三話 泣き顔なんてもったいない!!
数分後、漸くサブリナは口を開いた。
「……私のお父さん、覚えてる?病気で亡くなったお母さんに代わって、男手一つで私を育ててくれた……」
「ん?ああ、確かパームさんだろ?」
俺の中では当然とも言って良い程に、その名には覚えがあった。と言うか、忘れられるはずもなかった。
何せ、そのパームという人物は、孤児であり村の近くに捨てられていたと言う俺に対してもまるで本当の息子のように接し、育ててくれた数少ない存在であるのだからな。感謝してもし切れないくらいに俺は思っている。
「勿論覚えてるさ、あの人には色々と世話になったからな」
「そう……で、お父さんがね、ついこの間怪我しちゃって……それでここに、薬になりそうなものを取りに来たってわけなのよ」
「なるほどな……ん?でも待てよ?昔の記憶だが、村の近くには町医者がいたはずだし、商人だってよく来ていたはずだろう?その人達を頼れば良いじゃないか。それなのに何故、一人でわざわざこんな所に……」
「ああ、それがね……最近、私達の村に盗賊が現れるようになっちゃってね、それで皆いなくなっちゃったの。お父さんが怪我したのもソイツらのせいよ」
「そうか、そんな事が……だが、妙だな。この辺りには国が作った兵士達の養成施設もあったはずだ。そんな場所の付近で盗賊共が幅をきかせるだなんて……」
「そっか、アルスは知らないのね……その施設、少し前から閉鎖しちゃってるの。盗賊が蔓延っているのもそれが原因だと思うわ」
「閉鎖、か……理由は分かるか?」
「うん。まあでも、あまり詳しくは知らないんだけどね。何でも、ええと……『なんとか崩し』だったかしら?」
え!?『なんとか崩し』!?
彼女と代わるかのようにして、今度は俺の顔が曇った。
「そ、その『なんとか崩し』ってのが、どうしたって言うんだ……?」
「ええとね、確かそれを倒さないといけないらしくて、兵士達が皆王都に召集されちゃったみたいで」
「…………」
曇り後雨、俺の顔からは冷や汗がまるで滝のように流れ落ち始めた。
「それで、閉鎖しちゃったらしいのよ。ま、私も村の人達から聞いただけだから、本当かどうかなんて分からないんだけどね……あれ、アルス?ねえどうしたのアルス?」
「……………………」
つまりそれって、俺のせいじゃないか。
先程よりずっと、冷や汗は止め処無く流れていると言うのに。俺の中の罪悪感だけは、それが洗い落としてくれる事は決して無かった。
サブリナとの立場が完全に逆転し、今度は俺の方が険しい表情となり沈黙を続けている。
だが、サブリナはそんな俺の事など気にせず。いや、ただ単に気が付いていないというだけなのだろう。
とにかく、彼女は俺とは真逆に。何か妙案を思い付いたかのような顔をするとこう言った。
「あ、そうだ!!ねえアルス、アンタ錬金術師なんでしょ?まあ、剣士とかじゃないから戦闘は難しいかもしれないけど……アンタ、あの盗賊達をどうにか出来ない?」
そして、それを聞いた俺は、ある決意をする……
「……!!ああ、出来るぞ!!任せてくれ、俺がどうにかしてやる!!パームさんの怪我の事もな!!」
そう、元よりこれは俺が原因なのだ。加えて幼馴染とその父親が困っていると言うのだから。
それは俺自身がどうにかして見せる。それこそが、二人への贖罪を果たす唯一の方法であると、そう考え、そう決めたのだ。
「あ、え、え!?即決するのね……でも、言い出した私がこんな事言うのも変かもしれないけれど、本当に大丈夫?」
「ああ、問題ない!!そうと決まれば急ごうサブリナ!!パームさんの所まで案内してくれ!!」
「そ、そう……でも、もう一つだけ聞かせて。どうしてそこまでしてくれるの?確かに私達幼馴染だけど、今まで何の交流も無かったし……」
「え、それは、ええと……当たり前だろう!?お前が泣き顔なんてしていたらもったいないからだ!!このままじゃせっかくの美人が台無しになるからな!!」
だがしかし、真実だけは口が裂けても言えなかった。
「ア、アルス……」
ああ、止めてくれサブリナ。君が何故だか頬を赤らめているのも、罪悪感を殊更に刺激するんだ。
真っ赤な嘘ではないとは言え、思わず口から出まかせを言ってしまった、この愚かな俺の罪悪感を……!!
「お頭!!今日もあの村に行くんですかい?」
「へへへ……ああ、食糧が底をついちまったからな。本当にあの村には助かってるぜ。軽く脅してやるだけで、タダで食糧を分け与えてくれるんだからな……ガハハハハ!!」
サブリナに導かれ、俺は自身の故郷でもある『カタンの村』へと歩を進めていた。
この村は国境に近く、批判を避けるべく言うのならば『場末中の場末』だ。そのためか幾つもの年月が過ぎたと言うのにも関わらず、周囲の風景には殆ど代わり映えが無い。
だが、〝悪い方〟ではあった。それは当然ながら改善ではなく、改悪という方向での変化だ。
歩き進める最中、崩れ落ちた家屋や建造物を俺は幾つも目にした。まあ、少々不自然な形で倒壊していたものもあったように見えたが……でもまあ、それもまた老朽化の仕業と見て間違いはないのだろう。
そう思うと何だか、ノスタルジックな気分になってしまうな。過去を想い、その姿を垣間見、そして、それを憂うような、そんな気分に……
いや、もう止めておこう。俺がどうのこうのと言った所で何か変わる訳でもないしな。
俺はサブリナに誘われるまま、あの頃と同じ道の上を歩いた。
「さあ!もう少しで村が見えてくるわ!」
ある程度予想はついていたが、やはりそろそろ到着のようだ。俺はサブリナに手を引かれ、間近となったカタンの村へ急いだ。
すると、すぐに故郷は姿を現した。
今までの道のりと同じくあまり変わらないこの村の景色は、その様子は、これもまた変わらない態度で、だがしかし哀愁をも漂わせながら俺を迎えてくれる。
とは言え、素直には喜べなかった。むしろ何処かうら寂しいような気分にさせられてしまったくらいだ。
こちらもまた道中と同様、不変の中にも『人気が少ない』、『廃れた民家などが散見される』などという形での〝改悪〟が介在しているようだし。加えてあまり変化が無い……という事はつまり、それは停滞と同義なのだから。
まあ良い。今はパームさんの治療が先決だ。
「私の家はあっちで……って、ちょ!?ちょっとアルス!?」
「大丈夫だ、もう全て思い出した。さあ急ごうサブリナ!!」
今度は俺がサブリナの手を引き、彼女の家へと急いだ。
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