで引き摺って行けるはずですよぉ……ムヒヒ」
「いや、そうではなくてだな…………」
エスピリカもエスピリカで、まるで何も気にしていないといった風でニコニコ……いや、ニヤニヤとしていて自身と姉妹の事どころか、アダレスとミゲルの移送方法にすら何一つ疑問を感じていないときている。
……と、いうようにしてだな。
まあ要するに、俺以外誰一人として先に述べたような問題を問題とすら思っていないようであるのだ。
「……」
何と言うか、こう、色々な意味でなのだが……本当にこれで大丈夫なのだろうか!?
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