三十四話 メイドだなんてもったいない!? 5
「とは言え、ずっと眺めている訳にもいかないがな。さあヨルダ、俺達は今のうちに逃げ出す準備をしておこう……もう、こうなってしまっては仕方がない。一度ダンジョンの入り口に戻り態勢を立て直すんだ。ただし、エスピリカに悟られぬように気を付けろ」
「それは構わないが、アルスよ。逃げるとすれば今なのではないか?お前の目的は一体何だ?どうしてお前は好機を目前にしておいて、それをみすみす見逃すような真似を……」
「……俺は逃走の際、ユーデリアを抱えて行くつもりだ。だがエスピリカは予想以上に手強い。そのようなハンデを背負ったまま逃げ切るのは難しいだろう。
だから、彼女が〝あの術〟を使い始め、隙が出来た辺りで逃げ出そうと言っているんだよ。あの術を使用する際、彼女は滅多に上から降りて来ないからな……」
俺とヨルダはやり取りを終えた後、中空の少女を見つめる……
先程、眷属を蹴り宙に浮かび上がったエスピリカ。
そこで彼女は懐にあるマジックバッグの中から〝ある物〟を取り出して見せた。
その〝ある物〟とは何かと言うと……『浮揚石』だ。
それは彼女が開発したという、素材に魔力水晶と魔物の肉とを用いて作られた石の事で。
水晶の中にあった魔力に加え、石中の『元魔物肉』であった部分が腐敗する際に発生させるガスとで強い浮力を生み出し。
魔力かガス、どちらかが切れるまでは宙をふわふわと浮遊し、また体重の軽い者ならばその上に立ち、つまりは足場とする事も可能な優れ物(?)なのである。
(ちなみに、以前のエスピリカはこれを戦闘からの緊急脱出用としてよく使っていた。ただし、それは彼女がまだまだ未熟だった頃の話だがな)
そして次に、エスピリカはその石を自身の前後左右、あらゆる方向へと無造作にばら撒くと。
予想通り、散らされたその場にて静止する浮揚石の上に乗り、移り、あちこちと移動しつつ錬成を行い。
それによって現れたまた別の〝あるモノ達〟が、我らの目前へとまるで雨のように降り掛かるのだった。
それと、これも伝えておかねばならないだろう、その〝あるモノ達〟とは。
鉱石、植物、その他何やら分からぬ素材、そんな有象無象にて作られている。これまた鎧武者と似た彼女特製であろう沢山のゴーレム達……俺達の前に立つのはそのようなものであった。
……すると。
そうして中空を舞い、踊り。そこで魔法生物達の群勢を生み出すエスピリカが、最後にその術の名を俺達へと告げるべく口を開く。
「これぞ『少女術師の錬成祭』です!!どうですか二人共?この大量のゴーレム達は?
これみーんな、アナタ達の敵なんですよぉ?しかも、これからもっともっと増えていきますしねぇ……ムヒヒ!!」
彼女はそこで勝利を確信したらしい。
中空からこちらを見下ろす少女の顔には、また以前のようにニタニタとした笑みが戻っていた。
そう、あれこそが『少女術師の錬成祭』。俺も以前に彼女が繰り出している様をよく見たものだ。
また彼女命名のその術は、一見「ネーミングセンスの欠片もないなぁ」という感想しか出てこないようなものだが侮るなかれ。
むしろ欠点といえばそれくらいしか見当たらない、なかなかに優秀かつ安全に多数との戦闘が可能な術なのである。
何せ、敵からして見れば次々と相手が増え続ける状態にあるにも関わらず、本体は中空にいるためそれを撃たなければいつまで経ってもその包囲網からは逃れられず。
かと言ってエスピリカのみに集中しようとなれば、あのゴーレム達からの攻撃を許してしまう恐れがあり。
それに何より、彼女はただ空中にて立ち止まっている訳ではない。浮揚石の上をひらりひらりと移動するため……つまりは本体、ゴーレム達、そのどちらも撃破が非常に困難となるのだから。
これぞまさに離業、流石はエスピリカだ……その実力は認めるとしよう。
だが、まだまだ甘いなエスピリカよ。
その術が脅威となるのはあくまで戦う意志のある者にとっての話で、今から逃げ出そうという俺達には何の関係もない。むしろ悪手である。
何しろ、後者は囲まれてさえいなければ『ただその場から立ち去る』という選択をすれば、それだけで彼女等の攻撃から逃れる事が出来るのだからな。
しかもそれが、エスピリカの仇敵であるとなれば尚更に悪手。いいや、最早愚行とも言えよう。
とにかく、これで分かっただろうか?
今から隙を見せるのは、その逃してはならないはずのターゲット二人が逃走を始めて焦る、お前の方だという事がな……エスピリカよ!!
……などという俺の思考は当然、口に出してはおらず。
何も知らないエスピリカは錬成を続け。落下し、数を増し続けるゴーレム達は最初にいたあの鎧武者をリーダーとして陣形を整え始めた。
つまり、今この時こそが逃走するに最善のタイミングなのである。
というか今しかない。
「よし、そろそろだな……行くぞヨルダ!!走れ!!」
という事で、俺達はそれを合図に出口目掛けてすぐさま駆け出した。
ヨルダ、俺共に剣を片手に。それと片目を瞑ったままでだ。
(ちなみに言っておくと、俺の持っている剣とはドルガ達から譲り受けたあの銅の剣だ。馬車の中でしっかりと磨いておいたから切れ味は充分である)
剣を手にしていれば逃走中の魔物の出現等、もしもの場合にも対処出来。暗い道中にて長い間閉じていた片目を開ければ、闇に慣れた目によって移動が大分楽になるのだからな。ふざけているのではないぞ?
「なっ!?ま、まさか今更になってから逃げるつもりですかぁ!?そうはさせませんよぉ……行きなさいキメラゴーレム達!!」
すると案の定、俺達の背中を見たエスピリカは途端に狼狽え、慌ててそのように声を上げる。
直後、彼女の指示を受けたゴーレム達が入り口を塞ごうとそこに集まり始めた……が、最早どうにも出来まい。
俺達はもう、すぐそこにまで近付いているのだ。後は先程からずっとその付近にいた彼女、ユーデリアを抱き上げればそれで逃走の準備は完了となる。
というか、俺が逃げる事を決めた最も大きな理由の一つが『彼女を戦闘に巻き込むべきではない』というものであるのだから、必ずやそうしなければならないのだ。
……まあそのような事、俺がわざわざ言わずともユーデリアの方から抱き付いて来るだろうけどな。
あれ程魔物達に怯えていたのだ。今回もきっとそうなるはず。
「一旦退くぞユーデリア!!お前はまた俺にしっかりと掴まって」
という事で、すぐさま俺は彼女へと手を伸ばした……だが、しかし。
「嫌っ!!」
「え?……ユ、ユーデリア……?」
「く、国崩し……来ないで!!」
「お、おい待て!!ユーデリア!!」
彼女は俺の手を振り払うと突然、単身で何処かへと駆け出して行ってしまった。
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