三十三話 メイドだなんてもったいない!? 4
俺が自身の軽率な発言を悔やんだのはそれから数秒後。ユーデリアが一歩後退り、彼女の靴と地との擦れる音を聞いてすぐであった。
「本当に、せ、先生が……あの国崩しだって言うの……?」
「ん?ユーデリア……あっ!?し、しまった、彼女には秘密にしていたんだった……そうか、ヨルダの危惧していたのはこれか……」
頭を抱えるも時既に遅し。彼女はまるで、魔獣とでも出会したかのように怯えた様子でじりじりと後退りを続けている。
そして、そんなユーデリアの視線はと言うと。こちらへと、しかもひたすらに注がれていた。彼女は恐怖を孕んだ両の目を、一心にこの俺アルス・アルキミアのみへと向けているのだ。
ああ、やってしまったな。ただでさえマズい状況だと言うのに、それが更に悪化した。
エスピリカもどうにかしなければならないというのに。加えてユーデリアも説得というか、メンタルケアというか。
とにかく、彼女とも何かしらの話し合いが必須となってしまったのだから。
後悔先に立たずとはまさにこの事だな……まあ良い。いや、全然良くないがそれでもだ。
過ぎてしまった事を悔やむ気持ちがまるきり無いと言えば嘘になるが、そんな場合ではない。
今は何より、エスピリカの暴走を止める事が最優先なのだ。
説得だけでそう出来れば最善、という具合にな……という事で、悪いがユーデリアに声を掛けるのは後回しにして。
すぐにでもエスピリカを落ち着かせ、可能ならばその復讐代行とやらを中止してもらうため俺は再び仮面へと手を掛けた。
そしてお次は勿論、それを外して見せ……ようとしたのだが。
「……ま、まあ良い。とにかく、エスピリカよ!!そこまで俺の言葉を信じないというのならば、是が非でもそうしたくなるような証拠を今からお前に見せてやろう!!
どうだエスピリカ?この顔に見覚えは……って。あれ?おかしいな、外れないぞ……?」
どうした事か、竜骨の仮面が頑なに俺の素顔を隠したまま剥がれないのだ。
まさか、仮面に『主から離れたくない』と思わせてしまう程のクオリティで錬成してしまったからだろうか?
などという、下らぬ冗談はさておいて。
本当にどうしてだろう?しかもよりによってこんな時に……いずれにせよこのままではいられず、俺は仮面を引き剥がそうと半ば躍起になって手を動かし続けてはみたのだが。
「お前、さっきから何してるんですかぁ?まさか時間稼ぎのつもりじゃありませんよねぇ?いいから、さっさとそこを退かないと斬り刻んでくれますよぉ……?三度目は言いませんからねぇ!?」
大変だ。そうこうしているうちにエスピリカがまた一段と苛立ってしまっている……でもな。
「ま、待ってくれエスピリカ!!そんな事を言われても取れないものは取れないんだよ!!」
しかもこの仮面、何だか外そうとする度に粘性のある液体を内部から放出(?)しているようで、さっきから段々とネチョネチョした感覚が顔全体に広がってきて気分が悪いんだが……は!!も、もしや!!
これは『スライムリキッド』を素材とした事や、俺が余りにも激しく動いた事などが原因で、それが中から漏れ出てしまっているのではないだろうか……!?
……と、俺がそのような答えに辿り着いた、まさにその時。
解答という名の到達点には、側にタイムリミットの終点も併設されていたと知った。
何故ならば、そう。
「あぁもう!!いい加減にして下さいよぉ!!
どうせ言った手前引っ込みがつかなくなっただけで、本当は外せないからそうしているんでしょう!?ええ、そりゃそうですよ偽物なんですから!!
というか、さっきから一体全体何なんですかお前はぁ!?少しはやるようですが、お師匠様を語るような真似ばかりして!!……もう許せませんよぉ!!
さあ、警告はこれで終わりです!!これからは予定通り贖罪の時間と参りましょう!!
安心して下さい。ヨルダは勿論、邪魔ばかりしてくれたお前にもちゃあんと絶望をくれてやりますからねぇ……!!」
遂にエスピリカの堪忍袋の緒が切れ、彼女が今までに無い程激怒し始めたのだから。
とは言ったものの、エスピリカは一応ではあるが淑女であったようだ。
何せ、その気であればすぐにでも行動出来たのだろう、臨戦態勢となる今の素早い動き。
それをわざわざ、きちんと発言してから漸く開始して見せたのだから。
本来仇敵が一人と、邪魔者が一人であるという我が陣営に……と、上記した事からも分かるように。
残念ながらエスピリカは俺に激怒し、語りを終えると共に行動を始めてしまった。
「お前もいつまでそうしているんですかぁ!?剣なんてすぐに錬成してあげますからさっさとその手を離しなさい!!」
彼女はまず、剣を取り返そうと呻くばかりだったキメラゴーレムへと喝を入れ、眷属を俺から引き剥がすと。
彼奴のための剣をすぐさま錬成し、その手に握らせる……かと思えば、またすぐに彼女は動き出した。
そうしてエスピリカは、今度は側のキメラゴーレムを踏み台代わりに蹴り、中空高くへと舞い上がる。
「……マズいな」
それを見た俺は、すぐさまヨルダの手を引き壁際を目指して走り出した。
「ヨルダ!さっきはすまない……が、事は急を要する。とにかく、今は俺の言う通りにしてくれ!すぐ壁際に向かうぞ!四方を敵に囲まれてしまう前にな!」
「大丈夫だアルス、私かてそれくらいは理解している……だが、エスピリカは一体何をしようと言うんだ?教えてくれ、お前には分かるんだろう?」
「ああ、アレはエスピリカが『対多数戦』にて多用し、尚且つ最も好む技だ。そして、それはあの子が離業術師との異名を与えられた所以でもある」
「な、何だと!?アルスよ、それは一体どのような技だと言うんだ……!?」
「それはだな……いや、見ていればすぐに分かるさ」
と言うか、百聞は一見にしかず。
むしろ口で説明しても理解の及ばぬであろうエスピリカのそれは、一度は刮目してみなければ相手には決して伝わりなどしないのである。
そして、そんな彼女が二つ名を持つきっかけとなったその奇妙な術とやらは。
数秒後、俺達の目前にて披露されるのだった。
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